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黒崎克哉@海法よけ藩国様からのご依頼品


『ヤガミと秋祭り』


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 10月。深まりゆく秋の頃。

昼間はまるで夏そのままのような小笠原も夜になるとそれなりに秋の気配が感じられるようだった。

それは鳴き交わす虫の音であったり、時折吹き抜ける島風の匂いだったり、天にかかる月の光のせいかも知れない。

黒崎は何とはなしに空を見上げて浴衣の衿を直し、こんなことを感じる辺り、ウチも大分女化が進んで来たんかなぁ、とか思った。

群青に薄青い朝顔の花をあしらった浴衣に浅黄色の帯と空色の帯締めが髪の色に良く映えていた。

今回は前回以上に女性らしく、と頑張った。装いは完璧である。

今宵は秋祭り。

多くの人が行き交う神社の境内に入った黒崎は待ち合わせた相手を探して背伸びした。

祭提灯、お囃子、縁日。

祭を構成する要素は変わらないのに夏祭りの時とは違ってどことなくしっとりした感じがする。

「むー、人が多すぎてちょっと見えにくいなぁー」

背伸びしたままきょろきょろと辺りを見回すと、さんざめく人の波を透かしてヤガミの姿を見付けた。。

黒崎から少し離れた場所で知らぬ男と並んで話をしている。

相手が気になる…。

気付かれないようにこっそり近寄る。ヤガミと男はひどく親しげに話をしていた。

相手の顔が確認できるくらいまで近付くのと、ヤガミが手を振って別れるのが同時だった。相手を見送って溜息をつく。

用件は済んだらしいのでちょっと離れたところから声をかけると、ヤガミは顔を上げて黒崎の方に歩いてきた。

夏祭りの時と同じ、灰色の浴衣がやっぱり様になっている。

黒崎は袂に腕を入れて腕組みし、からころとゲタをならして歩いてくるヤガミに暫し見とれた。

「早かったな」

「いや、ちょっと浴衣が着慣れないから、歩きにくいかとおもって早めにきたんだ」

「そうか」

 言いながらヤガミは微かに眉を上げた。

「さっき、誰かと話してたみたいだけど?」

「仕事だ。気にするな」

「そうか、わかったー」

「それにしても……」

 そう続けて袂から腕を出して顎に手を当てた。眼鏡が祭提灯を映して光る。

視線が黒崎の上から下まで無遠慮に注がれた。

「え?え?なにかついてる?」

「まるで女物に見えるな」

「いや、女物の浴衣だよ?国の人に借りてきたんだ」

「そうか、目の錯覚でなくてよかった」

ヤガミは微妙に納得しきれない様子で頷いた。

浴衣は帯の形状が男女で違う。縁日通を自任する自分の見立てと黒崎は男、という認識のギャップに彼なりに悩んだ結果らしい。

「男はこんなの着ないでしょ」

呆れたように答えた黒崎にヤガミはにやりと笑った。

「俺の節穴レベルをバカにするな」

「ええー?」

「人をジロジロ見るような趣味はない」

いや、めっちゃ見てたし。

この場合の節穴というのは女性、つまり黒崎に対する見方であろう。

どうも彼自身これまで良い男友達だと思っていた黒崎との接し方に未だ迷っている節があった。

「それはそうだけどね。で、どうする?」

「祭りだろ?」

「人が多すぎてよく、周りがよくわかんないんだけど」

「人が少ないところでも行くか」

「うんー」

にっこり頷いた黒崎をおいてヤガミはゲタをならして凄い勢いでどこかに行った。

「ちょ!ちょっとまってよー!ただでさえ着慣れなくて歩きづらいってのにー」

足にからみつくような和服の裾を上手くさばけず、焦った声を上げる黒崎。声を聞きつけてヤガミが引き返してきた。

「ヤガミー」

「すまんすまん。聞いてたのにな……というか、服だけの話か」

「そんなに早く行かないでよ…。

悪いんだけど、服のそで借りてもいいかな?ついていけないかもしれないからー」

「分かった。……妙な気分だが」

ヤガミは複雑な面持ちで眼鏡を押し上げると承諾した。

「ありがとうーヤガミ」

 黒崎は途端に機嫌を直してにこにこすると左の袂の端を軽く握った。

 前を向いたまま黒崎を見ようともしないヤガミだが、それでも少しは気を遣ったのか、歩く速度を緩めている。

「まるで女とデートしてるみたいだな。経験はないが。

体力落ちたんじゃないか?」

「あのーおれ…いや、ウチが女になったの忘れてないか?ヤガミ。

だから女物の浴衣きてるんだし」

いままさにその女とデートしている最中なんやけど~。思いっきり突っ込みたい黒崎。

「……いや、知識としてはあるんだが。

もともと女ぽくはあったが。だがしかし」

ぶつぶつそう言いながらヤガミは首を傾げたりしている。彼には彼なりの葛藤がある模様だ。

「胸さわらせたでしょうが」

「俺のを触ってもいいぞ。あんなものがカウントになるか」

「あはは、ヤガミのはみたことあるからわかるやんー」

 黒崎は笑いながらヤガミの隣に立つと歩きながら掌でべしべし、とヤガミの胸板を叩いた。見た目以上に引き締まった筋肉の感触。

 まぁ、確かにこんなのは男子高生が良くやってるおふざけだ。

「だろ? 俺も同じ気分だ。そういう意味で実感が、ない。まあでも」

「うーん、そんなものかな?」

首をひねる黒崎に、コイツはしょうがないなという風にヤガミは苦笑した。

「なに?」

「喜べ。俺はお前が女でも男でも、態度を変えないいい友人だ。

