※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

うにょ@海法よけ藩国様からのご依頼品


/*奧にあるもの*/

 ペンライトの光は途中で切れて、息切れしたランナのように闇に消えている。
 深さが分からないほど黒い闇。息を吐けば、その音すらどこまで残響してしまう。このあたりはとても静かで……とても広い。けれど明かりに照らされているのはほんのわずかな部分で、すぐ横は真っ暗だ。
 亜細亜は右を見る。
 ふいに、闇の先に何があるか確かめたくなった。
 闇のすぐ先には壁があるような気がする。無いような気もする。もしかしたら何か別の者があるかもしれない。
 わからないというのは、不安でもあり、期待でもある。
 胸が高鳴る。それは不安だろうか。期待だろうか。亜細亜は小首を傾げた。
 ペンライトを照らせばすぐに答えが得られるだろう。けれど亜細亜は、なんとなく手を伸ばしてみたくなった。理由はない。けれど、そうしてみたくなったのだ。
 闇の中に、そっ……と手を伸ばした。
「、っと」
 空を掻く。バランスを崩しかけた亜細亜は、慌てて足を踏み出した。ペンライトで横を照らす。五メートル先に土の壁があった。亜細亜は照れ隠しをするように顔を振る。日差しの下で見れば、顔がぽっと赤くなっていたのが見えただろう。
 しかしここは迷宮の中。日差しの届かぬ土地である。


 わん、と声が響いた。
 亜細亜は声の方へと歩き出す。ペンライトで足下を照らし、でこぼこしている道を歩いて行く。靴はざりざりと音を立て、洞窟の中に反響する。亜細亜はわざと歩調を変えて、リズムを作った。それにあわせてわずかに鼓動が早くなる。
 しばらくすると、大きな犬と遭遇した。ヘルメットをかぶったじょり丸である。じょり丸は亜細亜の足下にやってくると、膝にすりすりしてきた。亜細亜はしゃがみ込みわしわしとなでてやる。じょり丸はお座りの姿勢。
 ひとしきりなでてもらった後、じょり丸は闇の方に振り返った。もう一度わんとなく。
 しばらくすると、道の向こうからライトの黄色い光が見えた。光は細長いパイプのように伸びていて、闇と光の境界で埃のようなものがちらちらと躍っていた。
 やがて、うにょがやってきた。彼は手を振って近づいてくる。
「亜細亜ちゃ~ん! じょり丸さま~」
 その後ろにいたみらのは、一瞬こっちを見る。そしてさっさと背中を向けて歩いて行った。うにょがすぐに気づき、消えた方へとお礼を言う。亜細亜はゆっくりとうにょに近づいていった。
「こんにちは」
「おはよう、亜細亜ちゃん」
「こんにちは……って2回言っちゃった」
 苦笑していると、うにょは少し照れたみたいに笑った。なんで向こうが照れるんだろう。
「ふふ、えーと会いに来ちゃいました」
「コメント難しいですね」
 言って、亜細亜はうにょの向こうを見る。うにょも振り返った。みらのの消えた方だ。
「みらの、どう……でした?」
 ……どう聞けばいいんだろう。こんな質問じゃ答えるの難しいし、と言った後で考えてしまう。案の定うにょはよく分かっていないようで、首を傾げた。
「どうって? ……道案内してもらってちょっと話しした位かな?」
「それならいいんですけど」
 それはそうですよね、と思って、苦笑した。自分だってそう聞かれたら、うん、困る。
「とりあえず、亜細亜ちゃんのがここに詳しいと思うし、お勧めの場所とか、まだ行ってない場所とかうろうろしてみる? それでお散歩の達人が生えるといいしね」
 亜細亜は少し考えた。ちょっと押しつけがましい気もするけど、気を遣ってくれた……のかな?
「……じゃあ、お散歩しましょう」
 考えている時間が間になってしまった。誤魔化すように亜細亜は歩き出した。うにょもついてくる。
「最近はじょり丸さまと迷宮の中を見て回ってるの?」
「はい。がんばって……ね?」
 じょり丸は元気よくないた。うにょが笑って眼を細めた。
「羨ましいなーじょり丸さまは」
 そんなことない、と言いかけて口ごもる。亜細亜は沈黙して、言葉を選んだ。
「今度、お外を一緒、歩いてあげてくださいね」
「その時は、亜細亜ちゃんも一緒に、ね?」
「それは無理ですよ」亜細亜は首を振った。「……襲われちゃう」
 元々、迷宮に入る事になったのも自分の身を守るためである。それが歯がゆく思っていたのは、最初の頃。今では、それにつきあわせてしまっている事が申し訳ない、と思う。じょり丸にしてもそう。きっと、日差しの下を散歩した方がずっと楽しいだろうから。
 勿論、迷惑をかけているだなんて言ったら、藩国のみんなは首を振って否定するだろう。それは誰でもそう。今もうにょだってどうにかすると口にして、励まそうとしている。
 けれど、そういう問題ではない。
 結局のところ、これは自分の気持ちの問題なのだ。
 ……ああ、それでも。
「でも、亜細亜ちゃんと一緒に外を歩けるように、なんとかしたいと思う」
 そう言ってくれるのは、嬉しかった。亜細亜は少しだけ笑った。うにょを見る。
「……ありがとうございます。少し、元気になりました」
 うにょは視線を揺らした。あっちこっちを見ながら顔を真っ赤にする。……こんなに暗いのに、彼の顔が真っ赤になるのは簡単にわかってしまった。亜細亜は思わず笑ってしまった。


