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玄霧@玄霧藩国様からのご依頼品


~火焔とコガと月子と俺ら外伝  俺らと川と沼と主~

酒と霧の国、玄霧藩国。
古来より、「上質な酒は上質な水によって造られる」の言葉が示すように、
酒と水とは密接な関係があるとされてきた。
そしてその言葉に違わず、ここ玄霧藩国の水も、
にゃんにゃん共和国に広く知れ渡っている名水なのである。
上質な水を糧とするのは人だけではない。
水はすべての生命の源であり、豊かな水資源は多くの魚類を育む。
よって、玄霧藩国では様々な種類の、しかも肉厚で味の良くのった魚が釣れるのである。

「と、いうわけだ。わかったかねワサビーム」
落ち着いた物腰できめ細やかな長髪をなびかせ振り返るのは、藩王玄霧その人である。
「いや、魚がたくさん釣れる国だってのは知ってるって。
…それと俺たちがこうして釣り竿かついで歩いているのにどういう関係があるんだよ!」
答えるは猫野和錆。玄霧藩国の名技師にして、マッドサイエンティスト。
翌日に控えた月子との大事な大事なWデートを前にして釣りに呼び出され、
彼はいささか緊張していた。というか俺はなんで釣りに来ているんだという顔であった。

「今日はここのヌシを釣るぞ」
和錆の疑問は華麗にスルーし、早くも目的を告げる玄霧。
「それ、今回の役に立つのかよ?」
当然の反応である。
何故明日も釣りをするというのに道なき道を分け行って、
しかも主などを釣りに行かなければならないのか。
それならば当日着ていく服や、弁当の下ごしらえをしていたほうがましなのではないか。
そんな和錆の考えを見透かしたかのように、玄霧は言った。
「ばかもの、今回の我々は釣りにいくのだ。
ここで釣りの腕を磨いておけばキミ、月子だって悪い気はしないのではないかね?
……いや! 釣らなければ、月子はオマエに振り向いてなどくれんなっ!!」
和錆「マジで!?」
玄霧「マジで」
和錆「やるっ! やってやるっ! うぉおおおおおおおっ!!」
勢いよく熱弁をふるう玄霧。和錆もそんな彼の勢いが移ったのか、
それとも、月子の名前を出されては発奮しないわけにはいかなかったのか。
いずれにせよ、ここに二人の熱意溢るるアングラーが誕生したのであった……!


「FISH!」
30cm台の、よく肥えたヤマメを釣り上げる和錆。
斑紋も鮮やかな、かなりの上物である。
最初は乗り気ではなかったとはいえ、中々に釣りは上手いのがこの人物であった。
「「お見事ですにゃーん!」」
釣果と引き換えという約束で荷物を運ぶ猫士たちが喜びの声を上げる。
「まだまだぁ!明日は月子さんにこれ以上の大物をプレゼントするんだからな!」
声を張り上げる和錆。愛情は人の隠れた才能をも引き出すのであろうかというほどの気迫である。
そしてその様子を腕を組み見つめる玄霧。
こちらもかなりの大漁であった。が、
「よし、小手調べはこれくらいでいいだろう。次はいよいよ本番だワサビーム」
立ち上がる玄霧。
「……そうか。やっぱりこれくらいじゃあ月子さんは満足してくれないということだな!」
同じく立ち上がる和錆。その瞳に宿る炎は未だ消えていない。
「え?まだ釣るんですかにゃ?」
正直今まで釣り上げた分だけでもおなかいっぱい、もう帰ってお魚食べたいにゃー
などと考えていた猫士Aが素っ頓狂な声を出す。
「……ああ。むしろこれからが本当の『釣り』だ。覚悟をしておいてくれ」
真剣な面持ちで話す玄霧。藩王会議でも見せたことのない真面目っぷりであった。
「そうですかにゃ…じゃあ、ニャーたちが持ってきたこの荷物も…」
「そう、主を釣るのに使う。」
荷物。
今回の釣りに同行した猫士は総勢20名。その全てが小脇に何らかの荷物を抱えていた。
小型の砲のような形のものから、数人で抱えなければならないほどの大きさのものまで、
実に多様な荷物であった。
「(…そういえばこの中には何が入っているのかにゃ?)」
こっそり自分の荷物を覗きこむ猫士B。
その瞬間。
「に゛ゃーーーーーーーーーーーーー!!!??」
突如悲鳴を上げる猫士B。彼の首には、不格好なマフラーのように巨大な何かが巻きついていた。
「く、くるしいにゃ……」
慌てて駆け寄る玄霧・和錆。
「いかん!ワサビーム!」
「おうよ!」
懐から取り出すはマッドサイエンティスト7つ道具が1つ、無副作用局所麻酔薬とその注射器。
それを素早く「何か」に突き刺す和錆。
数瞬の後、マフラーは動きを止めた。
「けほけほ…なんなんですかにゃこれはー!?」
どうにか無事にこちらの岸に踏みとどまれた猫士が悲鳴を上げる。
「見ての通り、主用の釣りミミズだ。サイズはちょっとでかいがな!」
かんらかんらと笑う玄霧。
その餌は通常のミミズと比べても「でかい」などという表現で間に合うものではなかった。
「……俺たちがさっきまで釣ってた魚の数倍はあるぞ、この餌」
驚きとも感嘆とも取れる呟きを漏らす和錆。
実際、このミミズのサイズはおよそ2m。人間よりも大きかった。
「主のことを考えると、このサイズが一番適切なんだ。小さすぎる餌には寄ってこないからな」
「ええっと、この大きさの餌を食べる魚がいるってことにゃから…」
あわあわという顔で震えだす猫士たち。無理もない話だ。
「まあ、10mは最低でも下らないだろうな」
冷静に考えを述べる和錆。
「じゅ、10mの魚にゃんて…」
わなわなと身震いする猫士。
「どうした。怖くなったらここまででもいいぞ?後は俺たち二人で何とかs」
「「「ぜひともお供しますにゃん!」」」
「ははは、それでこそ我らが玄霧藩国の猫士だ。楽しみ方を心得ている」


