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刀岐乃@越前藩国様からのご依頼品


■桜の花、海辺に咲く頃に (後編)
  • 作: 3100590 伏見@伏見藩国

/*/

淡い美しさを持った黒髪の少女が、はにかんだ。
それは桜が舞うかの如き様子だった。

「こんにちはみなさん」

その表現はあながち間違えではないのかもしれない。
八重咲桜子。
それが長い黒髪の日本人形のような美少女の名前だった。

「こんにちは」

一歩踏み出した男が、丁寧に頭を下げる。
三十路近い男が少女に頭を下げる絵はなかなかに不思議だったが、
その少女には、それをさせるだけの魅力――威厳があった。

「初めまして。越前の黒埼と申します」

越前藩国執政・黒崎紘。
わんわん帝國においては有名な人物である。

『越前藩王に過ぎたるものが二つあり、電精文殊と黒崎紘』

とは帝國のみならず、にゃんにゃん共和国においても有名な風評である。
黒崎紘は一流の電子技術者であった。かの傑作情報管理機構『文殊』は彼の作である。

「こんにちはー」
「こんにちわー」
「おお!こんにちはー!」
「どうも、こんにちわ」
「こんにちは~」

それを皮切りにいっせいに挨拶が始まる。
越前藩国の国民たち。
男も女もこの少女を歓迎していた。

「今回はおまねきいただき、ありがとうございます」

少女の微笑。
小学生らしい愛らしさと、どこか誇り高さを混ぜた魅力的な笑み。

「こんにちはみなさん」

どこからともなく聞こえる声。
桜子のものではないそれは、人間のものと比べると、やや硬質だった。

「私は保護者のMAKIです」

それもそのはずで、その声は船の制御AIのものであった。
MAKI――DAIAN型のAIの夜明けの船での愛称である。

「ガロウといいます、よろしく」
「僕は鴻屋心太っていうんや!よろしく」
「はじめまして、越前の刀岐乃と申します。よろしくおねがいします」
「RANKです、よろしく」
「夜薙当麻といいます。どうぞよろしく」

越前藩国の面々がそれぞれに挨拶。
それぞれの個性の良く出る挨拶であった。

「はい。たまにはこんな憩いも如何かと思いまして。どうぞ七海さんと一緒に楽しんでいってください。」
「せっかくやし、みんなで楽しもうな!」
「ありがとうございます。それでは200名ほど、おせわになります」
「200名!?」

RANKの悲鳴とともに、艦から子どもたちがあふれ出た。
その数、総勢200名。
圧倒的な数の子どもたちが、見る見る間に目の前を埋めつくす。

「に、にひゃ……」

予想外の人数に夜薙、固まる。

「よう来た!みんなー!!」
「うわ~すごい一杯いるー」
「おお! これはにぎやかになりそうだ」

聊か冷や汗をたらしながらも歓迎する黒崎。
刀岐乃と鴻屋は最初から歓迎ムード一色であったが。

「ごめんね。摂政」
「大丈夫やで、うちの摂政さまは優秀やし」

小首を傾げた七海が覗き込むように摂政に謝るも、鴻屋は気楽に七海を弁護する。
実際に黒崎が優秀でも、流石にコレだけの人数が急に来るのは予定外であった。
故に――

「え、えーと。心太くん。」

子どもたちが、鴻屋の周りに集まりだす。
なつかれてもいるようだったが、それにしてはやや勢いがあり、むしろ。

「子供たちの引率、頼んだ!」

肩を叩く黒崎。
その直後に、鴻屋の姿が子どもたちの中に消えていった。もみくちゃである。

「あれ? ぇぇぇ」

長い、長い尾を引きながら青年の姿が消えていった。
それを仲間たちは遠い目で見守ることしかできなかった。
実際には面白がっていただけともいう。

「心太さーん……」
「心太くん、がんばれ~」

ハンカチを振りつつ見送る相棒、夜薙。
ガロウはただあきれるばかり。

「……私はこれから喧嘩神輿と花火大会の準備があるからな……MAKIと相談しながらうまくやれよ……」

黒崎、額の汗をぬぐう。
ひとまずの山場は過ぎ去った。あくまでもひとまずだが。
そんな執政の心情を知ってか知らず、刀岐乃が少し大人びた笑みを浮かべ少年たちと相対していた。

