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カイエ@愛鳴藩国様からの依頼より



 ミーアと名前を変えたカイエは、波止場の待合室に居る。
 その姿は何かに脅えているように見えたが、それは間違いで、とても緊張しているようだ。
 ベンチが一つと、時刻表があるだけの待合室で、ミーアは船でないものを待っていた。
 バルクだ。
 今日は彼とデートの約束をしている。

 ゆらり、と大きな影を落としてバルクは現れた。小笠原では、彼の黒衣は暑そうだ。
「こんにちはバルク様。またお会いできて、うれしいです」
 するとバルクは少し首を傾げる。
「さほど、日は空いていないように思えますが」
 それからミーアの表情変化を見て、言葉を続けた。
「ですがまあ、貴方が喜んでいるなら、なによりです」
 その言葉を聞いて、また表情が変化する。もちろん、良いほうにだ。
「はい、ありがとうございます」
 バルクは控えめに笑顔を向けた。
「それで、デートとはなんでしょう」
「はい。一方か両方の、お互いに興味など持った、特に男女が」
「私は特に興味をもっていません」
 そう断言するバルクにミーアは苦笑しながら
「わたしは、バルク様に興味がありますよ」
「なるほど。では成立するわけですね」
 バルクはうなずいた。勉強する学者のようだ。
「はい」
 納得してもらえたようで安心したのか、ミーアもうなずく。
「今日は私にお付き合いいただけますか?」
「はい」
 バルクは生真面目そうに答える。その姿にミーアも真面目にお辞儀をし、ありがとうございます、と返した。
 バルクはミーアが動き出すのを待っている。
「では、でかけましょうか」
「分かりました」
「散歩をしましょう」
「散歩はデートですか?」
「はい。デートにもなります」
 バルクはうなずいた。一つずつ学習していくたびに鷹揚にうなずく。
「どこまで歩くのですか?」
「そうですね、近くの公園まで歩きましょう」
 バルクは奇妙な顔をしたが、ミーアについて歩いている。よく判らない、という顔だ。
「そうだ、私、名前変えましたよ。」
「分かります」
 バルクは自らの髪を見せた。
 バルクの髪も、ミーアの髪も、一房ほど銀糸がある。
 ミーアは安堵しながら、自己紹介をする。
「今の名前はミーアです」
 バルクはにこっと笑って答える。
「良い名前です」
「そうですか? ありがとうございます」
 ミーアもにこっと笑う。
 そんな会話をしているうちに、公園に着いた。ちっこい上に滑り台しかない。
「あら、ベンチはないんですねこの公園。失敗しました」
 ゆっくり座って話でもしようと考えていたのだ。
「? 待ち合わせ場所まで戻りますか?」
 バルクがたずねる。ミーアは首を軽くふる。
「どこかゆっくりお話できるところがあったらいいと思ったのですが」
「公園でなければなりませんか?」
「いえ、どこでも大丈夫です。どこかいいところはないかしら」
 その答えを聞いてバルクは微笑み、杖で地面を叩いた。其処から木が生え始める。バルクが杖を横にすると、木は杖を取り囲むように水平なテーブル状になった。
「わあ!」
「この上ならいかがでしょう」
「はい。大変結構です」
 バルクは座って胡坐をかいた。ミーアはバルクの隣に腰掛ける。
「すみません、デートをお願いしたのに不慣れなもので」
「私はそもそもデートを知りません」
「そうでしたね」
 バルクは胡坐のまま、背筋が伸びている。座禅か瞑想するように、まっすぐだ。
「バルク様、最近なにか面白い事はありましたか?」
 どきどきするのを、 頑張ってバルクの顔に目線を向けるミーア。
「面白いことですか。今まさに、貴方と会っていますが」
 聞いて思わず顔が綻ぶミーア。
「そうですか」
 笑うミーアを見て、バルクは不思議そうに髪を揺らした。
