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かすみ@FEG様からのご依頼品



/*クルクルカラカラ*/


/*1*/

 見ていた夢は忘れている。心地良いまどろみは彼方に。
 覚醒の瞬間、体の重たさと空気の生ぬるさに、刹那、不愉快になる。滋賀は無表情でベッドから降りると、台所に向かった。
 いや、そんなことで不愉快なんじゃない。まだあまり回らぬ頭でそう思ったのは、コップ一杯の水を飲み干し、しまった、なんで水なんか飲んでるんだと舌打ちした直後である。誤魔化すようにあちらこちらへ飛ぶ思考は、起きたときには忘れている、夢の欠片を引きずり下ろす。
 たしか、そう、前にあったことを夢に見ていたはずだ。
 夏祭り。変な女と遭ったのを思いだす。連鎖的に、今日、その女に呼ばれているのを思い出した。なんだったか? そう、ビーチバレーに誘われているのだ。
 ビーチバレー?
 ふん、と鼻で笑う。滋賀はもう一度ベッドに潜ろうと、歩き始める。
 ビーチバレー。ビーチバレー? そもそもスポーツは嫌いだ。滋賀は内心で繰り返す。嫌いだ。嫌いなんだ。前にバスケやって、開始一分で駄目な味方を全員殴り殺して続行し、その上で一点差で負けて以来大嫌いなんだ。ちなみに大体十年前の事である。この人物、一度決め込むと、深く、くどい。ねっとりと。
 スポーツなんて嫌いだ。もう一度そう思ってベッドに潜り込む。
 二秒で跳ね起きた。
「暇だ」
 そもそもやることがない。岩手でもけっ飛ばしに行くかと思ったが、そういえば、そいつも今日は用事があるとか聞いた気がする。ふん、何だっていいけどな。
「どこに行ってるんだ」
 本人の心の言い訳とは別に、行動は正直である。ぶっちゃけ、全然良くはないのだった。
 そもそも何故そんなことも言っていかない。それくらい、言っていくのが当然だろう。
 何となく腹が立って、ベッドをけっ飛ばした。派手に砕け散るベッド。木片が粉になって、散った。
 戦死したベッドを五秒ほど見つめると、滋賀は「寝るところが無くなった」と言って家から出た。それから、ああそうだ、同行してやる奈良尾の女でもいいなと思った。
 足は、ビーチに向かっていた。


/*2*/

 無意識になれば、降り注ぐ雪のごとくちりぢりになった夢の残滓が、淡く踊るリューンのごとく意識の片隅ではじけては消える。
 思い出したのは二つの姿。どっちも女だ。片方は先生。片方は前に祭りであった女。確か名前は、かすみ、とかいうやつだった。
 特に後者に関しては、最近、ほんの時々、油断していると思い出してしまう。思い通りにに思い出さない事ができず腹立たしかったが、頭の中で数回蹴って殴ってを繰り返していると、楽しくなってきた。
 もうちょっと続けてみる。
 すると、段々不快感が消えていく。彼女の反抗的な、しかしあっさりとした、けれど時々強引な態度を思い出す。そしてさんざんこっちの地雷を踏み抜いてくれた事を思い出した直後、最後の。
 ああ。あれはなかなかおもしろかった。あれほど笑ったのは久しぶりだ。
 あるいは、馬鹿馬鹿しいと思ったのかもしれない。
 何がどう、ということはできないが。

 最初は無視することにしたのだ。何を言ってもさも普通ですとばかりに流す態度が気に入らなかった。思い通りにならないのが腹立たしかった。さらにつきまとってきたのが不快だった。一度はまいたのにまた現れて、性懲りもなく繰り返した。どうしようもなく腹が立った。どうすれば決定的に破局できるかを考えた。さんざんすりつぶした上でぼろぼろになった姿を笑いながら殺してやろうと思った。
 そもそも。かすみに対しては、どうソフトに考えても、「変なやつだ」以外の評価はあり得なかった。
 まあ実は。それは決定的に正しい、と最後に確信した。
 だってそうだろう。いろいろやったし、向こうもさんざこっちの地雷を踏み抜いてくれた。だというのになんだ? 最後は謝る? それも許しを請うんじゃない。悪いことをした、ごめんなさい、と? 恐がりもせず、泣きわめくでもなく?
 もう笑うしかない! 大笑いだ。これはあれだ。筋金入りだ。変態なんじゃないか。ああ、少なくとも、変なのは確かだろう。

