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雷羅来@よんた藩国様からのご依頼品


メロスは再び黒い風のように走り出しました。
友を死なせるわけにはいかないという思いで、ただただ走り続けました。
最後の力を振り絞って走り続けました。

太宰治「走れメロス」より



「うあ、さすが大都会…」
 超近代文明とも呼べるFEGの街並みを、高台より眺めながら来は呟いた。

 つぅ、と額から首筋へかけてと汗が流れる。シャツに汗が染み斑模様が浮き出ている。北国在住の来にこの国の気候は少々暑すぎた。そのうえ全力疾走して来たのだからその汗はなお更である。

 行方不明のわん太の情報が護民官事務所よりもたらされたのはつい先日。

 詳細は護民官本部でないと分からない。と聞くや否やほとんど着の身着のままに、休暇申請だけを済ませ国を飛び出してきている。

 だから景勝地と名高く観光客でにぎわう美しい町並みを見て一言呟き、迷うことなく背を向け、来は護民官事務所本部へと再び走りだした。



 雷羅 来。走る男である。

 元来、帝國軍、法官、国内事業とせわしなく働いているモーレツ男であったが、わん太との出会い以降、走る男となった。

 ありていにいえば、わん太に会うマイルを貯める為に法官、帝國軍と仕事を掛け持ちしだした。
それに加え会えない時はせっせと手紙をしたため、NWでわん太とそれに関連する情報を逐一チェックしている。

 会ったら会ったで、逃げるわん太を追跡者の特性を活かしまくり走って追いかけている。

 走る方向を間違えたと嘆くこともあったが、それでも走ることを辞めない男。それが雷羅 来である。
すべては全く世の理にかなっていなかったが、だからどうした。と彼は笑って走った。



 舞台はFEGへと戻る。

 やはり来は走っていた。待ち合わせた友人、否。まるで想い焦がれた恋人との約束に遅れた男のように。

 頬にあたる乾いた風が汗を乾かし心地よい。目に映る景色の輪郭が曖昧になり風に溶け始める。耳に届く音はタッタッタッと鳴る自分の足音と呼吸の音のみになる。
疾走の世界に身をゆだね、来は目的地へと急いだ。


/ * /



「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
 護民官事務所受付。里親候補の列の中に来の姿があった。

「わん太の、いえ。よんた藩国登録ACE『わん太』がこちらの病院へ収容されていると聞きまして」

「少々お待ちくださいね」そう言いながら、空中のタッチパネルを叩く受付の女性。

「わん太様。あぁ、彼の場合15番病院ですね。それでしたら…こちらになります」
そういって、来の持参した市街地地図に赤いマーカーで印を付けた。

「ありがと。この距離ならすぐだ」そう言って地図を片手に走り出した。

「廊下は走らないでくださーぃ」という声だけが、の背中に追いつくことが出来た。


/ * /


 教えられた場所には、巨大なドッグがあった。入場ゲートには「15番病院」と文字が浮き上がっている。内部では整備服を着て工具箱を抱えた作業員たちが忙しそうに走り回り、パンが焼きあがるような速さで100m級のサイボーグが続々と完成していた。

「・・・えーっと。この国ではきっとあたりまえなんだろう。うんそうだ。」
 当たり前の様に目の前に実現している超近代文明に無理やり納得する来。
ひとまずはわん太を探すことが先決だと思った。


「こんにちはー。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
 ドッグ内で工具箱を抱えた青年に尋ねる来。来の主観で建物らしい建物はここしかなかった。

「はい。改造ですか?」軍手を外しながら爽やかに笑って答える青年。

「あ、いえ。人を探してまして」

「人・・・ですか。はい」不思議そうに、来を見る。

「以前、護民官さんから紹介を受けてわん太という少年がこちらでお世話になったと思うのですが、何かご存じありませんか?ええと」

「ああ。あの酷く損傷した」肉球をポムと合せて言う青年。

「ご存知なら話が早い。彼を訪ねてきたのですが、今どこにいるかわかりませんでしょうか?」

「政府の助成プログラムにそって200年ローンで新型になりましたよ。心配しないでも。今度は足8本ありますし。1、2本こわれても問題なし!」満面の笑みで答える。

 余りに予想とかけ離れた回答に呆けたような表情の来を見て、青年は笑顔のまま不思議そうに来を見た。8本じゃ足りなかったのかな?という表情をしている。

「え。あ、すみません。文化の違いにぶつかっておりました・・・えと、それで彼の居場所はご存じでしょうか?」

「ええ。あそこです」 ドッグの奥を指差しながら言う青年。

「ありがとうございます」礼を言ってそちらに向かう来の頭上を、何かが通り過ぎた。

 素早くて大きい黒い影。8つの光点が光ったかと思うと、不気味なほどの静けさで闇に溶けた。

「・・・おーい!」出来る限りの大声を暗闇に張り上げる来。

*1

 ぞっとする様な静けさで背後から蜘蛛が降りてきた。 大きさは10メートルほどだろうか。チカチカと目を光らせている。

 確信があったわけではない。だが、直感的に『それ』がわん太ではないかと、来は思った。ひとまず声を掛ける。
「えーっと・・・わん太・・・?」

 蜘蛛は複眼をくるくると動かすと、音もなく反転。奥へと飛んでいった。

「えと、今のがわん太だったんでしょうか…?」

「ええ。中々格好いいでしょう。新型の戦闘体です、蜘蛛をモデルに局地戦にも対応した多脚型で、マイクロ・ミサイルと20ミリ機関砲を標準装備してます。複眼を使用しての多重ロック・オン機能と三次元認識。イントラネットを介しての情報共有も可能で、っと余り喋ると機密事項に抵触するんですが、まあ、ウチでも期待の星ですよ」