「ふっふっふ、みんなよく来たね~たくさんあそんでいくよーに!」

あ、と急に思い出したように微笑む。
とびっきりの笑顔

「あ、心太くんは怪我しない範囲なら好きにしていいからね~」

その内容もある意味、とびっきりであった。

「うわ、ひど」

つい口にだした夜薙だが、その視線がさらにヒドいものを見つけた。
いたいけな少年少女たちに衣服を向かれる相棒・心太の姿であった。
その視線に気づいた七海が一言。

「戦闘力はかっているんだよ」

無垢な子どもの手が、鴻屋心太のいわゆる一大事に伸びた。

「そ、そこはさわらんといてぇぇぇ!?」

男ならば誰もが理解できる恐怖と戦きの叫びが、周囲にこだました――


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黒埼紘 :ええと。今は午後1時くらいということにしてよろしいですか? >芝村さん
芝村 :ええ>黒埼

時刻は午後一時を少し回ったところだった。
鴻屋心太という貴重な犠牲を支払い、黒崎は保護者であるMAKIとの会話を続けていた。

「これからの予定を教えてください」
「午後3時~5時に『サイバー喧嘩神輿』というイベントを開催。その後、午後7時~9時で花火大会を開きます」
「了解しました」

サイバー喧嘩神輿。
東国らしい越前藩国の誇る祭事であり、それを観光目的に訪れる旅人も少なくはない。
その詳細は、後に語る――

「私はそちらの裏方をやっています。皆は七海さんたちと下校して道案内しつつ、浴衣の着付けなどの身支度をしておいてください。」
「下校までの時間の使い方をおききしてよろしいですか?」

いつの間に傍に来ていたのか、桜子が微笑みながら黒崎に尋ねる。
別段、幼女趣味のないものでも、つい頬が緩むような、そんな魅力的な笑みだった。
桜の控えめな咲き方にも似ているなと、黒崎は思う。

「桜子さん、七海さんはどうごご自由に。ああ、RANK、夜薙は喧嘩神輿の準備があるから、呼び出したら私のところへ来るように。」
「は~い、了解です~」
「…ホントにやるのか…了解した」

指名された両名は、半ばため息混じりに頷く。
その様子から、決して楽なものではない事が伺えた。

「はい」

二人のため息をどう感じたかはさておき、桜子が頷くと同時に手を上げる。
一斉に整列する少年兵たち。
一糸乱れぬ様で見事な行軍隊形を取る。

「おおっ!」

ガロウの驚嘆。
応えるように桜子が軽く手を振ると2列縦隊になった。

「おおおっ!」
「いい練度です。うちも見習わねば。」

驚嘆止まぬガロウと、黒崎に向けて優雅に微笑む桜子。
小学生とは思えぬ貫禄、落ち着き、あるいは気高さ。

「参りましょうか」

将来を相当に期待させる仕草で、少女は男たちを促す。


/*/

一方、そのころ。
視点を変えてみれば、道端に転がるひとつの物体。
人間の形をしているので、あるいは死体といっても良いかもしれないが、時折痙攣するように動くので、その呼称はふさわしくない。
もっとも的確な呼称があるとすれば『限りなく全裸の鴻屋心太の成れの果て』といったところだろうか。

