きみこ@FVB様からのご依頼品
/*喰うべし*/
「食べられるものは食べる。これ自然の掟」
「な、なんですかあの生き物は!」
「イカナっていうの。第4異星人」
/*1*/
一同が集まったのは、反響の音がおかしくなるような、巨大な空洞だった。大きさは二千キロメートル。日本列島全部と、ほぼ同じ、大きさである。
さらに驚くべきは、これでも全体の20%ほどしか残っていない事であろう。大部分は埋まっているという話だから、全体を想像するのは最早困難どころでない次元である。
どんな化け物技だよ、こんなの作ったの、などと考える天河宵である。
広島の迷宮もあれだが、あっちはは2.5km四方だよなー。それと比べてもすごいよなー……というかもうすごいとかそんな次元じゃないだろ、これ。謎だ、謎。
そんな中。五十メートル上の投光器に照らされて、FVBの一行は唖然としていた。夜明けの船の艦首、マッコウクジラのようなそれを見上げている。すごいとはしゃぐものもいれば、うわーとただ感嘆するばかりのものもいる。
そしてその下には、エプロンを着け、腕組みしたエステルが立っていた。
「エステル、こんにちは!」
「現在の時刻は艦内時間で13時です」
さて。
今日のこの一行の目的の一つは、料理教室、である。希望の戦士も呼んでのお祝い用の料理を作る予定だった。
え? お祝いの目的?
まあ、それはおいといて。
「こんばんは」
不意に、青が闇から姿を現して言った。各自、挨拶をするFVBの一行。きみこ、天河宵が内心で超フィーバ。今にも飛んでいきそうだった、とは角砂糖を貪りつつ様子を見ていたさくらつかさの言である。
だからだろうか。ピギャーとかいう音が聞こえてきても主に二人のせいだと思ったし、わさわさとなにやらやってきても気にすることは――
や、さすがに気になるだろう、これは。
真っ先に栗田雷一とまなせが振り返った。
次の瞬間。栗田は無数の小さなタコに張り付かれた。その数、一万。みんながピギャー言いながら捕食を開始。貪られる栗田。
「ぎゃー、くわれるー」
と言えたのは二秒前までのこと。すでに全身がタコに群がられて声すら出せなくなっている。
栗田雷一、完。
/*2*/
「食べ物じゃないよ」
全てをおさめたのは希望の戦士の一言である。彼が言ったとたん、無数のタコの群れが離れていった。それらは口々に「シブースト、シブースト」とつぶやいている。実に悲しそうだが、捕食されたかけた栗田にそれにかまう余裕はなかった。タコ怖いタコ怖いと言って震える栗田。
「え? これイカナ? 小さいタコの群れが?」きみこは首をかしげる。「何でこんな小さいんですか!?」
「はい。ケーキあげるから集合しようね」
希望の戦士は心得ていた。彼がそう言った途端、イカナは共食いを開始。五秒で一つになった。ぱたぱたと近づいてきて、ものすごい至近距離に立つ。
「オメ、はやくケーキ寄越せ」
「はいはい」
かるくいなしつつ、希望の戦士はぐるりと周囲を見た。
「さて、みんなは何をつくるのかな?」
「お祝いなので、ちらし寿司とか手まり寿司が良いです」すかさずまなせが言った。
「え、えと、エステルさんのお祝いの為の料理を!」青に見とれていた天河宵、慌てて続ける。
が、次の瞬間。希望の戦士はえーという顔でエステルを見た。
「結婚したの!?」
「ノーコメントです」ぷいとそっぽを向くエステル。
「ちっちがうんですかっ!?」慌てるきみこ。
ちなみに。
そのころ、さくらつかさは角砂糖をもしゃもしゃほおばっていた。リスのように頬をふくらませている。
「私達、結婚してお腹に赤ちゃんいるものと思ってたんですけど…」
きみこは気を取り直して言うが、希望の戦士はええ? という顔でエステルを見た。そして即決。希望の戦士はすたすたと近づき、きゃあきゃあ言い始めたエステルを捕まえた。お腹をさわろうとしている。悲鳴はやがて怒号になってエステルは本格的に暴れ始めた。
「マァ、その辺は後でにして、料理作りませう。」>希望の戦士
希望の戦士、完璧に無視。
五秒後。エステルは何か大事なものをなくしたらしく泣いていた。一方で首をかしげている希望の戦士は、「赤ちゃんは感じなかったなあ」などと言っている。が、まあ、さしあたっての疑問は解決したのか、気を取り直したように(というか全てを忘れたように)「そう、でちらし寿司だね」とのたまった。えらい切り替えの早さである。
もっとも。そんなにすぐ復帰できない人もいるわけで。エステルは「辱めを受けました……」と言って隅っこでさめざめ泣いていた。
「……流石青、マイペースだわ」
天河宵がぽつりとこぼした一言が、何もかもを表していた。