 滋賀は一人道を歩く。海岸沿いである。
 あれ以来、だった。かすみのことは嫌いだが、思い出すと段々愉快になってくる。ペットにして飼ってやりたいと思った。どんな事をしてやろうか二十七種類ほど考えた。とりあえず首輪がいる、と思う。
 口の端をつり上げて笑う滋賀。横切っていった通行人の女性達がにわかに騒ぎ出した。
 まあ、端から見れば見とれてもおかしくない美貌だが、正体は鬼畜である。
 そんな連中は意識の端にも登らせず、滋賀はしばらく歩いていた。
 そして思い出す。ビーチバレー。スポーツ。
 一気に不機嫌になる滋賀。やっぱ帰るか。いや、ベッドがない。このままホテルにでも行こう。
 そんな彼が、爆薬が海を砕く音が聞いたのは、来た道を戻り始めてから二秒後だった。


/*3*/

「えっと対戦相手の方は、どちらかしら?」
 ぽやん、とそんなことを聞いたのはソーニャである。今回、エミリオと共に外遊中である。FEGの海岸には、かすみや岩手もいる。岩手は今日のビーチバレーの審判として召喚されていた。
「選手が一人足りませんね」ソーニャの声を聞いて、岩手が頷いた。「えーと、誰、ですか。その人」
「滋賀さんです…」
 かすみが、申し訳なさそうに言った。ちょっと肩が落ちている。
「あー」岩手、納得の声。「来ないですね」
「一体どうしたんですか?」ソーニャが聞いた。
「いえ。スポーツとか、嫌いですし」岩手が説明する。「そもそも勝敗あると負けず嫌いなんで、負けると10年くらい言うんですよ」
「そうなんですか」目を丸くするかすみ。それからややあって、そのまま遠い目をした。:「10年……」
 ちなみに、大当たりである。
「困った人だね。えーと。どうしようか」エミリオがちょっと首をかしげて、聞いた。
「うーん……」考え込むかすみ。
「そうねぇ、なら審判でも頼めないかしら? この人数じゃ誰もジャッジ出来ないわ」
「あの人がそんな面倒くさいことを引き受けるわけが。えーと」
 ソーニャの声に応じたあと、岩手はかすみを見た。考え込んでいるものの、消沈している雰囲気はぬぐえない。
 仕方ありませんね。二秒考えて、近くに置いたバッグから装備を取り出した。海に爆薬を仕掛ける。
「何をなさるおつもりです?」不思議そうにかすみが聞いた。
「まあ、なにはともあれ、呼ぼうかと」それから一息置いて、岩手は言った。「少し離れてください」
「はい」
 五秒後、爆発。轟音が一帯を揺らし、浜辺を揺らす。はじけ飛んだ勢いに、高く水飛沫が跳ね上がる。小さな虹ができた。
「えーと。なんだろう。僕すごく、非常識な気がする」
「私も凄くそう思う」
 遠い目をしたエミリオにソーニャがこくこく頷く。
 そんなときだった。:向こうからゲラゲラ笑いながら、滋賀は跳躍。砂を蹴散らして浜辺に着地した。周囲を見る。
「戦闘はどこだ」
 その視線が、ふと、かすみをとらえた。
 無視。無視決定。絶対無視だ。そう思いながら岩手発見。今朝思った事を実行すべく近寄り、渾身の力を込めて蹴り倒した。憂さ晴らし終了。今日も良い一日だった。さあ帰ろう。
 晴れやかな気持ちで帰り始める滋賀。
「ああ、戦闘と言うよりは勝負ですよ」
 ソーニャがかすかに笑って言う。
 スポーツは嫌いだ。次の瞬間、彼女に向かって滋賀は蹴りを放った。
 鋭い一撃はしかし、割り込んだエミリオの腹部に命中。砂浜に、エミリオは派手に倒れた。血を吐く。
「なにするの!!」ソーニャが目をむいた。
「……レディを蹴るのは、許せないな」エミリオがゆっくりと立ち上がる。
 その姿を見て何を思ったか。滋賀、嬉しそうに笑った。
「へえ」
「っと、ちょっとまって悪いけどそういう形で勝負されても困……」
 全て言い終わるより早く、というよりは、はじめからまるきり無視した速度で滋賀は再びソーニャ蹴り飛ばす。再びかばいに走るエミリオ。腕に喰らって、変な方向に曲がった。いいぞ、根性がある。滋賀はげらげら笑った。
「まあ、このぐらいなら、見ていても」冷静に眺めている岩手。あ、エミリオが士気が乱した。
「そんな事言っても………!」ソーニャが非難する。
「男は戦い、好きですから」
 そんな事を言いながら、襲い掛かるエミリオにそれを軽くかわす滋賀を眺める。滋賀はご機嫌そうだ。まあ、それはそれで何より、と岩手は勝手なことを考えた。
「弱点をしまっていたほうがいいな」
 滋賀、上機嫌にソーニャに再び矛先を向ける。エミリオは慌てて斜線上に割り込む。:
「あ、あーっ」
 ようやく再起動を開始したかすみが、慌てて動いた。ソーニャとエミリオをまとめて突き飛ばす。割ってはいってきたかすみを、滋賀は容赦なく殴った。止めようなんて欠片も思わなかった。
「にゃーー!!」
 倒れるかすみ。滋賀はそれを、冷たい目で見た。
「懲りてないな。お前」
 まだやられたり無いのか? 前の続きでもするか? この際だ。決定的にしてやろう。ああそうだ、この間は途中でやめたな。よし、今度は徹底的にやってやろう。二十七種類全て試してやる。表情がどんどん冷めていく中、心の中が妙に踊った。
「うう、すいません。条件反射で……」かすみは殴られた腹をさすりながらよろよろと起き上がる。「というか、この間はすみませんでした。かすみと申します」
「……それが?」
「名前です」
 銃声。
 エミリオの手には銃が握られていた。骨を繋ぎなおし、表情を消している。容赦も、遠慮もない。許容も慈悲も。その冷たい相貌は明らかに一線を踏み越えた雰囲気を醸し出していた。
 狙い違わず、エミリオの銃弾は滋賀の頭を吹き飛ばす。衝撃に耐えきれず、ざすん、と頭部が砂浜に落ちた。
「ええ!?」驚くソーニャ。
 冷静にそれを拾うかすみ。が、頭はすぐに笑い出す。げらげらいいながら滋賀はすぐに体を再生。頭をつけ直し、再生すると、むくりと立ち上がった。そしてノンタイムでソーニャを殺しにかかる。
「どうなってるのアレ!? ミチコママさんとか知ってるかしら」びっくりしているソーニャ。ちなみに、それどこではない。
「ソーニャさん起こってる事態をそのまま受け入れてください!」かすみが叫んだ。「要するに、逃げてーー!!」
「了解!」
 我に返るソーニャ。再び銃を構えようとするエミリオの無事な方の腕を引っ張り逃走。すぐに、二人の姿は見えなくなった。
 岩手は笑った。
「人が悪いですよ」
「全くです」頷くかすみ。
 二人、にわかに沈黙する。二人の気持ちは滋賀の元に一つである。
「いってきます。さすがに腕くらいはなおしてあげないと」
 岩手はため息をつくと、かすみから救急セットを受け取ってソーニャ達の方に向かっていった。


