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利根坂凪巳@無名騎士藩国さんからのご依頼品


それも一つの経験と言うのだろうか


 その日、メイ・カイロンは酒保に買い物に来ていた。

「イラッシャイマセ」

 ギギギと機械音で酒保BALLSが挨拶してきた。

「こんにちは。今日は、ランチセット入っているかしら?」
「ゴザイマス」

BALLSはアームを動かして、ランチセットを取り出し、メイの前に差し出した。
メイは支払いを済ませて酒保を出ようとした瞬間、BALLSは点滅した。

「メイ様宛ニ1通手紙ガ来マシタ」
「? 誰からかしら」
「宛名ハ利根坂凪巳様トナッテオリマス」
「利根坂……?」

 メイは目を閉じて記憶を探った。
そして思い出したのは、いつかドラケンに連れられて出かけていったとある国の青年だった。
 手紙なんて。やるじゃない。
 メイは自然と頬が緩んだ。
「やはり女性は笑顔の方が良い」は、なかなかいい挨拶だった。

「手紙、くれない?」
「カシコマリマシタ」

 BALLSはアームでギギギと手紙を1通取り出した。
 丁寧に封蝋印まで捺してある封をペリペリと開けると、短い手紙が入っていた。

『拝啓 メイ・カイロン様

 お久しぶりです。利根坂凪巳です。
 先日は我が国に来て下さり誠にありがとうございました。おかげで実に有意義な時間を過ごせました。
 さて、本来なら我が国に再び招待したかったのですが、現在我が国は少々情勢不安なもので、メイさんをお呼びするのは少し危険なようです。
 大変申し訳ないのですが、今度、私が夜明けの船の方にお伺いしに行ってよろしいでしょうか?
 いつも突然ですみません。
 あなたの気に触らなければよろしいのですが。
 それでは用件のみですが失礼します。

利根坂 凪巳』

 手紙には、迷いに迷ったのであろう文章がつらつらと書かれていた。
 メイは思わず吹き出した。
 デートのお誘いにしては、随分色気のない場所とは思うのだけれど。

「いいわ。また会いましょう」

 メイは手紙を持って自分の部屋へと小走りに走っていった。
 折角買ったランチセットを忘れたのに気が付いたのは、酒保が閉まる5分前であった。

/*/

 その日夜明けの船は、久々に海面に上昇した。
 メイは腕を組んで待っていると、呆然……と船を見上げる青年が甲板に降り立った。

「……おお、これが夜明けの船か……」

利根坂だ。
 利根坂もメイに気付いたらしく、ペコリと頭を下げた後寄って来た。

「なんの用事、かしら?」
「は、藩国でシールドシップを1つ製造しておりまして、その縁もありまして、一度夜明けの船を見せて頂きたく思いまして……」
「それは表向きでしょ」

 メイは少し笑って肩をすくめた。
 お世辞でもいいから「あなたに会いに来た」とでも言ってくれたら色気のないデートでも許せるんだけれど。

「まあいいけどね。こっちよ」
「ありがとうございます」

 利根坂の礼の後、メイの後を付いて甲板を降りていった。
 降りていった先にはホールがあり、そのホールを通れば艦橋である。
 BALLS達がせわしなく動き回るのが見えた。モニターには大きく航海図が映し出され、航海図と集音レーダーを照らし合わせて、水測士が観測を行っている。
 メイはクルーに軽く会釈しながら艦橋を見渡した。

「20mしかない、小さな艦橋よ。船体は400mあるの」
「ブリッジは……流石に大きな違いはありませんね。……って、400mですか。セレスタインが小さいのか……」
「小型のほうが、いいわよ」
「どうも地上ないし宇宙戦の方が馴染みがありまして、つい大きい方が良いと考えてしまいます」

 確かどこかで大きさ=質量で、質量が大きいほど宇宙での推進力は勝ると聞いた事があった。
 メイは利根坂を見ながら微笑んだ。

「輸送艦ならともかく、潜水艦はみつかったら、基本、アウトだもの」
「成る程、小さいほうが小回りも効きそうですしね」
「そうね」

 そう言いながらメイはスカートを翻した。
 利根坂はメイが言った事をメモに一生懸命書いていたが、メイの反応を見て慌ててメモをしまった。

「外からで良ければ、魚雷発射管を見せるけど?」
「お願いします」

 こうして、艦橋を後にした。

/*/

 艦橋を出て歩いていく。
 途中クルーとすれ違ったりBALLS達が足元でせわしなく働いているのを見たが、思っている以上に広くて驚いた。
 今は海の中にいるはずだが、空気もそんなに濁っていないし、狭くもない。

