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沢邑勝海@キノウツン藩国様からのご依頼品


[オアシスの傍ら]

 衣食住といえば、人の生活の基礎となる三要件であるが、砂漠の地で新たにこれを達成するのは難しい。キノウツンもそうだった。オアシスがあれば水という重要だが極めて限定的な食は確保できるとしても、それ以外の食と衣は、現状、大部分が外部の支援に求める必要があった。
 とはいえ。しかし。
 藩国の復興が始まってから早一週間(NW時間)。オアシスの周辺には灰色のテントが無数に乱立している。
 仮設住宅……敷設の前段階。仮設住宅を建てる人々が使う、仮設住宅だった。


 前日は大雨だった。バケツをひっくり返したという表現が実際に使えるくらいの勢い。雨粒よりは水の塊が落ちて来たような激しさ。建築資材とか幾つかの仮設住宅とかが、楽しくサーフィンしていくのを必死に留めるのが前日の仕事だった。
 明けて翌日。天は先日の空模様を綺麗さっぱり忘れている。目を逸らしたくなるような晴れやかな青空を、手で額に庇を作ってじっと見上げる。顔に出来た影には、早くも汗と砂が張り付いていた。目をしょぼしょぼさせる谷口。もう片方の手には、ちょっと人間の代物じゃなさそうなスコップが握られている。
 オアシスから三十歩ほど進んだあたり。足首くらいは軽く埋まる砂漠地帯。天然のサウナが乾いた熱風を肌に叩きつけていた。吐く息も熱い。肌から湯気が出そうだ。本人は似合わないと思っている白っぽい衣を体にぐるぐる巻きにして、陽射しに必死にあらがっている。

 ともあれ。これでもマシな方なのだ。本日はすでに夕方。これから陽射しはどんどん下がっていき、やがては夜になる。そうなれば本格的に作業が進められる。まあ少々寒すぎる事もあるが、陽射しにとかされるマシだった。作業時間を考えれば、谷口は早起きの部類に入る。

「資材は無事ですね」

 その傍らで、ほっとする口調で沢邑は言った。うむうむと一人頷いている彼女の傍らで、谷口はそうですな、とのんびりと頷いた。

 一通り見回って資材の無事を確認すると、二人はオアシスに戻った。テント群の隙間を縫って、水辺近くにやってくる。シートと天井だけの簡単な休憩場に腰を下ろして、ふはぁと二人してため息をついた。暑い。
 しばらく二人してシートの上に寝転がっていると、おもむろに沢邑が起き上がった。テントの隅によって、なにやらしてから、戻ってくる。

「どぞー」沢邑が給水器からコップを持ってやってきた。
「ありがとうございます」起き上がって受け取る。

 生き血のように生ぬるい水を一口で飲み干す。空になった紙コップを指に引っかけ、くるくると回しながら、暑いですなぁと先ほども言ったような、言ってないような、曖昧なことを口にする。

「今日も長くなりそうですなあ」
「前よりずいぶん広がってきたんですけどねえ……まだまだです」
 言葉に気合を込める沢邑。谷口は頷きながら、
「しかしまあ、もうそろそろでしょうな。もうそろそろ重機が運ばれてくるでしょう。今は作業員用のテントを張るので精一杯ですが」
「ふむふむ」

 重機と人手と、それを受け入れられる仮設住宅。ある一定数それが集まって、始めて復興が本格的に始まる。このあたりは比較的風が弱いが、それでも下手をすると簡単に砂に埋め戻されてしまう。それに対処するには、一斉に人手で取り組む必要があった。
 それが始められるようになるのが大体一月ほど。まあ……それまでは、机上で計画を練り込んで、充分な味に仕上がるのをぐつぐつコトコト待つしかない。

 まあ、そうやってこつこつやっていくしかない。人が集まるかは多少どころでなく心配だったが、いつだって、完璧ではいられない。
 一つ一つを積み重ねるのが日々の極意なのである。
 風にさらわれて吹き消されそうならば、真面目にやり過ごして時を待とう。
 こうやって、重ね続けたその先にだけ、結果を生み出せるのだから。

「さて。もうしばらく時間がありますな」
「ですね……散歩も、ちょっと暑すぎますし」あははと沢邑は苦笑する。「もうちょっと休みますか?」
「ですなあ……」

 逃げない時を重ねていく。熱い陽射しを分厚い生地で遮って、日陰でゆっくり、時を過ごして。





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引渡し日:2010/10/22


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最終更新:2010年09月05日 13:39