※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

久珂あゆみ@FEG様からのご依頼品


[作り話]


 ながいながい夜でした。

 星も見えないほど深い森。
 こすれあう草葉はが、おとぎ話を紡いでいる。
 遠く、楽しげに、恋をささやく虫の音。

 息をひそめて目をつむれば、
 重なるように声がひびく。

 ……なんて、楽しそうなんだろう。

/*/

 おとうさんもおかあさんも寝息をたてて眠っている。お兄ちゃんのつばさのお布団はとてもあたたかかったけれど、外の声がとてもみりょくてきだったから、みんなの間で寝ていたわたしは、そこからそっと抜け出した。

 テントがかさかさと音を立てて、わたしは辺りを見回した。
 夜に慣れたわたしの目は、木々のりんかくをはっきりとうつしている。けれどそれ以上にせんめいなのが、わっと押し寄せてくる、緑のにおい。
 空中庭園のキャンプ場は、すごく、森って感じがする。

 わたしはもう一度目をつむった。あの楽しそうなミュージカルは、いったいどこにいったんだろう。

 耳をすませば風が吹く。木々の枝葉が、こっちだよって、教えてくれた。

/*/

 さくさくと足下から音がする。草の音はにぎやかで、早くおいでと言っていた。
 声と心にせかされて、また一歩、また一歩と進んで行く。
 さいしょはおっかなびっくり、そろそろと足を出していたけど、段々がまんできなくなってきて、気付けばこばしりになっていた。
 早く行かないと、早く行かないと。
 そんなに急がなくてもいいんだよって、草木や虫が心配そうに言っている。だけど、どきどきが止まらなくて、
「あっ」
 音が消えた。足が地面を無くしてしまう。
 ぐるんと景色が上下して、わたしはそのまま――――
「――あれ?」
 そのまま、空に浮かんでいた。
 両手足をぶらんとさせたまま、首だけねじって背中を見る。するとそこには、爪にわたしをひっかけたお兄ちゃんの姿があった。
「いそいだら危ないんだぜ?」
 ちょっと小首を傾げてる。わたしがこくこくすると、お兄ちゃんはおろしてくれた。
「どこに行くの?」
「あっち」
「ついて行ってもいい?」
「いっしょに行こう」
 お兄ちゃんはきゅいとないた。

/*/

 そして、森が途切れた。
 木々はきれいに並んでいて、そこだけまあるい広場になっている。
 星明りだけが白くきらきらとおちて、海みたい。
 腰くらいある細長い草が、小声で何かささやいている。

 ――――しずかに、時を待っている。
 ふしぎだった。だってしんぞうは走っている時よりもドキドキして、手の平にはじんわりと汗がふきだしてくる。今はさっきよりもずっとずっと、すごくおちつかない。

「まだかな」
 お兄ちゃんは、きょとんと首を傾げた。

 するとふいに、ばさばさと大きな音がした。
 びっくりして空を見たら、そこら中を鳥が飛んでいて、気付けば枝にいっぱいとまっていた。
 そのすきま、木の穴から、ふくろうがちょこんと顔を突き出した。
「ほー」
 それが始まりの合図なんだって、わたしはなんとなくわかっちゃって、
 だから。みんなといっしょに、息をのんだ。
 ――――しずかになる。

 そして、空気を振るわせるようにきらきらと、虫たちがいっせいに鳴き始めた。
 緑色の海、跳ねていく虫たちは、月明かりを浴びて水飛沫みたいにきらきらひかる。

 はじまったのはミュージカル。草木も虫も動物も、いろんなみんながいっしょに歌う。

/*/

 ながいながい夜でした。

 星も見えないほど深い森。そのずっと奧の、小さなお祭り。
 気付けばわたしは、テントの中で眠っていて。
 あわてて起きて外に出たら、とっくの昔に朝日が昇っていた。

 夢だったのかなって、首を傾げる。
「あれ、こよみー」
 おかあさんがかけよってきた。ふしぎそうな顔。
「背中どうしたの? 少しやぶけてるね」


/*/


「……どう?」
 こよみは緊張した顔で、晋太郎の顔を見つめている。隣で、あゆみはわくわくという表情。
 晋太郎は、その絵本をゆっくりと閉じて、笑った。
「とってもいいね。ありがとう」
 こよみは笑った。すごい勢いで頷く。
「お誕生日、おめでとう」



作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

名前:
コメント:




引渡し日:2010/04/26


counter: -
yesterday: -
最終更新:2010年04月21日 13:57