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赤のコーダは待っていた。
7ヶ月間一人の人間を待ち続けていた。
一度だけ会った敵のパイロット、刻生・F・悠也を。
7ヶ月間、ずっと会える日を待ち続けていた。

なんで待っているんだろうと何度か自問自答したことがある。
敵なんだから待つ必要はない。
むしろ、敵なら倒すだけだ。
罠に嵌めて、必要なことだけして、確実に葬る。
今までしてきたこと。するように教育されてきたこと。
でも、どうしてもする気にはなれなかった。

それを恋に落ちたと人は言う。
だからダメになったのだ、とも人は言う。
だから船も降ろされたのだ。
故に戦争が終わるまで役立たず。終わって尚役立たず。
情報を聞き出されることもなく、ただ会うこともない。
だから、思った。あの時親切だったあれは、結局ただ珍しかったからなのだ。

でも、やはり待つことをやめる気にはなれなかった。
7ヶ月間、もう一度会いたいと思っていた。
だから、刻生を待つことを諦めなかった。
たとえ来ないかもしれないとしても、自分から相手を好きだと認めることは、絶対に嫌だった。

「……遅い」

そんなことを考えながら、コーダは呟いた。
今はコテージの窓辺で海を見ている。
会えるからと呼ばれてきたはいいが、肝心の刻生はいなかった。
待たせた上に待たせるなんて、なんと生意気なと思った。
帰ってやろうと思ってカバンを手に取ったのはすぐだった。
しかし今は待っている。結局帰る気になれなかったのだ。

だが、波が寄せては返すのを見てふと思った。来ないのではないかと。
呼び出したところの名前も胡散臭かった。
キノウツン旅行社とかいったか。何故旅行の癖に呼び寄せるのだろうと今更ながらに考える。
まぁ、それに乗ったのは自分である。期待してしまったのも自分だ。
だから、もし来なかったら次は応じなければよいだけの話。
今回はただ旅行に来たと言うことで済まそうと思った。

ただ、あと少しだけ待とう。
もう少しだけ待ったら、星空を楽しもう。
それで―――――

考えを中断するように風が入ってきた。
カーテンと一緒に髪が舞う。

「やぁ、久し振り」

刻生の言葉が聞こえたのは、丁度その時だった。



まず一言遅いと文句を言ってやろうとか色々考えていたが、全て飛んだ。
何故か?
答えは一つ。なんかムカついたから。
会おうと探していたなら早く会いにこいと言うのだ。

「……戦争が終わって、用なし?」

だから困らせてやろうと考えた。
文句の代わりだ。とくと受け取れ。

「あのね……。俺はそういうので探していた訳じゃないんだが」

何だと?
カチンと来るコーダ。
そういうので探してはいないというが、会う口実にはなったはず。
それを使わなかったことがコーダのムカつきを増幅させた。
しかも拗ねないでくれだと?生意気な。

「拗ねてはいない。もう来ないと、思っていただけ」

コーダはウソは言っていない。本当にそう思ったのだから。

「うわ、薄情な奴だと思われてたんだな」

当たり前だ。返事なんかしてやるものか。
じとーっという視線でその意志を伝えるコーダ。
刻生はうーんと苦笑しつつ、じゃあと続けた。

「なら、俺の嫁さんとして迎えに来た、と言ったらどうする?」

嫁になった覚えはない。却下だ。
百歩譲っても恋人手前なのに、何を言っているんだか。
コーダは目を細めて刻生を見た。
刻生の頬に汗が一筋流れた。痛い視線と言うものは分かるらしい。
ええと、と視線を泳がせる刻生。窓の外を見ておっと声を上げる。

「ちょっと話しをしよう。外に散歩にでも行かないか?」

決して視線が痛いからではないと独り言をもらす刻生。
視線から逃げるようにさっさと砂浜に下りるとコーダを待った。
コーダはためいきを一つつくと、仕方なさそうに刻生に並んだ。

