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浅田@キノウツン藩国様からのご依頼品


/*行く手の夢路*/

 「だからこれは、宣言」


/*1*/

 懐かしい顔を見て。少し話して。だけどまた、何もわからないうちに、その姿は見えなくなった。
 懐かしさに、喜んでいた……。
 そうと気付いたのは、帰りの飛行機の中だった。

 飛行機の中。比較的拾い座席に座り込み、吉田遥は黙って顔をうつむけていた。表情は消えている。何を考えていいのかよくわからなかった。せっかく浅田が気を使ってくれているのに、ろくに返事すらできない。差し出される飲み物を飲んでも、灰のような味しかしない。舌まで壊れたのか、と思った。
 緩やかな浮遊感。飛行機が若干上昇したのだろう。視線だけを持ち上げれば、左手の窓から青空が見える。下は白い雲に覆われ、海も大地も見えることはない。
 久しぶりに会った副隊長と先輩は、ずいぶん雰囲気が変わっていた。副隊長は、それどころかよくわからない言葉まで話していた。それでもやっぱり、一目見れば、ああ、この人なんだなと思った。
 最初はただ驚いた。よくわからない話が目の前で繰り広げられて、ついて行くことができなくて、混乱した。そして混乱したまま、また、置いて行かれた。
 すぐに遠くなっていく二人の背中を思い出す。それだけで、胸の奥が痛くなる。ぽろぽろと涙がこぼれた。泣くのには、悲しむのには慣れていたから、せめて浅田は心配させないようにと声には出さない。
 だけど、すぐに気付かれた。浅田は心配そうにこちらを見ている。それだけで、悪いことをしているという気持ちでいっぱいになった。
「遥ちゃん、私たちみんな、自分勝手で、ごめんね」
 気遣うように、浅田は言った。ハンカチを差し出してくる。無言で受け取って、涙を拭いた。
 ――昔、誰かにふくなと言われた気がする。
 なんでだっけ? よく、覚えていない。
 それよりも今は。あふれ出るばかりの涙が嫌で、心配させるのが嫌で、こんな気持ちが嫌で、とにかく涙を止めたかった。次々にこぼれるそれをどうにかしたかった。
「……だから、遥ちゃんもゆっくり考えよう。どうしたいのか。好きなようにすれば良いの。誰も、遥ちゃんを怒ったりしないから。心が体を傷つけないように」
 何か言っている。何か、言ってもらっている。なのに返事一つろくにできない。
 苦しさにつぶれそうになる。昔に、戻ってしまった気がする。
 泣き疲れて眠るまで、その苦しみは続いた。


/*2*/

「戦術核3、戦略核は2。9月9日」小宇宙はそういって、最後に一言付け加えた。「急いだほうがいい」
 その声を最後に、電話が切れる。浅田はお礼の言葉を返しながら、今度は別場所に電話をかける。
 秘書官が向かった。宰相。ターニは迷宮を破壊するつもりだと結論し走っていった。事情を少しでも把握しようと、浅田はもてる限りのネットワークを駆使して情報を収集している。
 傍らには、泣き疲れて眠ってしまった吉田の姿がある。その姿が痛ましくて、浅田は連絡を続ける。他に伝手は無いか? ああ、まだある。一カ所。
 番号を書ける。旅行社経由で、専用回線に。ややあって、いつもの執事の声が聞こえた。取り次ぎをお願いすると、すぐに目的の人物――ふみこの声が聞こえてきた。
 手短に事情を説明しつつ、浅田はふと気になって、こんな事を聞いた。
「ふみこさん、昔何があったんですか、そこに」
「地の母がいたわ。でも海法がそこで惑星破壊したはず」
 地の母。ああ、ドラゴンリーフの森。浅田の中でいくつかの記憶が錯綜する。
「別の迷宮かもしれない」ふみこは慎重に述べた。
「名は、力を持つといいます。同じ名を冠するという事は、きっと其処に意味があるのだと思います。――お願いします。貴女が知っている、迷宮についての話を、私たちに教えてください。過去のでかまいません、お願いします……!」
「全ての生き物は、地の母から生まれてきたの」ふみこは淡々と説明を始めた。「大地の奥の子宮から、生まれてきたことになっている」
「種の起源、ですか……」
「その子宮から、次々と生き物が歩いてききたのよ。はてない県なら、そうね。人間は101番目に出た、ということになっている。そこから、メタルリーフなどの種族が生まれていたのは事実ね」
「その子宮が、迷宮なんですか?」
「ええ」
「つまり、迷宮にもぐるのは母体回帰、ということでしょうか……」
「そうね」そしてふみこはやや不愉快そうに続けた。「それを核攻撃なんて、男は……」
「男は何時の時代でも、蹂躙するのがお好きなようです……」
 うぅ、コアセルベートよりも話が難しく、なんて思いつつも、浅田はいつもの丁寧な口調で応じた。職業病万歳。
 ふみこはそっけなく「そうね」と言う。ただし、
「私の男は違うけど」
 そう言うことを忘れずに。浅田はそうだろうとも、と思って微笑んだ。
「ふみこさんの選ぶ男性ですもの。きっと素敵な人なんでしょうね……」
「おせじがうまい」ふみこは機嫌良さそうに言う。「いいわ、一つ教えてあげる」
「はい」
「そこでは、魔法は使えない。覚えておいて。生命力が強いのも、たぶんだめよ」
「……つまり、人が、人の力で、立ち向かわなければならないんですね」
「ふふ。銃は大丈夫よ」


