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夜國涼華@海法よけ藩国さんからのご依頼品


 夜の闇が覆いつつある森林の中にある海法よけ藩国。その森のはずれを涼華は一人歩みを進めていた。
手にはバスケットと周囲を照らす携帯用の灯りのみではあるがどこか落ちつかない表情をしていた。

「晋太郎さん、いらっしゃいますか?」

 大きな、けれど眠りについた森の動物達を起こさない声で尋ねる。

「こんばんは」

 不意に聞こえた声のほうへ灯りを向けると、いつもの穏やかな表情で晋太郎は『いた』。涼華と目が合わさると微笑んだ。

「晋太郎さん!」

 さっきよりも大きな声を出した涼華に対し、晋太郎は一瞬心の中で首をひねる。それと同時に涼華は晋太郎に抱きついた。

「どうかした?」

 涼華を抱きとめながら晋太郎は尋ねた。

「ずっと逢いたくて、寂しかっただけですっ」

 そう答えながら涼華は抱きしめている手に少し力を入れる。今まで逢えなかった分を埋めるように。
その感触を受け入れながら晋太郎はどう声をかけるべきか数秒ほどだが悩んだ。

「よしよし」

 そう言って涼華の頭に手を載せて小さい子をあやすかのように優しくなで、小さく笑った。

「ずっと、森の付近にいらしたんですか?ネコリスさんたちのこととか何か解りましたか?」
「うん。でももう大丈夫だよ。人の過ちは人が返したしね」

 それを聞いて涼華は安堵の表情を浮かべた。

「ありがとうございます、良かった…」
「そうだね。本当に良かった」

 どちらからともなく心からの笑みを二人は浮かべていた。しばしの間そのまま抱きしめていたが、二人はそっと抱きしめていた手を離した。

「晋太郎さん、御夕飯は召し上がりましたか?」

 ここに来てようやく目的を思い出した涼華は晋太郎に尋ねる。

「ううん?」

 その返事を聞いて涼華はバスケット前に差し出す。

「サンドイッチを作ってきたのですが、召し上がりませんか?紅茶もあります」
「うん、食べようか」

 そう言って晋太郎は涼華の頭をちょっとだけなで、歩き出した。

「晋太郎さん、森から離れて食事にします?付近に腰を下ろせる場所が在ればいいのですが…」

 後から追いかける涼華が晋太郎に尋ねる。確かに今いるところは街からも離れており、こういう場所ではのんびりとくつろげそうにもない。

「そうだね」

 ほどなく歩みを止めた晋太郎は意識を集中して魔力を練り上げ、それを地面へ向けて放った。すると一つのテーブルと対になった椅子が生えていく。

「これでどう?灯りはいるかい?」

 涼華の持っている携帯用の灯りを見ながら晋太郎は尋ねる。さすがに涼華の持っている携帯用では明るさが大きすぎる。しかもこういう場所で歩く以外は不向きである。

「うわぁ!淡い明かりは欲しいです」

 それを聞いて晋太郎は再び魔力を練り、弱い光の珠を作り出す。涼華のリクエスト通り魔力で作られた光の珠の灯りは淡く、それでいて幻想的に輝いている。

「ありがとうございます」

 テーブルに置いたバスケットの中に入っていたサンドイッチを晋太郎に差し出しながら涼華は思いっきり頬が緩んでいく。

「どうかした?」
「えへへ、これで晋太郎さんのお顔もしっかり見れます」
「顔?」

 サンドイッチを食べながら晋太郎は尋ねた。

「はい。好きな人のお顔見ながら一緒に入れるのは嬉しいです」
「そうか。じゃあ、僕も嬉しいな」
「あ、あ、ありがとうございますっ!」

 そう言われて嬉しさと晋太郎の笑顔にやられ真っ赤になる。
そんな涼華もどこか可愛いかなと晋太郎は心の中でつぶやくことにした。今の状態でこの有様だとすると、それを言ったら間違いなく倒れるだろう。