/*3*/
一方その頃。
イカナはケーキを食べている。ぱくり、もきゅもきゅ、ごくり。
イカナは踊りだした。
何故かとなりで踊り出すまなせ。
「オメと俺、卵焼きの関係」
「玉子焼き!」
よくわからないながら反応するまなせ。ちなみに、すでにちらし寿司の準備は青手動の元推し進められていた。それを角砂糖をかじりながら眺めているさくらつかさ。
あ、イカナ反応。
「おめ。何食べてる?」
「角砂糖。あまいよ」
はい、とイカナに袋を差し出すさくらつかさ。
あ、まずい、と遠くから見守っていた天河宵は思ったが、時すでに遅し。
ばきり。イカナは腕ごと食いちぎった。
「ぎゃー」
叫ぶさくらつかさ。や、ぎゃーじゃない、ぎゃーじゃすまないから。
おうさまなんか食べられてる……と哀れっぽい目で眺めるきみこ。目の前で我が手をばりばり食べている心境については、精神衛生上、考えないことにした。あ、イカナの目がハートだ。おもしろい。
「手は返せー!」
ぎゃわーと暴れるさくらつかさ。イカナは口をもごもごさせたあと、腕を吐いた。
「返す。まずい。シブースト」
そのまま取り付けられた。
「てはだめー」もーと言いながらくっつけるさくらつかさ。この人の精神強度は鉄らしい。
後日。このくらいの精神強度がなくっちゃはんおーなんてできないんです! と力説したとか。
――き、気を取り直そう。気を取り直すべきだ。そう。全員何も見なかったことにしてちらし寿司の制作を再開する。さくらつかさはその途中黙って唐辛子をたたき込んだりしていたが、なんとか、普通の作業に戻る。
まあ、問題はあった。エステルが軽量に何故か顕微鏡を持ち出したりしていたからだ。誰か、彼女と家事技能の訓練をするべきだと思う。
そんなこんなで、数十分。
ふいに悲鳴が響いた。
「もう、こんどはなにー!?」
叫ぶまなせの視線の先。そこには侵入者を食べているイカナの姿があった。もぐもぐ。もきゅもきゅ。むぐ。
「なにたべてるの?」
先ほど自分が喰われたことなどさっぱり忘れている顔でさくらつかさが聞いた。――と、良く見張れば、喰われているのは最後のゲスト、エノーテラであった。
え?
「く、食われてます、ゲスト食われてます」
「きゃー! エノーテラさん大丈夫!?」
天河宵ときみこが叫ぶ。一方で、
「ぁ、ダメよう。おきゃくさんたべちゃダメー」
さくらつかさはぽかぽかとイカナを叩いた。あ、柔らかい。むにゅー。などとしている。
それがきいたのか、イカナはエノーテラをはき出した。ぶっ倒れるエノーテラを尻目に、イカナは堂々と言ってのけた。
「食べられるものは食べる。これ自然の掟」
「お招きしているお客さんはちょっとだめー」
もっともである。もっともなのだが、さくらつかさがいうとなんというか微妙にずれた気がするのは何故であろうか。この場にいる全員が内心で小首をひねった。
「な、なんですかあの生き物は!」
エノーテラが、きっかり十歩離れたところまで逃げつつ、至極まっとうなことを言った。この人物、ある人が絡まなければ結構普通である。イカナを怯えた目で見ていた。
「イカナっていうの。第4異星人」
さくらつかさがほわんとした口調で言う横で、希望の戦士が笑った。
「黒いオーマの匂いがするね。殺してもいいけど、許してあげるよ」
「なんで、呼ばれて来たら憎しみの目で……、殺されかけるし」
エノーテラ、すでに泣きそう。あ、涙を浮かべた。
「エノーテラさん、こわい思いさせちゃってごめんね」
きみこはうなだれて、エノーテラの背中を撫でた。イカナはそれを尻目で見つつ、踊る。
まあ、つまるところ。
どこまで行こうと。イカナはイカナである、ということ。
ちなみに。この後も巨大化したりいろいろ楽しいことをしてくれるのだが、
あまりに長くなるので。今日は、ひとまず、ここまで。
「食べられるものは食べる。これ自然の掟」
至言である。なんかこう、何もかもそれで片付く気がしてきた。
でもさ。腕を食べるのは正直どーかと思いますよ?
作品への一言コメント
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- どうもありがとうございました! ですよねー、腕を食べるのはどーかと思いますよね! イカナがこんなに変幻自在とは知らなかったのでびっくりでした。 -- きみこ@FVB (2007-12-26 21:50:05)
- イカナも次は七段変形とかしそうですね。七色(食?)変化かも。 -- 黒霧 (2007-12-27 19:28:24)
引渡し日:
最終更新:2007年12月27日 19:28