「心太くーん、大丈夫?」

道端に倒れ付した鴻屋をつつく刀岐乃。
もぞり、と身を縮ませるように動いた。

「し…死ぬかとおもった……」
「はい、これ」

刀岐乃の手には子どもたちに剥ぎ取られた衣服。
いささかボロボロだが、着衣には特には問題なさそうではあった。

「お、おおきに……」
「…早く着てね?」

特に問題にするならば、むしろ着衣していない現状こそが問題であるということか。
微妙に眼を背ける刀岐乃。
友人とはいえ男性の裸体は、あまりよろしい物ではないのか、頬がやや赤い。

大慌てで、鴻屋は衣服を着込みだした。

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芝村 :行進がはじまりました。
芝村 :子供たちは敵どこー。殺せないのーと言ってる。


鴻屋 心太 :「…なんかすごいこといってるなぁ…」
夜薙当麻 :「微妙にコワイな……」
ガロウ :行進についていきます
刀岐乃 :「うん、元気があってよろしい!」
RANK :「ちょっと元気すぎる気もするが……まあ、いっか」


「さあて。夜店に200人分の子供の胃を満たすだけの食料はあったかなあ」

困惑気味にデータベースを走査する。
ヒット、なし。

「……どっちにしろ、今更間に合わんか」
「あら。食事でしたら用意します。そのための蟲ならいますから」
「いや、祭りの屋台のチープな味が良いのです!」

ぐ、と握り拳の夜薙。
飄々とした男にしては珍しい気迫。陳腐な味への思い出と思い入れのなせる業か。

「屋台を接収しますか」
「やめておきなさい。無抵抗の相手を殺しても、面白くないもの」

夜薙の頭下での物騒な会話。
未曾有の危機は常に傍にあると、そう思わざるを得ない瞬間だった。

「……では、その蟲でどんな調理ができるか、MAKIを交えて、夜店の人たちと相談しておきます」

大人の判断で聞かなかったことにしつつ、黒崎が場をまとめた

ひぃと小さく息を呑む鴻屋。キツイ冗談だとあきれたRANKの側で黒崎が小さく呟く。

「うちの空木に夜店の追加をやらせたほうがいいかもしれんなあ」


鴻屋 心太 :微妙に距離をとりつつ行進についていきます

夜薙当麻 :「『死合い』は、タイマンに限る…」(ボソッと、負けないくらい物騒な事言った)
刀岐乃 :「あ~なんか武器もってこなくてよかった気がする…問答無用で敵にされそう・・・」


少女はさながら天使であった。
人の死を予感させるという意味では、それはあながち間違ってはいないだろう。
彼女に率いられた子どもたちは、その外観に似合わぬ気配を振りまいていた。

