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矢上麗華@土場藩国さんからのご依頼品


/*伝達温度*/

 爽一郎はいつもの通り、あれこれ考えていた。
 言ってしまうと、大抵の場合恋愛ごとにおける恋人同士のように、彼は麗華の事を考えていた。それが高じて、彼女の心が病んだりしないように、国の有事に手を貸したり、いろいろやったりして、できるだけこころ安らかな環境になるように尽力してきた。まあ……逆にその時の危険性がたたってむしろ心配されてしまったらしいが。
 今は、ずいぶん楽になった。これまで散々あれこれやってきたせいでずいぶん資産がたまったし、おかげで、普通に暮らしている分には仕事をしなくても生きていけるくらいである。

 ―――さて、では。

「前から、時々聞いていたし……」

 ささやかながら。ちょっとした希望を、かなえてこよう。

+++

 広々とした屋敷の中。片隅に置かれたソファに、二人は並んで座っている。麗華はにこにこ……というよりは、そっと笑みを浮かべたような表情で、わずかに爽一郎にもたれかかっている。
 話題は結婚に関して。この間、藩王の結婚式を見て……と、麗華が勢いよく話している。言葉の端々から羨ましそうな様子がうかがえた。
 そして、終わりに。
「……時間取れないときは結婚指輪だけでも欲しいな」
 そう言って、上目使いに爽一郎を見る。
 ……キスもしてみる。
 もう一度ちょっと離れて、じっと見てみた。
 ねだるのが下手なのか、うまいのか。爽一郎は内心で苦笑した。まあ。惚れた自分が弱いのかもしれない。
 などと、思いつつ。ポケットから指輪を取り出した。
 目を丸くする麗華。
「これでいいか?」
 地味だが飽きの来ないプラチナリング。じっと、それに視線を注いだまま麗華は固まっている。
「式も用意してる」
 この間、結婚しているかどうかについてちょっと話した時……も、感じたことだが。彼女は、そういった事を大事にしているらしい。
 もうすっかり結婚した気になっていた爽一郎は、これからまた結婚式というのも恥ずかしい……というより、不思議な気がしないでもない。
 だが、これで喜んでくれるのなら……それは意味があることだろう、と、
「え」
 慌てた。
 麗華が、ぽろぽろと泣き出したのだ。
「ありがとう……すごく嬉しい……」
 ……。
 えー。
 と、思わずつぶやいてしまった。
 なんというか。ここまで感動されるとはびっくりである。
 ……前から欲しいと言っていたし。喜んでもらえるだろう、と思ったくらい、だったのだ、が……。
「うん?」
「いや。そこまで喜ばないでもと思っただけだ」
 言いながら爽一郎は反省した。……感覚の違いとは恐ろしい。まさか。ここまで大事に思っていたとは。
「悪かった。すまん」
 今後は、もう少し気をつけて彼女の言葉に耳を傾けよう……と、思った。

+++

 夕方になった。二人は屋敷から外に出て、そのままハイマイルのレストランに向かった。麗華は少し緊張したようだったが、まあ、なんというか。爽一郎としては、ちょっとした罪滅ぼし……という目的もあった。
 レストランの一階。BGMもなく、静かな店内は恐ろしく高級な雰囲気だ。やや薄暗く、窓辺の席からは赤い海。が伺える。そのうち日が暮れると、街の光できらきらと反射して真珠をばらまいたみたいな景色に移り変わるだろう。
 食事はフレンチのコースで、値段……は、麗華は聞いてこなかった。怖くて聞いてこなかったのか、それともすっかり料理に夢中になっているのかはわからない。
 爽一郎は食事の手を休めて彼女を見た。場所に合わせて着替えをしている。今は、シンプルなカクテルドレス。……そういえば、こういう姿を見るのは珍しいな、と思う。
 ウエディングドレスを見せたいと言っていたが。少し、楽しみになってくる。
 と、彼女がこちらを向いた。珍しく、にこっと笑う。
「美味しいね」
「そうだな」
 小さく笑い、爽一郎も前菜を口にして、もう一度彼女を見る。
「似合ってる」
「え……? あ、う、うん。……嬉しい」
 ジェミニ越しに、すごく喜んでいるのが伝わってくる。爽一郎は笑った。
「爽一郎さんも、スーツ、似合ってる」
「……ありがとう」
 わずかに頷いて、爽一郎は少し考える。
 結婚したい。指輪が欲しい。愛されているという証が欲しかった。
 難しいな、と思う。愛している……のは、確実なのだが。思っているだけでは、伝えるのは難しい。かといって、行動をしても……どうも、なかなか伝わらない。
 けれど、こうやって食事に連れて行ったり……結婚の約束をしたり。指輪を買ったり。
 そんな。自分にとっては些細なことが、彼女にとっては大事であったりもする。
 どうやって、伝えるのか、とか。
 どうすれば、伝わるのか、とか。
 ……思えば。そんなことすら意識していなかったのだろうかと、爽一郎は苦笑する。
「爽一郎さん」
「うん?」
「……愛してる」
「ああ。俺も、愛してる」
 それでも。伝わったと思う事もある。
 もっと、いろいろ伝えないと、と。
 そう思いながら、笑って見せた。


作品への一言コメント

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  • いつも素敵なSS本当にありがとうございます。今回もすごく楽しく拝読させていただきました。爽一郎さん視点のSSが新鮮でした!麗華さん、お料理の値段は料理に夢中でなく、値段を聞くのは無粋だと思ったから聞かなかったんだと思います(笑) -- 矢上麗華@土場藩国 (2009-06-26 00:55:53)
  • いつもご依頼ありがとうございます。甘さ控えめ(?)にお送りさせていただきました。 -- 黒霧 (2009-07-09 22:11:51)
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引渡し日:2009/06/25


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最終更新:2009年07月09日 22:11