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沢邑勝海@キノウツン藩国様からのご依頼品


 決着


「……111、112、113……」

 わんわん帝國は皇帝の住まう宮廷の一角。
 そこで男の低い声が聞こえた。
 息が荒い。

「皇子、鍛錬の中申し訳ありません」

 男の動きが止まる。
 床に崩れる事はなく、そのまま床を手を大きく弾き、その反動で綺麗に立ち上がった。

「何か?」
「皇子とご懇意の方の国……キノウツン藩国が制圧されました」

 男……皇子の目が大きく開かれる。

「一体どこに?」
「それが……管理機構と言う組織であり、国の摂政を人質に取っていると」
「……了解した」

 皇子はそのまま手すりにかけていた上着を羽織った。

「どちらに?」
「約束を果たしに」
「ヘリは出しますか?」
「必要ない」

 そのまま皇子は走っていった。
 宴を繰り広げるかの国へと。


/*/


 キノウツン藩国。
 その日は、国を挙げての宴が繰り広げられていた。
 鉄の匂い、火薬の匂い、微量に混じる花の匂い。
 谷口竜馬は国境に入った瞬間、目を閉じ、耳を澄ませた。
 一度谷口は手痛い敗北をしている。
 だが、あれからずっと修行を積んでいた。ここで負ける訳にはいかない。
 気配がした。
 谷口は宙に手を広げ、拳を開いた。
 手の中に拳が入っていた。
 谷口に一撃を食らわせようとした漢はニヤリと笑った。
 迅雷の力石。かつて谷口を敗北に追いやった漢だ。

「ほう……前は私の拳すら見えていなかったみたいですが」
「あの頃の自分は未熟だった。だが、今は違う」

 風が吹いた。
 4月になったばかりの冷たい風だ。
 互いは構えた。
 ゴングは鳴らずとも、戦いは始まった。


/*/


 沢邑勝海は普段着のメイド服を着て国内を彷徨っていた。
 手には季節外れのバレンタインチョコを持って。
 このチョコは谷口に送り、送り返されてきたものだった。何も受取拒否をされたのではない。

”後日、直接受け取りに参ります。谷口”

 送り返されてきたチョコに同封していた手紙にはそう短く書かれていた。
 故に、沢邑はその言葉を信じて、こうして会いに来た。
 そう、会いに来た。
 のだが……。
 …………。

「うう、竜馬さんー、どこですかー!」

 沢邑の懸命な叫び声は歓声にかき消された。
 国内全土で所構わず行われている番長バトル。番町バトルに馳せ参じたと、NW各地から番町達がやってきて、キノウツン側と管理機構側に分かれて戦っている。巻き込まれないように見ている観客も、髪の色は様々だ。

 と、突然地面がぐらりと揺れた。

「!?」

 沢邑はとっさに避けた。
 地面が割れたのだ。
 そして地面が割れた先にいたのは。

「……え? ……力石さん……って」

 力石は笑っていた。
 対峙しているのは、沢邑がずっと探していた相手、谷口であった。
 沢邑では見えない程の速さの拳が、谷口めがけて飛ぶ。
 それを谷口は手を広げて受け止めた。
 前はそれが見えずに敗北したが、今回はそうではない。

「ついてこれているなんてね」
「まだ半分だが」

 一瞬の沈黙。
 先に動いたのは力石であった。

 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ

 拳が飛んだ。その拳はもはや光の矢のようであり、拳の軌跡だけがかろうじて見える程度である。その軌跡、数えられない。

「!? 止めて下さい!」

 沢邑が走って谷口を庇うよりも早く、谷口もまた動いた。
 その時間は、わずか30秒の事であった。
 谷口は笑っていた。あの拳撃を避けきったのである。2・3発は喰らい、血を流していたが、それでも立っていた。
 そのまま身体を捻る。足を大きく振り、力石の脇腹目がけて蹴りを入れようとしたが、力石は少し身体を捻って避けた。

「倒れるまでの時間がながくなっただけのようで」
「どうかな」

 二人は睨み合っていた。
 喧騒の中にいて、二人の間の空気は冷たく、静寂が包んでいるかのように見えた。
 冷たいのは何もまだ4月上旬と言うだけではなかろう。
 沢邑は二人の間に割り込むかどうか迷った。
 彼女は知っている。谷口が、いかに再戦を望んでいたかと言う事を。いかに修行を重ねていたかと言う事を。
 二人は再び組み合った。
 谷口が身体を再度大きく捻る。それを避ける力石。

「……竜馬さんは負けませんよ! 絶対!」
「無駄です」

 沢邑は涙を溜めてそれを見守っていた。それを嘲笑うかのように、力石の手は谷口を狙っていた。
 力石の目に見えない程の圧力が谷口を貫いた。
 谷口の頬から血が迸り、それがびちゃりと沢邑に当たった。

