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環月怜夜@世界忍者国様からのご依頼品


その日小笠原は晴れていた。待ち合わせの浜辺には、ここ数日の戦闘の跡はなかった。

きらきらと水面に反射する光を背に、それに負けないほどの煌きを結んだ黄金の髪に宿しながらその青年はやってきた。怜悧な美貌にどこかしら皮肉な微笑をうっすらと浮かべ、鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌さを漂わせている。今日のいでたちはサマースーツ。長身に良く似合っていた。

その青年――ロイ・バウマンは、浜辺に立ち尽くす相手を認めて、軽く手を振った。相手――環月怜夜は、抱え込んでいたスーツケースと弁当箱を更にぎゅううっと握り締めた。

(おちつけーおちつけー)

2回ほど口の中で唱えてから、すうっと息を吸い込む。

「あ、ロイさん。こんにちは」

ぺこり、と挨拶する。と、スーツケースと弁当箱がこぼれそうになってわたわたする。そして顔を挙げ、相手のいでたちにちょっと見ほれた。

「普段着も似合うんですね」
「そうですか? ありがとう」

素直な怜夜の言葉に、ロイはちょっと面白そうに返した。怜夜は迷宮での怪我やその後の療養のことを思い返して、不自然なところはないか…怪我をしてないか、ちらちらと様子を観察した。怪我はないよう…ほっとすると、相手が上機嫌であることに気づいて小首を傾げた。

「ご機嫌ですけど、何か良いことがあったんですか?」

この時点で世界忍者国藩王は情報網からHIが狙撃されていたという情報を入手している。そして、小笠原でロイに会う怜夜に教えようかどうか考えた末、伝えるのをやめている。より正確に言うと、晩御飯を食べに行って伝え損ねた。知っていれば怜夜はロイをなじっていたことだろう。

「貴方にあっています」

いつもの嘘。いや完全に嘘ではないが、本当ではない。優しい表情でつむがれる実のない言葉に怜夜は戸惑う。

「そう言って下さると嬉しいです」

ロイは、くすっと笑った。違和感を感じても彼女にはどうしようもない。

「あの、これ、お預かりしていたスーツ・・・・・・クリーニングには出しておいたし、汚れてはいないと思うんですけど」

おずおずと差し出されるスーツケースを受け取りながら、ロイは爽やかに笑った。

「ああ。ありがとう。律儀に覚えておいてくれたんですね。感謝します」

「勿論。貴方のことは全部覚えていたいんです」

怜夜は爽やかな笑顔に途方に暮れつつも真摯な言葉をつむぐ。そう、もう一つ言わなければいけないことがあった。

「あと、この前はありがとうございました。こちらこそ感謝しますね」

「なにを、ですか?」

ロイは笑うと、怜夜の手を優雅に取ってエスコートした。ぼっと頬を染めつつ怜夜は言葉を継ぐ。

「月子さんのことです。貴方の知らない月子さんかもしれないけど、無事に助かったらしいので」

自分の手が汗ばんでないか気になった。

「ああ。それでしたら、お気になさらず」

軽やかな返答。ロイにとって月子は大事な家族。困っていれば助けるのは当然。それは怜夜にもわかっている。ただ、やはり助けてくれたことが嬉しかったのだ。そして、まあ無駄に律儀でもあった。

「いえ、やっぱりお礼はきちんと言わないと…ありがとう」

そして、きょときょとと、周りを見回す。手を引かれついて行っているものの、どこに向かっているのだろう? 方角としては南のようだが天性の方向音痴としてはあまり自信がない。そう言えば、南には散歩コースがあると聞いたっけ…。怜夜はおずおずと口を開いた。

「こちらには、何か名所があるんですか?」

「いえ、なんの名所もありませんが」

上品にロイが答える。

「名所がお好きなら、そちらにいきますが?」

嫌味に聞こえるのはあまりにもスマートだからだろうか。

「いえ、貴方と歩けるだけで嬉しいです。もう二度とこういう機会は無いかもしれないですし」

なぜか少し悲しくなって怜夜は目を伏せた。

「日常を大事にしたいんです」

儀式魔術大絢爛舞踏祭以来、目の前の男はしょっちゅう死ぬような目にあっていて…あるいは本当に死んだりして、怜夜には心の休まる機会がなかった。正直、隣り合ってのんびり歩ける日が来るなどとは夢にも思わなかった。

「また危ないことをしないかな・・・と、ちょっと心配ですけど」

脳裏に大怪我を負うロイの姿がフラッシュバックする。あんな思いは何度もしたくない…。

「そうですね」

ロイは涼しい顔をして言葉を継いだ。

「危険はなるべくないようにしていますが」

(嘘つき)

