支那実@よんた藩国様からのご依頼品
ボキに、用。ですか?
はえ?女の子?
~招待状を受け取ったときの嶋先生の言葉~
嶋丈晴という人物がいる。
10歳で大学卒業の本物のエリート、士魂号M型の製作者という大層な肩書きだが
嶋自身は人が自分をどう呼ぶかなど気に掛けたことはなかった。
彼に言わせれば「ボキはボキで、以上も以下でも以外でもないですよ」と。
彼は自己の作品を通して世界を見つめ、世界は彼の作品を以って彼を評価した。
だが、世の常として「例外」があることを彼は知ることになる。
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快晴のフィールド・エレメンツ・グローリー。
長針と短針が頂上で出会う頃。
嶋を乗せたエレベーターが展望レストランへと上っていく。
眼下のビル郡はみるみる遠くなり、広大な国土のその果てまで見渡すことができそうだ。
どんな駆動系を使っているのか、パネルに表示された数字は秒針より早く進んでおり、何の振動もない。
そもそも空中にビュンビュン乗り物が飛んでる辺りで、嶋はクリエーターとして大感動していた。
技術屋としては体が疼いて仕方なかったが、慌てないで触る機会はあるよねと考えていた。
もちろん、誤算も誤算。大誤算である。
ポォーン
Gを感じさせない滑らかな速度でエレベーターが止まる。
ウェイターに恭しく案内された先には、スーツの男性でも軍人でもなく、ドレスで着飾った女の子がいた。
こちらをちらりと見て顔を赤らめている。はてと時計と紹介状を照らし合わせる嶋。
先に声を掛けてきたのは少女のほうからであった。
「は・・・はじめまして」少女は頭を下げた。緊張、しているのだろう。
服の端を握り締めた手が白い。小笠原では見ない白さだなぁと思う嶋。
少女とはいえば、ふゎん、ばっ!といった小動物のような挙動で、わたわたとしている。
「よ、よんた藩国の支那実と申します。今日はおいでいただきありがとうございます」
「あー。えーと。天文観測班の嶋です」とりあえず嶋は頭をさげた。
同時に待ち合わせに間違いはなかったようだけど、なんのようでしょうかねぇと思う。
支那実と名乗った娘はにっこりと笑顔を向けた。
あーと。と前置きして尋ねる嶋。
「よんたってところはなんですか?いやー。すみません。あんまりこのゲームしらなくて」
あんまりどころか、全然である。そもそも呼び出された理由が分からない。
「あ、すみません、いきなりで・・・」
本当に申し訳なさそうに、わたわたと謝る少女。
「いえいえー」
ふぅむ、あずざさんと仲良くなれそうな娘だなぁと思いながら答える。
「ゲームのチームみたいなものですね」
「すごいですね。最近のゲームは」とりあえず席に座りながら、遙か窓の下を見た。
ゲームなら高所も大丈夫なもんだなぁと思う。
「えぇ。いろいろと大変なこともありますが、とても楽しんでます」花が咲くように微笑む。
「ここは高くて眺めがいいですね。高いところは大丈夫ですか?」
「ほんとは高所恐怖症なんですが、ゲームと思えば怖くないですね。SFだなあ」
頭を掻きながら恥ずかしげに答える嶋、あまりこの手の。というか普通に女性と会話することに慣れていないとも言う。
「あらあら、高いところ苦手でしたか・・・ 次にお会いできる機会があれば、そのときはどこか違うところにしますね」申し訳なさそうに言う少・・・ではなく支那実さん。
「いえ、おかまいなく」 といいつつも、普通のデート(と呼べるかはともかく)ドキマギする嶋。
(まぁ、ともかく。アレだ。うん。ボキは何の会話をすればいいのだ。)
「いやー。なんというか」
窓から支那実に目線を移して
「なんか照れますね」
「す・・・すみません」こちらも照れます
「嶋先生にお会いしたかったので、とてもうれしいです」直視されて恥ずかしかったのか、目線をひだりみぎして、飾ってある花に向けて言う支那実。頬が赤い。
「いやー幸いです。どんな用事でしょう」
「用事というか、尊敬している先生にお会いしてみたかったのです
ー」
(「先生」ね。そうか。つまり、彼女もクリエイターなのね
「ウォードレスの設計か、なにかを?」
ようやく得意分野の話しへ戻ってきてえへへと笑う嶋。油まみれの仕事にこんな役得があるとは思わなかった。
「えぇ。テンダーフォックスとか好きなんです」えへへと笑う支那実
「あれは僕の最高傑作ですよ。予算の中では最高性能だと思います」
鼻息を荒くしながら言う嶋。
「すばらしいウォードレスだと思います。そんなすばらしい設計ができる方とお会いできてとてもうれしいです」
(そうかー、この子も開発者かそれ志望なのね
「単なるパズルですよ」嶋は苦笑した。
「パズルですか?」人差し指を細い頤に充て、頸を傾ける支那実。
「ええ。設計はパズルです。部品があって、それをうまくおしこめてくみあわせるだけです。全体の3%も新部品はない」
(実際の所、カタログ通りのスペックが出るか怪しい新製品より信頼の置ける既製品を使ったほうがコスト面でも安全面でも優秀ですしね と心中で付け加える
「そういうものなんですね~ でもその組み合わせの中から最良を選ぶのは才能だと思います」
「最良を選ばない方がいいんですけどね」嶋は笑った
