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みぽりん@神聖巫連盟様からのご依頼品



 雨が降りそうだった。
 どんよりと黒い雲、湿った空気が頬をなでて行く。



 バスはどれほど遅れているのだろう、と少しだけ思うが
どうでもよかった。あせる必要はなかった。時間はまだある。
 自分の行く手をさえぎるものがいれば殺せばいいし、
殺せば運がよければお金か、何か便利なものが手に入るかもしれない。



 何もないということは、ひどく自由だ。どこにでもいける。
何だってできる。何も縛られることもないし、理不尽な暴力に
心を痛める必要もない。厚志はひとつ呼吸をした。
 ラボの外の空気は晴れやかだ。たとえ、今にも雨が落ちてきそうな
ところでも、明日の予定がなくても。
 厚志はのんびりとバス停に立っているだけで十分だった。
 自由を味わっていると、急に声をかけられた。



「こんにちは。なんか雨降りそうですね」
 いつからいたのか、黒髪の女の人が立っている。
 気配に気がつかなかったことに驚くが、それは表情に出さない。
「そうですね。どうか・・・しましたか?」
「いえ?」
 軽い世間話だったのだが、厚志のほうはそうはとってくれなかったようだ。
厚志にここまで無防備に話かけてくる人間はラボに行く前の幼児同士の
人間関係以外では初めてだったからだ。
「?」
厚志は優しく笑った。にこっと笑い返してくる笑顔に不思議な魅力があった。
「いきなり話しかけてごめんなさい」
 少し照れながらの謝罪にびっくりする。突然話かけてきたり、
謝ってきたりと忙しい人だ。
「いえ。ああ、バス待ち・・?」
 まさかとは思うけれど、わざわざ自分に話しかけてきたのか、
警戒してカマをかけてみる。のんびりとしたいい笑顔の人間でも、
もしかするとラボからの追っ手かもしれないと少し警戒する。
「えっと、あなたは?」
「まってるところ。時計・・・ないからいつになるか分からないけれど。もってる?」
 できるだけ自然に、怪しまれないように相手を伺う。
「はい。んー。時間ではもう少しかかりそうですね、バス」
 のほほんとした言い方にすこしだけ肩の力を抜く。敵じゃないのかもしれないと
少しだけ思った。世の中には変わった人がいろいろいる。
 突然バス代をくれる人がいるぐらいだし、無邪気に知らない人に話しかけてくる人も
ひょっとしたらいるのかもしれない。もしかすると1%ぐらいには。
「雨降りそうなのにね・・・」
「ええ…」
 厚志は上を見た。異変はまだ、ない。雨がふるまではもう少しありそうだ。
「ひまだね」
「暇ですね…」
 バスはまだ来ないし、空にも周囲にもまだ目立った変化はない。
本当にヒマだった。攻撃するなら早くしてほしいなぁ、と思う。
 正直なところ、正体のつかめない人にいらつく。
「ねこ」
 精神を保つために、教えてもらったことをやってみる。
「猫?え?どこですか?」
 ふいにいった言葉に、厚志の目の前の人は顔を真っ赤にして、
猫をきょろきょろ探しだした。もしかすると、敵じゃないのかもしれない。
そんな気持ちが3%ぐらいになった。
「あ、いや、ごめん。そういうのでなくて」
 頭を掻きながら、なんとか言葉をつむぐ。どうしよう場が持たない。
敵だとしてもそうじゃないとしても厄介すぎる、と思った。
「にゃ?あ、ああ、ごめんなさい」
 顔を真っ赤にする姿が少しかわいいと思った。
「あ。えーと。し、しりとり・・・?」
 なんとか、やろうとしていたことを告げる。
昔、ひどい取調べを受けて自分の精神が揺らぎそうになったときは
しりとりをして耐えた、という人の話を思い出したから実践してみたとは
いえなかった、結局、その人は処刑されてしまったからだ。
もっとも処刑されていなかったとしても
「もふもふしているもの大好きなんですー
 あ、しりとり!やりましょう! ねこ、だから ことり!!」
 元気いっぱいに、人懐っこい笑顔で言う人に、そんなことを告げる気には
なれなっただろう。
「りす。動物縛り?」
 いたずらっぽく笑って聞いてみる。信用・・・できるのだろうか、と疑いながら。
「ええええっと、動物以外も!」
「うん」
 厚志は微笑みながら答えた。はたから見ればずいぶんほほえましい
光景に映っただろう。
「す…、すいか!」
「かんでんち」
「おお!乾電池ですか!えっと、えっと…ちよこれいと」
厚志はじっと、相手を観察している。
敵か、そうでないか何度も確かめているようだった。
「とるこいし」
 次の言葉をいってから、一拍おいて厚志は、疑問を口にした。
「かわってるといわれない?」
「ほえ? い、いわれるです…!」
 言い当てられて、びっくりしたようにしていた。ずいぶん幼い表情だった。
その顔を見たときに厚志の中の疑いはなくなる。
彼女は敵ではないし、たぶん悪い人でもない。いままで曖昧だったけれど
確実にそういえると思った。
「うん。でもいいんじゃないかな・・・バス、こないね」
 そういう人がいてもいい。自分みたいな人間じゃなくて、
純粋な人間がいてもいいと自然と心からおもえた。
「変わってて、いいですか?」
 少し声が弾んでいた。もしかすると、いろいろ苦労したのかもしれない。
戦争中にここまで心が純粋でいるということは、ラボで生き抜くよりも
難しいことなのかもしれない。
「ありがとうですー」
 彼女の浮かべる満面の笑顔に、厚志は彼女を疑ったことを恥じた。
自然と笑みを返すと遠くからバスのエンジン音が聞こえてきた。
「あ、そういえば、ご挨拶してないです!! 
 はじめまして!みぽりんと申します!」
「ぼくは厚志」
 "少なくとも今は"厚志である。速水厚志、奪った身分証明書に
書いてあった名前を名乗る。
「厚志さんとおっしゃるですかー。よろしくお願いします!」
 みぽりんと名乗った女の人は厚志にぴょこんとお辞儀をした。
今までずいぶん会話していたのに初めて名乗りあうのが少しこそばゆい。
「っとと、バスきたですか!!」
 遠くからエンジン音を響かせて来ていたバスが目の前に停車する。
「うん。じゃあ、もうあうこともないとおもうけど」
「しりとりしてたら、あっという間でした!ありがとうございます」
 しりとりが楽しかったのだろうか、みぽりんがなついてきた。
「もう、会えないですか?」
 手を伸ばそうとしたとき、不意に妙な音がした。
「・・・」
厚志が耳を澄ます。あきらかに異質な音だ。驚いて、周囲を確認する。
狙われているのは自分か、彼女か。判断がつきかねる状況だ。
「に、にゃ?」
 みぽりんを見ると何が起こったのか理解していないようだった。
「今の音は?」
「どうしたですか?」
 きょとんとしているみぽりんを厚志は、バスに乗せる。
このままでは危険だと今まで生き残ってきた感が告げていた。
この際どちらが狙われているのかはどうでもいい。逃げなければ、
生きのこらなければならない。
「わからないけど・・・」
「にゃ?」
 状況は理解していないが、こちらの指示に従う気はあるようだった。
厚志の目つきが変わっていることに気がついてきょとんとしているが、
特におびえるわけでもない。ありがたい、と思った。
同行者がパニックを起こしたりしないだけ、生き延びる確立が少し増える。
「顔、下げて」
「?」
 突然も申し出にもかかわらず、みぽりんは素直に頭を下げた。
直後、雨音のような銃声が響いて窓ガラスがわれ始める。
「にゃ?」
 みぽりんは音とガラスにびっくりし、おびえたように厚志の服のはじをつかんでいる。
厚志はできる限りやさしく、落ち着かせるように告げた。
「動かない方がいい」
 こくこくとうなづいてじっとしてくれている。この時点でなんとかなるかもしれないと
厚志は思い始めた、バスの乗客を確認するがいない。
 どちらが目的であれ、敵は油断しているだろう、あとは誰にも見られなければ
始末するのはそう難しいものでもない。予想通り敵は乗ってきた。
厚志は、みぽりんの頭を押さえて、今から自分がすることを見られないように配慮した。



