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むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様からのご依頼品


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「……ふう」

 橙色に染まった小さな薄い板状のそれをバーナーの火から取り出し、台の上に乗せながらドランジは額を流れる汗を拭いた。
 ……自分は何をやっているのだ。荷物の大部分を送り出して殺風景なまでに片付いてしまった部屋の中にバーナーを始めとした様々な金属加工道具を持ち込んで。
 気を抜けば頭の中を埋め尽くすそんな疑問を彼女のどこかのんびりとした笑顔で振り払いながら、ドランジは傍らに置いた工具箱のなかから次の道具を取り出す。
 取り出したものは小さなハンマーだ。それを片手の指で構え、反対の手で支えた板へと振り下ろす。
 甲高い頭に響く音が部屋に響いた。ドランジは、確認するように少しずつ打点を変えながらハンマーを振り降ろし、小気味のいいリズムを奏でていく。
 その度に、借りてきた椅子代わりの木箱がギシギシと揺れる。まるでどこかの工場のようだ。ドランジは微笑しながら作業を続けた。
 実際、やっていることは工場でやるようなことと変わらないのだから何もいえない。普段はそうして出来るものを、ただ自分の手で作ってやりたいというだけだ。クオリティこそ本業と並べれば大きく劣るだろうが、そこに篭められる想いの丈ならば比較にならない。そう信じている。

「ムッ……」

 やがて薄い板がその形を変え、丸いリングへと姿を変えたころ、ドランジは微かなうめき声を上げた。
 ハンマーを誤って叩き付けた親指がジンジンと痛みを訴える。これを渡すときのことを考えすぎていただろうか、迂闊だった。
 とまれ、形は出来上がった。手を軽く振りながら、買って来た宝石をピンセットでつまみ上げてリングに嵌めこみ、爪を下ろす。ホワイトゴールドの玉座に鎮座した緑色の宝玉が白色電灯の光を受けて淡く煌く。

「まったく……何をやっているのだろうな、私は」

 出来上がったそれを見下ろしながら、ドランジは独り呟いて笑みを零す。
 彼の指先で輝く翠のスクリーンには、どこか満足げな彼の笑みと、そこには居ないはずの彼女の笑顔が重なって見えた。

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 ずん、という重い効果音とともに、西洋風の臭いがするテーブルの中心へ純和風の土鍋が乗せられた。
 和洋折衷と言うのだろうか。なんともシュールな光景だ。思わずドランジは口元を緩くす……いや、その前にやらなければいけないことがある。
 気づかれないように明後日の方向へ咳払いして気持ちを仕切りなおし、ドランジは手袋を外して白い息を吐きかける彼女に向き直った。懐に片手を入れ、手のひらにしっくりと収まる四角い”それ”を握り締め、一撃必殺の一撃を放たんと解きはな……

「……そうか、ね、ご飯もうたべてしまった?」
「いや、まってた」

 とうとしたところで、彼は反射的にその手をまだしまわずにいた食器棚へと投げ飛ばしながら答えた。
 寸でのところで目標を失った手が、かちゃかちゃと2人分の取り皿と箸を取り出す。テーブルの上に乗せられた鍋からは、白い湯気が天井へ向かって立ち上っている。粉雪の舞うこの季節に食卓を囲むには程よい温かさで、暖房が無くとも真まで温まることが出来そうなものだ。
 しかし、これを持ってきた彼女の手は、手袋越しでもきっと冷たくなってしまっただろう。食器を並べ終えたら暖めてやら無いといけない。
 ……いや、そうじゃないだろう。そうなのだが、そうじゃないだろう。

「いや、その。だから」

 ドランジは食器を手早く並べ終え、着ていたコートを脱ぎ、土鍋を載せたカセットコンロへ火を点けている彼女へと、弾かれたように向き直る。いかん、これではまるでヤガミではないか。
 今度こそと思い、胸ポケットにしまってある手のひらほどの大きさをした”それ”の感触に後押しされながら、そそっとドランジは彼女の傍らへと歩み寄り……

「プレゼントを受け取って……」」
「うれしいなあ。ご飯、たべよう。美味しくできたんだよ」

 その野花のように無邪気で愛らしい笑顔に2敗目を喫した。
 これで僅か数分の間に被撃墜2回。それも同じ相手。戦闘機乗りの名折れというものだ。目の前で黙して語らぬ鍋が、この世で最も凶悪な対空迎撃装置にすら見えた。

「……………………そうだな。食事にしよう」
「ま、まって! 何がいいたかったの、話してー!」

 しょんぼりと肩を落とすドランジの様子に気づいたのか、彼女が慌てて狂乱の叫びをあげた。
 2人の傍らでは火にかけられた鍋がことことと小さく揺れ、忙しなく蒸気を吐き出している。もはや、ついさっきまではあったはずのムードなど微塵も存在しない。ドランジは彼の胸でさめざめと泣いている”それ”を取り出し、苦笑しながらどうぞ、と彼女の手に握らせた。

「これ、今あけてもいいの?」
「ああ」

 微かに震えている彼女の手を上から、包むように握ってやりながら、ドランジはその細くしなやかな白い指を導くようにして箱の蓋を2人で開ける。
 そーっと、砂山が崩れないようにするほどに慎重に、ゆっくりと開かれた箱の奥から、白色金に輝くリングが覗く。
 リングの顔には、美しい鮮やかな翠玉が嵌められている。
 指輪だ。ドランジは、ぽけーっとそれに見惚れてしまっている彼女の手に乗った箱の蓋を閉じ、空いた指で頬を掻く。

「自分のネクタイピンを直したものだが……」

 雑ですまない。そう言おうとした口は、飛び込んできた柔らかな彼女の感触で塞がれてしまった。

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ご発注元:むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様
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最終更新:2009年04月02日 01:21