NO.112 青狸さんからの依頼
結城火焔は少年のような少女である。
彼女は直情径行で人から見るとバカとしか見えない、思春期の男子の様な事をやるが、そういうことでしか上手くコミュニケーションをとることが出来ないような娘である。
またそうである自分を恥じている。
勘違いだとか、子供っぽい怒り方だとか、つい出てしまう自分の反応で恥ずかしがったり、凹んだりしてしまう。
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だから・・・・、
待ち合わせ場所に相手の姿を見つけられなかった彼女の顔は蒼白に染め上げられていた。
待ち合わせ場所として使われている一角に結城火焔は立ちすくんでいる。
辺りにはハロウィンということでかぼちゃの仮面や魔女風の衣装に身を包んだ男女や、家族連れ、小学生のグループが集まっている。
傍らのコガは横になって大きな欠伸をしており、待ち合わせ場所で友達を待っている子供達からの好奇の視線を一身に受けている。
コガは火焔が拗ねない程度に軽く尻尾を振ってサービスしている。
遊びに来たつもりでこんな事になるとは考えていなかったのだろう。
どうすればいいのか、思い浮かばず・・・。
「・・・・・すっぽかされた・・・?」
呆然と立ちすくむ彼女の頭に最悪ともいえる思考が流れる。 今日の相手はそれなりに気が合いそうな子だったので、楽しみにしていたのに・・・。
人に裏切られるという想像は彼女にとっては大きな衝撃であった。
さっきまで楽しさのあまり待ち合わせ相手を置いて、祭の只中に突撃しようとさえしていたたはずが(※注1※ 「突撃しようとした彼女はコガがなだめました。」)、
視線を下に向けて、この世の終わりのような顔をしている。
傍らのコガは、何だ?といった感じで火焔を見上げると、その様子に気づき軽くため息をつく。
(※注2※ 「実際は待ち合わせ時間までは、まだ十数分あるのだが周りで待ち合わせしている人たちが次々と仲間同士で固まっていく様を見て、不安に駆られた上での思考である。」)
―――――――――バウッ!
「え! な、何!? あぁ!ちょっと!! なに?・・・え、時計!?」
吠えたのはコガ。
前足を彼女の腕にポン置き、器用に掴んで腕時計が視界に入るように促す。
(火焔は時計の文字盤をじっと見ています・・・。)
結城火焔は時計をしばらく見言っており、次第に肩をふるわせ始める。
そして今度は顔を真っ赤にしてコガを見て怒り出す、逆ギレである。
「だってっ!! しょうがないじゃない!! うぅー・・・・・・あ、ほら!!こんなに混んでるんだし・・・・、そうだっ! ひょっとしたら迷子になってるかも知れないじゃないっ!!」
そうだ。そうに違いない、といった感じで大きく頷いている。さっきまでこの世の終わりのような顔をしていたくせに、今度は弟を心配するお姉さんのような顔で拳を強く握り締めている。
コガはそうだな、といった少しあきれた様子で軽く息を吐いて体を起こし、早くも迷子預かり所へと駆け出した火焔の後を追う事にした。
「ほらっ!! 早くっ!! 」
制服姿の火焔が振り返り、コガに向かって叫んでいる――――――――。
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彼女を知る者からすればそんな所も彼女らしい魅力であるともいえるが、彼女の天真爛漫さ(バカともいう)に拍車をかける要素のひとつであることは間違いない。
でも、そういう正直な反応が彼女の魅力だと思う・・・。
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その日を終えて・・・、
結城火焔はため息をついていた。
ハァ・・・、
自分は彼の言うことを信じた、、、はずだ。
ただ、納得が出来なかっただけ、、、だと思う。
だって、突然のことだったし、まさかアレが急にああなるとは全く思っていなかった・・・。
ため息をもう一つついて、今度は少し起こった表情になる。
ハァ・・・、 ん!――――――――いや、ちょっと待てっ! あんな事になってるなんて普通想像出来るわけないじゃないか!!
だって、あんなに可愛かった青狸が・・・・・・。
火焔は顔をコガに毛皮に埋めている。不貞腐れているというか、恥ずかしがっているというか、自己嫌悪というか、とにかく複雑な心境でぶつぶつとつぶやいている。
コガは火焔にされるがままに毛皮を掴まれており、何も言わずに眠たそうな顔をしている。
あの時は、はっきり言って動揺しまくっていた。
本当にあれが青狸なら(まだ若干納得できていないらしい) きっとつまらなかっただろう・・・。
ハァ・・・、
しかも、生意気な事に自分より背が高くなっていた・・・。泣いているのを見られてしまった・・・。
涙を流してしまった理由が理由だけに死ぬほど情けなくなって、
もう一度ため息をして、毛皮を掴む手に少しだけ、力を込めた・・・。
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―――――――――青狸はその日、立ち直った。望みはまだ、消えていないことを思い出したのだ。
「あの日」を迎えてしばらく後の夜、決意と共に開いた窓から吹き込んできた風に誘われて、青狸は芽生えた衝動に駆られるまま、部屋の外へ飛び出した。
自宅の庭先に置き捨てていた小さめの自転車のサドルを目いっぱい高めに上げて、大人アイドレス用に新調したジャケットを羽織って、サドルにまたがる、ハンドルを握り締める、上体を起こし、ペダルに体重をかける。
いつも使っていた自転車のはずなのに、チェーンはいつもより大きく軋みを上げて、、、進み出した。
自転車のダイナモライトが一定の音を、軋むチェーンが不規則な音を発しながら、徐々に加速する呼吸がリズムを刻む。
――――ジィィィィィィ――――――――――――
「ハァ、、、、ハァ、、、、ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、ん、ふぅーー、、、」
夏が更けたのもついこの間のようだったけど、いまはもう秋まで更ける時期なんだなぁ、
衣服をつたい、長らく親しんできた子供アイドレスのそれとは違う皮膚をひんやりとした涼しげな風が撫でる。
キノウツン藩国内、幾度となく行き来したその道を、何故だか、今は新鮮な気持ちで眺めてしまう。
坂道に差し掛かるペダルを漕ぐ足を止め、その分ハンドルと前方へ注意を強く向ける。
暗闇と静寂が道路を包み込み、街灯と自転車のライトだけがそれを照らしている。
意味もなく、瞳に涙がにじんでくる。
意味もなく、口元が上がり、笑みがこぼれてくる。
意味もなく、心が昂ぶってくる。
意味もなく、叫びたくなってきた・・・が、夜も遅いので遠慮する。かわりに大きく深呼吸をする。
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大通り、道の脇に邪魔にならないように自転車を止める。
少しほてった頬に風が触れ、涼しげな感を取り戻す。
不安はまだ山のように残っているけど、やれることはまだあるんだ。
青狸は閉店間際の本屋に入り、お見合いのハウツー本ってあるのかな、なんて思いながら秋の夜に生える満月を見上げた・・・。
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最終更新:2007年11月04日 17:10