「……そりゃあ、400mもあれば、この位は、あります、よなあ……」

 そう利根坂が素直に関心している間に、艦種首に辿り着いた。
 少し沈んでいる。

「ここがシールド発生装置」
「火星の船の命綱、ですね……」
「シールドシップの。よ」

 そう言いながら、メイはまたさっき歩いた道を戻り始めた。
 利根坂は慌てて付いていく。

「昔は、艦首部の後ろにおいてたんだけど、今はここ」

 そう言いながら、先程まで歩いてきた真ん中まで戻った。
 メイは上を見上げる。

「MAKI、ドラムを回転。頂点に」

 返事もなく、床は急に回転し始めた。

「わと、ちょっ!?」

 メイと利根坂は走り始めた。
 走っている間に、床はくるくる回転し、走る二人はさながら玉乗りをするピエロの様相である。
 やがて止まった。
 目の前を見て、利根坂は「うわぁ……」と思わず声を漏らした。
 目の前に並ぶのは、100以上もの発射管が整然と並ぶ様であった。

「こりゃ凄い……」

 思わず落としかけた帽子を押さえながら呟くしか、できなかった。
 隣に立つメイは誇らしげである。

「これが魚雷菅。なかなか、いいでしょ?」
「ええ、これは、比べ物にならない」
「いいでしょ?」
「ええ! 有難うございます。良いものが見れました」

 利根坂がお礼を言うと、メイは自然と笑みがこぼれた。
 色気はないけれど、この船はメイにとっては第二の故郷である。褒められて悪い気はしない、むしろ嬉しい。
 ふと目が合った。
 利根坂は「……はっ」と言って慌てて目を逸らした。
 ……もしかして、見とれてた? 自意識過剰?
 ……まあ、後で聞き出せばいいか。

「さて、他にみたいものは?」

 気分を替えようと、メイはそう言った。
 明後日の方向を見ていた利根坂はやっとこっちを見た。

「出来れば、ハンガーを構いませんか?」
「いいわよ。そこなら」

 メイは頷いた後、また上を見上げた。

「MAKI、魚雷発射管、四番解放」

 メイがMAKIに指示を出した途端、ぷしゅーと言う音と共に、穴が空いた。

「おうわっ!?」

 慌てて利根坂が飛びのいた先の穴を、おそるおそる覗きこんでみると、中は滑り台のように坂になっているようだった。
 メイは利根坂がのいた先に「よいしょ」と座り込む。さながら、これから滑り台やウォータースライダーでもするかのように。

「魚雷発射管と、兼用してるの。滑り台、子供の頃にやってたでしょ?」
「凄く長いのを」
「じゃ、それよ」
「成る程……」

 利根坂が「流石にその発想はなかった……」と関心している間に、メイはするりと滑っていってしまった。
 利根坂は呆然……と見た後、もう一度発射管を覗いた。
 先は見えない。
 しかしメイを待たせている以上は行くべきだろう。
 利根坂は、意を決して発射管に身を任せた。

/*/

 真っ暗な滑り台は、真っ直ぐに、ただ落ちていた。
 そりゃそうだ。魚雷を射出するのにグネグネ曲がっては駄目だろう。
 訳の分からない感心をしている間に、利根坂はぺいっと吐き出された。

「痛っ」

 尻餅をついた先には、メイの脚が見えた。

「ちょ、行くなら行くって……痛たた」

 メイがにこっと笑って利根坂を見下ろすと、視線を上げた。
 その先には、優美と言うべきRBが並んでいた。数は40はあるだろう。

「どう?」
「おお、おお……やはり良いですね、RBなりI=Dなりが並んでいるところというのは。このあたりの機体はBALLS操縦なのですか?」
「ううん。みんな有人。いい眺めよ。男ばっかりだしね」
「おお……って、先程から驚いてばかりですね、申し訳ない」

 利根坂は少し照れて頬を掻いた後、RBの元に歩いていった。利根坂の国でもRBは開発・生産され、そのほとんどは夜明けの船の機体を元に作っているのだが、ここに並んでいる機体は見た事がないなと気が付いた。
 機体は美しい。いや、RBと言うものは皆美しいものなのだが、美しさにも種類がある。
 ふと、この機体は希望号に似ているような気がした。

「次世代の希望号、ですか?」
「流星号のあとの、瑞星号」
「瑞星号かあ……藩王が見たら飛びつきそうだ」
「そうね」

 嘘ばっかり。
 あんなに機体の事メモしているのに、貴方が一番、飛びつきたいんじゃないかしら?
 男の子は、本当にロボットが大好きなんだから。
 メイは思わずまた笑みがこぼれた。

<了>


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最終更新:2009年10月03日 01:34