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水仙堂雹@神聖巫連盟様からのご依頼品


暖かな紅茶の湯気がやさしく周囲に漂う。
ハイマイルの展望台。無料で入れる展望台はとくに目立ったアトラクションもなければ
刺激もない。だから人気がないのだろうか。夜なのに、ヴァンシスカと雹以外は誰もいない。
窓から見える人工の明かりはとても綺麗で、まるで宝石箱をひっくりかえしたようだった。



さっきまでの緊迫した空気をほぐすように、そっと紅茶の温かさを味わう。
体の震えは、すこしだけ割れた窓から風が吹き込んできて寒いせいだと思いたい。
薄暗い部屋に夜に溶けるような黒いドレスが見える。
そして、紫色のカトレア風リボンフラワーの髪飾りも視界に入ってくる。
どちらも、よく似合っていた。
思わず目を細めると、ヴァンシスカが視線に気づいて首をかしげる。
同じように紅茶で手を温めている姿がかわいらしい。
誤魔化すように、ヴァンシスカにもってきたケーキを勧めて今日のことを思い出し始めた。




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ヴァンシスカの誕生日を祝うつもりで来た夜のハイマイルは、
摩天楼に煌々と光がともり夜の闇を吹き飛ばすようだった。
国の風景とはあまりにも違いすぎるその光景に、
緊張して背筋が伸びる。
すぐ近くでヴァンシスカの声がした。
「綺麗なところですね」
「ものすごくきれいですねー」
とっさにそう答えてから、あわてて挨拶をする。
「こんばんは」
 少し声がかすれていたかもしれない。ヴァンシスカも同じように返事を返して
周囲を見渡している。
「夜会でもあるのかしら」
国でも、パリでも見たことがないほどの明るさにヴァンシスカが目を細める。
「今日はヴァンシスカの誕生日をお祝いしようと思ってて、
だからもしかしたらそれのせいで街が大変なことに!」
 とっさにそういうと、ヴァンシスカは「なるほど」というと素直に
うれしそうに振舞った。
 祝ってくれるのがうれしい、そう言外にあらわしているようである。
「さて、行きましょう」
 差し出された手は拒まれずに、手を握って夜のハイマイルを歩く。
神いや狐に誓って、あやしげなところはいかないように大通りだけを
進む。
 けっしてやましい気持ちなど……ない。
「初めてみました」
「高級品ばっかりで買えないけど見てるだけで華やかだねー」
 およそ買えるものは何でも、というだけあっていろいろな店が軒を連ねている。
見れば帽子のついてかわいい服1着が40万わんわんだの、かわいい石をあしらった
指輪ひとつが100万だのと、値段は大変にかわいくないし手が出そうもないのだが。
ただ見ているだけでもヴァンシスカは楽しそうだった。
夜の闇に溶けていきそうな黒いドレスに、ふともってきたプレゼントを思い出す。
「うん、せっかくのドレスに似合うかわからないけど、これ、 よかったら着けて」
 一瞬何かわからないヴァンシスカに髪飾りを渡した。紫色のカトレア風の髪飾り。
精一杯の手作りの品だ。
「誕生日のプレゼントー」
「ありがとう。雹」
「喜んだ顔が見たくて用意したから、もう満足ですよ」
 大事そうに髪飾りを持つヴァンシスカを見て、幸せな気持ちに満たされて笑顔になる。
「嬉しい」
 髪飾りにこめられた気持ちが何より嬉しいのだろう、ヴァンシスカも
笑顔でその髪飾りを手にしている。
「・・・そ、それでどうしましょうか」
しばらく浸っていたが大通りで見詰め合って微笑みあう光景に
ヴァンシスカのほうが先に我にかえったようだ。
「では、夜の街を巡りましょう。歩き疲れたら言ってくださいね。」





