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月光ほろほろ@たけきの藩国様からのご依頼品

花びらが舞っている。
白く、小さな花びらは無数に風に舞い、それぞれが青く澄んだ空に散っていく。
ここは宰相府藩国・春の園。
その名の通り、春だけの庭園だ。

桜の花の精、るんは自分の木の枝にもたれかかって、花びらの舞う空を仰いでいた。小さなタクトを握っている。
そのタクトを振れば、動きに合わせて自身の散らせた花びらを自在に空に舞わせることができるのだ。
まわりの木の精と息を合わせれば。もっと沢山の花びらを空に届けることが出来る。
けれどるんはそれをしなかった。
やりたくても力が出ないのだ。
勢いのないるんの花びらは、重力と空気の抵抗に沿ってはらはらと地面に落ちるだけ。
「ふぅ」
るんは、ちいさくため息をついた。
「おなか、すいたよぅ………」
宰相府藩国・春の園は、その名の通り、春だけの楽園だ。
桜の木は芽吹くと同時につぼみをつける。
そして、花を咲かせ、散らす。
しかし、それだけ。
春の園には夏が来ない。だから実を結ぶこともできない花芯は、花を散らせた後、地面に落ちる。
そして次の芽から、またつぼみが萌えぐ。
花を咲かせる。そして散る。
春の園には秋が来ない。
だから、落ち葉を落とすことができない。
落ち葉がないから、土はいつも土のまま。
落ち葉の絨毯は微生物のちからで分解して土にとけ込み、養分をもたらしてくれるはずなのに、
土はずっと最初に敷かれた土のまま。
時折管理の庭師が水と一緒に肥料を撒いてくれるけども、妖精であるるんには届かない。
桜の花の命は短い。
だけど、満開の桜を楽しみにしてここに来る人たちの為に、るんたち花妖精は一生懸命次の花を用意する。
桜は沢山の花を咲かせてこそ桜。
花が咲いてない桜の木なんてここではなんの価値もない。
もしさぼったらきっと庭師の人に抜かれて、冬の園の薪にされてしまう。
るんは怖い考えにぶるぶると震え、がんばって花を咲かせてきた。

 だけど……
 もう
 ちからが
 でないんだ………

るんは枝から落ちないように必死にしがみつきながら、周りを見渡す。
なんで他のみんなはあんなに元気に花を咲かせているんだろう?

不思議に思って、顔を上げるとるんは周りの木々を見回した。
ふと
自分の木の根元のベンチに、2人の人間が腰を下ろしているのが見えた。
るんの木はちょっと外れたところにあった。だから人が来るのはとても珍しいことだ。
るんはぼーっとする頭で、その二人を眺めてみる。
一人が、荷物から四角い包みを取り出し、ベンチに並べた。
箱の中には、とってもおいしそうなおかずやおにぎりがぎっしり詰まっている。

 ああ、おいしそうだなぁ……

るんはよだれを垂らしそうな勢いで弁当箱を覗いた。
たまごやき、おさかな、つくだに……彩りもきれいで、どれもこれも本当に美味しそう。

 ぼくにもひとつ、くれないかなぁ……

そんなことを思っても、人間は彼ら妖精の存在に気づくことも無く。
るんも、重々わかっていることだった。

 ほしいなぁ……おにぎり……

るんは、ふと名案を思い付いた。
花びらを飛ばしておにぎりの上に乗せたら、もう食べれないと捨てたりしないだろうか?
ぼくの木の根元に捨ててくれたら、庭師が気づく前に土になって、ぼくのお腹に入るはず!

るんはよろよろとタクトを振った。
数枚の花びらがひらひらと舞いはじめ、そのうち一枚がようやくおにぎりの上に乗る。

 やった…!

るんは二人の様子をじっと見つめた。
けれど
おにぎりを持った人は花びらが乗っているにも関わらず、美味しそうに食べ続けている。

うーん、気がつかないのかな?
るんはもっといいアイディアはないかと、一生懸命考える。
あ、そうだ
人間は毛虫さんが嫌い。
ぼくもあんまり好きじゃないけど
これを落としたら、きっとビックリしておにぎりを落っことすはず!

るんはきょろきょろと周りを見回した。少し上の枝に、ちいさな毛虫さんが止まっているのが見えた。

 よーし

るんは枝に登って、タクトを毛虫さんの方へ伸ばす。

 も、もう少し………

そこで、おおきな叫び声が聞こえた。
「るん、あなた何をしようとしてるの!」
「みーちゃん?えっとね、お腹がすいたの、それでね……」
「ばかなこと考えないで!」
斜め向かいの桜の木の精のみーちゃんはるんのそばに舞い降りると、凄い剣幕でるんを叱りはじめる。
「だって!もうお腹がすいて死にそうなんだよ……」
「だからって、毛虫さんを落とすことはないでしょ!ひどーい!」
「だって……だって」
るん、涙目。
そうこうしてる間も、眼下のベンチからはおいしそうな匂いが漂ってくるのだから。
「るん、あなたは自分が妖精だってことを忘れてるようね」
みーちゃんはあきれた顔でため息をついた。
「土から養分を貰っても、私たちのおなかは膨れないよ?木に栄養はいくけれど」
「……え?そうなの?じゃあぼくたちは、なにを食べるの?」
「ふぅ……るん、あの二人を見て。お弁当じゃなくて、二人を」
るんはあらためて二人を見た。とってもとってもおいしそうに弁当を食べている様がうらやましいなぁ。
「うーん、あなた、視覚にとらわれすぎるのね……じゃ、目を閉じてみて」
言われた通り、るんは目を閉じてみる。
「あのベンチから、なにか感じない?」

 あれ…?
 なんだろう

るんは感じる“なにか”の方へと手を伸ばす。
あたたかい“なにか”が伝わってくる。
指に、手のひらに、そして腕を伝わって、じんじんと身体へと流れ込む。

 これは、なに?
 あまくて、おいしいよ?

「思い出したかな?私たち桜の精の糧……」

みーちゃんは自分もうっとりとしながら微笑んでいる。
桜の木はいっぱいいっぱい花をつけて人に見てもらうためのいのち。
たとえ枝に実を結ばなくても、人の心に実を結ばせることが出来るよ――

 ああ、そうだった、ぼくらは桜の妖精。
 ぼくたちの下で、しあわせな気持ちがあふれるのが至福。

この春の園はその為に作られた。だからより多くの妖精たちがここに住み着いているのだ。
「るん、すごいわ、この人たちの力、もしかしたら今までで一番………!」
妖精のこころで見たベンチの二人は、暖かい光に包まれている。
その光はどんどん力を増していき、まるで太陽のように輝いている。
「すごいね、みーちゃん、すごいね!」
振り向くと、るんの桜の枝には大勢の桜の精が集まってきていた。
暖かいひかりを少しでも近くで受けようと、寄って来たのだろう。
二人の放つしあわせのかがやきは少しも衰えること無く、全ての妖精たちを照らしている。

るんのよれよれの服が風になびき始める。
しおしおだった羽も、ぴん!と輝いている。

るんは久々にタクトを振った。
花びらが華麗に踊りはじめ、二人をやさしく包む。
他の妖精たちもるんの舞いに合わせて花びらを散らしはじめた。
無数の花びらはシンフォニーとなって
春の園の桜たち全てが、二人を祝福する。

けれど、当のベンチの二人はそれに気づかない。
二人の心はすべて互いのことで占領されていて、気づく余地などないのだろう。
だけど、桜たちはそれでいいのだ。

自分たちが嬉しいから祝福しているのだから――


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