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ヤガミ・ユマ@鍋の国様からのご依頼品


[食事風景2・3]


 夏の園の海辺の一角に、ログハウス風建物が建っている。
 昼や夕方、食事時が歩み寄ると、そこにはぽつぽつと人が集まり始めてくる。
 出入り口になるドアの横には、店名の刻まれた小さな看板。ランプが掛けられ、その下に立てかけてある黒板には、白やピンクのチョークで描かれた今日のメニュー。


<夕食風景2>

 日が暮れた後にヒサとヤガミはやってきた。店内のテーブルはぽつぽつと埋まっていて、二人が入っていくときにも、入れ違いで一組の家族連れが出て行くところだった。ヒサは視界の端で見送りつつ、とことことヤガミに着いていく。
 ちょうど開いた、海辺の席に案内された。

「あっち、海ですよね。すごーい。真っ黒……」

 声を上げるヒサ。星明かりがとけてわずかに青みを帯びている海が、ざあと押し寄せてくる。視界もぐいと押しのけられたような気がして、ヒサは少しだけ身を引いた。窓枠が視界に入って、焦点がずれる。
 窓にヤガミが写っていた。横顔はまっすぐにこちらに向けられている。
 振り向く。
 ヤガミがじっと、こっちを見ていた。
 慌てるヒサ。目が左右に揺れて、それから、そろそろとヤガミに向き直った。

「ハイマイルのレストランもいいが、こういうところもいいな」ヤガミが言う。
「あはは。ハイマイル、わたし入れないですっ」やや動転を引きずりつつ、ヒサは答えた。
「出せるさ。俺が」

 妙に自信があるヤガミ。何をしでかす気かしらと、本人聞いたら怒られそうなことを考えている。

 一方でヤガミは何も考えていなかった。どうにか出来るだろうという楽観が土台の、客観的に言えばはったりである。自信の理由は、本人がはったりだと思っていない事による。

「えと……ありがとです。で、でも、入場制限とかありませんでしたっけ」
 少しドキドキする。どうするんだろうという、期待と心配のまざった声。
「どうにかする」
 はったりその二。
「うん……」

 顔を赤くするヒサ。ずるい。なんとなくずるい。だけどなんでこういうときは自信があるのに、口説いたり告白したり手を握ったりそういう所はやたら奥手なんだろう。謎です。

「嫌いなものは?」
 そんな事考えられているとは知らず、メニューを開くヤガミ。
「あんまりないです。生卵は嫌いじゃないけど食べられません」

「俺は偏食を治さないとな」
「嫌いな理由にもよるかもですけど」
「単に好き嫌いだ」

 ヤガミは笑った。
 ヒサ、悩ましい顔。食べず嫌いの知り合いを思い出した。もったいないなあと、思った事がある。だけどあのときも、無理して食べさせたくないなあという気持ちもあった。ままならないのです。

 そうこうしているうちに、地中海風のオリーブオイル煮の大きな魚が出てきた。他にもクスクスと、シチューも。色鮮やかな料理が、ランプに照らされて、湯気を立てている。

「わ。豪華っ」
「肉のほうはシシカカブだがいいよな。あとは」
 少し遅れてワインも出てきた。ヤガミは短く話して、チュニジア餃子を外してハルミを持ってこさせた。

「……わりと無国籍?」首を傾げるヒサ。
「いや? どれもアフリカ北部では食べると思うが。アフリカ北部も地中海だし、シシカカブは中東の食べ物だ。ワインはイタリア。オリーブもだな」
「あ。そうなんだー。単品で食べたことはあるけど、そろって食べたことなかったから。なんだかバラバラなイメージでした」
「地中海沿岸でとれるものだけで、結構豊かにやれそうだな」

 ほうほう、と頷きつつ料理に見入るヒサ。ヤガミはそれを見て微笑んだ。
 それに気付いて、面を上げた。ヒサも微笑み返す。
「ありがと」
 ヤガミの笑みが深くなる。
「告白してもいいか?」
 心臓がばたついた。喉を落ちかけていたシシカバブが急停止して、むせそうになる。
「え、なに、なんですか。どうぞっ」
「キスもしてないのに、実は結構幸せだ」
 ほっとするヒサ。笑い返す。
「そんなの。わたしもです」
 あー、そうじゃなくてだなー。ヤガミは内心で苦笑する。
 目の前にぴっと線が引かれているのを自覚する。踏み込むか、踏み込まないか。けれど一歩の踏み出し方に思い悩み、結局ヤガミは照れて笑った。



