小宇宙@キノウツン藩国さんからのご依頼品


 これは「小さな宇宙」という意味の名前を持ち、静かに己の信念を貫く「宇宙のような大きな心」を持つ男の物語。

 ムラマサ、イアイドにより騒乱著しいキノウツン藩国。そこに管理の名の下に、箸の上げ下げにまで口を出す世界管理機構が現れる。困惑する藩国首脳部をよそに、世界管理機構によりキノウツン藩国の情勢は沈静化に向かいつつあった。

 歯噛みするキノウツン藩国首脳陣たちの中、小宇宙は一人楽しげに口の端を吊り上げるのであった………。

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管理武闘伝小宇宙G

第4話
我はM*より始まる管理の目的を記述する

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 暗き空間の中に、ぼんやりと人影が集っている。そこはかつて小宇宙が管理委員長なおみとの勝負に訪れた時とは違い、静寂に支配されたコロセウム。

 身じろぎ一つしない11人の影。その静寂を破る一言が発せられる。

 「迅雷の力石がやられたようだな………」

 「ククク、奴は世界管理機構の頂点たる我等の中でも最弱………」

 「こうも簡単に負けるとは世界管理機構の面汚しよ………」

 「………」

 「どうした、壁など見て?」

 「いや、ツッコミは来ないようだな」

 「?」

 「いや、続けてくれ」

 「………しかし、我らに欠員ができてしまった事は、痛恨の極み」

 「新たなる者が必要だな。」

 「左様。ついては一人、心当たりがあるのだが………」

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 ひたり、ひたりと軽く湿った地面が足音に湿り気をもたらし、地下の隧道に低く響く。小宇宙は一人、メゾン・ツンの地面に開いた顎の如き巨大な暗闇へと再び足を踏み入れていた。

 「……また、ここに来るとはな」

 この道を行けば、先日なおみと管理の腕を競ったコロッセオに出るのだろう。何が待ち受けるのか。何が起こるか分からぬ期待に、自然と笑みが漏れる。

 「なおみ………か」

 ふと、コロッセオで虎に食われかけ慌てていた少女を思い出す。

 管理委員長 なおみ

 何かにつけ、自分に突っかかってくる彼女。こんなところを思い出している事を知られたら、またどやされることだろう。

 小宇宙は思う。なおみは自分のことが気に入らないから、突っかかってくるのだろうと。しかし、それはありがたいことであり、なおみは優しいとも思う。

 何故なら人は己の欠点には中々気付けず、己が正しいと思い込む傾向がある。彼女はわざわざそれを正してくれる。管理者としての先輩意識がそうさせているのだろうが、管理番長としてまだまだ研鑽が足りず見識不足の身の上としては、感謝こそすれ邪険にするなど論外であろう。

 それに………今のような面白いことが始まったのは、なおみが小宇宙の前に現れてからであった。そして今回こんな所に居るのも、彼女から受け取った書状が原因である。そこには「コロッセオにて待つ」と達筆でしたためられ、管理11神将の名があったのだ。

 また、なおみから始まった。それはつまり、今日も面白いことが起こるという事だ。小宇宙の胸のビートは期待で強く鳴り、リーゼントは隧道を崩さんばかりの勢いで天を指す勢いである。焦るなと己に言い聞かせつつ、進む足は道の先へと向かわせる。

 そして、辿り着く先はかつてのコロッセオ。以前の来訪の際には怒涛の喚声とまぶしいほどの光が迎えてくれたものだが、今は打って変わって静寂と暗闇が支配する場となっていた。

 ここは敵地。ゆえに小宇宙は気配を探り、闇を見通そうと目を凝らす。その瞬間、灯りが小宇宙とは距離を遠くし、点く。一つ、また一つと円を描くように等間隔で小宇宙を囲んでゆく。

 そして、現れるのは11の人の形。すなわち、小宇宙を招きし管理11神将であった。

 「ふむ……」

 いつかは雌雄を決すべき存在。ゆえに油断はならぬ。だが、過ぎた警戒は怯えに等しい。管理番長同士の戦いにおいては、怯えは膝を屈すると同意義。

 また、管理番長の中の管理番長である彼らが、11人がかりで襲い掛かる可能性は皆無。自ら姿を現した時点で奇襲も無かろう。覚悟を決め、前へと踏み出す。相手の出方を待つのではなく、己の挙動で相手を動かす為に。

