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松井@FEGさんからのご依頼品


/*ずいぶん後のその後で*/

 ある日、久珂家にて。
 晋太郎はまだ小さい竜太郎をバスケットに毛布しいたベッドに寝かせた後、ふと思いだしたように、こんな事を言った。
「そういえば。この間松井さんと会ったよ」
「え?」
 あれ、晋太郎さんって松井さんと知り合いだったっけ。一瞬きょとんとするあゆみ。
「結構前の事だったからすっかり忘れてたけど、向こうが覚えてて呼び止められたんだよ。ずいぶん前に、ほら、一緒に来たことがあっただろう?」
「あー」
 久珂あゆみは思いだしてそう頷いた後、うーと言ってうなだれた。思いだした。あのときは晋太郎さんに謝りに行こうとしたのだった。ぐるぐるして逆に怒らせたり……危ういところだったりしたけれど……。
 そのとき、フォローしてくれたのが、松井いつかと総一郎である。
「そのとき暇だったから、ちょっとお茶してね。あ、竜太郎もクッキーもらったんだよ?」
「へー。あ、もしかして喫茶店ですか?」
「そうそう。あ、知ってた? 喫茶店の名前、奥さんの名前なんだって」
「あはは。聞きましたー」
「すごいよねー」
「ですねー」
「実は旦那さんだとか」
「……え?」
 首をかしげるあゆみ。晋太郎もよくわかっていない表情。
「いや。同席したスイトピーが、総一郎さんの事を見て……」

/*/

「あら、奥さん。旦那さんのご様子はどう?」
「………………」
 びしっと額に青筋を立てるヤガミ、無言でコーヒーを出した。
 眉を顰めるスイトピー。
「ヤガミ。注文と違うわよ? 私はコーヒーじゃなくて……」
「ちょうどきらしているんだ。悪かったな」
「でも、結構美味しいよ? 竜太郎、はい、クッキー」
 晋太郎は席に着いたまま自分のカップを持ち上げた。それから肩に止まっていた竜太郎に、テーブルに置かれたバスケットとクッキーのセットを示した。竜太郎はいいの? という風に晋太郎を見た。頷く晋太郎。すとんとテーブルに下りて、晋太郎がつまんだクッキーをはぐはぐと食べ始めた。
 あ日の午後。眠気を誘う心地良い陽気の溢れる昼下がりに、一同は喫茶店いつかに集まっていた。
 別に、示し合わせたわけでは無い。たまたまである。晋太郎は、竜太郎がおなか空いたようにしていたから。スイトピーは旅行。総一郎ははじめからこの店にいる。単に運が重なっただけである。
 少しすると、どこか間延びした声の娘がやってきた。犬妖精のメイドである。その足下には柴犬が。今日はどこかおすましモード。
「ご注文のモンブランと、ショートケーキと、レアチーズケーキですー。わぁ、その子可愛い」
 竜太郎が面を上げてメイドを見た。メイドはきゃーいいながらよーしよしと頭を撫でた。竜太郎、小さく声を上げる。その間にトレイを受け取ってケーキを配る店主総一郎。そして少し休憩だ、と言った。
「え、でも営業時間ですよ?」
「昼休みだ」
 つい数時間前にも昼休みはとった気がしたけれど。
「はーい」
 が、別にそれがもう一度来ても悪い事は何も無い。メードの娘は嬉しそうに笑うと、竜太郎と遊び始めた。
「しかし。面白い組み合わせだな」総一郎が言った。
「この店もなかなかのものだと思うけれど」スイトピーが言う。それからコーヒーを一口含む。悔しそうな顔。それから何も言わずに犬妖精の娘を見て、総一郎を睨みつけた。「どういう事?」
「前からの従業員だ」
「ふぅん」
「本当だ」
「でしょうね。あなたが旦那さんをないがしろにできるはずがないし」
「………………」
 総一郎はいろいろ言いたそうにしたが、黙った。晋太郎は不思議な顔。
「実は女性なんですか?」晋太郎が聞いた。
「面白い事言うわね」スイトピーはくすくす笑った。
「気にするな。ただの嫌味だ」総一郎はきっぱりと言った。「まったく。なんで俺箆回りにはこう嫌味な女ばかり……」
「どういう意味かしら?」
「…………」
「仲がいいですね」
 晋太郎はそう言ってモンブランを口に運んだ。なかなか。竜太郎にも……と思ったら、いつの間にかメードの娘がケーキを持ってきて食べさせてあげていた。竜太郎は翼をぱたぱたさせている。ずいぶんなついてるなぁ。
「しかし。そういえば、うまくいっているらしいな」総一郎は晋太郎を見た。「あのときはずいぶんあれだったのに」
「あー。ええ、そうですね」晋太郎は苦笑した。「あの頃はまだ、お互いに理解が足りなかったので」
「お互い」少し目を丸くするスイトピー。「そっか。そう思うようになったのね」
「うまくいってるなら、何よりだ」
「私としては、初対面があれだったあなたたちがそうして普通にしている方がよほど以外ですけどね」
 スイトピーがしてきたのは、晋太郎と総一郎の事だ。あの頃はまだ高渡という名前の久珂あゆみが、さる事情で晋太郎に距離を置かれていた頃。その仲介に出た総一郎が晋太郎と出会い、