<夕食風景3>

 日が暮れた後にヒサとヤガミはやってきた。店内のテーブルはぽつぽつと埋まっていて、二人が入っていくときにも、入れ違いで一組の家族連れが出て行くところだった。ヒサは視界の端で見送りつつ、とことことヤガミに着いていく。
 ちょうど開いた、海辺の席に案内された。

「前もこの席でしたね」
「そうだったか?」
 ソーイチロー笑う。肘をテーブルにつけて、手の平でつくった花の上に顎をのせるヒサ。にこにこ笑っているのを見て、右手がぴくりと揺れた。室内だったら迷わず頭を撫でているところだ。
「じゃあ、前と同じのを頼もうか?」
「あ、やっぱり覚えてる」
「そうか?」
 くくっと笑いながら、ソウイチローはメニューを開かずに注文した。注文を受けた娘が、少し目を丸くしつつ戻っていく。

「外食は久しぶりだな」
「そうですね」
 頷くヒサだったが、その笑みは少しひきつっている。
 まさか、久しぶりの外食のためだけに夏の園まで来るとは思っていなかった。
 ついでに言えば、まさかあの飛行機が動くとは思っていなかった。
 更に更に言うならば、途中で蒼龍に追いかけられたときは肝が冷えた。
「次は普通に来ましょう」
「普通に来てたら、夕食には間に合わないだろ」
「デートしましょうデート」
「いいなあデート」うんと頷くソーイチロー。「ついでだから、どこかで一泊していくか。明日はビーチだ」
「わあ。あ、水着どうしよう」
「そのあたりで買えばいいさ。高いがまあ、わんわんで払えるなら、共和国ほどじゃない」
「そうじゃないです。うあぁぁぁあ」

 頭を抱えて悶えるヒサ。どちらかというとぐわわわわだなと、ソーイチローは思った。ちょっと手を伸ばして、頭を抑える。むぎゅっと口にして、ヒサは止まった。そのまま撫でてみた。えへへと、顔が溶ける。こっちの頬も溶けそうだった。
 いけない、人前人前。最近引きこもりがちだったのが良くないなと、少し反省する。これからはもっと頻繁にデートに、違った、外に出よう。そうしよう。心の中で頷くソーイチロー。
 息を吸うようにいちゃついてると、地中海風のオリーブオイル煮の大きな魚が出てきた。懐かしさに、頬がほころぶ。あのときはまだ、どうにも煮え切らないことが多かったなと思う。まあ勲章も仮だったんだが。
 ああ、そうだ。思い出した。心にメモを書き留める。

 クスクスと、シチュー。メニューが並んでくるにつれて、ヒサは小さく笑い出した。
「わ。豪華っ」
 言って、こちらを見上げる。期待の色に眼が輝く。
 ソーイチローはにやりと笑った。
「肉のほうはシシカカブだがいいよな」
 一秒の間。
 くっと、吹きだした。二人とも肩を揺らしている。肌を撫でる湯気がくすぐったい。
 ハルミとワインも届いたところで、二人は食べ始めた。空腹の胃にじんわりと味が染み渡っていく。
 腹が膨らんでいくと感じてきたところで、ソーイチローは口を開いた。
「告白してもいいか?」
 ぴくりと、ヒサは面を上げる。機敏に反応してから、「どうぞ」と言った。
「キスもしてないのに、実は結構幸せだ」
 ヒサはくすくす笑った。
「そんなの。わたしもです」
 ソーイチローは微笑する。
「ああ。だが、キスもしたいな」
 ヒサが眼を丸くした。ソーイチロー、内心ではふははは。今日の俺は昔の俺じゃない。
「……わ、わたしもです」
 眼が蕩けそうになっているヒサ。ソーイチロー、内心のふはははが止まる。今すぐ抱きしめたいと体がざわつく。
 けど流石に、料理とテーブルに挟まれていては。この距離がもどかしい。
「ま、まあ店を出てから、だな」
「で、ですね」
 けれど昔よりは、ずっと近い。
 かつて見えた境界線が、今はない。あれは気のせいだったのだろうか?
 いや、そうじゃないか。
 昔と距離は変わらない。けれどこうして、簡単に近づけるようになっただけ。
「ああ。今日はなんだかいい日だな」
 ソーイチローは笑って、残りの食事に手をつけ始めた。
 なんとなく満足そうにされて、えへへと笑うヒサ。それならと、彼女の中でむくむくと空想が膨らんでいく事に、ソーイチローはまだ気付いていない。そのせいで、店を出てからホテルを見つけるまで結構な時間が必要になるのだが、それは別の話である。



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引渡し日:2011/02/21


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最終更新:2011年02月21日 20:44