 「見事であった」

 小宇宙へ投げ掛けられたるはただの声。大声でもなく、威圧もない。褒めるというには感情が無い。しかし、感じるのは圧倒的な程の力のほとばしり。身体を衝撃が突き抜けたような感覚。

 「俺は何もしちゃいないさ」

 素直に思ったままを言う。その言葉は心からのもの。心の脱力は身体にも影響を及ぼす。

 11神将の力量は自分を上回る。言葉にすら圧力を感じる程に。ならば、抗うのではなく、受け流す。猫柔術家を継承したこのアイドレスに残る残滓。数値には現れない力が小宇宙に自然とそうさせる。

 「いい仲間に恵まれただけさ」

 小宇宙の言葉に11人は微かに揺れる。それは感嘆か、嘲りか。何らかの反応ではあろうが、小宇宙からはよく見えぬ。だから、ただ次の言葉を待つ。

 「小宇宙。そなたに第11階位”混沌の渦”を与えよう。世界を管理しうる力だ」

 「混沌の渦……?」

 先程とは別の人物が口を開く。そして、小宇宙の問い掛けへの返答は身体に刻まれる。違和感に左手を見る。目に映るは掌に浮かぶ「渦」の文様。ゆっくりと回る文様は銀河を想起させる。

 「これが"混沌の渦"か……」

 左手を握り、開く。動作を続けることで、違和感は消え行く。違和感去りし後、落ち着きの訪れと共に疑問が浮かぶ。

 「しかし、"混沌"とは管理とは真逆の名だな」

 問いと共に左手に意識を集中する。その瞬間、開放感と共に渦は顎を開く。

 「む……?」と驚きで集中が乱れ、左手の黒円は元に戻る。しげしげと見つめるが変化は無い。

 「まったきとは、光の中の闇を認め、闇の中の星をもとめること」

 理解する時間を与えようとの意図か、一呼吸を置く。

 「まったきものになるために管理するのだ」

 「なるほど」と小宇宙は理解を示す。すべての在り様を認め、しかしそこで止まらぬ。遠き完全への理想の在り様の一つが、ここに示された。

 「その渦は、秩序に繋がっている」

 管理は「全きもの」への道。今は遠く、遠い、遠き果てに。

 「矛盾は止揚して新たな秩序に……」

 小宇宙は思う。彼が力を与えられた意味を。そして、己がこの力をどう使うべきかを。

 小宇宙は知っている。力は意思を持たない。すべては持ち主次第であることを。

 「この力で、秩序をもたらせ、ということか」

 そして、小宇宙は悟る。己のなすべきことを。11神将の頷きはその肯定の証。

 「キノウツン・フィーブル教区の管理を任せよう。小宇宙枢機卿」

 「面白い……任せられよう」

 返答は即時。迷うことは無い。片膝を付き、彼らには敬意を表す。

 互いに相容れぬ場合は、全力で対峙するのみ。その時に膝を屈するのはどちらか、教えてやればよい。しかし、望む先が重なる今であれば、共に道を歩むこともできよう。

 その小宇宙の瞳に宿る意思を感じ取ったか、「いずれまた」との言葉を残し、11神将たちは笑いながら1人、また1人と消え行く。それに頷きで返す小宇宙。そして、残るは小宇宙ともう1人。

