サク@レンジャー連邦様からのご依頼品
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ヤガミは不機嫌だった。
理由は、まぁいくつかある。
サクの召喚を受けて大急ぎで駆けつけた所まではいいが醜態をさらしてしまった事とか、
眼鏡を外していたとはいえ、彼女をとんでもないことをしてしまった事とか、
我慢をした挙句、盛大にぶっ倒れてしまい、結局サクを心配させる羽目になった事であるが、
今一番彼を不機嫌にさせているのは・・・、
今日この時までサクが見舞いに来なかったことである。
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「何で見舞いに来ないんだ・・・普通は来るだろ・・・あいつ・・・。大体・・・、」
病室には窓際にベッドが一つ置かれており、ヤガミは上体だけ起こしてベッドに横たわっている。
決して狭くは無い病室には不自然にもベッド一つしかない。
空き部屋に余裕があると聞いたヤガミがこれ幸いと、そのように手配した為だ。
当然誰かさんが見舞いに来やすいようにという行き過ぎた配慮である。
少しだけ開いた窓から潮風が部屋へと入り込む。
掛けられている薄めのカーテンは風に揺らされいる。
ゆったりとはためくカーテンの隙間からは季節外れながら温かな陽射しが差し込んでおり、ヤガミはそのカーテンより洩れた陽射しを瞳に受け、
機嫌と体調の悪さからか、すでに細めていた眼をさらに細める。
環境になれてきたのか、小笠原に降りてきた時より幾分体調も良くなったがまだまだ体力を取戻したとは言いがたい。
出来れば強い日差しは陽射しは遠慮しておきたい。
ベッドの上から体を出し、かなり危ういバランスでカーテンへ手を伸ばす。
が、後2~3センチでカーテンの端に手が届くというところで伸ばした手が止まる、・・・届かない。
こうもわずかな隔たりだとかえってムキになってしまう。
少し勢いをつけて、その隔たりを埋めようとさらに手を伸ばす。
不意に重力に捕らえられたガクッという感覚がヤガミを襲う!!
バランスを崩し、ベッドから落ちそうになる。1秒にも満たない時間の中で必死でバランスを取る。
・・・が結局ヤガミは重力に負けて、落ちた。
ドスッ!!!
リアルな墜落音を体全体で聞く。
「―――――――、」
不機嫌そうな顔を崩さず、しかしバランスの崩れた変な体勢で倒れたまま、かろうじて指先に掴んだカーテンを引き、閉めなおす。
指先に布を掴む感覚がふとあの時の事を思い出す
「――――――いや、あんなことをしたんだ。見舞いになんぞ来なくて当然か・・・。」
そうつぶやいて、多く息を吐き切る。
『――――――そうだ、あんなことがあったんだ。見舞いに来ると思っていたわけでは無いが・・・.
いや、「もしかしたら、来るかもしれない」くらいの期待は抱いていた事は認めよう・・・しかし・・・・、』
ヤガミはぶつぶつとつぶやきながら、低下しまくった体力を振り絞ってベッドへよじ登る。
無事ベッドに生還したヤガミは今度は口を閉じ、頭を抱えて唸りだした。
静かな病室にヤガミの「うぅ――――――」という唸り声とカーテンが揺れる布音だけがかすかに聞こえる。
苦悩の声が止み、で、自分のひざに手をたたきつける。
「クソッ!! ――――ハァ・・・・・・何をやってるんだ俺は・・・、」
体力が無い為、小さくそう叫ぶとヤガミはメガネを外す。
傍らの机にメガネを置き、軽く目頭を押さえる。
・・・寝よう。
とにかく思考を停止させる為、眼を閉じた。
―――――ヤガミの退院が決まったのはそれから2日後だった。
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・・・訂正。不機嫌というより、ようは不貞腐れているうえに、自己嫌悪に陥っているのだ。
当の本人もそれをある程度自覚している為、とにかくばつが悪い。
① そもそも「地球に着いたばかりで環境に適応できていない」と素直に説明すればよかったのだ。
② ・・・が、そんなことでせっかく自分に会いに来たサクとのデートをキャンセルするわけにはいかん。
③ とはいえ、それでぶっ倒れていたら世話は無い・・・。
④ いやっ!!結果としては倒れたかもしれんが、男として・・・。
↑というのが、ヤガミが入院中に苦悩していた大まかな内容である。
(※注 言わずもがな、④→①へと戻る。 というか②→①でもいいか・・・。)
入院当初はうんうんと唸りながらサクの来訪を待つ彼だが、快方に向かうに連れ・・・・、やっぱりぶつぶつとエンドレスでつぶやきながら、それでもサクの来訪を待っていた。
そのため、看護士さんたちからは面倒臭そうな眼で見られることもあった。
そんな入院生活を送りながらもようやく、
動けるようにはなっているものの、暑さで頭のほうはまだまともに動いていないのではないか、
と思える程度に回復していた。頭のほうを疑われていたのは前述の理由からであるが・・・。
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・・・退院当日。
最後に検査を行い、ヤガミは病室に戻る。
そう簡単に体が地球環境に適応するわけは無い。
体調はまだ完全ではないし、療養が必要であるとの説明も受けた、が
体調がどうなろうと、いつまでも入院しているわけには行かない。ヤガミにとっては最早どうでも良いことだ。
―――――――――――――問題はサクだ。
見舞いに来なかったということは、あきれられてしまったか? それとも怒らせてしまったか?
