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詩歌藩国様からのご依頼



 この物語には激しい視点移動が伴います。ご注意ください。
 読んでる途中で誰の視点なのかわからなくなったら、フィーリングでカバーしてください。

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“ユウタくんのお兄さんと戦えるだなんて、光栄です!”
“いい試合にしましょう”

 模擬戦前の会話


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 inou side


深夜、それは雪に覆われ眠りについた森の中を静かに走りゆく。
 地竜。無骨な機械の塊であるにも関わらず、まるで有機生命体のような動きで目標に向かっていた。


 伊能はコクピット内でセンサの類を操作、次々に現れる画面を確認し、安堵の息を吐いた。
 光学センサはこの新月の夜ではあまり役には立たない。頼りになるのは熱探知センサくらいのものだ。索敵するには心許無過ぎる気がする。個人的な趣味だが、トポロジーレーダーくらいは積んでも良いのではないだろうか。
 そういえば、須藤が熱探知センサでの戦闘データを採りたいとか言っていたような気がしないでもない。
 まぁ、外は極寒といっても差し支えない程にまで気温が下がっている。この寒さの中をジェネレーターからの放熱を隠蔽しながらの接近はまず不可能に近い。
 この状態ならば熱探知センサは効果的に働く。近付いて来る熱源を分析すれば即座に対応出来る。その意味では、伊能は安心していた。
 今現在、伊能の半径数キロメートル圏内には今回の演習相手であるユウタ兄こと地竜『黒い蜘蛛』の反応は無い。あるのは少し離れた位置で待機している今回のパートナー、竜宮機が一つだけだ。少なくとも、伊能が索敵した結果と、状況を照らし合わせればそういうことになっていた。


 それは、本当に唐突に襲ってきた。
 上からの衝撃が伊能機を貫く。
 搭載されているはずの衝撃吸収装置は、予測出来なかったあまりにも強い衝撃を受けフリーズ。各駆動系はその衝撃に耐えようと火花を散らす。しかし、伊能機はそのまま地面を抉り、腹と地面が触れ合う。コクピット内では危険を知らせるアラームが響き、メインシステムも切断寸前の状況だった。
「くっ……!?」
 すぐさま診断ツールを全身に走らせる。
 損傷、重度。
 兵装指示系統一番から二十番までダウン。バイパス形成中。複合兵装ユニット大破。左背部装甲陥没。各脚部稼働率低下。
 診断結果が映し出された画面には機体の略図が映しだされ、異常を知らせる赤い表示に埋め尽くされていた。
(まさか、一撃で?)
 この際、異常には構っていられない。すぐさま再起動をかけ、センサの類を優先的に復帰させる。
 モニタに目をやるも、暗闇が広がるばかり。熱探知センサの画面に切り替える。
 そこには、ぼんやりとしたシルエットながらも無骨な形をした蜘蛛が居た。まるでたった今起動したようにゆっくりと熱量を増大させながら。
(一体、どうやって?)
 当然の疑問が頭をよぎるが、考えたところで仕方が無い。目の前にあるもの、それが事実。
 そして蜘蛛は何の躊躇いも無く、その太く無骨な腕を伊能機へと突き刺した。


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 spider side


 突き刺した腕を引き抜き、動かなくなった伊能機を見下ろす蜘蛛。
 暗闇を張り付けたかのような黒一色に塗りつぶされたそれは、まるで夜そのもの。
 蜘蛛は、伊能機の撃破を確認すると次の目標を探すべく、索敵を開始。移動を始めた。


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 ryuuguu side


 今回、竜宮の役割は伊能の後方からの射撃。
 相手が近接戦闘を得意としていることを考えれば、遠距離射撃の効果というのは明らかであろう。
 弾幕を張り、逃げ場を潰し、動けなくしてもいい。そこを伊能が叩くのもよし、狙撃で貫くもよし。
 まぁ、いけるんじゃないかな。そう思っていた。
 しかし、そうはならなかった。
 竜宮は何が起きたのか、一瞬分からなかった。突然、伊能機の駆動系が膨大な熱量を発したと思ったら次の瞬間には機体が地面に蹲っていた。それ以後、完全に沈黙。応答は無い。どうやらメインシステムから何から根こそぎ落ちてしまったらしい。
 竜宮機の熱探知センサは伊能機の上部に不自然な熱源を感知していた。地竜そのものと同じか、それよりもやや小さい。
 まるでこぶのようにへばりついていたそれは、動かなくなった伊能機からゆっくりと離れようとしていた。
 間違いなく、ユウタ兄こと黒い蜘蛛の地竜だ。
(まるで化け物だな)
 そんな考えがよぎるが、それはそれでワクワクする。
 幸い、相手は移動しているといっても場所は把握出来ている。この程度の距離と蜘蛛の移動速度なら狙撃は容易いはずだ。
 未来位置を予測、射角、射線を修正。
 発砲。
 即座に次弾装填。