『地獄の集団』

そう表現するのがふさわしいほどに。
実際、そう違いはしないだろう。
彼らは好き好んで殺したり殺されたりする“戦争病”の集団だから。

「いつもこんな感じなの?」
「なにが?」

空気に耐えられなくなったか、ガロウの質問。
七海、首をかしげ、わかってなさそう。

「移動はいつも行進するの?」

七海がくいと、細い顎を動かした。
その先には数名の子どもたちが前後左右に展開し、周囲を警戒していた。
日常茶飯事であると、言外に言われる、

「はっはっは」
「どしたの夜薙さん?」
「いやぁ、マトになら無くてよかったな~、と」
「ほんとだね……。しかし、七海ちゃんはすごいところで暮らしてるんだなー」

はあ、と。
爽やかに告げられたものの、どう表現していいのか解らない顔で刀岐乃は七海を見つめる。

「そう?」

見つめられた肝心の相手はくり、と小首をかしげた。

「ゲームは勝たなきゃ、くやしいよ?」
「うん……それは確かにその通り!」
「たしかにそれはそうやな。」

神妙な顔でうなづく刀岐乃、さもありなんと頷く鴻屋。

「敵がいるかもしれないと?」
「敵はいないと思うけど、いないと思うところに、僕なら兵を仕掛ける」
「なるほど……」
「なるほど、それもそうだ」

夜薙・ガロウがふむ、と納得したそぶり。
それを見て満足したか、七海はにこっと笑った。
子供らしい、くったくない笑顔――

「…こんな子供やのになぁ。育つところが違うと……」
「…ああ、心が痛むな……」
「子供なのにな……」

神妙そうな顔の男三人。
空気が重くなる。
それを察したか、そっと桜子が背伸びして鴻屋に耳打ちをした。
ふ、と吐息がかかる。

「七海ちゃんも私も、団地住まいですよ」
「だ、団地!?」

驚き悲鳴にも似た声で叫ぶ。
桜子は笑みを崩さずに、すっと離れる。

「どした?」
「団地?」
「我々も、ふつーですっ」
「…そ、そうなんや……」

クスクスと面白そうな桜子。
不思議そうな夜薙と刀岐乃。
鴻屋だけが顔を赤くしてあせっていた。

「うーん……」
「へえ~団地住まいってのはちょっと親近感~」
「まあ、俺たちの普通が彼女たちの普通と違うとはおもっているがなぁ…」

苦笑する夜薙、唸るガロウ。
刀岐乃は自分のスケールに落とし込み、一人納得していた。


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移動は続く。
子ども達の行列は、それでもまったく崩れず。
美しい調和を持って、ただ一心不乱に行進を続けていた。

「ねー。どこまでいくの?」
「宿までかな?」
「どれくらい?最短距離とコースは?」
「たぶんあっち」

しかし、それも飽きたか七海がガロウに質問をぶつけてくる。
このあたりは子どもらしいな、と内心微笑むガロウ。
質問に答えてやりながら、やれやれという顔を浮かべた。

「時間はあるんだし、ゆっくりでいいんじゃない?」

そう答えた途端、デジタルな呼び出し音が響いた。
音源は鴻屋。
懐から携帯電話を取りだすと直ぐに出た。

「はいなー心太です」
「あー」

黒崎執政であった。
間を置いてから話が始まる。
それを七海が薄く笑いながら見ていた。

「七海さんたちを連れて行く場所だが、予定ではわれわれの宿としていたが、変更した。」
「ちょっとまってなー摂政さまからや」
「さすがに200人は入れないんでな……急ぎ、集会所を借りることにした」
「ですねー賢明です」
「子供サイズの浴衣・ハッピもできるだけ用意したが、まだ数は足りない。一部は遅れるかもしれない」

何かトラブルかい? と夜薙が鴻屋にたずねる。
鴻屋、わずかに手を振り、なんでもないとアピール。
肩をすくめる夜薙。 200名自体トラブルだが、と苦笑交じりに呟いた。
RANKも、この人数だからと追従。

その一方で、待ちかねたように七海が口を開いた。

「時間があってゆっくりあったら、軍隊という集団はなにするか? 知ってる?」

幼い子どもの笑み。
それは普段ならば愛らしかったが、ことこの場においては、どこか不気味ですらあった。

「うっ……知りません……」
「なにするの?」
「何するんだい?」

思わず腰の引けるガロウ。
それを知ってか知らずか、鴻屋と執政の会話は続く。

「というわけで場所変更よろしく頼む。子供たちの統率は桜子さん任せでもいいと思う。では。」

了解、と返事をし、桜子へと近づく鴻屋。
並べば、少女は驚くほど小さい。
いや、年相応といえば、年相応か。雰囲気が大人びている故の妙な違和感を鴻屋は感じた。

「桜子さん」
「はい?」
「集会場をかりたので、数グループずつ分けて誘導できる?」
「はい」
「そこに浴衣と法被が用意されてるんやけど、一気にいったら混乱するし」

それを最後まで聞かず、右手を颯爽と横に広げる桜子。
指は4本、立てられていた。4部隊が迅速に分かる。

「おお~一指乱れぬ統率」
「おお、何度見てもスゴイな」
「……ほんっと、統率されてるな……」

あきれたように夜薙が笑った。どこか力ない。
そんなことは意に介さず、桜子の指示は続く。
一本の指を前に出せば、集団から一歩、特に体格の良い少年が踏み出した。目つきは悪い。

