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矢上麗華様からのご依頼品



北国である土場藩国は、一年を通して日の入りが遅い。
つまり午前六時と言えば、まだ明け方の気温も低くあたりも薄暗いような時間である。
そんな土地柄であったが、矢上爽一郎は日課の早朝ランニングを欠かしたことはなかった。
海辺から針葉樹林を抜けて煮湖のほとりを回り、東側の農村を眺めながら自宅に戻る。
その距離、10キロ。
「ふう……」
玄関先に着くと、足を止めてあふれた汗をタオルで拭く。
耳を澄ませば、朝の小鳥の囀りに混じって元気な鶏の鳴き声が聞こえてきた。
自然に笑顔がこぼれる。今日も、いい朝だ。

一方その頃。

矢上麗華は、広いベッドの中で目を覚ました。
あいまいな意識でもそもそと体を動かすと、隣に人の気配はない。
「………」
たっぷり1分ほどかかってその事実が意味するところを理解し、麗華は飛び起きた。
爽一郎は今日も一人でジョギングに行ってしまったのだ……!
「ばかっ」
枕投げが、ベッドサイドのヤガミ人形に炸裂した。

海が見えるその窓から~矢上家のある一日

「おはよう」
「おはようございます……」
お決まりの朝の挨拶を交わして、爽一郎と麗華が顔を合わせる。
新聞を広げてコーヒー片手にくつろいでいる爽一郎に対し、寝室から出てきた麗華はまるで葬式を三件ほどはしごして来たような表情だ。
「どうした、また低血圧か?」
「はい……」
そういうことにしておいてください、と心の中でつぶやいて、麗華はのろのろとキッチンに歩いていった。
心配してくれるのはうれしいが、何か方向が間違っている気がしないでもない。
もう少しそばにいてくれてもいいのに……

「ごちそう様」
「お粗末さまでした」
ともあれ、無事に今日の朝食も終わった。
麗華は食が細くあまり食べないタイプだったが、スポーツマンの爽一郎はよく食べる。
それも本人はあまり自覚はしていないだろうが、心から美味しそうに食べてくれるので麗華としては食事の作り甲斐があった。
「今日もうまかった、ありがとう」
「えへへー、そうですか」
しかもたまにこうして素直に褒めてくれるので、なお嬉しい。
後で思い返して、自分の単純さに落ち込んだりもしてしまうが……
とはいえ、褒められた直後はそんなことを考える余裕もない。
上機嫌で食器を片付け始めると、爽一郎は再び新聞を広げた。
「ふむ……」
なにやら考え事を始めた彼を横目に、麗華は食器をまとめて流しに放り込む。
戻ってくると、爽一郎はまだ新聞に目を落としていた。
こんなに長く新聞を読んでいるのは珍しい。
「どうしたんですか?」
「ああ、少しFVBの騒動がな」
我に返ったように新聞を置いて、爽一郎が振り返った。
「思ったよりでかい戦争になりそうだ。宰相府方面に移動すると思ったんだが、FVBに陣取っている」
「そうですか……また戦争になるんですね」
「ああ。社説ではFVB領を焼き討ちにするとか、果ては核を落とせなんて案まで出てる始末だ」
「ははは……」
麗華としては苦笑するしかなかったが、あまり良い気分ではなかった。
元々彼女は戦争が好きではない。
「まあ、大決戦になるのはこちらも望むところだ」
それを知ってか知らずか、何回も戦うより被害も少なくなるしなと続けて爽一郎は立ち上がった。
「少し政庁に行ってくる。昼には戻るので食事を用意しておいてくれ」
「あ、はい」

それから、1時間後。
爽一郎が仕事をしている間、麗華は昼食の準備に出ることにした。
二人の家は藩国西部の、軍港以外ではまだ自然が豊かに残る海辺に立てられていた。
少し歩けば、すぐに煮湖近くの農村へ行って新鮮な食材を仕入れることが出来る。
そうやって歩いていると、もうすぐ村と言うところで頬に水滴が触れるのを感じた。
「……あれ」
反射的に空に目を移すと、5mほどの巨大な犬――空とびわんわんが二匹じゃれあっている?というか、肉球で引っ掻きあっている。
さっき落ちてきたのは、その汗か血潮らしい。
餌の取り合いにでもなったのだろうか?
少し気になる光景ではあったが、麗華は無視して歩き出した。
他国からすれば怪獣大決戦と呼ぶべき壮絶な光景だが、「面白いは正義」の土場藩国である。
この程度、それほど珍しいものではないのだ。

新鮮な卵と鶏肉、それから野菜を買い込んで家に戻ると、既に10時を回っていた。
歩いていける距離に農家があるのはいいことなのだが、こうして歩いて回るのは結構な距離になる。
こういうときは、余り都会化されていない郊外と言う立地を少し後悔してしまう。
藩王のようにまさかフェザーワルツでコンビニまで買い物に行くわけにも行かないし……
そうこうして買ってきた材料でポトフを作っていると、ちょうど出来たところで爽一郎が帰ってきた。
近づいてくる足音に自然と笑顔になり、振り返る。
「あ、お帰りなさい。早かったですね」
「すまない、宰相府の方に戻らなければならなくなった」
「え……」
爽一郎の思わぬ言葉に、麗華がお玉を落とす。
目が潤み始めているのが、自分でもわかった。
「……そんな顔をするな。すぐ戻る」
ふと暖かいものを感じて、目を上げる。
爽一郎の大きな掌が、頭の上にあった。
「……はい」
「必ず無事で帰ってくる。俺を信じろ」
「……はい」
掌が、優しく頭を撫でる。
「……まあそれで駄目だったら、お前が何とかしてくれ。頼む」
「ちょ、何ですかもー!!」
それまでの雰囲気にそぐわない言葉に、麗華の気が抜けた。
「ははは、まあ大丈夫だ。昼飯は食っていくから」
「わかりましたよ。もー、またお葬式なんていやですからね」
ぽかぽかと爽一郎を叩くのを中断して、麗華は食事の準備に戻った。
怒ってしまったが、何やら彼なりに気は遣ってくれているし頼りにもしてくれているらしい。
それは嬉しかった。
これで早く「結婚しよう」と言ってくれると、もっと嬉しいのだが。




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製作:アキラ・フィーリ・シグレ艦氏族@FVB
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最終更新:2008年11月29日 00:05