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そうして道を歩いていると、どうやら展望台なら無料でいけるらしいと聞き、
展望台に向かった。展望台は57階にあるらしい。
この光あふれる街を一望できると聞いてわくわくした気分になる。
「まるでハイマイルを支配したような気分に!」
 思わずそういうとヴァンシスカが楽しそうに笑った。
ほどなくして57階の展望台にたどり着く。
展望台は薄暗く、窓の外のほうが明るいほどだ。
「綺麗」
「国は人工の光がなくて星が綺麗だけど、これはこれで綺麗でいいね」
 ちらりとヴァンシスカを見ると、熱心に窓の外を見ていた。
めったに見られる光景ではないからだろうか。その横顔はとても美しい。
「ヴァンシスカは、こんな華やかな街と藩国みたいなのどかな町と どっちがお好み?」
 あんまり熱心に外を見るからすこし、意地悪な質問をしてみが、その目論見はあっさり撃沈された。
「どちらも…あなたがいるから」
 即座にずるい、と思った。横顔が綺麗なのもあっさりそんなことを言ってしまうのも本当にずるい。
だけど、その言葉はなぜか雹の背中を押す魔法のように聞こえる。
「ねぇ ヴァンシスカ」
 心を落ち着けて、呼びかけた。
「はい」
 呼べば静かに返事が返ってくる。その声はとても優しい。
「はじめは国のためにいてくれたけど俺のために、いてくれない?
 ずっとずっと」
「それは求婚?」
 たずねてくるヴァンシスカに強く答える。
「指輪はないけれど、結婚してほしい」
 もしもう余裕があったらとっさに抱き寄せていたかもしれないが、
さすがにそんな余裕はない。言葉をつむぐだけで精一杯だった。
返事を待つ時間がすごく長く感じられる。だけど、ヴァンシスカは寂しそうに笑った。
「無理よ」
「どうして?」
 ヴァンシスカは静かに片目を指さした。悪魔のいる片目…。
「そうか・・・でもあきらめたくはない。何か 方法は」
 首を横にふり、静かにあきらめたように言葉を吐く。
「ありません」
「くっ 好きなだけじゃだめなのか」
 想いは届くと昔誰かがいった。愛がなければ意味がないとも誰かが言った。
ヴァンシスカの頬に手を添えてじっと見つめる。
「気持ちだけは、嬉しく思っておきます」
 あきらめたようなヴァンシスカの声に逆に勇気と覚悟が決まる。
「よし よーくわかった。もう何が何でも解決策見つけてやるぜコノヤロウ」
 誰に聞こう、何をやろう、頭の中で解決方法を探り始める。
盛り上がる雹を見てもヴァンシスカは寂しい笑みを浮かべたままだ。
「はぁ、寂しい顔をしないでー」
「幸せですよ。今しんでもいいくらい」
 幸せというけれど、そんな寂しい顔をしたりするのは幸せではないと思う。
「むーん しんでもいいとか そんなの幸せじゃないし!ずっと幸せでいるのがいいに決まってる」
力強くそういったとき、背後で物音がした。ガラスの割れる音だ。咄嗟にヴァンシスカを抱き寄せる。




 目の前に幽鬼のように白いサマーセーターの男が現れた。ヴァンシスカが雹をかばうように動くが、
すぐにその動きを止め自分の後ろに引き寄せる。
「くっそ、かばわれてなんかやるか」
 意地だった。幸せにすると決めた相手にかばわれるのは納得がいかない。
ガラスで傷つけた指をなめて、男は笑ってる。
「こんにちは」
 口調は丁寧だが、どこか不吉な響きのする声だ。悪魔のような、という表現があるが
国で見る悪魔とはまったく違う。彼らはまだ対話ができる、目の前にいるのはもっとおぞましい何かだろう。
「どうもこんばんわ」
 付け入られないように精一杯の声で返事を返す。
「取引でも、いかがですか。私は目を、直せます」
 蛇のような冷たさで声が響く。部屋の空気が一気に冷めたのは割れた窓からの空気だけではなさそうだ。
「ノゥ!」
 強く拒否を示す。
「これでも自分は男なので 自力で何とかします」
 ヴァンシスカの様子を見ると、そっと雹に「あれは指名手配犯です」 と耳打ちをしてきた。
緊張に体をこわばらせるが、男は不気味なほど優しく笑った。
「どうにもなりませんよ。それでも?」
「それでも です」
 突っぱねるように言うと男は肩をすくめた。部屋の空気が少し暖かくなった気がする。
「こんな壁に出会ってすぐに人の力に頼ったら、たとえ問題を解決したって 自分が誇れない」
「長い間、後悔するかもしれません」
 心配するような声音は誘惑するようだが、しっかりと睨み返す。
「それでも。彼女を思えばこそ です☆」
 胸を張ってそういうと、クーリンガンは微笑んだ。どこか満足したような顔で頭を下げる。
ふいに周囲の空気が軽くなった。クーリンガンと呼ばれた男は微笑んでいる。
「がんばるのみです 見てるとイイデス」
「では、そのように」
 そういうと、クーリンガンはその姿を消した。ヴァンシスカと周囲の様子を確認する。
「いっちゃったみたいね」
 ヴァンシスカのその声に安堵して汗をぬぐう。強力な相手と対峙したせいで冷や汗をずいぶん
かいてしまったようだった。原動力は格好悪いところを見せたくはない、だったけれど。
「何やら闖入者もあったけど」
 なんとかフォローしようとするとヴァンシスカは笑っている。
「いい誕生日でした」
「誕生日おめでとう」
 そういって手にしていた花束をようやく渡す。ヴァンシスカは嬉しそうに受け取った。



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「結局なんだったんだろう・・・」
 ハイマイルにくるとおもっていなかったんだ、と用意していた
ショートケーキとモンブランと紅茶を出してお茶会を始めたのがついさっきだ。
 ヴァンシスカは楽しそうにどちらケーキにしようか迷っている。
 クーリンガンはこのターン追い出されたはずなのに、突然現れるし
ISS呼ぼうかとか散々悩んだ割りにあっさり引き下がった。
「えーと、こっちで・・・」
 控えめに迷っていたヴァンシスカが食べたいケーキが決まったようだ。
今後のこともいろいろ悩むけれど、嬉しそうにケーキを食べるヴァンシスカの
顔を見ていると、そんな難しいことはどうでもいい。そんな風に思えてくる。
特別な誕生日イベントの夜だった。





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