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アキラ・フィーリ・シグレ艦氏族@FVB様からのご依頼品


好きのシルシ


 気がつけば、宇宙船の中だった。
 ふわふわと浮きながら、エステルが足の確認をしている。
 先日密林で負ったケガで動かなかった足は、今やしっかりと動いていた。
治療の甲斐があったのだろう。
「足の加減はよさそうですか?」
「よさそうです」
 エステルの事務的な確認にも時雨はほっとひといきつく。
「よかった」
 心からそう思った。あの時自分がもう少しうまく動けていればという少しの悔恨と、
今のエステルの無事な姿が浮かんでちくり、とだけ心が痛んだのだが。
 次の瞬間、ミニスカで足を上げているエステルの下着が見えたので割とどうでもよくなった。
 むしろ過負荷のかかりすぎでフリーズ状態だ。
「う・・・・」
 顔を赤くして目をそらそうとする横でエステルは、気にしていない様子で足を振っている。
機械の動作を確認するように、自分の足がちゃんと動くか確認しているのだ。
船とともに生きる人は、自分の雛形を船に求めるのだろうか。
 太陽系のヒト知類がかつて自分たちを車やらコンピュータなど時代の最先端の機械に
たとえてきていたように、彼女たちにとっても似たようなたとえはあるのかもしれない。
 時雨が顔を真っ赤にして、エステルにその姿について注意する言葉を考えている間に、
エステルは自分の足のチェックを終えた。
「よし」
 どうやら何一つ問題はなかったようだ。そのまま天井に座って時雨を見下ろす。
「大丈夫そうで何よりです」
「?」
 時雨の言う意味がわからずにエステルは少し悩む。いつもだが時雨の行動はエステルにとって
不可解なものが多い、生まれた場所の違い、文化の違いなのだろうが。
こういうとき決まって時雨は話をそらしてしまう。
「あーいえ。何でもありません」
「はい」
 エステルの答えも決まっている。この差はいつか埋まるのだろうか。
エステルはうまくいえないがそわそわする気持ちになった。
 じっと時雨が下から見上げてくるからかもしれない。
「落ち着きません。なにか?」
 エステルより低い位置で浮いている時雨がぼそぼそとつぶやく。
「あー……目の毒というか。短いスカートでさっきみたいな姿勢をとられると、
どきどきしてしまいます」
「はあ」
 やっぱりよくわからない理由だった。第七世界人や他の地球人は理解できるのかと
思うと少し悔しい、しかもこの差を埋める方法はまだ見つからない。そう思っていると、
しばらく考えをめぐらせていた時雨が、エステルと同じように天井に座った。
「よっと」
「丁度良くなりました」
 たとえ意見が分かれても、時雨は最終的にはエステルと同じ視線に立とうとしてくれる。
それがうれしくてエステルは笑った。
 地上を歩くときも、強情を張るエステルに一緒に歩こうといってくれたりする、
昔は軟弱だと思ったことも、今は素直にうれしいと思えた。
「嬉しいです」
 そして、時雨が自分がうれしいと同じように嬉しいと思ってくれることに
微笑まずにはいられない。
「お酒をご一緒させていただこうと思ってきたんですけど……
ちょっとその前に相談したいことがあって」
「どうぞ」
「今度、船を作らせてもらえることになったんですよ」
 少し照れたように時雨が言う。
「常時運行艦なんですか」
「…… はい?ネーバルと同じようなものなら、分ります。動く居住区です」
 エステルは時雨が何か他に言いたいことがあるのだろうと思ったが、
それを指摘する方法がよくわからなかった。そのせいで、少し相手に話をうながす程度の
ことしかできない。
「ああーまだ準備とかいろいろ要るんですけど・・やっと約束が果たせそうだなって。
 そうですね、多分同じものです」
「なるほど。いいですね。操舵が必要なら、私を雇ってください」
「いや、そうじゃなくて。あなたの船ですよ」
 やっと本心を言ってくれた、そう思ってエステルは微笑む。
「そう言う意味なら知っています」
 ちゃんと最初からいってくれればいいのに、と思うが。きちんと最初から
説明したがるのが時雨という人間なのだろう。これまでの付き合いでわかった気がする。
そして・・・
「出来あがったら、僕とあなたの二人で乗りたいんです」
 ついつい余計なこと(たとえば聞けば恥ずかしいこととか、聞いただけで恥ずかしいことだ)を
言ってしまうのもまた時雨という人物なのである。
「わかっています」
 だからエステルも、ついそっぽを向きたくなるのだ。毎回恥ずかしげもなく
愛を告げるのはなんだか面映いというかこそばゆい。
「……ごめんなさい」
 反省しているのか頭を下げる、そういうところは素直にかわいいので、
エステルはにこっと笑う。どう見ても犬のしつけか何かのように思うのだが、
それは言わないであげるのが花というものであろう。
「うー……と、とにかく。頑張って準備します」
「はい」
 ほのぼの、という言葉が似合う姿だった。エステルは常に笑顔である。
「どんな船がいいですか?」
「部品共用性が高くて、重要系統が2重にあることを」
「わかりました、整備性と信頼性ですね」
