風杜神奈様からのご依頼品
高原「特技はトランプの王様とありますが?」
秋津 「はい。トランプの王様です。」
高原「トランプの王様とは何のことですか?」
秋津 「魔法です。」
高原「え、魔法?」
秋津 「はい。魔法です。ヒゲが生えます。」
高原「・・・で、そのトランプの王様は当キノウツン旅行社において働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」
秋津 「はい。敵が襲って来ても守れます。」
高原「いや、当社には襲ってくるような輩はいません。それにヒゲが生えても意味ないよね。」
秋津 「でも、エースキラーにも勝てますよ。」
高原「いや、勝つとかそういう問題じゃなくてですね・・・」
秋津 「平均18は出るんですよ。」
高原「ふざけないでください。それに18って何ですか。だいたい・・・」
秋津 「評価18です。評価というのは・・・」
高原「聞いてません。帰って下さい。」
秋津 「あれあれ?怒らせていいんですか?使いますよ。トランプの王様。」
高原「いいですよ。使って下さい。トランプの王様とやらを。それで満足したら帰って下さい。」
秋津 「運がよかったな。今日は燃料が足りないみたいだ。」
高原「帰れよ。」
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上の話はフィクションです。
実在はもとより小笠原ゲーム内の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません
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場所は六合。ではなく小笠原。
秋津隼人は小笠原の公園で平日から何する風でもなく、ベンチに座っている。
右手にはストローの刺さったドリンク剤。
口を開けて快晴の小笠原の空を眺めている。
なんというか平日にサボっているダメなサラリーマンのようだった。
とはいえ、秋津はサラリーマンではない。
秋津隼人はニートだった。
ヤガミと同じである。
いまは娘共々、暁の円卓藩国に身を寄せている。
日曜ロッカーを自称していた彼は、いまや全日ロッカーだった。
「ニート違う。そう、全日ロッカーなんだ」
全日ロッカーであってニートではないのだ。
心にそう言い聞かせる。
無性に煙草が吸いたくなった。
暁に世話になってはや数ヶ月。
正直、食うのには困っていない。
滞在中は衣食住ともに暁藩国と宰相府からの食事無料チケットで保障されていた。
だが、それでいいのだろうか。
トラナは、あの風杜という少女を友達に選んだ。
少しずつ自立して、上向きのきつかったまなじりも、いつの間にか下がってきている。
その娘の変化を肌で感じるたびに秋津は安堵と同時に焦りを覚えるのだった。
俺は、これでいいのだろうか。と。
いたたまれなくなって、小笠原の公園でギターを弾いている。
今日の秋津は就職活動中である。
ニートやめて外に出てきたのだ。
せめて自分の食い扶持は自分で探そう、と職を求めて小笠原くんだりまで来たのだが、結果は芳しいものではなかったのだった。
どうにもままならなくて、ベンチに腰を落としては快晴の空を見上げていた。
しばらくぶりに浴びた小笠原の太陽は、なんというか痛かった。
六合が常夏だっただけあって、緯度の低い小笠原の気候は懐かしいものがある。
ため息。
少し歌ってみようかと思った。
ギターはいつでも、ケース入りで持ち運んでいるのだった。
公園の少年少女達は泉にコインを投げ入れることはあっても、秋津のギターケースにはコインを投げ入れることはなかった。
秋津、ギターをじゃらんと鳴らして、ため息。
「世代の差かねえ...生きにくい世の中になったもんさ」
「グァ」
単に人気ないだけじゃねえの?
と、となりでファンタジア(ペンギン)。
シマアジの入ったバケツにくちばしを突っこんでる。
「いつの間に...旨そうだな。どこで釣ってきた」
秋津は半眼になってペンギンのつぶらな瞳を睨む。人気ないは無視した。
ペンギン、フリッパーを突き出してなにやら紙切れを前に出した。
宰相府の配給チケット。
ファンタジアは秋津の高楊枝につきあうつもりがないらしい。
「...おまえまで俺を裏切るのか」
「グァ」
つきあってられん、とペンギンはバケツに口を突っこんだ。
秋津、本日3回目のため息をついた。
煙草が無性に吸いたい。ガムではダメだ。
ため息をごまかす煙が欲しかった。
じゃらん。
やりきれなくなって、空を見上げた。
わずかに浮いている雲がある。その動きは、なんともゆっくりとしたものだった。
このまま帰って、暁の世話になるのもいいのかもしれない。
だとしたら、俺は一体、何に焦れているんだろうか。
「なあ、ファンタジア。トラナは――あの不器用で我が儘な俺の娘は、幸せになれそうか?」
「グァ」
「そうか」
「私はトラナといられれば、それでいいです。」
娘を何より大切に思ってくれた、少女の言葉が蘇る。
どんなに遠くても、トラナを思い続けて。
そして彼女の心はついには小笠原から六合――トラナの心にまで届いた。
「はっきり思い浮かべることが出来れば、どんな遠い場所でも...か。世代の違いかねぇ」
「グァ」
「うるさい」
娘を頼んだと呟いた自分の言葉を思い出す。
あの言葉に嘘はない。あのとき感じた僅かな寂しさも。
――それか。
なんとはなしに髭をいじって、目を細めた。
「どうも、俺の方も思いの外――親父をしていたらしい」
「グァ」
「言うなよ」
苦笑する。
電気の通らないエレキギターの音は、見た目とのギャップのせいかどこかもの悲しい。
せめて派手にと指をめちゃくちゃに動かす。
「ああ、なんだ。いいフレーズを思いつきそうだ...」
「グァ」
「馬鹿言え、気のせいじゃないさ」
無性に歌を書きたくなってきた。
纏まらぬ心を口ではなく指先で表現するように、まだ見えない歌詞を求めるように指が無意識に動く。
電気も通ってない陽気なギターが公園で弾けた。
その陽気さに誘われてか、少しずつ、人が集まってきた。
今日の食費ぐらいは、なんとか賄えそうだった。
~続く~
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最終更新:2008年01月11日 20:50