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 spider side


 蜘蛛は森の中を縫うように走っていた。次の目標の位置は大体分かっている。森をしばらく進んだ所に伊能機と同じような熱量の反応がある。ほぼ間違いなくそれだろう。
 突然、蜘蛛は何かに気づいたように身を屈ませた。腹と地面が接触し、擦れる。
 そんな蜘蛛の頭上を紙一重で銃弾が突き抜ける。
 通常兵器であればまだ射程外の距離、恐らくはロングレンジキャノンでの狙撃。
 そして再び一発の銃弾が蜘蛛に襲い掛かる。
 弾は見えた。しかし、腹が地面に付いていたのが災いした。体勢が悪く、その所為で動けなかった。
 前右脚が吹き飛ぶ。
 この距離で撃ってくること、寮機とは離れた位置に待機していたこと。これらから考えるに、相手は恐らく長距離攻撃に特化しているのだろう。まだ他にも兵装を積んでいる筈だ。伊能機より足は遅いだろうが、弾幕を張られると少々厄介かもしれない。 


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 ryuuguu side


 当てるには充分な距離だった筈だ。通常の相手であれば、当たっている。それが外れた。蜘蛛はとんでもない反応速度で放たれた弾丸を回避したのだ。
 蜘蛛が回避したのを確認する間もなく射角、射線を修正。
 撃った直後にその場から動いていないことだけを確認し、発砲。
 命中。
 熱感知センサだけでは正確な命中位置までは確認出来なかったが竜宮はすぐさま移動を開始する。狙撃後、その場所に居続けるのは賢い判断ではない。それに、近接戦闘は竜宮の望むところではない。しかし、いくら急いでみたところで追いつかれることは目に見えていた。
 恐らく、既にこちらの居場所は割れていたのだろう。接近コースが正に、狙撃され難く、その条件下では最短距離のものであった。
 竜宮機は後方からの射撃に特化した長距離砲撃仕様である。伊能が搭乗していた近接戦闘仕様と違い、兵装が多く重量もまた、その分増している。
 蜘蛛は中距離兵装の射程範囲まで迫ってきていた。
(仕方ない。迎撃するか)
 竜宮は移動しつつ蜘蛛に向き直り、それと同時に側頭部の機関砲、前足の連装ミサイルポッド、背中の複合兵装が火を噴く。
 機関砲からは弾五発に対し一発の曳光弾が、ミサイルポッドからは任意に閃光弾が放たれ、蜘蛛を明るく照らし、その姿を浮かび上がらせた。
 モニタに映し出された蜘蛛を見て、竜宮は薄く笑った。
 右前脚が無い。先程の狙撃は、致命傷にはならなかったものの、機動力を落とすことには成功していたらしい。
(いける!)


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 spider side


 ある程度接近した所で竜宮機が機首の向きを変え、機関砲と小型ミサイルを放ってきた。それを右へ左へ、ステップで回避する。
 照明弾の所為で闇に解けることは出来なくなったが、そんなことは些細なことだ。
 問題は、弾幕の厚さ。これでは背部のキャノン砲を撃ちたくても撃てない。立ち止まった瞬間に蜂の巣だ。脚を一本なくしたのは意外ときつかったかもしれない。
 それでも、竜宮機から雨霰と放たれる弾丸、ミサイルのことごとくを回避してみせる。
 竜宮機との距離は徐々にではあるが、着実に詰まっていく。


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 ryuuguu side


 竜宮は焦っていた。
 当たらない。弾の消費も通常に比べ早い気がする。弾が底をつくまで長くはもたないかもしれない。発射弾数を少し絞る。
 まさか脚を一本無くしてもここまで動けるとは思ってもみなかった。高速での移動射撃で命中精度が落ちているとはいえ、この弾幕の中をだ。並みの戦車であるならばとっくの昔に沈んでいるだろう。
 そして、少しづつとはいえ確実に距離を詰めてくるというのはどういうことなのか。改めてその運動性能と反応速度に関心してしまう。
 と、蜘蛛が視界から姿を消す。
(何処だ?)
 熱探知センサ画面を確認する。居ない。自機を中心とした2D画面に切り替える。
 居た。右後方。
 即座に制動をかけ、そちらの方に機首を向け閃光弾を放つ。
 しかし、
(居ない?)
 再び熱探知センサ画面へと目をやる。今度は右側面。自機から少し離れた位置に赤い点が示される。が、その点はほんの一瞬明るく光り、こちらへ動いたかと思うと、スゥっと探知画面から消え去った。
(距離が開いている?……え?)


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 spider side


 少しだけ違和感を覚えた。竜宮機の射撃を避けつつその原因を探る。
 弾数を絞った?所々に弾幕が薄い部分が出来ているように思う。火機の異常?それとも、残弾が底をつき始めたか?