その言葉に唇を噛んで俯く。数日もしないうちにこの男は地の母の迷宮に赴くのだろう。ただ、彼女に知る術はなかったが、ロイが確かに危険を減らしていたのは事実であった。彼を狙うセプテントリオン革新派のエージェントHIの排除に近日中には成功するだろう。RSとしては確実に止めを刺しいところだったが、MKはHIがまきという女と引退することを望んだ。余計な敵を増やすことはない。目の前のこの女やその背後にいる謎の集団を含めて。…にゃんにゃん共和国あるいはわんわん帝国の藩国に所属しているというプレイヤーたちを、いまひとつ彼らは測りかねていた。

「いい天気だ」

ロイは海岸を歩きながら笑った。この小笠原に数回呼び出されることで、いくらかの情報を手に入れることはできた。彼らが何を弱みにしているかもわかった。自分が療養している間に、MKはいくつかの手を打ったようだ。

「ええ」

怜夜にはロイが何を思っているのか察する術はなかった。

「ずっとこのままだといいのに」
「変化がないと退屈しますよ」

ロイが薄く笑う。

「ええ、でも退屈な平和の方が、戦争よりはずっといいものですから」

自分の住む世界とこの女の住む世界は違いすぎる。面白いことに、この女とその所属する藩国である世界忍者国では自分が人気らしいが、自分の何を知っていると言うのだろう。

「ロイさんは、この後どうするんですか?」
「そうですね。ひさしぶりに戦争でもしようかと」

鮮やかにロイは笑った。血と硝煙こそが自分の世界なのだ。

「・・・・・・・・・・」

怜夜は絶句したあと、みじめそうに肩を落とした。

「どこにも行かないで、ずっと一緒にいて・・・って言いたいんですけどね」

「家に古雑誌がたまってるんです。片付けないとね」

そう、邪魔者がずいぶん増えた。片付けなければ。

「お掃除なら手伝わせて下さい。一応、整備士のアイドレスは着てますから」

怜夜の返答にすっと目を細める。素で意味を取り違えてるのか、それともはぐらかしてるのか。まあどちらにしろ関係はない、か。

「中々難しいですね…掃除じゃなくて、ですよ」

余所行きの微笑を仮面のように被る。

「掃除はさすがに手伝わせたくないな。恥ずかしい」

「何でもいいからお役に立ちたいんでけど・・・・止めることはできないって分かってるので、そちらは気にしないで下さいな」

怜夜はもどかしかったが、どうしていいかわからずにおろおろした…あと、凹んだ。

「ありがとう。物分りのいい人は大好きです」

ロイは微笑んで嘘を言った。彼は実のところ、信じるところ貫くべきところは決して譲らない人間が大好きだった。ものわかりのけっしてよくない、「それがどうした」と叫んで突き進む頭の悪い人間、だがその輝きは豪華絢爛。彼らとその背負う光輝を思い出して、今度こそは本物の微笑をかすかに浮かべた。

が、怜夜は俯いていて気がつかなかった。うーうーうーとひとしきりうめいた後、うっすら涙の浮かんだ顔を上げて言い募る。

「止める気は無いですけど、着いて行く気はありますから…大好きになって貰えなくて残念ですけど」

くすり、とロイが笑う。

「貴方の悪いところは、ネガティブなところだ」

人間気にしているポイントを突かれるとダメージがでかい。日々ネガティブなのを気にしている怜夜はずどんと落ち込んだ。あ、涙がこぼれそう。

「う・・・・・。よく言われます・・・・・・」
「ははは」
「これでも前向きに生きてるつもりなんですけど。悪口も言わないし、明日はいい日って信じてるし…。笑われた・・・・・・。大丈夫大丈夫。落ち込み終わったら、後は上るだけ・・・・・(ぶつぶつ)」

凹んだ怜夜の姿を見て、ロイは首をかしげた。

「どうしてでしょうね。ネガティブが透けて見えます」
「なんで透けてるものを見ちゃうんですか!」

論点がずれてる。

「見たくなくても見えるんです。すみません」
「いえ、謝られても・・・・・ごめんなさい」

ロイはからかってみることにした。

「距離を取るとみえないそうです。距離をとりましょうか?」

怜夜はふるふると首を振った。

「いえいえ。離れるとどこかに行っちゃいそうなので、側にいてください」

そしてぼそり、と呟いた。

「眼鏡なのに視力はいいんですね」

更に何の関係もない。ロイは飽きて話題を変えることにした。

「手に持っておられるのは、なんですか?」

怜夜が大事そうに抱えている弁当箱に視線を移す。怜夜はちょっと恥ずかしそうに上に持ち上げて見せた。

「あ、お弁当です。ハンバーガーを作ってきたんですけど、御口に合うかどうか・・・・」
「良く覚えておいでだ」

ほう、と面白げな色をアイスブルーの瞳に煌かせる。

「ロイさんの故郷の味を知らないので、地元のお店の真似ですけど」
「だから、貴方のことは全部覚えておきたいんです」

ふむ、と頷いて首をめぐらせる。

「なるほど。ありがとう。問題は……」
「問題は?」
「どこで食べるかですね。トンネルまで見えてきました。どうしよう」

トンネルの先は海岸の上を行く道になっており、200mほど先に次のトンネルが見えていた。海には沈没船があり、そこだけ色がかわっていた。トンネルの向こうへ行こうか、と逡巡した後、怜夜は船の方へ向かうことにした。砂浜をぽてぽてと歩いて、沈没船の間近に近づいてみた。