 しばらくすると、最初にいた大空洞に出た。
 恐ろしく広く、深い闇。ライトでは奧まで照らすこともできないくらいで、光は、途中で溶けるように闇に消えている。
「おおー」
 うにょの喚声が上がった。びっくりして亜細亜は隣を見る。彼は目を大きく開いてあちこちを見ている。
 喚声が消えるよりも早く、彼はまた声を上げた。いんいんと木霊する。
「すごいね、こんな場所があるんだ」
「はい……」亜細亜はちょっとびっくりしながら答えた。「結構、あるんですよ。迷宮造営のときの、基地です。今は使われてないですけど」
 そう言って亜細亜は遠くを見る。
 いくつもの考えが浮かんでは消える。造営の時に集まっていた人。反響する声。闇の静けさなんて嘘っぱちなくらいにぎやかだった時。
 考えはまとまらなかった。
「向こうには何があるの?」
「え?」突然聞かれて亜細亜は意識を現実に向けた。「ええと、なんだったかな……」
 そういえば。何があったっけ。……確か、危険なものは無かったと思うけど。
「案外、すぐ行き止まりだったりして」
 うにょは楽しそうに言う。
 亜細亜は闇を見た。
 ……ライトで照らした先は、闇に消えて、見えない。
「何があるんでしょうね……忘れちゃった」
「じゃあ。何があるといい?」
「え?」
 ――それは、唐突に亜細亜の頭の中をぱっと照らした。
 誰だって、何かがあるといいなと思うから先に行こうとする。
 じょり丸も、何かを期待してここに来たのだろう。
 時々会いに来る藩国の人も。
 今こうしてここに来ているうにょも、そう。
 亜細亜は考える。――何があるといいだろう。
 何か、あるだろうか。
 あるかもしれない。あったら嬉しい。例えば、うにょとの会話で、たまたま少し元気が出たみたいに。
「行ってみましょうか」
 亜細亜は一歩踏み出した。あわせて、うにょが一歩出る。じょり丸も二人に続いた。
 足音が空洞に反響する。
 光の点は徐々に奧に。
 ゆっくりと。それは、向こうへと消えていく。
「何があるかな」
「何があるんでしょうね」
 そんな声だけを、後ろに残して。


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
  • 素敵なSSをありがとうございますosz こう携帯に保存してごろごろと悶えてます! -- うにょ@海法よけ藩国 (2009-08-28 23:13:27)
名前:
コメント:




引渡し日:


counter: -
yesterday: -
最終更新:2009年08月28日 23:13