 「渦の使い方はわかるかね?」

 「……いや、さっぱりだ」

 優しげな声に力の抜いた声と共に、肩をすくめる。正直、穴が開く以外はさっぱり分からない。

 「すまんが、教えてもらえないだろうか」

 「渦を開いたら、そこから武器を取り出しなさい」

 「ふむ……やってみよう」

 左に渦巻く小さな宇宙を見つめる。イメージは開門。銀河の中心を割き、異なる世界へと接続を果たす。

 「む……なんだか不思議な気分だ」

 開いた穴へ右手を差し入れる。

 「イメージを」

 語られる言葉への返答は己の想像力。己の求める武器は、遠き理想への旅の供。ゆえに刃のない武器を思い浮かべる。切断と全きものはイメージに合わない。

 「引き出して」

 イメージの固定化と共に、右手に生まれる固形の感覚。言葉に従い、引き抜きしは99cmの長き棒。全体に刻まれたるは無数の文字と目盛り。

 「それは夜明けを呼ぶただの長い棒」

 「これが……俺の武器」

 軽く振り、得るは重さ。冷たくもなければ暖かくもなく、保持していても温度が変わらぬ。

 「大昔の、魔術師の武器」

 「これが……」

 理解できぬ文字と目盛りもそれならば、道理。己にはない知識の詰まりし棒、という訳だ。

 「不思議な素材、不思議な文字……なるほど、魔法使いの持ち物だな」

 「それは、熱も、電気も、ある方向にのみ通す」

 語りつつ、管理の高みにありし1人が掌に生み出すは稲妻。孕む力の膨大さゆえに放電し、一部は地面へと逃げて行く。

 「よけてみるがいい」

 頷きと共に小宇宙は逆の端を握り直し、棒を構える。光が走り棒に吸い込まれ、小宇宙の後背を爆風の衝撃が叩く。

 全ては一瞬の出来事。「うおっ!?」との呻きの間に終る。我が身に瑕疵は無く、後方には立ち上る煙と焦げ臭さ。理解の前に結果のみが、ただそこにはある。

 「……もう一度、頼む」

 彼の頷きと共に再現される、先の光景。起きる現象を理解しての観察は、結論を導く。

 「……避雷針と同じような原理か」

 「避雷針そのものだ。そう使えば」

 「使い方次第、ということだな」

 「どんなものも、我々も、それは同じ」

 微笑を浮かべる彼の言葉に、「ふむ」と小宇宙は内心頷く。彼が得た力は、まさに彼の望んだ通りであった。ゆえに気付けば、「ありがとう」と頭を垂れていた。

「Aの魔法陣という名だ。それは」

 その言葉と笑みを残し、彼をもって11神将の全ては消える。残されたのは小宇宙とその手に握られた棒のみ。コロッセオは雷の残した熱気と焦げ臭さ以外は元の空間へと戻る。

 見つめる先は得た力。この棒と己の行く先に待ち受けるは何か。

 棒は答えない。かの物はただ、主と共に行くのみ。遠く遠い遠き果てへと。

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 小宇宙という男がいる。管理番長12神将の1人にして第11階位”混沌の渦”の称号を持つ男。

 この時に彼は身体に銀河を宿した。すなわち、小さな宇宙。ここに彼の名と在り様は一致を始める。

 これは「小さな宇宙」という意味の名前を持ち、静かに己の信念を貫く「宇宙のような大きな心」を持つ男の物語。

 その1つに過ぎない。

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 DVD特典 オーディオコメンタリー(去り行く11神将の場面より抜粋)

 「やっぱり、11番目にしたのが良かったな」

 「流石に新入りだから、一番下からってのは受け入れ難いでしょう」

 「そういえば、手間掛けてスマンネ」

 「構いませんよ。使い方の分からない力を与えて、『はい、さようなら』という訳にも行かないでしょう」

 「いやいや。そして、ここから小宇宙くんの取り込みが始まる訳だ」

 「ええ。管理の難しい混沌は、己の懐の方が管理し易い、と」

 「我々にとって彼ら第七世界人は"混沌"そのもの。その中から生まれた管理番長たる彼に、此れほど相応しい称号は『"混沌"の渦』しか無いだろうね」

 「ええ。そういえば、娘さんどうなんです? 小宇宙くんとの接触が多いとか」

 「う、うむ」

 「我々が12神将であることに気付いたりは………」

 「管理の頂点たる私に手抜かりは無いよ」

 ………番組が終わり、消えて行く話し声。

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ここまでお読み下さり、お疲れ様でした。

ご要望として「格好良く……ごめんなさい。感じるままにお願いします」と頂きました。これはつまり小宇宙さんの描写は格好良くしつつ、別の方面でギャグ描写は入れろと理解しました。結果が上記の通りです。如何でしたでしょうか。

本ゲーム以前のログを読むと、管理番長聯合と世界管理機構は別組織だった筈なのに12神将は管理番長で世界管理機構の所属みたいなんですよね。

「何時の間に合流したんだ!?」と頭を悩ませたので、小宇宙さんの次回以降のゲームで明かされるのを楽しみに致しております。


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引渡し日:2010/02/21


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最終更新:2010年02月21日 23:55