「座礁・・・?あれ、ご存知ですか?」

ロイはちらと沈没船を見たが言及は避けた。代わりに周りの岩場を見回す。

「ここなら食事もできそうですね」
「ええ。最近は小笠原も物騒ですけど、誰も来ないとは思いますし・・・・・・」

怜夜はひたすら邪魔が入らないことを願った。どうか敵さんが来ません様に。冗談抜きで一生で一度のチャンスかもしれないから。

「そうですね」

生返事をしつつ、ロイは適当な岩を見つくろうとその上に腰を下ろした。怜夜が、いそいそと横に座って弁当を広げる。ロイは微笑んでその様子を見ていた。

「お米のハンバーガーとか、珍しいものの方が良かったかな」

怜夜はその微笑に気がついて一瞬照れた後、つられて微笑んだ。

「どうぞ」

一つ差し出して、じっと見上げる。食べてくれるかどうかが不安だった。ロイが、普通に食べるのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

「食べているところを見られるのは、少し恥ずかしくありませんか?」

その視線に、ロイは、気恥ずかしそうに笑った。

「あ、ごめんなさい。お口に合うかどうか不安だったから・・・・」

怜夜がわたわたする。

「見てほしく無いなら後ろを向いて食べます!」
「いえ、謝らないでも」

ロイ苦笑。そしてそれだけだとあんまりだと思ったのか、言葉を継いだ。

「おいしいですよ。見た目もいいし」

「親しき仲にも礼儀ありって言うんですよ」

怜夜がぶつぶつ言い、褒められたことに気がついて頬を染める。もじもじ。

「ありがとう。好きな人に御飯を食べてもらえるって幸せなことなんですね」

その言葉にただロイは微笑んでいた。彼の国、彼の階層ではまったく違う考え方もあるが、かれはそれを、口に出さなかった。

「・・・・・嘘をつくときって、笑って誤魔化していませんか?」

さしもの怜夜もその気配を感じてむっと口を尖らせる。ロイはおや、と面白そうに首をかしげた。

「引きつった笑いでもしていましたか?」
「いいえ、優しそうに笑うから」

いじけるのにふっと笑う。

「おいしかったんですよ。本当に」
「そう・・・良かった」

いまいち信用してなさそうな怜夜に、苦笑する。

「ええ。食べ物に愛情を託すという行為をはじめて判った気がします」

ようやく怜夜は機嫌を直した。

「愛情以外のものも込められるといいんですけどね」

ロイが首を傾げる。

「他になにか、ひつようなものがおありで?」
「貴方の幸福が」

真面目に答える怜夜に、ロイは優しく微笑んだ。

「十分だと思いますが」

光太郎が晋太郎とともに小笠原で仲良く暮らしている。そのことを確認して彼はこのうえなく満足していた。たとえどんな嘘で塗り固めようと、ただ一人の友を思う心だけは真実だった。

「他に必要なものは無いんですけど、一番大事なものが手に入らないんです。いつも」

怜夜もそのことは知っている。彼自身の幸せを犠牲にしても友の幸せを願うのがロイだと。だから、だからこそ、彼自身の幸せを願いたいのに。うまく伝えられなくてもどかしい。

そんな思いを知ってか知らずか、ロイは社交辞令的な反応をした。

「どんなものですか。プレゼントできるものなら、探してみますよ」
「何か、繋がっていられるようなものって無いでしょうか?いくつの世界を越えても近くにいられるもの…人の想いが加護になるなら、祈りが伝わるものを」

貴方を守りたいのです、と。

「カヘーですか」

ロイの言葉に、怜夜が首を傾げる。

「カヘー?お金?」
「コインです」
「祈りが込められるんですか?」
「人を呼び出す力があります。人でなくても」

小笠原に呼び出されるACEには必ずコインも渡される。どういう仕組みか理解はしていなかったが、オーマであるロイにはそのコインの機能はわかった。

「素敵ですね。もし見つけたら、私を呼んで下さい。微弱でも、力になりますから…。私も探してみますね」

ロイは微笑んだ。この女は…彼女はコインに値する存在になれるのだろうか? あるいはそれ以上の存在に?

「次は、花束でももってきます」

当たり障りのないはぐらかしをロイはしてみた。

「わー。楽しみにしてます」

怜夜は単純に喜んだように見えた。それとも実のところ悲しんだのだろうか?測りかねてロイは少し目を細めた。

「それまで無事でいて下さいね?風邪引かないように、それと・・・・・・」
「それと?」
「笑顔でいて下さい。嘘をつかなくてもよくなる世界を作っていきますから」

ロイはただ、微笑んだ。


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最終更新:2007年12月15日 15:01