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NO.59 沢邑勝海さんからの依頼

「先日は、本当にありがとうございました…」



沢邑はそういいながら清子さんの車体を、無礼にならない程度に撫でた。清子さんの車体は過日の折りにぴかぴかに磨き上げられていたはずだったが、既に泥と、埃と、硝煙の匂いにまみれていた。きゅ、きゅ、とその車体を服の袖でぬぐってやる。隠しきれない傷や金属疲労もあったが、それは逆に、こうして磨かれることで、彼女の歴戦を彩る勲章のように、誇らしげに鈍い輝きを放っていた。



「どうです、花嫁には負けたでしょうがべっぴんさんでしょう、うちの清子さんは」



振り返ると後ろには、戦車小隊トリオの一人、加納が片手に皿を、もう片方の手には脂の滴る、ぱりっと焼かれた皮もうまそうなローストチキンを持って、もしゃもしゃとほおばりながら立っていた。加納は、清子さんのそんな姿をこそ誇りにしているような顔つきだったので、沢邑はそっと拭くのをやめて、頷いた。



「礼砲も感動しました。ああ、遅れちゃいましたけど、先日はキノウツンまではるばるお越しいただいてありがとうございました」
「こっちこそ、招待してくれてありがとう。おかげで清子さんも、戦争以外のことが出来て喜んでいた」



ぺこりとお辞儀をした沢邑に答えたのは加納ではなかった。やはりこれも、しこたまうまそうな匂いを迸らせている、きつね色にこんがり揚がった春巻きを箸でつまんで食べている。ぱりり、としっかり火の通った歯応えある音が、料理の出来を示していた。



「うん、やはり、うまい。料理だけは国産でなくともよいものだ」
「そういう時は料理人が国産だからというもんだ、三輪…キノウツンの料理人は、いい腕だ。今日、たまたま寄れて、食べれてよかった。あの日の噂を聞いて、うらやましく思っていたんだ」



続いて現れたのは隊長である小太刀だった。皿によそった炒飯の丸い山の減り具合と置かれた蓮華についた油具合が、たらふく彼の胃に米を押し込んだ後であることを物語っている。ころんと上に転がった、葱の切れ端が微笑ましい。



それを見ながら沢邑は笑った。今日はなんだか三人ともすごい食べているなあ。たまの休暇なら、こういうものかな。



「三輪さんも、小太刀さんも…ありがとうございます。ゆっくりしていってくださいね」
「戦場が、待っている。ゆっくりはできないのがつらいところですよ」



小太刀が言う。



「挨拶だけでも済ませられてよかった。私たちはこれで戻ります」
「はい。でも、こんなに沢山の人に祝ってもらえて、高原さんも幸せ者です! それに、アララさんも…小太刀さんたちも、お気をつけて。いってらっしゃい」
「はい…おい、行くぞ」



声をかけられ、もそもそと食事という名の補給を終えると、三輪と加納は小太刀と共に清子さんへ乗り込み始めた。高原も、過日の礼を既に済ませ、四人を見送っている。アララから託されたらしい、式の引き出物を手渡している姿が、微笑ましかった。



清子さんは無限軌道を唸らせて、またたく間に二人の前から姿を消した。



沢邑は、遠いまなざしでそれを見送った。



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時はさかのぼり結婚式当日。



姿を現わさず、ささやかな祝砲だけを残して駆け抜けた戦車兵たちが、なぜそうしたのか気付いて沢邑は息をついていた。彼らは戦士だ。戦士には戦場が待っている。祝いの席にいるよりは、砲火の下で、守るべきものを守るため、寸暇を惜しむ、そういう男たち、なのだ。きっと他にもそういうACEたちはいたことだろう。機会があれば、また立ち寄ってもらった時に、改めてもてなしたいものだと沢邑は思った。



既に会場は大勢のACEや、ACEでなくとも胃袋に底、無し!を自負する大変迷惑な連中が、贅を尽くした料理に舌鼓を打ち、飲めや歌えやの賑やかしい風情でもって、今日の主役である高原と、高原アララを景気良く祝っていた。



「あ…」



ふと見ると、舞が、どこでもらったのかふわふわした綿あめを片手にしきりに周囲を気にしないふりをしながら気にしながら、食べようか、どうしようか迷っているのが見えた。ピドポーションを飲み女性化している今なら、うっかり声をかけて青に光にされることもないだろう。