「ええっと、今夜は蒸し暑いので、紅茶、少し熱いかもしれませんが…」

 そう断ってから晋太郎に準備してきた紅茶を差し出す。ありがとう、と答えて一口紅茶に口を付ける。
確かに今日は蒸し暑い。しかし、急に体を冷やすよりかはましなように晋太郎は感じられた。
それと同時に心地良い風が吹き始める。それが良い具合に紅茶の温度が幾分か和らいだようにも感じた。

「いつも、こうやって晋太郎さんのおそばにいたいのです…」
「そうだね」
「…一緒にいてくださいましね。側にいれるよう、努力いたしますから」
「はい」

 いつものように微笑んだ晋太郎の顔を見て、涼華ははにかみながらも頬が緩んでいる。というか、二人の光景は良い絵になっているようにも思える。

「あ、そだ。お手紙も書いてきたのです!」

 晋太郎の顔を見て安心しきって忘れていたのを思い出し、落さないようバスケットに入れておいた手紙を晋太郎に差し出す。元々晋太郎は留学中で、涼華が晋太郎の留学先の学校まで足を運んでいた。
晋太郎の留学先は結構厳しいらしく、こういった手紙はなかなか届きづらい。
その上、涼華自身が訪れる際はばれないよう男装して入るほど女性立ち入り禁止なのである。
今晋太郎がいるのは藩王の書状と一緒に涼華の手紙を送ったことでかなったことでもあった。
 晋太郎はその手紙をいつもの笑顔で受け取った。

「今度、返事をだすよ。新聞か何かで」
「ありがとうございます!楽しみにしていますです!」

 ここで普通の人ならそこまでされると普通に恥ずかしすぎて死んでしまうのだが、涼華は晋太郎が返事をくれるということでもう軽い興奮状態で言葉遣いも微妙におかしくなっている。
手紙を見る為に光の強さを調節し、目線を手紙に落していた晋太郎はそれに気づいていながら読み終わるまで黙っておくことにした。
涼華自身も手紙を読んでいる晋太郎を待ちながら紅茶を飲んで心を落ち着かせる。
その時、涼華は今度逢えるならどういう場所がいいだろうかと考える。
そして行きたい場所がおぼろげながら決まってきた頃、晋太郎は手紙をしまい、今日何度も見せた笑顔で涼華を見る。それに気づいた涼華も照れながら微笑み返す。
そして、偶然にも晋太郎と涼華が同時に言葉を発した。

「今度、宰相府の秋の園にいこうね」
「今度、宰相府の秋の園に行きたいです」

 二人が同じ事を発した為、涼華は照れながらもびっくりし、晋太郎は魔法を使っていないと言わんばかりに笑っている。そして、どちらともなく微笑んだ。

「紅茶。おかわりあるかな」

 ちょうど良い具合に冷めた紅茶を飲み干し、涼華に尋ねる。すぐに涼華はポットからおかわりの紅茶を注ぎ、晋太郎へ渡す。
自分の分を注いでいる間、晋太郎は先ほどとは違い、紅茶の香りを愉しんでいる。
それを見て涼華も晋太郎のまねをしてみる。今日はうまくいったかなとちょっと思った。
 しっかり紅茶を愉しんだ頃、涼華はもうひとつ気になっていたことを尋ねた。

「晋太郎さん、学校はいつご卒業なんですか?」

「2年先かな」
「じゃあ、あたしも2年、頑張って男装しますっ」

 コップを持っていない手をぐっと握りガッツポーズして見せた涼華を見て晋太郎は苦笑している。

「だって、少しでも近いところにいたいんですもの…」

 そういって涼華は少しシュンと気持ちが沈む。

「2年も隠せはしないかな。ははは」

 そう答えた晋太郎を見て涼華は、えー、と言いながらふくれっつらになる。

「むむむ、2年も離れ離れなんて、堪えられるかしら…むー」

 ぶつぶつつぶやきながら涼華は紅茶に口をつける。それを見ながら晋太郎は失礼にならないように小さく笑った。
彼女のことだから会いに行こうとする時はまた男装して留学先のほうへやってくるだろう。
それで自分が彼女の気が済むまでおしゃべりに付き合い、一緒にいるときを大事にすることを全て見越したかのように晋太郎は涼華をみた。
そして、彼女の思考が戻ってくるまで微笑みながら紅茶を愉しむことにした。


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最終更新:2009年06月21日 21:31