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『ウイチタ 更紗の休日~akiharu国観光編~』


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“出掛けるぞ。仕度をしろ”
“え、えぇ?”


副官をデートに誘う準竜師の図。


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その日、私ことウイチタ 更紗は久しぶりの休日を、ゆったりと楽しむつもりだった。
少し遅い朝食をとっていたその時、多目的結晶に連絡が入った。
用件だけを伝えると、一方的に通信を切られる。
いい加減に慣れはしたが、ついため息のひとつも漏れてしまうのはしかたがない。
急いで仕度をすることにする。


少し悩んではみたものの、あまり飾り立てるのもわざとらしいかと思い無難なところでインディゴブルーのソフトジーンズにシルバーグレイのカットシャツと決める。
ためしに髪をまとめてポニーテールにしてみたところ、これはなかなかイイカンジ。
あとはお気に入りのルージュをひいて、カンペキ。よし、これでいこう。


考えてみれば、休日に誘われたことは数えるほどしかない。
ウキウキ気分で今日は一日、殴らずにすごそうと心に決める。
とはいえそんな私の気持ちに気づかれるのは、少し恥ずかしい。
はずむ心を悟られぬよう、いつも以上に澄ました顔でこう言ってやるのだ。


「休日にデートに誘うくらいの甲斐性は、まだ持ち合わせていたんですね?」



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「……ここが、目的地ですか」
「そうだ」


そこは、ひと言でいえばジャングルの中だった。
鬱蒼と茂る密林、そして得体の知れない何かの鳴き声。
そんな中、木が切り開かれてぽっかりとひらけた場所があり、そこには木造の屋台やら小屋やらが並んでいる。
視線を少し上に向けると、そこには


『ジャングル食べ歩きツアーへようこそ!』


と、まるで血のように真っ赤な文字で書かれた看板があった。
ゆっくりと中へ進んでいく勝吏の横に並んで歩く。


「あの、ここは?」
「この間、小笠原で会った連中の住む国だ。あの時は世話になったが、礼を言いそこねたな」


そう、たしかに世話になった。あの日から勝吏がほんの少しだけ優しくなったのだ。
相変わらず口をひらけばソックス、ソックスだったが、10回に1回くらいはきちんとあやまるようになった。
人が聞いたら「なんだ、それくらい」と言うかもしれないが、私にとっては大きな一歩だ。
なにせ10年近くつき合って、ちっとも変わらなかったのだから。
はじめからこれくらい素直なら。そうすれば、私だって……。


「ついたぞ」
「え。あ、はい」


つい考え込んで暴走してしまうのが私の悪いクセだ。
直すべきだとはわかっているのだが、なかなかうまくいかない。副官として、もっとしっかりしないと。


「一体、こんなところまで来て何をするつもりなんです?」
「実は前にも来たことがあってな。もう一度ワニ饅頭が食べたくなった」


直感的に、嘘をついていると思った。
いつだってそうだ。本当に大切なこと、本当に言いたいことをこの人は隠そうとする。
ここで彼を責めるのは容易い。だけど、それでは何も解決しないことも私は知っている。
もう慣れたともいえるけれど。
それでも、少しだけ寂しい。


「うまいぞ。食べてみろ」


私の沈んだ気持ちにも気づかず、近くの屋台から買ってきた饅頭らしきものを手渡してくる。
形としては、饅頭よりも今川焼きに似ているだろうか。
割って中を見てみると、挽き肉に野菜、果物も混ざっているように見える。
特におかしいところはなさそうだが、ワニを食べるというのは始めての経験だ。
少しためらいはしたものの、食べないというわけにもいかず観念して口をつける。
すると、今まで感じたことのない味が口一杯に広がった。
肉の脂なのだろうか、調味料とは違うほのかな甘みを感じる。
それが赤い果物のフルーティーな味わいと見事に調和を果たしていた。
さらにコリコリとした木の実の食感がアクセントとなってワニ肉の味を引き立てている。
すなわち、ひと言で言い表すとすれば


「おいしい」
「この国の名物だからな。輸出もしていないから、ここでしか味わうことができない」


こちらの様子に満足したのか、にやりと満足げに笑ってワニ饅頭を頬張り始める。
お互い無言でワニ饅頭を味わう。
少しだけ幸せな気分を噛み締める。


すっかり饅頭をたいらげた頃、ジャングルの奥から音が聞こえてきた。
大地を揺るがすような、人々の不安を掻き立てる嫌な音だった。
音だけではなく、本当に地面が揺れ始めたその時。密林の暗がりから黄色い雪崩が飛び出してきた。
近くにいた男の一人が叫ぶ。