「舞さん」
「沢邑か。うむ、本日はめでたいな。めでたい席に、招いてもらって大変嬉しく思う」



声をかけられた瞬間、綿あめに集中していたことをうまくさりげなく隠せた(と思っている)舞は礼を返した。実に堂々とした、誰、はばかることのない、挨拶だった。



「ん? そなた、確かつい先刻は男だったような…」
「いえ、あのー」



さすがに観察眼鋭く気付かれて、どう説明したものか困っていると、まあ、世の中にはそういうものもあるからなとターニが現れて話を流してくれた。



「ふむ、そういうものか…」



それから、舞はターニにも見られていることに気付いて、綿あめを遠くで処分(存分に眺めて愛でたあと食べようということだ)をしようと決断したらしく、



「あまり顔を見せないでいると厚志がさみしがる」



などといい、足早に去っていった。背中がそわそわしているな…と、沢邑は思った。



「あの」
「なんだ?」
「ありがとうございました、体のこと」
「ああ…気にするな。あちこちを旅していると、いろんなものを見る。大抵のことには驚かなくなるんだ」



それにさっき一度見た後だしな、と付け加えてターニは頷いた。



「結婚式か…」



見れば、ターニは食べ物を手にしていない。既に、その巨体を維持するだけのエネルギーをたくましく取り入れた後なのか、遠い目で大勢の人の輪に囲まれている新郎新婦の方を、見やっていた。自分とは遠い世界のものを見るような、まなざしだった。



「何か取って来ましょうか?」



と、沢邑は聞いてみた。飲み物だけ頼む、と、ターニは遠くを見ながらそういった。



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ターニは、谷口は、式を祝った後あわただしく出かけるようなそぶりを見せてはいなかった。食事を、楽しみにしているようだった。



それが今はあまり物を口にしていないのが、沢邑には気になった。



また、どこかへ戦いに行くのだろうか。



誰かを助けに?



何をしに?



ターニ・キルドラゴンは特別あつらえのスーツに身を包み、髪をいつもより丁寧に後ろで束ね、白のネクタイもきっちりとしめて、礼服仕様だ。今は腰布一丁でも、その手に魔法のテンダイスソードを携えているわけでも、魔法の薬を探して旅しているわけでもない。



だが、ターニは戦士だった。自らが戦う事で誰かを守ることを本懐とする、戦士だった。



その谷口は誰が守るのだろう。



谷口は、その意味では救われるべきヒロインだ。今もなお、救われていない。そんな気が、沢邑にはしていた。



ああ見えて、実はとても気のつく細やかな男である谷口は、自分がこの場にそぐわない雰囲気を出しているのではないかと、沢邑に見られて気付いたらしく、今は表情を豪快に微笑ませて、知り合いと話をしていた。どこで知り合ったのだろうと思うような、テンダイスを見ているだけではわからないつながりの相手だった。



めでたい席にこんなことを考えてるのもよくないな、と思い、沢邑は谷口に習って自分も知りあいと話し始めた。



「アララさん、結婚おめでとう! すっごく綺麗でしたよ!」
「あら…」



ようやく人の輪から解放されて出てきたアララは、周りに高原がいないことを確かめてから、そっと顔を赤くしながら微笑んで礼を言った。



「ありがとう、ドレス、すごく素敵だったわ。さすがに本当は女だっただけ、あるわね」



ぎゅうぎゅうと、二人は笑いあいながら握手をした。



「おやおや主役がどこへ行くんだい? おっと、そこにいるのは…」
「沢邑さーん、ドレス仕立てたんですって? とってもよかったわー!」
「おーい、いたぞー!」



わあーっとまた、ゆっくりする間もなく人の輪が二人を取り囲む。
花嫁のことは既にさんざ祝い尽くし(式での様子としあわせそうな姿をからかい尽くしたともいう)た後らしく、今度は式に尽力した沢邑を一緒にまとめて、みんなは盛り上がり始めた。



それからのことは、賑やかしすぎて、とてもたくさんの楽しくて、おかしいことがいっぱいあって、沢邑はよく覚えていなかった。



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沢邑は、遠いまなざしで清子さんと小太刀戦車隊を見送ると、ふと、式の当日のことを思い出して、今頃谷口はどうしているだろうかと考えた。



別に今更思い出すまでもなく、いつでも折りあらば思うことだった。



ぽん、とその肩を高原が叩く。



「行きましょう、沢邑さん。また一緒に今度は小笠原にでも遊びにいきましょうね。今日は…今日も、付き添ってくれて本当にありがとうございました」



うん、と頷きながら、沢邑はその場を後にしていく。秘宝館の依頼もある。まずは、今日振る舞った料理の後片付けからだ!



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~結婚式の思い出:高原と、高原アララのお祝いの席で~



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-The undersigned:Joker as a Clown:城 華一郎


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最終更新:2007年09月26日 18:06