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No.63 刻生・F・悠也様からの依頼


『大怪獣 モフカフを探せ!』


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その日、刻生・F・悠也は図書館に来ていた。


フィーブル藩国 国立図書館。
それは、その辺のコンビニでも売られてそうな一冊5にゃんにゃんの安っぽい恋愛小説から、おおよそ本とは呼べない奇っ怪な品物まで。
国の内外を問わず、ありとあらゆる歴史的文献、資料、書籍、地図などを無尽蔵にたくわえ続け、今もその蔵書量を増やし続けているというまさにフィーブルの英知の結晶と呼ぶべき場所だった。


そんな図書館の地下16階に位置する帯出禁止図書エリアの片隅に、刻生はいた。
古びた大机に分厚い本を何冊も広げて調べものをしているようだが、様子がちょっと尋常ではない。
なぜか頭は左右にフラフラと揺れていて、今にも意識を失いそうなほど衰弱しているように見える。
いったい何日寝ていないのか、目が異常に血走っている。
よく見ればまわりには栄養ドリンクのビンが大量に転がっている。食事をとる時間さえも惜しんでいるのだろう。
髪はボサボサ、髭は生え放題。普段の紳士然とした雰囲気は微塵も感じられない。


かの冷静沈着な刻生をして、そこまで駆り立てるものとは何か。
それはある女のひとことがきっかけであった。


「モフカフのソーダ煮が食べたい」


彼女の願いを叶えるために。
ただそれだけのために、彼はこの図書館の本をすべて読破するつもりでいた。


「あ、あった……!」


そんな彼に、女神はほほ笑んだ。
大量に積まれた本の中から、モフカフという記述を探し出したのである。


  ~大怪獣 モフカフについて~


そんな見出しから始まる一冊の分厚い本。
ページをめくるたび、モフカフという生き物の手強さ、恐ろしさが伝わってくる。
いわく 身の丈は雲へと届くほどに巨大である。
いわく 七つの瞳を持ち、眼光はヘビを思わせる不気味さをたたえている。
いわく 体を覆う鱗はあらゆる剣を通さず、どんな魔法をもはじき返す。
さすがに調理法まではのっていなかったが、生息地についての記述がある。大きな成果であった。


「まるで本物の化け物だな。まぁいい、捕獲だ」


さっそく船を手配するべく図書館を飛び出した刻生。
目指すは商人の国、ナニワアームズ藩国だ。


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「はぁ。モフカフという怪獣を探している?」
「そうです。この国にいると聞いてきたのですが」


ナニワアームズ商藩国 観光案内所。
多くの観光客でごった返すその場所で、案内所の男性職員を困らせる男がひとり。
ご存知、フィーブル藩国の刻生であった。
たしかにナニワアームズ商藩国の地下深くには多くの地底怪獣が棲息している。
とはいえ、それを目当てにこの国を訪ねてくる者といえば学術調査を目的にした科学者か、さもなくば一部の物好きだけだ。
わずかに苦い顔をする職員。
やたらと鬼気迫った顔の刻生を見て、観光所の職員が後者だと判断したとしてもおかしくはなかった。
それに気付いて、笑顔を浮かべる刻生。
髪はボサボサで、髭は伸び放題。おまけに目は睡眠不足ですっかり充血していたが。
その笑顔だけは、まるで恋をした少年のように純粋だった。


「……ふむ。少々お待ちください」


ため息ひとつ、奥へと引っ込む職員。
しばらくして、一冊のファイルを手に窓口へと戻ってくる。
長いこと使われていなかったのだろう、綴じ込まれた書類はすっかり日焼けしていた。
「モフカフ、モフカフ……あった。これですね」
途中のページで手を止め、内容を確認する。


「147番ゲートから下の階層へ向かってください。そこからは一直線です」
「ありがとうございます!この御礼はいずれっ!!」


最初のありがとう、の時点ですでに廊下へ飛び出している。
後ろの部分はほとんど聞こえていなかった。


三回ほど道に迷ったあげく、四回目は誰に道を尋ねようかと思案していたところでようやくたどりついた147番ゲート。
そこには小学生が図工の時間にがんばってつくりましたといった雰囲気がぷんぷんの、味も素っ気もない「ひゃくよんじゅうななばん」と書かれた看板がひとつあるきりだった。
普通なら見逃しそうだったが、そこは執念のなせる技である。今の刻生の感覚力はアイドレス的に言うならば評価値+8くらいはされていた。
そこには初老の男が待っていた。先ほどの観光所職員と同じ制服を着ている。
「おやめずらしい。ここに人が来たのは何年ぶりかねぇ」
そう言いながらヘルメットとリュックサックらしき背負い袋を手渡してくる。
「ヒモを引けばパラシュートが開くから。準備ができたらそっから飛び降りとくれ」
職員の指差す方向へと目をやると、そこには直径2メートルほどのタテ穴があった。


「と、飛び降りるんですか……?」
「あぁ、そうだよ」


おそるおそる穴の中を覗き込む。
ためしに石ころを落としてみる。


10秒 まだ下につかない。
20秒 けっこうな深さがあるようだ。
30秒 もしかして底なしなんじゃないだろうか……。


「あのう、この穴どれくらいの深さが」
「いいから、さっさと行きんしゃい」
「ちょ、押すな!うわーーー…………!!!」


容赦なく刻生を蹴り落とす観光所職員。
ドップラー効果の効いた叫びを残しつつ、刻生は文字通り、地獄の底へと落っこちていったのだった。


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「ひ、酷い目にあった」
肩を上下させつつ、そうひとりごちる。ギャグでなかったら死んでいたところである。
落下を続けたその先は、延々と広がる荒野だった。


