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小笠原を一台の自転車が駆け抜ける。
運転する……というか、漕いでいるのは珍しくよれよれでない青森。
その腰ににしっかり捕まってはうあーと赤面しているのがりんくである。
船で島を一周した後どこに行くかと言うことになって、今は港と反対側の森へ移動中だ。
しかしそこは中年の癖に戦争屋な青森である。
たかだか自転車、されど自転車。と言わんばかりに全力疾走している。
時速40キロは出てるんじゃないだろうか。
対向車がいないからもう飛ばしたい放題といった感じだ。

「大丈夫かー?」
「は、はい!青森さんにしっかりつかまってますから!」

青森の問にぎゅーっとしながら答えるりんく。
声が大きいのは風で聞こえないからである。
ぎゅーっとしているりんくは船を降りてからこっちぐるぐる(いい意味で)しっぱなしだ。
青森さんの背中って広いー逞しいー気持ちいいーはうあー(最初に戻る)と何度も繰り返している。
さっき船でもっと恥ずかしいことをしてたということは、もはや頭から消えている。

一方の青森。
恥ずかしいことを他人に見られたと言う事実を消し去りたいかのように一心不乱に漕いでいる。
いや、今まで何度か恥ずかしいことはあった。
訓練で対戦車ミサイルを撃とうとしたらぽろっとこぼれたりとか。
手榴弾を投げたらピンを抜いてなかったとか。
ひげ剃ろうとしてナイフを使って大出血したりとか。
そういうのならまだ笑い話で済む。いや今回も済むが、女の子と抱き合っているところを見られるとは!
初めての経験ではないが、中年と言う年柄どうしても気にしてしまうのである。

ということで無言の二人。
しばらくそのまま走り続けること10分。
少し不思議なこのドライブ(?)が終わりを告げたのは、山の陰から出たときのことであった。

「お」

青森が目の前に手をかざした。自転車も止まった。
その陰になって見えないりんく。頭に?を浮かべつつ、顔を出してみる

「うわっ!」

りんくも青森と同じように手をかざす。
今まで山に隠れていた太陽が二人に降り注いだのだ。
と、同時に小波が太陽を反射し、目の前の海が輝く。
少し離れたところに島があるため、その砂浜近くの水面がエメラルドブルーに見えた。

「キレイ……」

りんくの口から純粋な感想が漏れる。
わざわざ自転車を止めるということは青森も同じ感想なのだろう。
海は何度か見たが、まぁ色々あったからあまりじっくりと見れなかった。
それだけに、この情景が美しく感じたのだ。

ふと、何を思ったか青森がりんくのほうを見た。
しかしりんくは輝く波を見るのに夢中でそれには気付かない。
少しだけ笑う青森。声をかけた。

「嬢ちゃん」
「は、はイ?!」

いきなり呼ばれたからか、りんくの声は裏返っていた。
視線を海から青森に移すりんく。
そこには笑顔の青森があった。
笑顔の理由が分からないりんく。聞いてみることにした。

「な、なんですか?」
「キレイなもんだな」
「へ?」

えーと、キレイって感想だよね。
感想ってことはきれいなもんを見たって事で、
ええと、それはこの場合海だよね。海だ海のはずだ海であってー

油断しているところに不意打ちをかけられて、りんくの脳細胞は面白いように暴走した。
顔にまで出たその反応を見て、にやにやと笑う中年親父。
にやにやしたままりんくの頭にぽんと手を置いた。

「綺麗だろう?海」

その一言で、りんくは気付いた。
からかわれた!
青森の笑顔の理由がやっと分かったのだ。
全ては青森がああ、まだまだ子どもだなぁ、俺が焦る必要はないじゃないかと確認するための一言である。
あまりひねくれてない分たちが悪い。
気付いてしまうと無性に腹が立ってくるというものだ。
りんくも例外ではなく半泣きになりながら猛抗議である。

「あ、青森さん!怒りますよ!」
「ははっ、お前が勘違いしたのが悪い。さ、そろそろ行くぞー」
「あ、待ってくださいー!」

抗議の甲斐なくあっさり流され、結局またしがみつくことになってしまった。
青森さんのいじわるーと膨れるりんく。
でもその背中にしがみつけるというだけで、大概のことは許せちゃうんだよなぁと、
海に反射した光に照らされながらりんくは思った。


ひねくれた中年とぐるぐる少女のドライブが終わるのは、この10分後のことであった。


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最終更新:2007年09月26日 14:57