先ほどまでの釣りポイントからさらに歩くこと小一時間。
あたりには人の姿はおろか、獣の気配すら感じ取れない。
「何と言うか、いよいよボス戦って感じだな」
素直な感想を漏らす和錆。その感想は、あながち間違いではなかった。
先行する猫士の表情も次第に硬くなってくる。
そしてようやく、目的の沼が視界に入った。
「お魚を釣りに行くのにこんなにドキドキするのは初めてだにゃ……」
心ここにあらず、という様子で草を分け入る猫士。
「! 猫士G君そこでストップ!」
強い語調で静止する玄霧。
「…?どうしたんだ。主のいる沼はもう見えてるというのに」
玄霧に並んだ和錆が尋ねる。
「だからこそ、だ。魚というものは実に警戒心が強い。
渓流に棲む岩魚等は、水面に人影が写りこんだだけで警戒して餌を食べなくなる。
ましてや相手はこの沼の、ひいては玄霧藩国魚類の主だ。
猫士G君のいる位置から一歩でも先は、もう主のテリトリー。
我々の足音が反響するのを聞きつけたが最後、今日中にやつを釣り上げるのは不可能になる」
「なるほど……流石は主、というわけか。
だがどうするんだ?俺たちの手持ちの竿じゃああの沼にキャスティングなんてとてもじゃないが出来ないぞ?距離が足りない」
鋭いまなざしで沼を見つめる和錆。
確かに、彼らが使っていた竿ではこの距離は埋められないようだ。
「そこで、今週のビックリドッキリメカだよ!さあ猫士クン達重い荷物をわざわざありがとう!
ここで全ての包みを取り去ってくれ。そう、全部だ!」
玄霧の号令に合わせて包みの中身を取り出す猫士たち。
「これは……筒かにゃ?」
1人の猫士が声を出す。確かに、彼がここまで運んできた荷物の中身は
黒く光る円筒のようなものであった。
どの猫士たちも大きさは違えど、似たような形の円筒を運んできたらしい。
「よし、全員包みを開けたな?では今度は組み立てだ。
指示どおりにその筒を組み合わせていってくれ。」
再び号令を発する玄霧。
様々な形の円筒が、着々と組み立てられていく。
そして。
「……出来たようだな。
これこそ、対玄霧沼主専用釣兵装、『玄竜』!
科学と自然の粋を集めた我が国の、国王専用釣り竿だ!!」
胸を張って釣り竿の紹介に移る玄霧。
その横では猫士たちが
「(また勝手にこんなもの作って…)」
「(いったいこれを作るためにニャーたちのお食事代がいくら差っぴかれているんだにゃ…)」
という恨み節を述べている気もするが、そんなことはお構いなしに餌をセットする玄霧と和錆。