/*3*/

 銃は大丈夫。そう、銃……銃か。
 まどろみの中で吉田は考える。迷宮、と言っていた。銃は使える。銃なら、一つだけなら、使い方を知っている。99式狙撃銃。ずいぶん前に握っていた武器。
 あのときも、自分は、ただ混乱しているだけだった。思い出せばいつもそうだ。
 今度も、そうだった。
 ――それで。
 それで終わるの?
「ねぇ、遥ちゃん」
 浅田が話しかけてくる。まだ若干頭が寝ている気がしたけれど、目だけは、そちらに向けた。
「聞いて、ほしいことがあるの。ううん、覚えておいてほしいこと、かな」
「……なに?」
 表情は変えない。口調も。帽子をずっとおろして顔を隠した。
「私は、貴女の前に、全部の道を引く事を助けます。あなたが望む全てを行える道を。
おなかがすいたら、ご飯を食べられる。眠いときは、眠ることができる。そして旅立ちたいのなら、一歩を踏み出せる。望むこと、全てを、必ず。でも」浅田は小さく息を吸う。「何をしたいのか。決めるのは、遥ちゃん。あなた。私は、貴女の選択の、全てを、助けるから。それだけ」
「どこかで聞いた言葉」吉田は小さく笑う。自分は嫌なやつだと思った。「全然響かない」
「えぇ。響いてほしいんじゃない。私の考え付くようなことなんて、きっと誰かがもう考え付いている」
 浅田はめげずに言った。卑屈さなど一切寄せ付けない声で。
「だからこれは、宣言」
「…………」
「貴女へ祝福を。私には道を。そのための宣言よ」
 それから浅田は少し身を退く。ちょっと熱くなっていたかな、と内心で反省。
「だから、覚えておいて。これが私にできる、最大限の宣言。戦争の前に話したことよりも、私にとっては重要なこと」
「一人にさせて」
 なんとか。……かろうじて、それだけを言えた。浅田はあっさりと頷いて、立ち去っていく。
 一人になって、考える。銃は使える。迷宮は……調べればわかるだろう。二人は行った。私はまだここにいる。
 ここにいるだけ。
 置いて行かれた。
 混乱しているだけだったから。
 相も変わらず……自分だけは、情けないままだったから。
 それでいいのかと、心の中で声がする。だがそれでどうするのという、声もする。
 ただ……。
 このままでいいという声だけは、聞こえなかったから。


/*4*/

 吉田は狙撃銃が欲しいと言った。99式。かつて彼女が使っていた物だということに、浅田はすぐに気付いた。
 それに、そんなことを言われずともはじめから用意するつもりだった。
「それしか、私、使い方知らないから」
 そんな言葉を聞かされて、どうしてそれ以外の選択肢が思いつこうか。
 飛行機は八丈島に。そこから船で、二人は小笠原に向かった。到着したときにはもう国の者達が用意をしていて、浅田はずしりと重たいケースを受け取った。これを彼女が抱えていくんだなと思うと、自然と、気落ちした。
 そんな事を一切見せずに、吉田の元に戻る。
「遥ちゃん、これを」
 彼女はそれを受け取ると、浅田を見て小さく頭を下げた。
「今までありがとう」それから申し訳なさそうに、付け加える。「ずっと、迷惑ばかりだった」
「連れて行っては、もらえない?」浅田が聞いた。
「悪いから」吉田は笑った。
 浅田も笑い返す。
「ここで置いていったら、私きっと、そっちのほうが泣くわ」
「ないてもいいよ。えっと、ファーストネームは?」
「…………真澄。浅田、真澄」
「ありがとう真澄。銃を撃つ時につぶやく名前は、それにする」
「……私が答えられない」浅田は少しだけ悲しそうに言う。「呼んでもらっても、近くにいないと、答えられないよ」
 吉田は少し笑って帽子を被りなおした。ゆっくりと、手を伸ばす。最近使っていない、右手だった。
 浅田は何も言わずに、手を出した。
 そっと触れるような握手。お互いの温度がほんのりと感じられるくらいの短い時間。
 静かに、二人は手を離した。
「ばいばい……」吉田は言う。背を向けて、歩き出す。
「遥ちゃん」その背に、浅田は言った。「うちの国の人は、おせっかいが趣味なの」
 姿が見えなくなっても、続ける。
「だから絶対、あなたが連れて行ってくれないのなら、貴女の所へいくわ。私が泣いていたら、あわてる人が、それなりに居るから」
 そして全てを言い終えて、浅田は初めて、涙をこぼした。

 こぼしながら、考える。手を回す算段はとっくにできている。国の人たちには伝えた。もう調査部隊が結成され、行動が開始されているだろう。そして私は国の人たちに『無理矢理』連れて行かれて、再会『させられる』事になる。吉田も、文句は言えないだろう。
 再会を果たすのだ。絶対に。
 だけどそれは、もう少し後で。
 今はただ。
 ほんの少しの間だけ。
 この涙をこぼさせてほしい――。



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引渡し日 2007/



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最終更新:2007年12月05日 15:52