ナニワアームズは地下に広がる国である。
砂漠の交易路で発見された巨大な地下空間を拡張、改造するかたちで今の藩国が出来上がったのだという。
地下空間の開発は今でも続けられているらしいが、地下深くには「怪獣の巣」と呼ばれる地底山脈があって作業は難航しているらしい。


「もしかして、あの山がウワサの地底山脈なんじゃ」


はるか彼方に見えている山を見ながらつぶやく。
日光も届かない暗闇の世界であるはずなのに、あたりはほのかに明るい。よく見てみればどの植物も発光しているようだった。
遠くからあんぎゃーとか、うんぎゃおーとかいったいかにも怪獣っぽい声が聞こえてくる。
これならモフカフもいるかもしれない。そう思い一歩を踏み出そうとした刻生の頭の上に
べちゃっ、と大量の液体がふってきた。巨大なバケツをひっくり返したかのような勢いだった。


「…………」


全身ずぶぬれで、目をつぶったまま鼻をひくつかせる刻生。その液体はべたべたしていて、妙に生臭かった。
顔をぬぐって目をあける。耳をすませば後ろから唸るような息づかいが聞こえてくる。
冒険小説かなにかで同じような場面を見たことがある。振り向いたその先には、というやつだ。
振り向きたくなかった。振り向いたら酷い目にあうというヘンな確信があった。
一分程の後、もしかして俺の勘違いカナ?と思って振り向いたそこには


空まで届くんじゃないかというほどに巨大で。
七つの首と七つの瞳があって。
メチャメチャ堅そうな鱗を持った怪獣がこっちを睨みつけていた。
七つの口からそれぞれ微妙に違った雄叫びを上げる化け物。その姿はまさに文献にあったモフカフそのものであった。


「ってこんなん倒せるかー!」


雄叫びを上げていたその口から、人間大の火球を吐き出し始めるモフカフ。
着弾。燃え盛る大地。平坦だった地面がどんどん抉られていく。
必死の形相で避け続ける刻生。反撃する余裕はない。そもそも武器を持っていなかった。


彼の着用アイドレスは名パイロットである。
あと整備士とかもついてるが、ロボット乗れないとただの人。ダメダメのへっぽこぴーである。
このままではジリ貧で敗北は必至。コーダとラブラブな日々は儚くも幻と消え、あぁアイドレス人生サヨナラグッバイかと思いきや。


瞳の奥のそのまた奥は。
まだ負けていないと言っていた。


ふいに立ち止まり、七つの瞳を睨み返す。
モフカフが火球を生成し、放つのを視認してから動いてもギリギリ回避が可能な距離である。だからこそ息を整えるだけの余裕があった。


「怪獣モフカフ。ひとつの身体に七つの首。武器は連射が可能な火球。ただし射程はそう長くない。発射口が七つもあるってのにひと一人倒しきれてないってことは頭が悪いか、単純に動くものに反応して撃ってるかのどちらかと判断。おまけに右側の目は視力が悪いな、反応が若干にぶい」


自分に言い聞かせるように、そして手に入れた情報を確認するようにつぶやく。
不穏なものを感じとったのか、七つの口で一斉に火球を吐き出すモフカフ。
対して刻生は回避運動をするわけでもなく、大きく息を吸って右手を空へ掲げたのみだった。


「アメショー!スタンダァァァァップ!!」


掲げた右手で、指を鳴らす。反撃開始の合図だった。


地面が割れ、一機のI=Dが姿をあらわす。
アメショー。共和国が誇る傑作I=Dである。
乗り手のいない巨人は刻生を守る盾となった。片膝をついた姿勢で、火球をふせぐ。
その隙に背面からハッチを開けて機内へ乗り込みメインシステムを立ち上げる。
損傷、軽微。事前に装備してあった増加装甲板を強制排除。
兵装指示系統、問題なし。制御系統、操縦系統にも異常はなかった。
鋭く右前方へステップ。回避と接近を同時に満たす。
敵の攻撃を告げるアラーム。首だけをめぐらせてモフカフがなおも火球を放ってきた。
全力機動と急制動を繰り返す。アメショーの左足が大地を踏みしめ、土砂と土煙が舞い上がる。
ジグザグに動いて敵へと近づく。強烈なG。慣れ親しんだ感覚だった。
刻生機は、モフカフの足元へ飛び込むと同時に反転して背を向けた。そのまま身体をひねって最後の攻撃をかわし、背中からぶつかる。
ちょうど相手の腹の部分に接触。手を伸ばして一番細い首の根元をつかむ。
腰を折り、身体を沈めて相手を肩に担ぐようにして背負い投げた。
アメショーの三倍はあろうかという巨体が、宙を舞った。


彼の着用アイドレスは名パイロットである。
あと整備士とかもついてるが、ロボット乗れないとただの人。ダメダメのへっぽこぴーである。
だがしかし。I=Dに乗った彼は、アイドレスを通じて数々の夜を越えてきた、まさしく『ただの人間』であった。


「さぁ、あとはレシピさえあればモフカフのソーダ煮を作れるぞっ」


刻生・F・悠也はウキウキしながら帰路へとついた。気絶したモフカフをずるずると引きずりながら。
その後、知恵者から「モフカフのソーダ煮などという料理は存在しない」と聞かされ、刻生はずいぶんとぐるぐるすることになるのだが……。
それはまた、別の話である。




作品への一言コメント

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  • 作成して頂き、ありがとうございます。なんかGアメショーだったり、ファンタジーだったりと笑わせて頂きました。自分の作業の参考にも為りありがたいことです。 -- 刻生・F・悠也 (2007-10-11 23:43:04)
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最終更新:2007年10月11日 23:43