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NO.59 沢邑勝海さんからの依頼


「料理長! Aブロックのテーブルの全ての料理が壊滅です!!」
 プレミアは口を開けて、料理人の聖域に断りもなく転がり込んできた給仕をなじろうとしたが、ことを理解してむせた。
「ばっ、あそこには300人分のオードブルを出したばかりだったはずだ! 一体何が!?」
「そ、それが...」
「なんだ! 1000頭のミノタウロスでも現れたか!!」
「違います、ターニです! ターニ・キルドラゴンです!! 一人で5割の近くの皿を消費しています」
 料理長以下数十人のコックがずっこけた。
「...奴の胃袋はWTGかよ」

 轟音。
 ドアを突き破って、今度はメイドが転がり込んできた。

「りょ、料理長ぉ。料理が、料理が足りませんんんん」
 そこまで言って倒れ込む。
 急いでコックが駆け寄り介抱する中、料理長プレミアは渋い顔だった。
「どうする、」 包丁に映る自分の顔に問いかける。
「...料理長。Bブロック用の料理をAブロックに回しますか? Aブロックだけならそれで」
 サブチーフが一時しのぎの案を出す。
「そうだな、その間に追加で料理を作っていこう。幸い食料はまだ残っている」
「ち、ちがいますぅ...」

 うめき声はメイドのものだった。

「私が足りないっていったのはあ、Bブロックですぅ。黒の、黒のオーマの連中が宴会初めて手当たり次第に次々と料理を平らげて...」

 言い終わらないうちに、また扉が開いた。
 アシタスナオが陰鬱な顔で入ってくる。

「最悪だ...ターニと黒オーマがテーブルの料理食べ尽くして他のテーブルに侵攻し始めた」

 全員がずっこけた。


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 真っ先に持ち直したのはプレミアだった。

「と、とにかく新しい皿を用意していくしかないっ!」

 メモ帳を取り出して、筆を走らせる。レパートリーの中から早くて量も多く作れるメニューを引き出しては、次々と書き連ねていく。

「調理器具と料理人総動員して、なんとしてでも押し返せ。キノウツン藩国に
――いや高原に恥をかかせるな!!」

 おーーーと、鬨の声が上がった。
 それぞれが持ち場へと戻る。
 事情を聞きつけた はる が腕を組んで中華鍋にジャンを放り込む少女――プレミアに訊ねた。ちなみに麻婆豆腐である。

「いけそうか?」
 プレミアは、額から汗を流して、黙り込んでいだ。
 その表情は暗い。
「数が、さばけない。客の食い気にたいして料理人の数が足りないんだ。最初から余裕のある数じゃなかったけど、にしても予想以上すぎる。このままじゃ単純に物量で押し切られてしまうね」
「兵站不足か...」
「いっそ、見栄えは悪いけど芋煮鍋みたいな手早い大型料理に切り替えれば...いや、それでも難しいな。どのみち食料がもうすぐ底だ」
「え、うちって確か食料37万tあったような」 
「いや、100万tだ。摂政がながみやリワマヒから借りてそれだけ用意していた」
「ひゃ、100t...!? それでも足りないのかよ!!」
「いま、アシタが更に食料を提供して貰えるように駆け回ってるけど...正直、間に合うかどうか。いや、それより何より...」


「C、D、Eブロック大破! このままでは持ちません!!」
「両陣営に影響されるように、源を始め各所でも大食いを始める馬鹿多数!!」
「センターテーブルにイカナ発生!!」


 次々と絶望的な知らせが届いてくる。


「それより?」
 はる は、続きを促した。
「やっぱり料理人の数が足りない。足りなさすぎるんだよ」
「メイド喫茶から応援は呼べないのか?」
「悪いけど...ただのコックが一人や二人増えたところじゃ、どうにもならない。それこそACE級の奴らがいないと――」
「わかった」
「ごめん はる。料理の邪魔だからそろそろ...」

 プレミアが振り向くと、既に はるはそこにはいなかった。
 中華鍋を振り回してプレミアは首を傾げる。

「あれ?」


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小宇宙「超☆ウェイター!!!」
浅田「メイド絶技! まんがんぜんせき!!」
せい「ウェイター絶技! コンシェルジェストリーム!!」

 キノウツンメイド3人の競演によって、100はあろうかというテーブルに一瞬にして配膳されていく。
「ぐおおおおおおおお」
 圧倒的な料理の波に、押し流されていく黒オーマ達。

小宇宙「腕は落ちてないみたいだな。せい」
せい「君こそ。デスクワークで疲れが溜まっているんじゃないかと心配したんだけど」
小宇宙「いらん心配だ」
せい「そのようだね」
浅田「二人とも、無駄口はあと。ッ来ます!!」

「食ッ!!!!!」
 隊長クラスのオーマの舌の一薙ぎで、北京ダックが丸呑みにされてしまう。
「がははは、この程度ならひと呑みぞ! まだまだいけるぞおお」
「北京ダックを丸ごと食うな。というか、味わって食えよ」
 黒にして真珠のロイが肉まんを手にそう苦言するが、大局は変わりそうになかった。
 はた迷惑なことに、局地的な大食い大会になってきているのだ。
 黒オーマの集団とターニによる壮絶なパイの取り合いが始まる。