『玄竜』。
国土の中でも特に確保された竹林で、雨期を待たずに生えてきた最高級若竹の
最も弾力性に富んだ部分のみを切り取り、竿の基礎部分に使用する。
それだけでは強度が足りないため、継ぎ目と継ぎ目の補強には
同じく国土で最良の漆を用いる。
これが玄竜の原型である。
これをさらに最先端の科学技術でコーティング、軽量化を行い、
仕上げに呪法による祝福を授け、35段階全長50mの超巨大ロッドが完成するのである……!
何たる無駄遣い、何たる娯楽専用品。
だが、この沼の主との対決には、これでもなお確実な勝利は得られない。

「さあ、いよいよ主との戦いだ。気を引き締めていくぞ」
薄く笑いを浮かべる玄霧。彼はこの戦いを心底楽しんでいるようであった。
「……それはいいんだが。
なんで俺、お前、猫士たち全員で釣り竿担いでるんだよっ!」
声を張り上げる和錆。その後ろでは猫士×20が大変そうな顔をして体をプルプルさせていた。
「……だってだって。50mもある竿、俺一人で持てるわけないじゃない」
「なんでそんなもの作ったんだよ!」
「……趣味?いや、ホントはI=Dに釣り竿を持たせようかと思ってたんだけど、
駆動音で気づかれちゃうからさー。結局こんなことになっちまった。」
竿を抱えたまま喚く2人。
「い、いいから早くしないともうもたないですにゃー!」
「よし、ではキャスティングに入る!」
轟音をあげて唸る玄竜。
それとは対照的に、餌となった巨大ミミズは極めてゆったりと、
まるで羽が水面に舞い降りるかのように静かに水中へと消えた。
「……キャスティングは成功、着水も実にいい。」
満足げな玄霧。
「……まあ、確かにいい竿みたいだな。重いけど」
「次は合わせだ。やつが食いついた瞬間を逃すな。
タイミングは俺が支持するから、一気に引き上げるんだ」

30分後。
「お、重いにゃ……」
疲労がそろそろ限界という表情の猫士たち。
「やつはかなり用心深いようだな。持久戦になるかもしれん」
「……とりあえず、明日のデートには間に合うようにしたいぞ」
と、その時。
「! よし、今だ!全力で竿を立てろ!」
玄霧の合図で垂直に近づく玄竜。上手く合わせは成功したようだ。
「な、なんて引きの強さだ……!これが主か!」
興奮気味に話す和錆。確かに、彼がこれまでに釣り上げたどの魚よりも、
この引きは強く、そして気を抜くと自らの命までもが
沼に引き込まれるのではないかという焦燥感が、彼の心を掻き立てていた。
「これが、これこそが釣りだ」
人と魚とのまさに死闘。
「き、きついですにゃ……さっきの麻酔とかを打ち込めば早いんじゃないでしょうかにゃ……」
「いかん。それは釣りの美学に反する。
あくまでも己の腕と竿のみで勝負してこそ、主との勝負に値する」
「……出過ぎたことを申しましたにゃ。忘れてくださいにゃ」

そして1時間。
「……どうやら、決着が近いらしい」
額に汗を浮かべて水面を見る玄霧。
確かに、主の動きは目に見えて緩やかになっている。弱ってきているのだ。
「次に奴がこちらに移動した時が好機だ。そこを狙って一気に引き上げるぞ!」
猫士に発破をかける和錆。彼自身もかなり疲れてはいるのだが、
医者として弱っているものを見過ごしてはおけないのであった。
事実、彼に声をかけられたことで、猫士たちは再び活力を取り戻したようであった。
「「はいですにゃ!」」
「よし、いい返事だ!」
そして、その時は来た。
持続的にかけられる力についに抗えなくなったのか、
向きを変えこちら側へと体制を変える主。
「!! よし、一気に引き上げろ!」
号令を飛ばす玄霧。沼の主がその顔をついに水面の直上に上げる。

こちら側を真正面に見据えて。

「こ、これは!まずい!全員横へ跳べええええええーーーー!!」
声と同時にわけもわからず飛びのく猫士たち。
ほぼ同時に、先ほどまで彼らがいた場所を強烈な水流が襲う。
鉄砲。
本来ごく一部の魚類しか持たない「口から水流を吐き出す」という機構を、
この沼の主は備えていた。
そしてその威力は主のサイズに比例し、比類なき強さとなる。
叫び声のような音を立てて折れる大木。
一歩間違えば、彼らも同様の運命を辿っていたことだろう。
水面から顔を出す主の顔が、笑っているかのように見えた。