「難しい話かもしれません」
「そういうものですか」びっくりしたような表情の支那実。少しの沈黙の後、俯いて支那実は言った。
「すみません、お会いできると思っていなかった方とあえて、ちょっと緊張してるようです。失礼なこと言っていたら申し訳ありません 」
嶋は「いえいえ」と手を振りながら言葉を紡いだ。
「ええ。昔。これはいいと主力機につけた部品があります。装甲です。薄くて、硬い。それでいてねばりがある」 どこか遠くを見るように言う嶋。
「えぇ」
「……その生産が滞りましてね」
「あ・・・あら・・・」どう返したものか苦笑気味な支那実
「結局、その機体は量産優先のために装甲材が薄いだけのものになりました」
視線を少し下に落として言う嶋。そのミスで何名の命が失われただろうという、答えの出ない暗い問いかけが彼の表情に影を落とす。
「それは残念でしたね」 本当に残念そうに言う支那実
「性能の最良と本当の最良は違うんですね」顔をあげて苦笑気味にいう嶋。
「そういうものなのですね。何が一番よいのか見極めるのは難しいですね」
「工場の生産能力まで見なくてはいけません。私はあのとき、装甲材のランクを1つでもおとしておけばと、夢に見ます」
「今でもやはり心残りなんですね。」
それを聞いて、嶋は一瞬だけ目に炎を映したが黙った。
「つらいことを思い出させてしまってすみませんでした」
「いえ。悔しい思い出ですよ」嶋は困ったようにわらった。今晩も夢で逢うこともなるであろう黒い空の下で彼ら彼女らに幾度謝罪すれば――否、それに報いるためにボキは忘れてはならないと、そう思いながら。
「悔しかったのですね。失礼しました。でもそれがばねになるんでしょうね」謝罪し、あせあせとなんとか話を続けようとする支那実。
「なにか楽しいお話ができればいいんですけどねえ」再び外に目をやり、意識して明るく言う嶋。
「嶋先生のお話聞けてとても楽しいですよ~ お話したかったんですもの」
「はあ、技術者に興味あるのはめずらしいですねえ」
「そうですか?自分ではできないことができる方を尊敬しているだけですよ?」
「なるほど。そうですね。私も橋を造ってる人は尊敬しています」嶋は笑った。
「橋作るのも大変ですものねぇ」微笑みながら言う支那実。
「ええ。ウォードレスよりは人の役に立つでしょうし」
なにより、役に立ちながらなお1ミリも人を傷つけないですしねえ。と心中で呟く。
「でも、ウォードレスがないと助かる命も助からないことがありますからねぇ・・・」 頬に手を当てて言う支那実。
「・・・・・」
それに答えるには嶋の心境は複雑すぎた、100人助けても1人を傷つければそれは失敗だとそう思った。
「しったようなくちをきいて申し訳ありません」そんな嶋をみて頭を下げる支那実。
「いえいえー。別に気分を害しているわけじゃないんですよー」
「それならよかったです。でも、何かお気に障ることがあれば、遠慮なくおっしゃってくださいね。気づかずに何か粗相をしているかもしれませんし・・・」
「そんなに心配しないでもー」
心やさしい人だと思いながら言う嶋。傷つけないように話題を変えようと思う。
「何か食べられるんですか?ここは」メニューを開きながらいう嶋。
「どうなんでしょう、きっと何か飲み物や食べ物あると思うのですが・・あ、先生、お食事できるようですよ?メニューいただきますか?」
「気むずかしく、見えますか?」すこし悪戯っぽく言う嶋。
「いえ、そういうことではなく、初めてお会いするので、緊張しているのです」えへへと笑いながら支那実。
「ありがとうございますー。じゃ、パフェを」折角だからと島では食べられないものを注文する嶋。
「パフェいいですね~ 私も食べようかしら。10にゃんにゃんですってー 注文しましょうか?」
「はいー」
10分後
「モンブラーン!」
パフェが運ばれてきた。1mはある。
「すごーいっ! 食べがいありますね~~」はしゃぐ支那実。
「やー。写真で見てもわかりませんね」
可愛らしい猫の肉球型のスプーンが二本ぶっささってる。
「ホントですね!てスプーン2本て・・・二人で食べるということで・・・すかね・・・」赤くなって照れる支那実。
「まー。一人ではむりですね。食べますか。反対側からなら、恥ずかしくないですよ」
「ありがとうございますー」えへへと笑いてれりこてれりこしながら言う支那実。
「それではいただきま~す」
20分後
大変美味しいが、少々飽きてきた。
「すごい量ですねー・・・」と支那実。
「こりゃ安いと思ったんですが、なんでしょう、箸休めでまた別のがたべたくなりますね」
「確かにー ちょっとしょっぱいものとかあるといいですよね・・・」苦笑しつつ。
嶋は支那実の方を見て、にこっと笑った。
「顔に、ついてますよ」
そういう嶋にも、ついている
「・・・ほえ? す・・・すみませんっ 先生もついてますけどね。えへへ」
「はい」支那実はと花の刺繍の綺麗なナプキン差し出した。
嶋は恥ずかしそうに、笑いました。
嶋は、たまにはこういう休日もいいよね。とそう思いました。
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引渡し日:2009/11/11
最終更新:2009年11月11日 14:20