「あ、ロイさん発見」

 はるだった。
 他の手伝っているキノウツン国民とは違って、西国人の礼服姿である。

「はる殿か」
 はるは、ええそうですと頷いて壊滅しているテーブルを見た。
「あちゃー。確かに何皿出しても足りないかも」
「面目ない」
 申し訳なさげな顔だった。黒オーマでもまともな人はいるらしい。
「いえいえ、」
 はる はあははと笑ってからロジャーに尋ねる。
「それより、ちょっと猫の手になったりしてみません?」
「?」


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「Aテーブル! あんかけ炒飯できたわ、皿に移して持っていって!!」
 一抱えはあるかという炒飯の入った中華鍋をでんとおきつつ、蟹炒飯の制作に取りかかる少女。
 ドレスの上からのエプロン姿が大変勇ましい。
「金城さん! それ終わったらこっちもおねがいっ」
 横山が魚をおろして次々と刺身用のサクに切り分けていく。超高速の神業だったが、いかんせんそこから刺身にしていく段階がもたついていた。
 料理の鉄人もはだしの指揮である。
 彼女たちの指示のもと、分刻みで次々と新しい料理が皿に盛られていく。
「まったく、あの馬鹿っ。ちょっとは遠慮しなさいよ」
 金城がぶつぶつ呟いて鉄鍋を振るう。
 文句を言う割には鼻歌交じりに。
 隣の調理台では、ミュンヒが見たこともないような豪華な料理を秒間一皿の勢いで作り上げていく。
「...負けてられないわね」
「ええ、そうですね」
 横山が同意しながらカニに包丁を落とした。

 一方、中庭の庭園では、青が鼻歌交じりにいつものように鍋をかき回していた。その鍋は天を突く鍋だった。大きさ的にである。
 大きさ的には貯水タンクを連想させる。この鍋をかき回すにはショベルカーや人型戦車が必要だろう。
「...芋煮会でもするのか?」
 熊本がでんと置かれた鍋を見上げながら青に訊ねた。
「ううん、」
 首を振る青。
「コンソメスープ」
「いまからだと到底、間に合わないと思うが」
 そもそも、こんな大鍋で繊細な味の調節が必要なコンソメスープができあがるとも思えないとは思ったが。
 輸送ヘリが上空まで飛んできた。
 熊本が無線で指示を送ると、ヘリは庭園上空からコンテナ程はありそうな木箱を落とした。箱には焼き印でvegetableと押されている。
 青、無造作に剣鈴を振るう。
 瞬間木箱が消失した。中から大量のニンジンやタマネギと言った野菜類が――その野菜も皮が消失した状態で――鍋へと落ちていく。
 青は、うんと頷いた。
「なんとかするさ」

なんとかなりました。



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 再び結婚式会場。
「お客様の中に料理できる人はいませんかー」
 はる ののんびりとした質問に、何人かのACEが立ち上がる。
「あの...カレーとかでいいなら」
「ありがとう。ええ、美味しければ大丈夫! ささ」
 メイドに案内されて厨房方面へ向かう千葉菜穂。FEGからやってきた昇が(どう考えても高原を祝うために来たワケじゃなさそうだったがさておき)心配そうにそれについて行き、苦笑しながら晋太郎もそれに続く。
 斉藤も立ち上がったが、英吏にお前は座っておけと言われていた。
「これは...いいのか?」
 手が空いて――そう、料理長のはずのプレミアは手が空いていた――会場にまで足を運んできて、口をおおきく開いて呆然としている。
 客で来たはずのACE達が、料理を造り、配膳までして、更には食糧まで輸送しては供給してくれている。
 だが、それでも誰も不満そうな顔はしていない。
 あははと笑って はるは頭をかいた。
「いいさ、いいさ。どうせキノウツンはACEを扱き使う国家と悪評が立ってるからな」
 全てのテーブルには古今東西ありとあらゆる料理が並べられて、式場を見るも楽しそうに彩っていた。
 早食い大会の波にパニックになっていた来客もようやく元の落ち着きを取り戻している。
 その平和なテーブルの隙間を万能執事と万能ねえやが見るも素早く(けれど典雅に)歩いては客をもてなしていた。
 黒オーマとターニは蟹を食べていた。
 人は、蟹を食べるときだけは静かになるもの――その真理を突いた横山の時間稼ぎ作戦である。
「あ、揚げ餃子だ。誰が作ったんだろ」
「私だけど。」
「旨いな」
「あついから、あまりがっつくと粘膜が火傷するよ」
 注意してからため息のプレミア。
「けどなあ...これって結局、キノウツンの面目とかなくなくない?」
「ま、別にいいんじゃないかぁ。どうせ最終的に恥かくの高原だし」
 餃子を頬張りながら、無責任に言い放つ はる。
 高原はというとアララに何十回目かのキスをせがまれて顔を赤くしていた。
 壇上ではよけ藩国の藩王が延々とスピーチをしていたが誰も聞いちゃいない。
「まあ、みんながこうしてあいつを祝ってやろうとしてくれてさ。だったら別になんだっていい気がするんさ」
「それでいいのかなあ...」
 自分の作った揚げ餃子を頬張るプレミア。
 メイドさんが2人分の麦茶をトレイに乗せて持ってきた。
 はるとプレミアはそれを受け取って、
「じゃあ、高原の野郎に乾杯」
「だね――カンパイ」

 ちん、と微かな音。
 既に雰囲気的に二次会と化してきた結婚式はまだまだ続くのだった。




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最終更新:2007年10月27日 02:52