「……竜馬さん……」

 沢邑は悲鳴を上げるのをこらえて、谷口を見つめた。
 谷口は振り返らない。再度力石に向かっていった。
 また、大きく足を振り上げる。
 力石は既に見切ったかのように、軽く避けた。

「無駄だと……」

 力石の言葉は冷たい。
 しかし、対する谷口は笑っていた。

「だって、修業して強くなったんですよ! 貴方に負ける訳ないじゃないですか!」

 沢邑はそう叫んだ後、谷口を目で追っていた。
 谷口は力石を拳を5発は浴びているはずなのに、致命傷は負っていないように見える。
 力石の拳に耐え切った谷口は、再度大きく足を振るった。それをまた避ける力石。
 そこで沢邑は気がついた。
 最初に二人が組み合った場所から、何度も谷口が足を振るい、力石がそれを避けを繰り返す内に、500mは移動していたのだ。

「……何か狙ってるんかな……」

 沢邑はそう漏らした瞬間、力石は反射的に距離を測った。
 谷口に対して警戒をしたらしい。

「作戦ですか」
「ああ」

 二人の間に青い火花が散っているように、沢邑には見えた。
 ふと、力石は沢邑の方を見る。
 力石はきちんとした礼をして見せた。
 え……?

「勝利の女神に」
「……は、はい」

 沢邑は思わず声を上ずらせて礼をし返した。
 力石はきびすを返すと、谷口に襲い掛かった。

 ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ

 相変わらず重い拳ではあるが、先程より技のキレが鈍っているように見える。
 もしかして、慎重が過ぎて加減をしているのかもしれない。
 しかし、拳の重さに負け、遂に谷口の膝は折れた。
 血がびちゃりびちゃり、と血溜まりを作る。

「竜馬さん!!」

 沢邑は堪えきれず、とうとう泣き出した。そして叫ぶ。

「立って下さい! 私、絶対に信じてます! 貴方が勝つ事を!」

 それを嘲笑うかのように、力石は消えた。
 またかっ!?
 沢邑は力石を探す。
 かつて谷口は、消えた力石の奇襲によって敗れている。
 谷口はもう、負けない。負けたくない。その事を誰よりも沢邑は理解していた。
 ふと谷口を見る。
 谷口は血で服を張り付かせ、なおも立ち上がった。
 足を、大きく振り上げた。
 消えたはずの力石が引っ掛かった。
 初めて、力石に蹴りが入った瞬間である。
 力石は受け身を取る間もなく、地に伏した。

「………」
「……やった……んですか?」
「まさか……」

 谷口と沢邑が見守る中、力石はよろよろと立ち上がった。
 息が上がっている。

「どうやって?」
「俺を狙ってる以上は、攻撃の範囲は限られる。あとは、勘だ」
「嘘かも知れない」
「本当かも知れない」

 力石は先程までの余裕が消えていた。
 谷口を睨み、一挙一動に探りを入れ始めた。
 谷口もまた同じ。
 二人は間合いを取ったまま、硬直していた。
 互いに探りを入れつつ、身体は次の一撃のために休ませている。
 谷口は懐からハンカチを取り出すと、やや固まり始めた血を拭い始めた。

「休ませていいのか?」

 谷口は血を拭いながら尋ねる。

「私も休んでいますよ」

 力石は笑っている。しかし、目はずっと谷口の挙動を追っている。
 そして沈黙が流れた。
 それは時間にすればわずかかもしれないが、互いの読み合いの末の冷戦で、場の空気はピリピリと痛い位に冷え切っていた。
 沢邑は思わずブルッと身体を震わせ、両腕を押さえた。
 その時だった。

 先に動いたのはどちらが先立ったのか。
 谷口はハンカチを離した。ハンカチは風になびいた。
 力石は消えた。
しかし。
次の瞬間、谷口の蹴りが力石を捕らえる。

「カウンター!」

 沢邑は手をぎゅっと握り締めて見守った。
 力石は吹っ飛んだ。
 起きるか? そう思い沢邑が見るが、力石が起きる気配はない。
 脳震盪でも起こしたのだろうか。彼は伸びて動かなかった。
 沢邑はそっと谷口の傍に寄った。谷口は黙っていたが、背中で息をしていた。

「目に見えないだけで、ハンカチは揺れている」
「なるほど。動いたら風は起こるって事ですか」
「最初のはまぐれ当たり。二回目は、ハンカチを自然に取り出せた次点で、もう、きまり」
「なるほど……勉強に、って技術が追いつかなさそうですけど」

 沢邑は谷口の隣に寄った。
 谷口は、ようやく沢邑の顔を見た。
 少しだけ口角を上げ、礼をした。

「この間は、すみませんでした」
「いえ、ちゃんと持ってきてますよ、約束のもの」

 沢邑はにっこりと笑い、包みを差し出した。
 チョコレートは、ようやく本来の持ち主の手に渡った。


<了>


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引渡し日:2009/06/17


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最終更新:2009年06月17日 23:02