「お手をとっても良いですか、姫様?」
「不要」

くさ過ぎる。それに手なんか握らせてやらない。
残念そうな刻生だが、今まで自分が待った分に比べれば大したことはない。
そう思ってコーダはただ並んで歩くだけにした。
潮風がコーダの髪を揺らす。
その時、コーダの第6感が働いた。
刻生は髪を触ってくるつもりだ。
まだ触らせるものか。手早く髪を三つ編みにしてゆく
早くはできたが、感触が変だった。

「べたべたする。宇宙と違って水気がある」
「まぁな。でも、宇宙はどこまで行っても真っ黒だらけだけど、地上は景色が綺麗だと思う」

その刻生の態度がコーダを刺激した。
むぅっとふくれるコーダ。
そんなことは知っている。そんなことは聞いていない。

「どこの」
「だれが」
「宇宙の環境と地球の風景について語れといいましたか!」
「うう、だって機嫌が悪そうだから、掴みにしようと思って。きゃうんきゃうん」

刻生が鳴きマネをしたのと同時に、コーダは勢いよく歩き出した。
ふざけていても犬みたく鳴く男があるか!
その耳に今度は刻生の真剣な声が届いた。

「なぁ、コーダ、俺のことはもう嫌いかい? 俺は君のことを好きなんだが。
 君が嫌い、というなら俺は消えるよ。 君の気持ちがそれで晴れるなら」

コーダは歩みを止めない。
なんだなんだ。消えるなんて、勝手に考えるなんて、………不愉快だ!
こんな男を、こんな男を………待っていたのか?
何故だか悔しくて涙が出てきた。拳でそれを拭う。
泣いている事すら許せなかった。
慌てた刻生がハンカチを手に持って涙を拭おうと並ぶ。
視界にちらちら入ってくるし腕も振れない、歩くのに邪魔なことこの上ない。

「歩くの邪魔」

すると刻生が前に立ちふさがった。

「色んなコーダを見るのは、君の親御さんと俺だけの特権だ」

親と自分だけの特権だと?自意識過剰にも程がある!そこまで許した覚えはない。

「我々にはそんなものはいない」

吐き捨てるように言って、ハンカチを奪う。
涙を拭った。
自分にも親がいないなんて見え見えの嘘をついて、そんなに気に入られたいか。
イライラが募ったか、もう一気に問いただしてやろうと決めた。

「言い訳はいらない。なんで速くこなかったの?」

矛盾してるかとふと思ったが、問題ない。言い訳ではなく理由を言えばいいのだ。

「他のアラダに邪魔されてた。それに君がここにいるの判ったのは、かなり最近だぞ?」

オーマがいたのは信じよう。確かに戦争状態にあったから。
自分がいたのを知ったのが最近だと?………まぁ、呼び出されたのが最近なのは確かだ。
それに、今までいたところは宇宙だ。戦争でもないとこれないだろう。
よし、理由は認めてやることにしよう。早く来なかったことは不問だ。
なんだか、色々と許せる気になってきた。

「まぁ、無事でよかったよ、ホント。オーマ同士は色が違うと殺し合いをする、と訊いていたから」
「それは本当です。他の色は、みんな敵です」
「え、じゃ今も君は誰かに狙われる可能性があるのか?!」
「当然ながら」

何を今更と思ったが、まぁ、彼らは知らないことが多いと言う。
これくらいの返答はしてやっても構わないだろう。
何か考えている刻生。うーんと唸って頭をかいた。

「どんな奴からも護ってみせる、と言いたいがまぁ難しいな。
 だから、死ぬ時は君と一緒と誓う」
「どーだか」
「うわ、やっぱ信頼ないな」

当たり前だ。
今までの返答の中で信頼を勝ち取れたと思うほうがおかしい。
信頼されていると思うその頭をどうにかするのが第一歩だ、と言ってやろうかと考えてやめた。
わざわざヒントを与える必要はない。
代わりに冷たい視線を送っておいてやろう。
うっ、と若干うめきながら刻生が襟を正す。