 さすがに、急なことで音は抑えられなかったが、ドサリという音をたてて
敵が倒れた。みぽりんが顔をあげるので、とっさにぽややんの演技をする。
最初に銃持った男が倒れているのが目にはいったのか、「きゃ!」と
小さく悲鳴があがった。そのせいか、多少ぎこちない演技でもうまくごまかせそうだ。
「降りよう」
みぽりんがこくこくうなづいて、後をついてくる。
「こわかったです…」
唐突に怖い目に合わされたせいか、声が震えている。
「僕も、ね」
殺される以上に怖いことがあるということを彼女は知っているのだろうか、
厚志はそう思いながら同意する。
「厚志さんもこわかったですか」
 みぽりんが、頬に触れてくる。彼女なりのなぐさめ、なのかもしれない。
「うん。僕はこわがりなんだ」
「も、もうこわくないです!!」
 ヒザをがくがくさせながらいいます 精一杯の強がりを言う。彼女を強いと思った。
「降りた後、ここにいれば、すぐ、警察が来ると思う」
「さ、さっきは、助けてくれたです!ありがとうです!」
「ううん。じゃあね」
 そういって、厚志はその場から離れようとした。このままここにいて
警察に話を聞かれるといろいろまずいことになるし、何より自分が狙われているとしたら
彼女を巻き込むのは嫌だった。
 立ち去ろうとする厚志の袖をみぽりんがつかむ。
「ついて来ちゃダメだよ」
 厚志は、その手を外そうとする。
「…だめですか?こわいです」
 そういって必死にすがってくる手を外そうとしたが、予想以上にその手の力は強い。
「・・・もっと怖くなるから」
 なんとか手を離してもらわないと、警察がきてしまう。
あれだけの物音だ、とっくの昔に通報されているだろう。
時間がたてばたつほど目撃者は増える。
「厚志さんといっしょにいたほうがこわくないです!」
 自信満々なセリフは、彼女の説得が無理であるという証明であった。
「分かった」
 しぶしぶだが、厚志はみぽりんを連れて歩き出した。同行者によるリスクよりも
このままこの場にいるリスクが勝ったせいだ、と厚志は自分に言い聞かせた。
「わーい」
 みぽりんが厚志の顔を笑顔で見上げてくる。本来なら、ここで笑顔で返して
一言でもいって落ち着かせ、いいところで分かれるべきなのだろう。
しかし、厚志はみぽりんの顔を見ることができなかった。



作品への一言コメント

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  • うわー!!ありがとうございました! 心の動きがなんだかじんわりきます。(ぎゅーしたい!) -- みぽりん@神聖巫連盟 (2009-01-01 01:39:24)
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