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むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様からのご依頼品


 大気を取り込み、戦闘機は空を行く。武装を外した練習機ではあるが、その性能は実戦機と遜色ない。

 眼下に広がるはレンジャー連邦、南都の豊かな街並み。カールは愛の国と呼ばれる藩国に住まう人々の姿が見えるように高度と速度を下げる。

 目前には王城に連なる大通り。そして大通りの商店街を行き交う人々が見える。その表情は一様に明るく活気がある。戦闘機は商店街の上空を抜けた後、高度を上げて加速。滑らかに機体を傾け、西部にある郊外と言える場所にある小学校へ。農園に囲まれた小学校は昼時で給食後の時間帯にあり、子供たちは元気に校庭で遊びまわっている。

 見上げる子供たちを囲むように機体を左に傾け、小学校の敷地上で円を描く。手を止め見上げる子、後を追うように駆ける子、手を水平に上げる子、拍手する子、手を振る子。様々な反応を見せる子供たち。

 カールは空に円を描き終えると、さよならとばかりに片翼を数度上下に揺らし、高度を上げ急加速。

 後部座席からくぐもった小さなうめき声が聞こえたが、無視。一路、空軍基地への帰還の途へ着いた。


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 機体をごく自然に着陸させた後に、整備場へ移動させる。後部座席の訓練生が降り、続いて自分もタラップを降りると、機付き整備士たちがこちらにねぎらいの声を掛けながら走り寄ってきた。機にとりつく整備士たちの動作には迷いが無く、練度の高さが自然と感じられる。

 「ドラケン教官、本日はありがとうございました!」

 整備士たちから視線を移し、アリアレン訓練生に敬礼を返しつつ彼の顔色や体の状態を観察する。多少手荒に速度の急加減速や高度の上下動を行ったが、多少血の気が引いているぐらいで、今後の飛行経験で充分に順応可能だろうと判断。脇に手挟んでいた講習表に彼の評価を書き入れ渡す。

 「今後も気を抜かず、経験を積むように」

 「はっ!」と再度敬礼をした彼に解散を告げ、機体に向き直る。先程まで我が物顔で天を駆けていた戦闘機は、整備士たちに体を預け静かに佇んでいる。取り囲む整備士たちの動きはきびきびとして、熟練が見てとれた。まなじりが下がる。

 自分一人の手によるものではないが、この藩国のパイロットや整備士たちを育ててきた自負はある。その実が確実に熟してきているのは喜ばしいことだった。彼の遠い先祖と同じように自分にも人を育てる才能がある。それは先祖より受け継いできたいくつかの中でも、最上のものであった。

 また、先祖は飛行機のパイロットになりたかったと聞く。今の自分があるのは、空を飛びたいという夢を叶えたご褒美なのかもしれない。その想像は彼の心をくすぐったいような心地にさせた。

 「よう、大将。ひよっこに空の厳しさってやつを教え込めたかい?」

 「そんなにスパルタではありませんよ、マシュー中尉」

 こちらに歩いてくる人なつっこい笑顔を浮かべた男、マシュー中尉は筋肉質の身長の低い男である。20センチほどカールより身長は低いが、つなぎを押し上げるその筋肉によって体が膨れ上がって見える分、大柄なカールと並んでも遜色ない。

 「いやいや、飛行予定見たが新人にあの飛行軌道はきついだろ。アリアレンの奴、トイレに駆けこんでたぞ」

 「初めに高いレベルを見せておかないと努力を怠ります。ただ、私の前では我慢していた。今後伸びますよ、彼は。」

 「だな。やっこさんも自分で機体を扱うようになりゃ、お前さんの腕や自分てものが、よく分って努力するだろうよ」

 マシューの言葉に頷く。レンジャー連邦では飛行機産業や航空施設の充実により、いまや戦闘機のパイロットは花形だ。だが、パイロットになったことで満足してしまう者もいる。しかし、国を守るものとしてはこれでいい、ということはない。敵と相対した時に己の不足を悟っても遅いのだ。ゆえに日々の訓練の積み重ねが大事になってくる。