「だが、そこまでのようだな、主よ」
口の端を吊り上げる玄霧。
「ああ、どうやらそれが切り札だったようだが、俺たちには通じなかったな」
目は前を見据えたまま、ぺろりと唇を舐める和錆。
「そして、今お前はそのでかい身体の半分を自ら水面に上げている」
「斯様な好機、我々が見逃すと思うてか!」
「総員、己の魂を竿に込めて高く掲げろぉぉぉぉおおおおーーーーーー!!」
その一言で、全員の瞳が輝き始める。
「火焔/月子のためなら」
「「「エーーンヤコーーーラアアアアアアアーーーーー」」」
全員の舟歌の合唱が終わるころには、主の体の全てが、陸地へと打ち上げられていた。

「見事ダ。人ト猫タチヨ」
全てを諦観したかのように、主が話し始める。
「……口がきけるのかよ!」
驚き声を上げる和錆。
「まー俺たちよりずっと長生きだしな、てかもう魚神族クラスなんじゃねーかな」
「斯様ナコトハ些細ナコト、我ハ勝負ニ敗レタ。
サア、好キニスルガ良イ」
落ち着いた様子で話を続ける沼の主。
「中々ニ楽シキ戦イデアッタ。最早思イ残スコトハナイ」
「……主よ。我々は貴方の命を奪いに来たわけではない。」
告げる玄霧。えっ!という顔で一斉に猫士たちが顔を見合わせる。
「猫士君たちには非常に済まないんだが、今回は明日の練習に来ただけであって、
主を釣り上げて食べるつもりではないんだ……だから小手調べの時の魚で我慢してくれないか」
「……にゃにゃー。ニャーたちもお話しできる相手を食べちゃうのは気が引けるにゃ。
今回は我慢するにゃ」
「わかってくれて嬉しい。・・・・・その代り今晩の食事は腕によりをかけて御馳走するからな」
猫士たちを説得する様子を眺めていた主が口を開く。
「……我ヲ食サヌノカ」
「今回は貴方との勝負を楽しみに来ただけだ。な、ワサビーム」
「ああ。貴重な体験をさせてもらった」
満足げな表情でうなずき合う玄霧と和錆。
「左様カ。……ダガ、コノママ汝ラヲ帰スノハ我ノ気ガ済マヌ。
何カ望ミハナイカ。我ニ叶エラレル範囲デナラ、ダガ」
意外と律儀なのか、礼儀に厚い主。
「じゃ、じゃあ月子さんとの縁結び!なんてのは」
興奮してまくしたてる和錆。予想外の申し出に気が気ではないらしい。
「……流石ニ人ノ感情ハ我トテドウニモナラヌ。当人ノ努力ニヨルノミ……。
仮ニ我ガソノ者ノ心ヲ操ッタトテ、ソレハ偽リ。汝モ望マヌ事デアロウ」
「だ、ダメか…まあそうだよな!うん!月子さんのことは自分で頑張るわ!」
肩を落とす和錆。しかしもう吹っ切れたのか、
「じゃあ、明日の釣りが大量でありますように、なんてのはどうだ?」
「うむ、大量じゃないと火焔に海の幸を御馳走できないからな」
頷き合う二人。
「ソレナラバ容易キコト。願イ、聞キ届ケタ。」
そう言うと俄かに集中し始める主。体が淡く光り始める。
「こ、これは……?」
「言葉だけじゃなく魔術もできるのか。素晴らしいな」
そしてその燐光は、二人に纏われる。
「……之デ良イ。汝ラニ祝福ヲ。」
「ああ、なんかいくらでも釣れそうな気になってきた。主よ、感謝する」
「デハ、去ラバダ」
そう言うと体をくねらせ沼へと帰る主。もう姿も見えない。
「……すごい釣果だったな。あ、マントの義手が片っぽもってかれてら」
まだ信じられないという表情の和錆。無理もない話であった。
「さあ、帰るぞ。明日の料理の下ごしらえもあるからな」
一仕事終えた顔でほほ笑む玄霧。
一同の顔から疲労感は消え、翌日のことを想い笑みが消えなかったという。



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最終更新:2007年11月01日 16:21