きみこ@FVB様からの依頼より
鎧の娘
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“貴女の無茶には慣れたつもりですが、今回はとびっきりですね。”
“お父っ・・・バルク!”
~いつかどこかでの会話~
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黒のオーマの中に一風変わった男がいた。と言っても、同じ黒から見るとと言う意味ではあるが。
ごめん。かなり大嘘こいた。
男の名はバルク。オーマネームは黒にして黒曜。切れ長の目と長い耳を持つ美形である。
この人物、黒の中では珍しく魔法使いであった。本人の望みとしては戦士でありたかったのだが。
バロ曰く、魔法と剣技のどちらかに絞って鍛えれば、一流には成れるだろうとの事だが、魔法の技を捨て切れずにいた。
バルク自身は、自らを中途半端と評したがある少女は、その二つの道を進むバルクを立派だと言っている。
勿論私もその意見には賛同する。
このバルクという人物、黒との戦争で戦災孤児となった者達を保護し育てている立派な人物であった。
その中に一人の娘がいた。名をエノーテラと言う。長い黒髪の可愛らしい娘であるのだが、度々バルクを困らせていた。
詳しい内容は本人たちの名誉の為に伏せるが……それでは、サービスで一つだけ語ろう。
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時は飛ぶ。
黒オーマ達の体感時間で2年程前の事だ。
その当時も黒オーマは戦争をしていた。
戦士達は戦場へと向かい、黒オーマの拠点、といっても常に世界を移動する彼らなので一時的なものでしかないが、には戦いに参加しない者達が残っていた。
勿論エノーテラも、だ。
その日、エノーテラは彼女と同じようにバルクが面倒を見ている子達と一緒に冒険に出掛けていた。
何のことは無い子供達だけで少し離れた洞窟に潜り込んだのだ。
最初の50mまでは良かった。
子供達は響く声や靴音に顔を輝かせて笑う。
見るもの全てが面白く不思議でしょうがなかった。
楽しい時間は不意に終わりを告げる。
どさっと言う音とともに子供達の真ん中に何かが落ちて、いや降りてきた。
黄色い肌に短い脚、太い腕、そして真紅の瞳。
我々ならばそれをこう呼ぶだろう。
幻獣ゴブリン。
一斉に逃げ出す子供達。
ある者は洞窟の奥へ、ある者は入り口に向かって一目散に走り出す。
幸いな事にエノーテラは入り口の方へと逃げることが出来た。
洞窟から飛び出した彼女はそのままバルクの家まで走って戻る。
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大きな六面体というかサイコロがバルクの家である。
バルクが留守にしている為、扉は下を向いているが窓は表に出ている。
エノーテラが窓を叩くと音もなく開く窓。恐らくは人物を識別しているのだろう。
窓によじ登り中へと転がり込むエノーテラ。
目当ての物は……見つけた。
黒い…バルクの髪を思わせる光沢を放つ全身鎧。
鎧に手をあて目を閉じて呼吸を整えるエノーテラ。
口から滑り出るのは一つの願い。
友達を、一緒に育ってきた兄弟を…助けたい。
「お願い!力を貸して!」
かくて願いは届いた。
明らかに少女にはきることの出来ない大きさの鎧がバラバラに分解し、次々とエノーテラに装着されていく。
黒い鎧の表面に黄金に輝く文字が走る。
“我は守護。黒にして黒曜の護るもの全てを護る金剛不壊の鎧なり。”
フェイスガードの奥で赤い光が宿る。
そして、鎧の娘は走り出す。
大切な兄弟が待つ洞窟へ。
体が軽い。まるで鎧など着ていない様に。
往路の三分の一の時間で来た道を走り抜けて洞窟に駆け込む。
フェイスガードの奥に光る紅が素早く洞窟内を走査。
いた。
35mを一瞬で走破。
腰の剣を抜刀。速度を乗せた一閃で兄弟に飛び掛ったゴブリンを両断。
もう大丈夫よ。怯える兄弟にそう声を掛ける。
「エノー…テラ?」
「他の子達は?」
さらに奥を指差す兄弟。
「わかったわ。貴方は早く外に。」
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洞窟の最奥でそれに出会ってしまった。
最後の兄弟はもう逃がす事が出来たが、エノーテラはそこから動けずにいた。
隣で生体ミサイルが爆発する。
重いはずの鎧ごと吹き飛ばされるエノーテラ。
爆炎に揺らめく影は……ミノタウロス。
突き刺した剣は装甲に弾かれ折れた。
地面に横たわったまま呻く。
帰るんだ…あの人の所に……バルクの所に……。
ゆっくりと振り上げられる巨大なミノタウロスの拳が揺れる瞳に映る。
そして、振り下ろされる。
「バルク!!」
少女の最後の叫びが、洞窟内に響き渡る。
いや、最後では、無い!
「貴女の無茶には慣れたつもりですが、今回はとびっきりですね。」
優しいが少し呆れた声が少女の耳に届く。
恐怖に閉じられた瞳を少しずつ開ける。
暗い洞窟の中で一際輝く黒い髪。
半透明の障壁を右手から展開し立つ黒にして黒曜。
「お父っ・・・バルク!」
跳ね起きる少女にアラダは微笑み。
「さぁ、帰りますよ?」
原子の塵へと帰るミノタウロス。
「バルク!バルク!!」
鎧が弾け飛び中から現れた少女は帰る。
大好きな、大好きな人の下へ。
~FIN~
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最終更新:2007年12月04日 01:45