 その為に必ず新人の通過儀礼として、この飛行訓練を行っている。自分も太陽系総軍に入り立ての際に鼻っぱしらを折られた口だ。記憶注入の学習により誰でも一定レベルの技量を持つことになるがゆえ、というのもあっただろうが。なんにせよ、軍隊の慣習というものは、そこが軍隊であればどこであっても有用らしい。

 「では、おそらく飯も喉に通らんあいつの分まで、俺らは昼飯を食べるとせんか?」

 マシューの誘いに対し、ちらりと機体に視線を移す。先程の飛行で右フラップの可動に重さを感じた。油圧系の微妙な不具合だろう。練習機とは言え、いつ何時出撃に使用される事態になるかもしれない。

 「後で俺がちゃんと見るさ。そう心配なさんな」

 「いや」

 「先に答えを教えんでやってくれ。任せることで自信にもなり、責任感も生まれる。その上で、不具合はあいつらが自分で見つけなきゃなんねぇ」

 カールは参ったという表情で肩をすくめた。パイロットにはパイロットの、整備士に整備士の育て方があるだろう。マシュー中尉には人の心にすっと入ってくるオープンさと、一線を引く厳正さがある。

 話題を変えようと「妻の弁当があるのだが」と言いつつ、カールの歩みが楽しげなのは彼への好感ゆえか。

 「お前さんの嫁さんは料理もイケるのか。別嬪さんだし、たまんねぇな」

 「ああ、私には勿体ないぐらいだ」

 「この国のヒーローの一人があんまり謙遜すんなよ。それはそうと、最近見ないが嫁さんの体調は大丈夫なのか?」

 「大分回復した。心配を掛けているようですまない」

 「なに、目の保養になるんでな。自分の為さ。うちのかかぁは気が強いからなぁ」

 カールの脳裏に浮かぶマシューの連れ合いは、確かに気が強そうではあった。だが、彼の言動が彼女を怒らせていると気の所為だろうか。しかし、愛の形はそれぞれとも言うので、これは彼流の惚気なのかも知れないとも思う。

 「強い、か」

 連想するは自分の妻。療養しているむつきを見て、彼女が苦しむのを辛いと感じる半面、彼女が戦場に出ずに済むことで安心している自分が居る。彼女は戦場が危険であるからこそ、一緒に行きたがるのを理解しているが、戦場では何が起こるか分からない。それを長い間戦い続けてきた自分は知っている。

 勿論、銃後に居ても安全ではないことも分かっている。自分の母のように。何が最良かなどということは、万能の神ならぬ身には判断しようもない。

 ふと見上げる空は青く、雲が流れている。先祖が焦がれた空。自分が好きな空。彼女が愛する国の空。

 しばらく、一緒に飛んでいないな。ふと、思った。

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「じゃがいもとたまねぎと人参に」

 言いかけた言葉を戦闘機がかき消してゆく。戦闘機は大通りを嘗めるように通過し、再び上空へ急角度で高度を上げてゆく。普通なら機体に無理を強いる操作だが、音は一定を保ち機体に負担を掛けていないことが分かる。あれができるのはこの藩国内でも数えるほど。そして、むつきには操作の癖から、それがカールの操る機体だと判る。

 見上げていた視線を戻し、八百屋の主人に笑みを向ける。

「ありゃ、旦那さんの機体かい?」

 「ええ。ご商売の邪魔をしてしまって申し訳ありません」

 「いやいや、あれぐらいの音なら大したことないって」

 戦闘機の発する音は騒音というレベルではすまない。出力を絞り自由落下で音が響かないギリギリまで高度を落としつつ、大通りを抜けた途端に高度を上げる。気を使っていると同時に無茶苦茶なレベルの技量であった。

 「そうですか、でもすみません」

 「いいって、いいって。あの人はうちの国の誇りだからね。ほい、他には何か欲しいものはないのかい?」

 「えーと………」

 買い物よりの帰り道、むつきの手にはいつもより多めの荷物があった。アイドレスによって強化されているニューワールドでは、このぐらいの荷物でも苦にはならない。でも、現実だと手が真っ赤になってしまうと考えると、微笑みが浮かんでしまう。