「場所はここや? 適当な時間間隔でむかってなー」
「武装自由。臨検後、後続受け入れ。20分ですませ」
「はっ」

鴻屋からの指示を桜子は瞬時に解釈、少年へと伝える。
小気味いい返事と共に、兵隊達は行動を開始する。

「すごい……」
「武装自由なんだ……」

ばらばらに、ランダムに。
だが二人二組――ツーバイフォーでの、的確な移動。

それに見とれていた一同だが、ふと刀岐乃が言葉の意味を反芻しだした。

「臨検…?」

えーとと、考える刀岐乃。
意味が、喉から出そうになった。
あと一歩――

そう思った瞬間に、集会所から悲鳴があがった。

「なに!?」
「やっぱり……」

即座に反応する鴻屋。
頭を抑える刀岐乃。
リーダーの桜子は、あら、と意外そうな顔。

「なんだっ!」
「夜薙さん、行くで!!」
「応っ!」

緊張した面持ちの夜薙。
一歩はやく行動したのは鴻屋。
剣と王という一心同体の二人は息の乱れぬコンビネーションで行動開始。
現場へと疾走し始める。

「うそだろ!? ときのん行くぞ!」
「RANKさんまって~」

慌てて刀岐乃・RANKペアも走りだす。
が、キキィという音が聞こえそうな勢いで刀岐乃がブレーキ。
振り返り、桜子を視界に納めた。

「桜子さん、とりあえずわたしたちいくまで待機命令だしてもらっていいですか?」

この時点で、なにが起こったのか彼女だけが推測できていたのかもしれない――


/*/

集会所。
そこでは大人たちが並んでいた。
手を頭の後ろで組み、壁を凝視していた。
その背後には武装した子ども達――

風の様に飛び込み、それを見た剣と王は思わずこけそうになった。

「ちょ、ちょっとまって?」
「って、おいおいおいっ!!」

引きつった顔の鴻屋。
思わず半笑いの夜薙。
ガロウはただ、ああと頭を抱えた。

よく見れば大人たちの親指に蟲が止まっていた。
どうやらソレが手錠としての役割を果たしているようだった。
神経系統を操作する蟲のようだった。

「お~い、みんなストップ、ストップ」
「やっぱりこうなってたかあ~」

遅れて到着したRANKと刀岐乃。
推測できていたのか刀岐乃はあちゃあという顔で周囲を見る。

「ちょっと、やめといたってくれへんか?」
「彼らは敵じゃない。大丈夫、俺が保障する」

越前の誇る実力者二人が子ども達のリーダー、殿田と呼ばれる少年の前に一歩出る。
殿田は少年だったが、それでも並の大人と組み合っても勝てそうな体をしていた。

「ああ。鴻屋さん、少し待ってください」

顔もソレに釣られてか厳つかったが、どこかその容貌はまだあどけなかった。
部下に指示をとばし、次々と殿田が大人たちの耳に蟲を入れていく。
例によって、蟲に――いや虫に耐性のない者たちから悲鳴があがる。