まぁ、女性にあんな事をしてしまったんじゃな・・・・・・。しかも、デコピンでぶっ倒れるし・・・。
いや、見舞いに来てもらえると思っていた事自体が、思えば彼女に失礼だったかも知れんな。
出来ることなら、非礼を詫びに行きたいところだが―――――――迷惑かもしれない、な―――――、
しばらく世話になった病室のベッドはすでにきれいに整えられている。
病室にある私物(といってもそう大したものは持ち込んでいないが)を鞄に詰め込み、しばらく世話になった病室を後に歩き出した。
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その日は彼女の楽しみの素が一つ減ってしまう日だった。
患者が退院するのだ。それも面白いのが。
ナースをしている彼女にとって、あれほど手がかからないクセに、あんなに面倒くさい患者さんは今までちょっといなかった。
入院中、担当であるということで彼女がヤガミの世話をしていりことが多かった。
まぁ、見ている分は面白かったけど・・・。
そんなことを思いながら、病院ロビーを通ると、正面玄関の脇にある通用口から出ようとしている件の眼鏡の男、ヤガミが眼に入る。
「あ、ヤガミさんっ!! 何処に行くんですか!!? お迎えの方が見えてるはずですよ!!!」
「え?――――迎え――ですか?」 ヤガミは疑問に顔をしかめる。
あれ?ひょっとして人違いか、―――――――――――ってヤバッ!!! ひょっとしてコレ!! やっちまいましたかっ・・・。
意表を衝かれた・・・、まるで覚えのなさそうなヤガミの返事に彼女は不安をに体が刹那のときを硬直する。
ナースの間では「ヤガミさんは女に捨てられた説」が噂ひしめくこの院内デイリーランキングのTOP1を(根拠らしい根拠もなく・・・、)一週間独走しまくった挙句、殿堂入りとなっており、
その原因のじつに92%が彼女の発信した情報によるものであった。
・・・ちなみに残りの8%はヤガミの体調がよくなってきた入院後半から、リハビリがてらか、散歩をしている時間である。
「あ、えぇっと! あの、確か・・・サクさんという方のはずなんですけど、ご存じてありませんか?」
退院が近づくにつれてだいぶ唸り声がおとなしくなってきたから、てっきり散歩に行ってたときに話がついたと思ってたのにーー!!
ヤガミはどうしたものかと少しばかり戸惑った顔を見せると――――少しだけ不機嫌な顔がやわらぐ――――かすかな笑みを浮かべて答えた。
「――――――いえ―――つい、うっかりしていました。」
―――――不意打ちだった。
「え!?――――はぁ・・、えと、あちらでお持ちですよ・・・」
へぇ、この人こんな顔も出来たんだ。って感じである。
ヤガミは、昨日までそんなじゃなかっただろっ!!と思わず突っ込みたくなるほどしっかりと、そのまま、ロビーの奥でバスケットを持って待つ女性の元へ歩いていった。
残されたナースはしばらくボーッと歩いていくヤガミを見ていた・・・。
――――ヤガミがサクの半径5Mに達した時、ヤガミは見えない壁にでもぶつかったようにピタリと、いや、ガチリと足を止めた。
お、なんだなんだ。
――――急に頭を抱え、この病院では最早聞きなれた呻き声を30秒ほど発した。
は!?
――――彼女の元に辿り着いたヤガミは、気まずさからか、入院当時の不機嫌な顔へと戻っていた。
おいおい・・・。
FIN
結局、彼女はあのカップルから眼が離せず・・・2人が並んで歩き出すまでジッと覗き見していた。
―――――――――当然、婦長に怒られた・・・。
その日のデイリーランキングは、「ヤガミさん、女とよりを戻す!!?」が―――信憑性をわずかに帯びて―――、TOP1に返り咲いた。
【ログへ続いたりする?】
作品への一言コメント
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- 思考のループ具合が面白かったです(笑)意外とこういうヘンなところが自分に似てる気がしたのでまさに!って感じでした。入院中の光景が目に浮かぶようで(ナースさんいい味出してますねw)楽しく読ませていただきました。ありがとうございました!! -- 矢神サク@レンジャー連邦 (2008-02-11 22:00:16)
引渡し日:
最終更新:2008年02月11日 22:00