「いやまぁ、かっこいいと言えばそうなんですが」苦笑する来。

「ついでなのでお聞きしたいのですが、人に戻ることとかって出来るんでしょうか?」
 一転、真剣な表情で尋ねる。

「まさか」職員は変な顔をした。「血をぶどう酒にできますか?」と聞かれたような顔だ。

「あー、ですよねー」苦笑交じりにらいは答える。内心は酷く混乱していたが、今はわん太を追いかけることが先決だと心が告げていた。

「すみません、ありがとうございましたっ!」
 そういって、蜘蛛型の。わん太の消えたほうへと走った。


/ * /


 奥へ進むこと数百メートル。マネキン工場のようなところにたどり着いた。

「ような」というのは吊り下げられたそれらが、全て人型で生体部品を使用しているように見えたからである。周囲はすべて、吊り下げられた「彼ら」で埋め尽くされていた。

 暗闇に目を凝らし、周囲を観察する来。壁際に光る8つの光点が浮かび上がる。先ほどの蜘蛛型のわん太だ。時折目を光らせるだけで動いてはいない。静かにうずくまっている。


「よ。会いに来たよ。」ゆっくりと近づきながら来は言った。
 まるで「よっ、おはよ」とでも言うように。

 10秒待った。

 返事は、無い。

 吊り下げられたわん太は見知った人の形をしていたが、生身ではないのだろう。
 その証拠とでも言うように、失くしたはずの腕がふらふらと不規則に揺れている。

「んー、すまん。状況が読みこめてないんだ。今のお前は機械の体の方にいるのか?」
 優しく、いつものように話しかける来。

 蜘蛛はチカチカ光っている。 天井のわん太に反応は無い。

「YESでいいのかな? はい、なら一回。いいえ、なら二回点滅とかできる?」

 チカっと巨大な目が一回光った。

「よし。これで簡単なコミュニケーションは問題ないな。」頷きながら言う来。


 来は直立し頭を垂れた。
「先ずは、いろいろと遅くなって、すまん。」

  顔を上げる。
「聞かせてほしいんだ。上に吊るされているのはいつかお前が使うための体なのかな?」

 チカチカと2回光った直後。後ろのわん太が目を開いた。暗闇に浮かんだその瞳は蜘蛛型の瞳と同じ光を放っている。

「へ?」 間の抜けた声をもらす来。

「切り替えはシームレスに出来る」
「問題ない」
 対して、わん太は抑揚のない機械的な声で淡々と答える。

「・・・切り替えとはどういう意味だい?それは、入れ替わる、という意味なのか?」
 言葉を慎重に選び、尋ねる来。

「正確には、同時に12までの子機運用が出来る。ヘルプファイルを閲覧する場合は12番を選択してください」 耳慣れたわん太の声であるはずなのに、その声はやはり条文を読み上げるように淡々としていた。

 来は思わず蜘蛛型のわん太に目を向ける。
チカチカ光る信号だけが、それが紛れも無くわん太であると 告げていた。

「つまり、ここに吊るされてるわん太と、蜘蛛型のわん太と、両方同時に動かせて、どっちもお前ってことでいいのかな?」


 チカチカと2度光る。答えはNO。


「じゃあ、僕の知ってるお前はここにいるのでいいんだな?」蜘蛛型のわん太に問いかける。

「我々はネットワークで繋がっていて、区別がない。言語データベースは別のものを使っているが、総体はほぼわん太である」人型のわん太が答える。

「何か難しいな、もっと簡単に言ってくれ。」笑いながら言う来。

「問題ない」 一言だけを返すわん太。

「そっか。お前がいるなら僕は気にしない」
うむ。と頷きながら言う来。その口調は軽かった。

 予想外の回答だったのか。しばらくの沈黙の後、わん太は告げた。
「帰れ。我々はFEGである。ここは『帝國の民』が来るところではない」
蜘蛛型のわん太の複眼がその言葉に賛同するようにチカチカと光っている。


「そう来るか。それで簡単にあきらめると?」 笑いながら言う来。『帝國の民』と自分を呼んだことに奇妙な喜びさえ覚えた。

 そう。わん太の論理展開は明らかに飛躍した。こいつは知性を失った兵器じゃない。 姿、形、国籍が変わっても、やはり、わん太だ。俺の知る優しいともだちだ。


 わん太は黙った。沈黙ではなく元の永い眠りに戻ったようだった。


「排除するか?今のお前なら簡単だろう」 意図的に顔を歪めて言う来。
蜘蛛型のわん太は答える代わりに、来をアームで捕まえ、外に連れ出した。

「まったく便利な体になったもんだ」蜘蛛型の顔を見据えて苦笑交じりに言う。
「また、来るから。いくら拒まれても。」 地上5メートルで揺れながら話しかける。

 蜘蛛型は、来をそっとゲートに下ろすと、全ての複眼が沈黙のまま来を見つめた。


「FEGにじゃない。お前のいるところに。走っていくから。」


 雷羅 来。走る男である。

 わん太を目に焼き付け、すこしだけ空を仰ぎ見たあと、再び黒い風のように走り出した。

 蜘蛛型わん太は複眼をチカチカ光らせながら、来の背中が見えなくなるまで、ただ静かに見守っていた。

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文責:槙 昌福@よんた藩国


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引渡し日:2009/06/29


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最終更新:2009年06月29日 01:12

*1 ――――ィン