カイエ@愛鳴藩国様からのご依頼品
…ええい、しょげていてもしょうがない、なっこーなっこー最強のこー!
斎藤は気を取り直し、ずっとついていてくれた人に礼を言った。よくしてくれる人にはお礼ですー! まずはそこから!
「あ、ありがとうございます。えーと」
「いいのよ、なっこちゃん」
相手は微笑みながらこちらをいたわる。いい人だな。こんないい人が悪い人のはずがありません。英吏さんも話せばきっとわかってくれます!
思いながら、ずっとさいぜんから気になっていたことを、聞いてみる。えっとえっと、最初から親しげに話し掛けてくれてるけど、この人は、ううんこの人たちは―――
「どなた、ですか?」
そこでミーアは初めて気付いた。
「そうか、あなたは始めて会うなっこちゃんなのね」
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~祭囃子:中編~
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内心足をガクガクさせながら火足は英吏とその雷電・クイーンに向き合っていた。あくまで話は通じさせなければいけない、自分が傷つくことは、相手にとっても自分たちとの友好関係を結ぶ可能性を摘むことだから、なんとしてでも会話でことを収めなければいけない。
やっと状況がわかり始めていた。
この斎藤奈津子と芝村英吏は愛鳴藩国に逗留している彼らではない。
理由はわからないけど、でも、とにかくそうだ。
そうらしい。
違うけど、でも、同じだろう。思ったから、言葉を搾り出しながら、言った。
「英吏さん。あなたの方が、絶対的に優位です。私達は結局のところ英吏さんを消してまでわがままを通したくない。
ただし、愛鳴藩国にいる奈津子さんはどう思われるでしょうか?」
「意味不明だな。まあいい」
火足の言葉をにべもなく切って捨てる英吏。
こ、言葉が足りなかったか?
火足は一瞬怯みながらもそこからどかない。
「い、意味不明ですけど、べ、別に争わなくても」
「お前も敵になるか?」
斎藤のフォローも、今の英吏には届かない。冷たい言葉にさらされ、斎藤はまた泣きそうになっている。
あああ、もー…!
さっぱりまとまらない状況に、火足、なっちゃいやー、と目で訴えかける。
そんな彼の内心の焦りを知ってか知らずか、英吏はゆっくりと口を開き、油断なく構えながら火足に言った。
「俺が自分で帰る方法を教えろ。まずは、そこからだ」
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遠く、祭囃子が聞こえる。夜はますます深まりを見せ、そこに興じている人たちは相変わらず賑やかしい歓声を立てている。きっと屋台でも、新しい具材を補充して、安物のプラスチック製のパックに熱々の料理をよそい、山ほどそれを積み上げていることだろう。水風船に、ピロピロに、輪投げに射的に金魚掬い。大物の景品はまだ残っているだろうか、誰かにとられちゃったりしていないだろうか。
…まだ、お祭り一つも見てないな。亜細亜はそんなことをふと思った。
英吏さんと一緒にお祭り見たかった。
ぎゅう。
膝を抱えこんで、何も見ないように座り込む。
駄目だ。
だめ、だめ、だめ、だめ。
もう会えない。
きっと会ってくれない。
「…亜細亜ちゃん、もう会えないなんてことないよ。もう一度、ちゃんと話したいでしょ?」
声がする。
「……」
駄目だもん、と、思う。
隣に誰か、しゃがみこむ気配がした。その人が言った。
「現実に駄目ならしょうがないけど、駄目だと思い込んでしまっているだけの場合もあると思うよ」
違う。
だって。
だって、英吏さんには…
「……奈津子さんいるし……」
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説得されて戻ってきてみれば英吏たちはいなかった。よくわからないけど聞くところによるとなっこちゃんが英吏を気絶させてクイーンと一緒にどこかへ行ってしまったらしい。
気付かれた、と思った。
戻ってきた時、ちょうど先生が、入れ替わって…とか、そんなことを口にしてた。
悪いことしたのが見つかったと思ったら、気持ち悪くなって、ぐるぐるして、いつの間にかテントで横になっていた。少し帯をきつくしすぎて、と言ったら信じてもらえた。いい格好をしようとしてきつめにしめていたのは本当だから、少し罪悪感がまぎれた。
なんでか誰かに謝られた。なんでだろう。
外で、先生と、先生の奥さんと、火足さんが騒いでいるのが聞こえた。風が吹き込んできたので、テントの入り口が開いたんだなとわかった。目には濡れタオルを乗せていたので、見えてはなかったけど。