 家路を辿り帰り着いた我が家ではブラウとブルーの二匹がお出迎えしてくれた。足にかまってかまってしがみ付いてくる二匹が愛おしい。

 「ちょっと待ってね~」

 手早く食材を冷蔵庫にしまって行く。残るは本日の生物を除いた夕食分の食材だけ。仕込みを始める前に猫たちの欲求を満たさないといけない。

 「ほらほら~」

 取り出したねこじゃらしを揺らし、じゃれつく二匹を見つめる。大好きな彼と猫たちに平穏な藩国。幸せを実感してしまう。

 ニューワールドで重ねた時間。嬉しいことも悲しいことも様々で。でも、そのすべてがあって今がある。だから、これからも頑張っていける。

 しばらく猫たちと遊び、「よしっ」と腕まくりをして夕食の準備へと取り掛かった。

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 帰宅したカールを迎えるのは妻と二匹の子猫たち。お帰りの口づけと猫たちの歓待を受けた後、夕餉の食卓に着く。むつきの血色は良く、回復が順調であることを示している。

 「今日はマウルタッシェにシュニッツェル、付け合わせでザワークラフトとブロッコリーと人参の甘煮よ」

 食卓に並ぶパスタ地に食材を詰め合わせたスープとカツレツ、ブロッコリーと人参が並ぶ。いずれもカールの故郷の味、ドイツ料理たちだ。共通の知人であるマシューのことなど今日の出来事を話しつつ、味わって行く。

 「また、料理の腕が上がったな」

 「そうかな?」

 「ああ」

 むつきの料理の腕は確実に上がって来ている。不思議なのはかつての母の味に似て来ていることだ。母とむつきが出会うことはない。ならば、自分の舌が覚えている母の味が、彼女と母を料理を通して対話をさせているのだろう。それはとても不思議な感覚であった。

 「いつも感想を聞いてくれるが、もうおいしい以外に評価ができなくて困るな」

 「あはは、ありがとうカール」

 「感謝している。体はすべての資本だからな」

 「旦那様の為に、毎日愛情をこめて作っています」

 えへんと胸を反らすむつき。その顔は恥じらいの為か、赤い。カールはむつきのその仕草と表情に温かいものが胸に生まれるのを感じる。

 「マシュー中尉も弁当を見て、愛情というスパイスがたっぷりだ、と言っていたな」

 「あの人は、もー」

 二人して笑いあう。口下手なカールにすれば、話題を提供してくれる妻との共通の友人の存在はありがたい。だが、それは彼女が共に戦場に赴いていたからこそ。

 ふと、気付く。今の自分たちがあるのは、今までに過ごし重ねてきた時間があるからだと。それは当り前なこと。でも、それゆえに見過ごしてしまいがちなこと。

 母はいつも父の帰りを待ち、家を守ってきた。しかし、むつきが母と同じである必要はない。むつきの料理が母と似てきても、同じになることは決してないように。父と自分が違うように。

 自分たちは自分たちなりの関係を作って行けばいい。これまでもそうして来たように。だから、今は彼女と。

 「なーに、カール?」

 「ああ、いや。その、なんだ」

 紡ぐべき言葉を選ぶカールと、それをゆっくりと待つむつき。穏やかな夕餉後の時間が流れる。急ぐ必要は無く、何気ないこの時間を大事にする。

 「むつき、久しぶりに一緒に飛ばないか?」

 そして、驚きがもたらす少しの沈黙の後、彼女の笑顔の華が咲く。

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 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

 本SSは何故、飛行デートになったのかを起点に、積み重ねた時間が生み出す甘さを自分なりに書いてみたものです。

 なお、アリアレン訓練生並びにマシュー中尉は私の創作な上、むつきさんとカールの言葉も私の脳内AIが生み出したものなので、本来のお二人とは差異がありますのでその辺りはご承知下さい。

 ニューワールドでの時間も長くなり、多くのことがありました。今後も恋人たちにとって、良い時間が重ねられて行くことを祈って、打鍵を止めます。



作品への一言コメント

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  • ぼけーっといしていた所に、このSSは不意打ちすぎます(*ノノ) 素敵なお話を書いて下さり、ありがとうございました! -- むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦 (2010-09-06 21:19:39)
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ご発注元:むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=2663&type=2599&space=15&no=


引渡し日:2010/09/06


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最終更新:2010年09月06日 21:19