「バルク様、すごく会いたかったのに、何を話していいか分からなくなっちゃうんですよ、私」
 バルクは微笑んだ。
「黙っていても、いいのではないですか。わからないのであれば、無理にわかる必要はありません」
「そうですね、いっしょにいられるだけでうれしいです」
 バルクは遠いどこかに想いを馳せた。どこか、心は旅してる。
「問題は、見たときに答えが出るもの」
「見た時に答え、ですか」
「ええ。出来る、出来ないは見たときに、だいたいは分かります」
「なるほど……」
「それで分からないのなら、時間をかけても分からないものです」
 心の旅から戻ってきたようにミーアの顔を見るバルク。
「何がいいたいかと言えば、ご安心ください。ということです」
「はい」
 彼の目を見て真摯に頷く。安堵感に包まれて、心地が良い。
「あ、バルク様……あの私お土産を持ってきたんです」
 そうだった。思い出せてよかった。
「なんでしょう」
「バルク様、本を読まれるでしょう? そのときお使いください」
 薄い金属でできたしおりを差し出す。羽のモチーフで、上品な物だ。
「しおりですか。ありがとうございます」
 バルクは微笑んで受け取った。
「大切にします」
「ありがとうございます」
 遠くで本を読んでいるときも一緒にいられるような気がする、とか。思ったかどうかはミーアの心の内だけの秘密だ。
「何かお返しが出来るならいいのですが」
 バルクは考えた後、微笑んだ。そうだこれがいい、と思いついた顔だ。
「喉は渇いていますか」
「そうですね」
 ミーアの返事を聞いて、バルクはテーブルから降りた。杖を取り出し地面を叩くと、今度は木ではなく、水が滾々と湧き上がってきた。
「私にはこれくらいしか出来ませんが」
 湧き出した水は泉となり、何百年も清冽な水を湧き出すことになる。
「いえ、バルク様はすごいです」
 ミーアは微笑んだ。こんなすごい魔法使いは、身近にも国にも居ない。
「もうひとつお願いがあるのですが」
 ずうずうしいかなぁと思案しつつ言うと、バルクははい、と諒承した。
「あの、手を握っていてもいいですか?」
「はい」
 どうぞ、と手を差し出すバルク。どうも意味はわかっていないようだ。
「バルク様の手は大きいですね」
 手を握って、包んで、バルクの手の感触を堪能するミーア。
「あまり硬くなくて、すみません」
「硬いと何かいいことがあるのですか?」
「あまり鍛えていないのが、分かります」
 バルクは至近距離で言った。距離感がよく判ってないようだ。
 ミーアが近くてドキドキしていると、なんの匂いか、バルクから良い草の香りがする。
「あれ、バルク様なにかいい香りが」
 顔を近づけてクンクンと嗅いでみる。
「そうですか?」
 バルクは動じず、ミーアの頭を匂っている。ちょうど体の位置がそんな感じになっているのだ。
「なにかにおいますか?」
「そちらの髪のほうが、良い香りがします。私の方は、薬草でしょう」
「そうですか」
 褒められて、あわあわするミーア。
「私はバルク様の香りのほうが好きですよ」
「なるほど。たまにシカが食べます」
「あ、その薬草をですね」
 一瞬バルクが鹿に食べられてしまうのかと思ってしまい、ミーアは照れ笑いで隠す。
「はい」
 ギャグかとおもいきや、真面目なようだ。
 バルクも一緒に少し笑った。
「また会ってくださいね、バルク様」
 手をぎゅっと握るミーア。
「旅にでも、いかれるのですか」
 別れのような雰囲気に、訊ねるバルク。
「いえ、わたしからのお願いです」
 バルクは微笑んでうなずいた。
「約束します」
「ありがとうございます、バルク様」
 二人は微笑みあう。
 穏やかで平和で、幸せなデートだった。


作品への一言コメント

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最終更新:2008年01月15日 21:42