「大変だ、バナナの大移動が始まったんだっ!!」


飛び出してきたのは、大量のバナナだった。
ぴょんぴょんと器用に体をくねらせ、ものすごい勢いでこちらへせまってくる。
私がホルスターから銃を取り出すよりもはやく動いたのは、観光地の店員達だった。


「藩王!オーバードーズの許可をっ」
「ムチ持って来いムチー」
「カーマーキーリーパァァンチ!!」
「アイロン、ソックスランチャーを使うぞ」
「メガネだ。メガネを狙えっ!」
「徳河先生、落とし穴ヨロシクゥ」


よくあることなのだろうか、おみやげ屋の店員やらガイドの女性やらが随分と冷静に対処しだす。
正面でぶつかり合った両者は一歩も引かず、戦いは一進一退の状況だった。


「加勢する。更紗、右翼は任せるぞ」


そういって勝吏は懐からソックスを取り出し、左手に回った。
いつだってそうだ。あの人は自分で勝手に決めて、勝手に進んでいくんだから……!
文句のひとつも言ってやりたかったけれど、それは後回しだ。
今は、目の前の敵を倒さなければ。



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酷い目にあった。
襲いくるバナナの群れと格闘しながら、隙あらばむさぼり喰おうとする勝吏。
私はその戦いに巻き込まれ、すっかり疲れ果てしまい息を乱したまま地面に座り込んでいた。
すっかり日は暮れ、夕日が沈みはじめている。
本当に疲れた。いや、疲れたなどという生易しいものではない。
前線で戦うスカウトの戦闘機動だって、これほど激しいものではないだろう。
疲れがヘンな方向に思考を捻じ曲げたのか、だんだん腹が立ってきた。
だいたい、どういう目的でこんな場所へやって来たのか。いい加減、はっきりと問いたださなくてはならない。
ありったけの怒りを込めて勝吏をにらみつける。視線の先で、彼はギーギーと奇声を上げるバナナにかじりついていた。


「いい加減に教えてください。なぜこんな場所まで来てバナナ狩りなんてやっているんですか」


こちらの真剣さが伝わったのか、バナナを放り捨てる勝吏。
こちらを見ずに、夕日を眺め始めた。
観念したように口を開く。


「最近、妙に落ち込んでいただろう」
「そんなことは、ありませんけど」
「殴る回数が減っただろう。小笠原から帰ってきてからだ」


いや、それは貴方が変わったからで、と言おうとしてやめた。
自分の気持ちを知られるのはなんだかしゃくだったし、心配してくれたというのは、その、素直に嬉しかった。


ふいに勝吏がなにかを放り投げた。
緩やかな放物線を描いてきたそれを、両手でキャッチ。


「……え?」
「思えば、損得を抜きにして物を送るというのははじめてだ」


私の小さな手のひらにおさまるくらい、それはそれは小さな贈り物だった。
「我らに『ぷれぜんと』なる習慣はない。誰が相手であろうと、媚びを売ることなどない。だが」
これほど饒舌な勝吏を見るのは久しぶりだった。ずっと昔、まだ学兵だった頃。凛子がいた時のことを思い出す。
「それはきっと、更紗によく似合う。そう思った」
これは、夢だろうか。まさかこの人から贈り物をされる日がこようとは。
変なものでも拾い食いしたのだろうか、それともソックスの嗅ぎすぎでついに頭がイカレたか。


「あけてみろ」
「は、はいっ!」


どうやら、どちらでもなさそうだ。
はやる気持ちをおさえて、慎重に包み紙を剥がしてゆく。
頬が熱いのがわかる。鏡を見たら、きっと真っ赤になった自分の顔が見られるだろう。
はたして、中からあらわれたのは純白のイヤリング











ではなく、ソックスだった。











「今のお前には、そのソックスがもっとも似合うと「結局、それか~~~っ!!!」


最後まで言わせることもなく、どこからか取り出した巨大なハリセンで勝吏の後頭部をはたき倒す。返す刀で顎にも一発。勝吏、何が悪かったのかわからない、といった表情のまま倒れて動かなくなる。


「バカ----!!!」


泣きながら走り出したウイチタ 更紗。
後に残ったのは、空気の読めないソックスバカ一人、であった。




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引渡し日:2008/02/22

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最終更新:2008年02月22日 08:03