/*4*/

 そして何もかもが一段落した頃、改めて気付いたように滋賀はかすみの方を見た。かすみは立ち去っていく岩手の背中を見ている。
 ちょっと、おもしろくない。
「それより、何故俺を呼んだ?」
 あまり機嫌良く聞こえない声(事実機嫌は良くない。すっかり冷めている)で聞いた滋賀に、かすみは振り返り、なめらかに返す。
「この間のことが謝りたかったのが一番ですね」それからちょっとだけ笑って、続ける。「あと、ちゃんと挨拶とかしてないなと思って」
「お前はひどいめにあった。復讐を考えてもいい。憎しみはいい力だ」
「そうですね……」
 どこまで本気かわからない口調で頷く。それからちょこんと頷いて、言った。
「復讐のかわりに、私を弟子にしていただけますか」
 は?
 滋賀は内心で一瞬フリーズした。それからすぐに、そうか、その手があったと二十八種類目のアイディアを記憶した。
「まだ、私、弱いでしょう。このあいだ会ったときから鍛錬はしてるのですが」
「……最近俺の弟子になりたがるのが多いな」
 説明するかすみに、滋賀は斜め向こうの方を見ながら言った。視線を合わせないようにする。どうしてやろうか考える。とりあえず殴ったところで、こいつはあんまりおもしろくない。もう一手、必要だ。
「そうなんですか」滋賀の考える事なぞしるべくもないかすみは、なんだか感心するように言った。
 そのまじめそうな空気に当てられた。
 ――虐めたい。
 内心でにやにや笑いつつ、表向きはまったく表情を変えずに滋賀は言った。
「じゃ、そこで裸になって犬のように俺の靴を舐めろ。話はそれからだ」
 瞬間、拳が飛んでくる。合格。滋賀は腕を掴む。
「そうだ。憎しみをもて」
 言うよりも前に足が飛んできた。同時に腕をねじる。
 気が乗ってくる。伸びてきた足を引っかけて押し倒してやった。顔を真っ赤にするかすみをからかいながら、次は何をしてやろうか、考える。
 滋賀はどんどん機嫌良くなっていくのを隠すように、つとめて表情を変えなかった。



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最終更新:2007年12月02日 23:10