 ともかく、隙が出来た。
 そろそろ、決めよう。

 少しの溜め。その後大きく左へ跳ぶ。
 弾幕は薄くなったとはいえ、ほんの少しだ。脚や背の装甲を弾が掠め、火花を散らすが問題にするほどではない。
 竜宮機から見て右後方に着地。距離は、少し離す。そして、竜宮機が機首をこちらに向けたと同時に再び左へ跳躍。
 先程まで居た地点に閃光弾が炸裂する。
 今度は右側面に、更に距離を取り着地。同時に機首を竜宮機に向け、一瞬の、爆発的なフルブースト。同時にジェネレーターを停止し、強制冷却。放熱完全にカットして相手の熱感知センサをだます。伊能機を潰した時と同じ手だ。
蜘蛛は動力をカットし、勢いだけでクロスレンジへと跳び込んだ。


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 ryuuguu side


(消えた?)
 センサには相変わらず反応無し。
 突然、轟音と共に機体が揺れ左へ傾ぐ。
(くそっ、何処だ?)
 コクピットの中にアラームが鳴り響き、システムが次々と落ちていく中、センサを何とか復帰させ索敵を再開する。……居た。
(右側面ゼロ距離!?)


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 spider side


 竜宮機に迫る蜘蛛。接触直前に動力を繋ぎ、バランスを取る。左前脚を振り上げ、接触。
 スピードと体重の乗った腕を装甲板めがけ打ち付ける。
 激しい衝撃に側面装甲は陥没。駆動部は火花を散らし軋んだ音を上げる。
 そのまま左へ横倒しになり動かなくなった。


 システム沈黙。
 竜宮機、伊能機、共に撃破確認。


 相手が完全に沈黙したのを確認してから、ユウタはコクピットの中でヘットセッドを外した。
 激しい戦闘機動の連続で、身体はすっかり疲弊している。体中が汗に濡れ、このままでは風邪をひいてしまいそうだった。
 <お疲れ様、ユウタ>
 「うん、兄さんもお疲れ様」
 <私が想定していたよりも、彼らはずっと強いようだね。小笠原で見た時とはずいぶん印象が変わった>
 その言葉に、ユウタは面白そうに笑った。
 当初の予想では交戦時間は半分、ダメージもほぼ無しで終了する見立てだった。
 兄は小笠原で慌てふためく彼らの姿しか知らない。戦いの中にある彼らの苛烈さを知らないのだ。


 あの日、兄と始めて会った彼らは武器も持たずにアラダを迎え撃とうとしていた。
 自殺行為だった。すくなくともユウタが生きてきた世界では、そうとられてもしかたがない。
 あまつさえ敵であるはずのアラダを助け、介抱しようとは。
 「とても、変わった人たちだよね」
 <そうだね。私達とは違う思考パターンを持っているようだ>
 兄をはじめて紹介した時のことを思い出す。
 小笠原で『ナツマツリ』というものに参加した時に『センコウハナビ』という不思議な遊び教わった。
 綺麗だった。単純に、そう思う。
 火薬に火をつけるだけの行為があれほど美しいものを生み出すだなんて、元の世界にいた頃は考えたことすらなかった。
 兄と二人でその儚げな光を見て感じた気持ちを、ユウタは生涯忘れることはないだろう。
 センコウハナビのように、弱く儚い命しか持たないアイドレスの住人達。
 ユウタに似て、戦いに向いた固体だとはけっしていえない。しかし、ユウタは彼らの中にもっと特別ななにかを感じとっていた。
 生み出す力、とでも言うべきだろうか。ただ壊すだけではないなにかを。
 「助けてあげたいね」
 <そうだね。私も彼らの行く末を見てみたくなった>
 ユウタは心の中が暖かいもので満たされてゆくのを感じた。
 兄もまた同じ気持ちでいるのだと思うと、それだけで笑みが浮かんできた。


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 ryuuguu side


 竜宮はコクピットから這い出し、自分の機を倒した蜘蛛ことユウタ兄を見上げる。
 脚が一本吹き飛び、三本の脚でで立ってはいるが、不思議と不安定な感じには見えない。それでも、この状態であの弾幕を避けきったというのだから、ユウタ少年の操縦技術の高さには舌を巻かざるを得ない。
 それに、自分の腕の未熟さもあったのだろう。
 寒い。とりあえず、早く回収してもらって暖かいココアなりコーヒーなりを飲みたいものだ。
「伊能、生きてるか?」
 携帯用の通信機を取り出し、開始早々に撃破された伊能を呼び出す。少しの間があり、やがて返答がある。
『あぁ、何とか。終わったのか』
「脚一本落としたんだがな。やられたよ」
『よくやったんじゃないか。数秒でやられるよりはマシだ』 
「今後、実戦で今回のような相手と遭遇しないことを祈るよ。これじゃプレステがいくつあっても足りないからな」
『あぁ、全くだ。とりあえず、早く須藤を呼んでくれ。近くに待機しているんだろう?』
「その筈だ。今ので採取したデータをまとめるのに我を忘れていなければいいんだがな」
『そんなもん後にさせてくれ。システムが復帰出来なくて暖房つかないんだよ。寒いんだ早く回収してくれ』
「まぁ、善処はするよ」


 結局、須藤が二人を迎えに来たのは一時間程たった後だったそうな。
 そして、良いデータが取れたと満足気な須藤を、竜宮と伊能は罵りつつ、どつきつつ帰路に着いたという。



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最終更新:2007年10月21日 23:26