「判った。信頼無いのはこれから、どうにかする。だから、せめて、手だけでも握って歩きたいんだが」

コーダは少しだけ悩んだ。
どこまで妥協するかを悩んで、指一本だけを差し出した。
今までの返答ではこれくらい握れれば上等、むしろサービスしてやってるくらいだ。

「ありがとう、近いうちに五本全部握るまでに、信頼回復させるから覚悟しておけっ」

刻生はそう言うとそっと人差し指を自分の手で包んだ。
覚悟しておけ、か。
相変わらず態度は生意気だし、まず信頼がそこまであったかは疑問だけど、
まぁ、指から伝わる体温は心地良いから許してやろう。

「よし」

知らず知らずの内に顔がほころんでいた。
それにコーダが気付いたのは刻生が可愛い娘っ子が!と言ったあたりで、すぐ真顔に戻した。

「さて、波打ち際に行って見ないか? それとも、海は入り飽きた?」
「波打ち際ならいい」
「じゃ、行くか」

海にはまだ入ってないから入り飽きたわけではないが、服を濡らすのは嫌だ。
だからコーダはスカートの裾を持ち上げながら歩いた。
指をもたれながらと言うのはなかなかに難しかったが、自分でいいと言った手前我慢した。

「夕焼けにその服が映えるな」

刻生がそういったのは何故か唐突で、思わず聞き返した。
ふと服を見る。
それほど薄くない服を着ていて良かった。透けてはいない。
そこでふと気付いた。急に服のことを言ったのは、透けないか期待してたからだと。

「透けては見えないな」
「あのね、そういうのは狙ってないからっ! むしろ、俺のコーダの素肌を他の人に見せさせるもんかっ」
「どー」
「だか」

誰もいないこの場所で他の人も何もあったもんじゃない。
嘘つきめ。本能に嘘をついても抗えるわけないだろうに。
信頼はまだまだ遠いなとコーダは思った。そしてじと目。
コーダに半眼で見られながらだから違う、ああもう、と何故か悶えながら呟く刻生。
葛藤の末ようやくコーダの髪に手を伸ばした。

「信じてもらえないなら、信じさせてやるさ」
「努力しなさい」

その後も色々文句を言っていたようだが、それは聞き流した。
努力は認める。それだけで十分だと思ったからだ。
そうしている内に刻生が2つの三つ編みの内片方を手に取った。
キザッたらしく匂いを嗅いでいる。
そういうことをしなければいいのにとコーダは思った。
すぐにほどけるわけだし。

「あ、ゴメン。ほどけちゃった」
「別に」

案の定ほどけた髪を前に謝るをよそに、コーダは頭を振った。髪が広がる。
別に髪に触られても良くなったのだ。編んでいる理由はない。
刻生が感動したようにそれを手で梳く。
男は何故こんなにも髪にこだわるのだろうと思うコーダ。聞くのも馬鹿らしいからやめておいたが。


コーダは目にかかる日差しが弱くなってきたのを感じた。日が沈みかけていた。

「夜になるね」
「ああ。そして、朝が来る」
「これから、少しずつこうやって君と時間を積み重ねていくんだ」
「どー」
「だか」

相変わらずのキザッたらしいセリフには、ただ半眼で返すことにした。
これが刻生・F・悠也だと、そう気付いたから。
刻生はうーんと何度目になるか分からない唸り声を上げると、頭をかきながら口を開いた。

「言ったろ、信頼は取り戻すって。
 取りあえず、ご飯でもつくろうか?」
「じゃあ来週、来なさい」
「じゃ、夕飯は何がいい?」
「なんでもいい」

と、言った後で思った。
今日を思い返してみると、まだまだ自分が被った精神的損害の賠償は済んでいないだろう
ここは、もう一つ仕掛けても罰は当たらない。ああ、間違いない。
だから、こう言い直した。

「モフカフのソーダ煮」

固まる刻生。

「えーと、ごめん。それ、知らない料理。レシピはある?」

コーダはまだまだねという表情になったあと、小悪魔のように微笑んだ。
思い通りに行くのは、楽しいものだと思いながら。

「教えない」


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ご発注元:刻生・F・悠也@フィーブル藩国様
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最終更新:2007年09月25日 21:26