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水仙堂雹@神聖巫連盟様からのご依頼品


ヴァンシスカはベッドに横たわって目を瞑っていた。
衰弱のために、唇に色は無く、美しかった銀の髪も精彩を欠いていた。

薄れていく意識の中で、ヴァシスカは思い出して微笑む。
特別な誕生日になったあの日の事を。


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『これ、 よかったら着けて』


―紫色のカトレア風リボンフラワーの髪飾り

『誕生日のプレゼントー』

ありがとう、雹

『喜んだ顔が見たくて用意したから、もう満足ですよ』

―幸せそうに微笑む雹


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『ねぇ ヴァンシスカ』

『はじめは国のためにいてくれたけど』

『俺のために、いてくれない?』

『ずっとずっと』

それは求婚?

『指輪はないけれど』

『結婚してほし・・・











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「まったく…、死にそうに弱ってる癖に、そんな幸せそうな顔して寝てるなんて」
オゼットはヴァンシスカの病室でひとりごちた。
衰弱している彼女は、薄っすらと微笑みさえ浮かべているように見えて、オゼットはそれに目を細める。
「前にも言ったけど、あなた、そんな顔する人だったかしら…」
意識の無いヴァンシスカは答えない。
「まあ、いいわ。今日はこれを届けに来ただけよ。」
オゼットはヴァンシスカ両手をとりそっと胸にチョコレートを抱かせた。
「…運がよければまた会えるかもしれないわね」
そう言うと、オゼットはそっと病室を後にした。


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神聖巫連盟は変わった。
国は活気に満ちていて、人の往来の多い通りに現れた雹はそれを見まわす。
ふとやった視線の先に、待ち合わせたオゼットを見つけた。
「どうも オゼットさーん」
自分に呼びかけながら近づいてくる雹を、オゼットはさめた表情で迎えた。
「?」
「あ、以前ヴァンシスカのことで御相談に伺ったのですが・・・」
「・・・ああ、そんなこともあったわね」
オゼットは腕を組んで、さも今思い出したように言う。
「その後、どうなりましたか?」
「がんばったわよ。結構ね」
オゼットは冷えた表情で感情を隠すと、雹をじっと観察するように見た。

「名前、ないわよ」

―さて
自分の期待した成果が出ない事に腹を立てて約束の報酬を払わない輩や、逆にこちらを責めて値切ろうとする輩を、オゼットは今までたくさん見てきた。
この男はどうだろうか。嘆くだろうか、責めるだろうか、それとも…。

「そうですかー うーん どうしたもんか」
顎に手を当てて、ひとしきり思いを巡らせた後、オゼットにずしりと重い袋を差し出す。
「あ、調べていただいた報酬は用意できました。お納めください」
オゼットは金貨を受け取った。 仕事の報酬を貰うのは当然の事ではあるが、取り乱しもしない雹の様子にほんの少し目を細めた。
―結構やるじゃない。
「名前はあるものだと決めてかかってましたが・・・名前がないということもあるんですね」
「相手は人類以前の存在よ。名前を人は、誰も知らない」
優雅に髪をかきあげながら、そう言うオゼット。
雹は表情を曇らせながら頷いた。
「なるほど」
―手詰まりか
しかし体は自然と歩き出していた。
ヴァンシスカを探す為に。



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白い病室。
しんと静まり返った部屋のベッドに、ヴァンシスカは横たわっていた。
靴音がやけに大きく聞こえた。
「はろー ヴァンシスカ」
雹は、ヴァンシスカの衰弱した姿に胸を痛めながら、いつもの調子で話しかけた。
彼女は沈黙を守ったまま。
雹は心が急速に冷えるのを感じた。

ヴァンシスカの胸にはチョコレートが抱かれている。
「オゼット先生 魔法的なことは全くわからないのですが、このヴァンシスカの状況 どうなんでしょう?」
血の気の無いヴァンシスカの顔は、しかし安らかで、死の淵にいるとは思えない。
縋るような視線をオゼットに向けると、魔女は首を横に振った。
「見ての通り。もうそろそろ」
―ヴァンシスカ
「お別れ、してあげて」

雹は胸を締め付けられながら、そっとヴァンシスカの手を握る。
「あぁヴァンシスカ、ヴァンシスカ もう 時間はないのか?」
ふいに目頭が熱くなり、雹は涙を流すまいと唇を引き結んだ。
―まだまだ自分の努力が足りないんだろう、ああ、ヴァンシスカ。もう少し待てくれないか…
色の無いヴァンシスカの顔を覗き込んで、彼女の乾燥した唇に口付ける。

その時、ヴァンシスカがわずかに動いた。
オゼットは病室の壁に背中を預けて、その様子に目を細めた。
チョコレートが輝いている。
「?」
雹は呆気にとられて、チョコレートを見つめた。
指先でつついたそれは光を失おうとしている。
―ああ、神様。
楽しい日々を思い浮かべながら、ヴァンシスカが戻るように懸命に祈る。
―どうか彼女を戻してください
チョコレートばかりでなく、自分のポケットも輝いているのに雹は気づき、慌てて探った。
手にとったそれは、聖なる光をたたえて雹の顔を照らす。
―これは、聖水…もしかしたら…
聖水の光に照らされながら、雹はをそっとヴァンシスカの唇へと聖水を滴らせた。
乾いた大地に染み込むように、吸い込まれていく。
ヴァンシスカの唇に、頬に、髪に
精気が満ちていく。
「古い神ね。悪魔と同じくらい、名前も忘れられた・・・」
オゼットは眩しげに目を細めながら言った。
「瞳を確認して」
促されて雹はそっとヴァンシスカの両目をみた。
―疵がなくなっている
―ヴァンシスカ
信じられない奇跡に胸がいっぱいで、雹は何も言えずただオゼットを見返した。
微笑むオゼット。
「大事にすることね」
「ありがとうございます・・・」

「あの、あの お願いが」
病室を後にしようとするオゼットを呼び止める。
「この先の二人を 見守ってはくれませんか?」
「魔女の 祝福を」
真剣な表情で見つめる雹に、オゼットは目元で少しだけ笑った。

「そんなのは魔女の仕事じゃないわ。そういうのは愛の女神がお似合いよ」



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