「亜細亜ー。だからそこまでしめないほうがいいってー」
仕方なさそうに笑う、先生の奥さんの声。
「ま、ちょっとでも細く見えたいのは分かる」
気付いてないのかな、と思った。怒られると思ったから、おそるおそる、タオルを外して先生の奥さんの顔を見た。
先生の奥さんは、せっせと私の腰元を見ながら帯を緩めていた。
「少し緩めてあげるね」
じ…っと黙って、介抱を受けた。
目の端に、涙がにじんだ。
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どー、にか、
こーにか、
英吏に納得してもらって、まあ、その、なっこちゃんが英吏を窒息させるというアクシデントはあったけど、無事に場を収められた。
火足はほっとしながら吹雪先生のアキレス腱の上に腰を落ち着けた。
下から聞こえる悲鳴を聞きながら思う。なんだかんだ英吏もお年頃だなー。いや、この場合はなっこちゃんがお年頃かな。好きな人の時間、なんて、誰にも分けてあげたくないし、だから教えさせなんてしたくないよねえ。
それに引き換えこの人は、どうして別物の英吏たちが来たか考えてるのに、言うに事欠いて…
「愛鳴藩国の英吏とかが死んでるとかどうですかね」
なんて、亜細亜ちゃんの帰ってきたその場で言うなんて!
そんなわけで関節技をかけていた吹雪(奥さん)の後を引き継いで吹雪(旦那)へとアキレス腱固めを繰り出したわけだが、亜細亜ちゃんはあまりのショッキングな会話にひっくり返ってしまっていた。
帯もきつかったみたいで、後で奥さんの方の吹雪さんに緩めてあげてもらった。
なっこちゃんたちの方も気になったけど、赤星さんがいったから大丈夫だと思う。それより、亜細亜ちゃんははまだしばらく動けないみたいだから、こっちに向かってきているという愛鳴藩国逗留の方の英吏たちを迎えにいかなくちゃ。
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小笠原の小さなリゾート用アイランドでのことなので、神社から船着場まではすぐだった。カラコロペタペタという舗装された道を行く足音が、カッコカッコと桟橋の上を歩く音に変わる。遮る電飾のない海辺で見る夜空は、星明かりでほんのりと白い。
海の方を見守っていると、ぼう…と、海上にうっすら灯りが見えた。船影だ。それがゆっくり桟橋の方へと近づいて、渡航便に乗ってきたものたちが、錨を下ろし、綱をくくりつけ、そうして渡された板の上をこぼれ出てくる。
「…出迎えなどしなくてもよかったが」
こちらの姿を認めた英吏の第一声はそれだった。隣には斎藤もくっついてきている。先ほどまで彼らが見ていたもう一組の姿とまったく変わらない。ついてきているクイーンまでそっくりそのままだ。
第二次黄金戦争で、同じキャラクター同士が遭遇するとろくなことにならないと学習していた一同は、何事もなかったかのように装うことに決めていたので、愛想良く彼らの船旅をねぎらった。だが英吏は急にあたりの様子を伺った。
「クイーンの声?」
ぎく、とする。
みんなの耳には何も聞こえなかったが、四六時中一緒にいる山岳騎兵の耳にはパートナーである動物兵器の声は特別よく響くらしい。当然ここにいるクイーンが鳴いて遠くに声だけ飛ぶわけがない。しまった、と思った。
「2人ともおつかれさまー ヒオさんからお手紙もらってきたんだよ」
揃って顔を見合わせている斎藤と英吏の元へ、ぱっとミーアが懐から二通の手紙を出した。居合わせたみんなが内心でほっとする。自らの相棒を任じるものからの遠慮のない手紙に英吏は苦笑し、斎藤は親友を名乗る相手からの応援に顔を赤くした。
「今度お返事書いてあげてよ」
ミーアはにっこりと言った。英吏は相槌を打つ。
「そうだな」
逐一状況をこっそり連絡されていた火足は、うんうんうまいぞミーアさん、と心の中でガッツポーズ。
「それはそうと」
「なあに?」
「はい?」
英吏に何気なく相槌を返したミーアと脚立の声が重なる。
英吏の声が、探る鋭さを帯びた。
「なんの理由があって足止めをしている?」
火足は一言一句、聞かされながら思った。
バレてるー!
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-The undersigned:Joker as a Clown:城 華一郎
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引渡し日:2007/
最終更新:2007年10月26日 16:01