「束縛を解け。ご協力かんしゃします。ありがとう」
「ご、ごきょうりょうく……」
「貴方もどうですか?」
「なにこれ?」

鴻屋の前にずい、と手をさしだす。
その手には小さな蟲がつかまれていた。
ワシャワシャと小さな脚を懸命に動かしている。

「そんな蟲もいるのか」

RANKが蟲を見つめる。
どこか生々しいが、それでもソレは好奇心をかきたてられる動きだった。

「耳から…絶対にいや…」

しかし、それに嫌悪感をかき立てられるものもいた。
じり、と一歩後ずさる。

途端、がしと両脇を固められる。
少女が二人、両脇にいた。
なぜか刀岐乃の両腕を捕まえている。

「ちょ、はーなーしーて!!」

直後に訪れる危険を感じたか、慌てて暴れだす刀岐乃。
それは真剣味のある必死のものであった。

「…ときのん、暴れるとその子たちがけがするから我慢しいや」

鴻屋の注意。
しかし、肝心の刀岐乃からすればそれどころではない。
激しい抵抗は続く。
とはいえ、それは集団に対して、さほど意味のあることではなかった。

ずるり、と痛みもなく耳の中に蟲が忍び込む。

「え、え?」
「あら」
「ああ!?」

間の抜けた声。
その光景を見て、次にくる刀岐乃の絶叫を覚悟してかRANKとガロウが先に叫ぶ。

(どうしたの?)

途端、耳元で七海の声が聞こえた。
安心して、刀岐乃から気が抜ける。

「な、なんか押さえ込まれてるんだけど……」

左右の少女みて、顔が引きつる。
間接が綺麗に決められていた。

「七海ちゃんから離すように言ってくれないかなあ」
「ん、誰と話してる……?」

不審げな顔で夜薙が刀岐乃を見つめる。
七海は、近くにはいない。
何事かと思案してると、殿田が指を振る。
少女達がそのサインに従い、さっと左右から離れた。

「いつものやつだよ。みんな気持ちわるいというからね」
「通信機?この蟲??」

無視の正体を察した鴻屋。
ははあんという顔を浮かべる。

「大丈夫?刀岐乃さん?」
「やるなら先に言ってください!!」

吠えた。
刀岐乃、虚空に向けてがーと吠える。
全身の毛を逆立てて、まるで犬のように吠えた。
が、それも長続きしなかったか、へなへなと萎えた。

「って、先に言われたら抵抗するか……」

そのしょげぶりがよほど面白かったか、周囲の大人たちが笑い出した。
気まずげに身を縮ませる刀岐乃の前に、太った兎がどこからともなく現れた。

ごめんね。

そう言うと、兎がペコリと頭を下げる。どこかコミカルな仕草。

「ん? ごめんねって?」

首をかしげる刀岐乃。
不思議そうに兎を見つめる。

それをを見つめる夜薙は更に首をかしげる。
何もない虚空に向けて話し続ける刀岐乃。
先ほどの蟲でとうとう、と頭の片隅に厭な考えがひっかかる。

「何だ…?」
「ていうかあなた誰?」
「…刀岐乃、どうしたんだ…?」
「ときのんは何がみえてんの?」

流石におかしいと思ったか、鴻屋が殿田を捕まえた。
しかし、答えたのは殿田ではなく兎であった。

(映像だよ。刀岐乃ちゃん)
「???」
(僕達とこれで映像共有すれば、ガイダンスが見える)

兎がフキダシを吐いた。
その中には、あと10分とアニメのように描写されている。

「あ、ありがとウサギさん」

戸惑いながらも、感謝。
気を取り直して、質問を続ける。

「な、なんか便利そうなんだけど、一つだけ確認していい? 七海ちゃん」
(なに?)
「うん、つまり、これが見えるってことは、なんかの蟲がわたしの中に入ったってことなのかな?」
「もう、熔けてるよ」

生声でひどく衝撃的なことを告げられた。

「なにーー!!!?」
「たぶん、足くらいしかのこってないんじゃないかなぁ……」
「あ、そうなんだ……へえ~」

最早上の空であった。
空ろな目で、乾いた笑みを浮かべる刀岐乃。

「うわ!?ど、どうした、ときのん!?」
「どないしたん? ときのん? 驚いた顔して?」
「だ、大丈夫か……?」

男性陣が次々と心配になったか、声を投げかける。
だが、肝心の刀岐乃はぶつぶつと魂が抜けたかのように、よくわからないことを繰り返し続けた。

「蟲が、蟲が溶けて……足が……足だけ残って……」

おろおろと心配そうに取り囲む男性陣。
殿田も一から説明しようとしたが、子どもと大人の感性というよりは、生まれの差で上手く説明できない。
そして、全員が動転してそれどころでなかったのもあった。
殿田はため息をつくと、数匹の蟲を取りだす。
次の瞬間には悲鳴も上げさせぬ早業で全員の鼓膜に、蟲を叩き込んだ。
めんどくさくなったのである。
結局は口以外の何かで説明することにした。百聞は一見にしかず。