晋太郎:「はじめまして」(目は笑ってない。呪符を持っている)
総一郎:「はじめまして」(懐に手をいれている)

 という状況になっている。
 ちなみに、すぐ横では松井があわあわしていた。高渡は超長距離で状況を見守る、というより、フリーズしていた。
 まあ。その後、事なき……をなんとか得て、今に至るのだが。
「そうだ。そういえば。前々から一度聞いてみたかったんだ。いや、差し障りがない限りでいいんだが」総一郎が晋太郎を見た。
「なんですか?」
「自分が結婚したなんて、不思議だと思わないか?」
「あー……なるほど。ええ、まあ。時々そう思います」
「やっぱりそう思うものなのか」
「不思議な感じはしますね」
 うんうんと頷き会う男達。スイトピーが怪訝な顔をした。
「何言ってるのあなたたちは」
「女にはわからない感覚だろうな」
「なんですって?」
 むっとするスイトピー。総一郎は苦笑して肩をすくめた。晋太郎も微妙な笑みを浮かべている。
「何どうでもいいこと考えているかは知らないけれど、いいじゃない。奥さんいて幸せなんでしょう」
 何故か不機嫌になったのか、スイトピーはもう一つケーキを注文した。ついでに、コーヒーも。総一郎は笑ってキッチンに向かった。晋太郎は微笑んでクッキーを食べた。

/*/

「ああそうだ。今日は珍しい客が来たぞ。竜と魔法使いだ」
「え。ファンタジィですね」
「そうだな。まあ久珂さんなんだが」
「ああ。奥さんの方ですか?」
「いや、旦那の方だな」
 その日。夕食の途中、ふと思いだしたように総一郎は言った。自分が作ったより美味しい事に、わぁ、らっきー、と思いながら食事を取っていたいつかは、その手を止めた。味噌汁の椀を置く。
「珍しいですね。何かあったんですか?」
「いや。心配しているようなことは何も無い。……本当だ。単に店に来て、菓子を食べて、帰って行っただけだ」
「そうですか。何か約束したとかは?」
「本当にない」総一郎は小さく頷いた。「安心してくれ」
「わかりました。安心します。でも隠してないですよね? 危ないこととか」
 総一郎は一瞬難しい顔をした。心配そうな表情をするいつか。いやそういう意味じゃない。どう言ったら信じてもらえるかと……。
 いや、考える前に言おう。
「大丈夫だ」
「……はい」
「まあ、それはいいんだが。あそこの一家もどうやらうまくいっているらしいな。前に少し関わっただけで、すっかり忘れていたが。何よりだ」
「そうですね。幸せそうですよ」
 いつか、そこで少し言葉を切った。それから小声で付け加える。
「私も幸せですよ」
「ああ。俺も幸せだ」
 頷く総一郎。
 沈黙。
 同時に、照れた。


作品への一言コメント

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  • さわやかでかつみんな幸せそうな話で読んでいてすごく楽しかったです。細かい周辺キャラまでオールスターで豪華ですね!ありがとうございました。最後のほどよい甘さが私は好きです。 -- 松井@FEG (2008-12-18 23:14:19)
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引渡し日:2008/12/18


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最終更新:2008年12月18日 23:14