 エステルの意見に頷きながら、将来の二人の家になる船を想像しはじめる。
二人ですむのだからできるだけ相手の意見を取り入れたい。
「武装はどの程度必要ですか?」
「最小限で。レーザーがいいと思います。1門で十分」
 エステルも真剣に答える。時雨が望むのは、宇宙での戦闘を生き抜いてきた
エステルの知識だと思ったからだ。
「はい。機動性については?」
「故障しないで、出力は低くていいです。燃費を最大限に」
 徐々に未来の家の姿が形作られていく。エステルの声はどこか弾んでいるようにも
聞こえた。
「はい。拡張性はあった方がいいですか?」
「艦の上下に強度十分のバーがあれば、それでいいです。そこにマウントします」
「わかりました。他に留意点はありますか?」
 必要項目を聞き終えたのだろう時雨が一旦区切るように告げる。
「楽しく生活できるようにしてください。以上です」
 エステルはこれこそが言いたかったことだと胸を張って告げた。
そして時雨もこの言葉を聴きたかったのだろう。
「はい!」と大きく返事を返した。そして、エステルを抱きしめようとして
その距離に断念する。宇宙対応していないアイドレスでは、わずかの距離でも
縮めるのは難しかった。
「なにか?」
 不審な時雨の動きにエステルは首をかしげる。そして帰ってきた答えは
どうしようもなく単純な心からの願いだった。
「あ、いえ。もう少し近づきたいなって思ったんです」
 その願いを聞いてエステルは不思議そうに顔を近づけた。
彼女にとって宇宙空間は生まれ故郷のようなもの。時雨が苦労するような移動も
楽にできる。地上では時雨の動きにかなわないエステルも、無重力下では立場が
逆転するのだ。面白がるように、身を乗り出し時雨の顔30センチ近くまで近寄った。
「ええ、そんな感じで」
 どぎまぎしながら、時雨が言葉をつむぐ。
「なるほど」
 近づくと何かが変わるのだろうかと思いエステルはじっとしてみた。
すると、時雨が手をのばし、やさしく肩に触れる。
「待っててくださいね」
 これは自分が近づけるようになるのを待つのか、それとも船ができることだろうか
エステルは少し考えるが、両方の答えは同じなので素直に
できるだけやさしい笑顔でその答えを返す。
「はい」
 そう答えると、時雨はエステルの頬にふれるだけのキスをした。やわらかな唇の感触が
頬に残る。ネーバルウィッチでは一度も経験したことのない行為だった。
どんな意味があるのだろうかと、首をかしげる。
「気持ちの表現です」
「なるほど」
 時雨の言う気持ちの表現が何かわからないが、悪いものではないのはよくわかった。
なんだか触れられた頬が熱をもったように熱く感じられて、そっと触れてみる。
「……好きってことですよ。他にも色々あるんですけど、やり方が」
「なるほど 見たことはあります」
 また一つ、ネーバルとは違う文化を覚えた。初めて見たときは何のことか
わからなかったが、そういう意味なのかと思うと急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「ええ」
 ちらりと時雨を見ると、なにもわかってなさそうなので、少々無理やりに
話題を変えることにした。
「お酒は?」
「ああ、そうですね。ラムあります?」
 少々強引に話題を変えられたことに時雨は気がついていない。
「どうぞ」
エステルは棚にくっつけてある酒の瓶と長いスポイトを取り出した。
「ありがとうございます」
「そのままのみますか?」
「あ、グラスがありましたか」
 よくわかっていない時雨にエステルは笑ってスポイトで吸い、
ラムの玉を作って食べてみせる。
「へえ……」
 無重力では水分はきれいな球体の姿をとる。理論では知っていたが
初めて目にする光景に時雨は目を輝かせた。エステルは
その姿を見て面白そうに笑うと時雨に向かって玉をつくって押し出す。
時雨がその玉を食べると、強烈な味がした。
「き、きつい……」
 エステルは、時雨が気の毒になったのかスポイトで水の玉を作り出した。
時雨に向かって押し出す。時雨があわてて水を食べる。
水の味が無性においしく感じられた。その様子があまりにもかわいらしくて
エステルは笑った。
「面白いですね」
 時雨は初めての経験に目を輝かせた。
「宇宙では普通です」
「そっか……これからは僕にとっても、これが普通になるんですね」
 時雨の答えは予想以上にエステルを喜ばせるものだった。本当に嬉しかったので
笑顔を向けるだけでは足りなくて、さっき時雨に教えてもらったばかりの気持ちの
表現をする。ただ【好き】という気持ちを表すため、時雨の頬にキスをしたのだった。


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ご発注元:アキラ・フィーリ・シグレ艦氏族@FVB様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=1518&type=1464&space=15&no=


引渡し日:2008/12/14


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最終更新:2008年12月14日 14:37