「えっ、何?」

ガロウの目の前に映像が展開される。
浴衣の着付けのムービーが立体的に浮かぶ。

「へーぇ便利やな。」

何度もうなづき、感心を表現する鴻屋。

「これあったら、自分で浴衣着られるなぁ」
「あー、集会所の方ではいろいろあったようで……って、なんだその兎の映像は! 情報戦でもかけられたか!」

そこに黒崎からの定時連絡。
ナショナルネット経由で接続した黒崎には、彼らの視点で兎のホロが見えた。思わず叫ぶ。
だが、夜薙以外はおおむね夢中で無反応であった。

「ふふふ……これでみんなわたしと一緒……」

一部、違う意味で無反応もいた。

「んー、便利は便利だが……」
「なんか感触が気持ち悪い……」

ガロウ、夜薙、揃って不満を口にした。

「すぐに慣れますよ」
「蟲って本当にスゴイな」
「便利ですから」
「便利だけど……ねぇ」
「ていうか、なんでみんな平気なの~!?」
「今日は蟲の勉強から実践までできたやん」

からからと、刀岐乃の悲鳴を笑いとばす鴻屋。
いつでも、彼は己のペースで生きている。 それがある意味で彼の強さでもあった。

「俺、やっぱ浴衣の着付け出来ないわ」

苦笑して夜薙が帯を持つ。
どうにも、上手く着こなせないらしい。
伊達男が浴衣を羽織って流している絵はそれなりに絵になったか一部少女らから黄色い声があがった。

と。
突然、夜薙の手が勝手に動いた。
テキパキとこなれた様子で浴衣を着ていく。

「ん?なんだなんだ??」
「ちゃんと着られるやん、浴衣」
「……いや、身体が勝手に…」

呆然としている夜薙。
それが蟲の力であると実感するのはもう少しあとのことである。

そうこうしていると愛らしい浴衣を纏った少女がやってくる。
七海。
いつぞやとは違い、ずいぶんと似合っていた。

「どう?似合う?」

少しだけ誇らしげに自身の容貌を皆にさらす。
期待する猫のような眼差し。

「めっちゃ似合うで、七海」
「うん、よく似合ってる、かわいいよ」
「おお、よく似合ってるね」

とっさに口を開くのは鴻屋、ガロウ、RANK。
少し遅れて茫然自失から復帰した夜薙と刀岐乃もそれぞれに称えた。

「ああ、よく似合ってるよ」
「うわ~七海ちゃんにあう~!!」

予想外の成果に、頭をかく七海。
頬が赤い。照れていた。
その様子が、刀岐乃に焼き付けられた。

「あら?何か今……?」

瞬き。
その瞬間、脳裏に先ほどの映像が鮮明に浮かんだ。
それは瞼の裏をディスプレイとして、画像が映し出されたようだった。

「すごい、自動保存なんてやってくれるんだ~」

面白がり、何度も眼を閉じたり開いたり。
そのたびに歓声が上がる。

「おお~すごい、目つぶったら七海ちゃんの映像が!これは…便利~」

物欲しげに見ていた鴻屋が何度も同様に眼を瞬かせる。
男女揃って激しく瞬きをする光景は、なかなかに愉快ではあったけれども。

「んまー。サイバネティック路線まっしぐらだな、ウチの藩国」

夜薙がそんな様子を見て苦笑。
体の中でもぞりと動いた気のする蟲もさほど気にはならなくなっていた。


そんな自らの友人である蟲を受け入れてくれた、そして自分たちを受け入れてくれた越前の人々を見て。

七海は嬉しそうに、はにかんだ。




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