普通ならドン引きだ。たぶん、だが」

「そうかー」

 心持ち肩を落として溜息をつく黒崎。

 前例があるとはいえ、好いた男のために性別を捨てるというのはやはり大変なことだ。

 場合によっては自分より相手が。

「普通なら、だな」

「普通、ねー」

ヤガミは笑って左手を上げかけて、やめた。

以前良くやっていたように、男友達黒崎の背中をばーん、とどやしつけるつもりだったらしい。

急に女になってしまった黒崎をヤガミも意識し始めている。

「祭りに来たのに外れにくるとは変な気分だな」

「ヤガミ?」

「どうした?」

 気が付けば話しながら祭の外れも外れ、境内の裏手にある神域の山に入り込んでしまっている。

 未舗装の道は細くなり、両側に鬱蒼として木立が迫っている。

 小さく呼びかけた黒崎にヤガミは振り向いた。

「いや、普通ってどんなのかなーと思っただけだよ」

「さあ?気にしたり、傷ついたりしてるなら、悪かった。

…俺とお前の話だ。他人は関係ないな」

「いや、大丈夫。思っただけだからヤガミこそ気にするなー」

ヤガミはゆっくりと立ち止まった。

「うん?」

林の中程、少しだけ開けた場所。ここまで来ると人影はもう、まばらだ。

振り返れば眼下に遠く祭りの明かりが見える。

「ちょっとまえなら満月だったんだけどな」

黒崎はそう言いながら上を見上げた。道に覆い被さるように差しのばされた梢を透かして朧に臥待月が見えた。

「満月の日にはヤガミにあいにこれなかったな、残念」

「満月に何か意味があるのか?」

ヤガミは笑って黒崎の隣に立っている。一緒に月を見上げた。

「いや?意味は無いけれどー満月って大きくみえるから」

「そうか」

ヤガミは短く答え、座れそうな岩をみつけて腰掛けた。黒崎もかなり無理のある姿勢で隣に腰掛ける。

傾斜のある岩なのでお尻が半分以上宙に浮く。いわゆる空気椅子である。

「火星からは月はみえるんだっけ?」

「無理だな。…岩が小さい。離れて座れ」

「うん」

黒崎はヤガミに言われて少し残念そうにしつつもちょっと離れた小さな岩に移動した。

やはり空気椅子で会話するのはきつい。ふくらはぎがぱんぱんになる。

二人は微妙な距離だ。

「なんか…離れたら喋りにくい」

「これならどうだ」

「もー大声出さなくていいよ」

 じゃあボリューム上げればいいだろう、と如何にもヤガミは短絡的発想だった。

 黒崎は苦笑して少し思案すると結局再び立ちあがってヤガミが座っている岩の側に立った。

「立たなくてもいいだろう。体力ないんだから」

「だって離れてるのやだからさー」

「変な……いまとなっては変でもないか。

えー、俺が立つ、お前が座る」

「ほえ?」

「さもなければ狭いが二人で座るかだ。どっちがいい?」

「狭くてもいいから二人で座る。座れなくはないんだからさ」

選ぶべくもない二択だ。

ヤガミが少し横に退いて場所をあけると黒崎は嬉しそうに答えて、いそいそと隣に掛けた。対照的にヤガミは不機嫌そうなふりをしている。

 あくまでふりである。

 この期に及んで往生際の悪いことに、デレてなぞやるものか、とか思っていた。

「あれ、一緒にすわるのやだった?」

「いや。友人だからな」

「うーん、友人かー…」

「なんで落ち込むんだ。親友が良かったか?」

「いや、まーそういう意味でないけど」

 どういう意味だ、という表情のヤガミ。

黒崎は軽く溜息をついてまたこのパターンかいな、と思った。

「?」

「折角薬飲んで女になったんだけどってこと。ま、言っても仕方のないことか」

「俺が好きってやつか?」

「そうねー」

神妙に頷くとヤガミは苦笑した。

この遣り取りも何度目だろうか。

そう思っても黒崎は自分の気持ちをぶつけるしかない。

「お前だけを好きなんだよー。ま、わからんだろうけどね」

 黒崎はちょっと達観した気持ちでそう言うとヤガミは苦笑したまま眼鏡を押し上げた。

「女になったら、また見方もかわるさ。気にするな」

「見方ってなに?」

「女が見るいい男と、男が見るいい男は違うって話だ。TVの受け売りだが」

「それは他の人の話だろう。

今の自分は体が変わる前と何一つ変わっちゃいないよ」

「お前は違うとでも?」

断言する黒崎にヤガミはえー?という顔をした。

これにはちょっと傷付く。散々態度に示しているつもりなんだけど。

「なんでよ…。マイケルも男には女っていってたじゃん。

変わってないってのはお前を思う気持ちだからなー?」

「ふーむ。…そうか。心は火星人か」

懐手になって顎に手を添える。

ヤガミはそう考えると、色々納得したようだ。

身近な例に当て嵌めてやっとそこに思い至ったらしい。

「男が男を好きってのがおかしいっていうなら女になるしかないだろう。

女になったのも自分が決めた覚悟だから」

「男らしい奴だよ。お前は」

ヤガミは懐手のまま快活に笑った。色々すっきりしたらしい。

「おとこらしいかなぁー」

「好きな奴のために性別変えるか、火星人でもないのに」

「だって好きになったんだから仕方ないやん。火星人じゃないから薬使っただけ」

ヤガミはまだ、そう言われるのに慣れてないようだ。

懐手をやめて人差し指で頬をかいている。

「変な気分だな」

「変かな…まだウチのことは気持ち悪いとおもう?ヤガミ」

ヤガミは黒崎の方に身体を向けると思い切り顔を近づけた。

眼鏡が触れそうだ。

「気持ち悪かったら、尻をつけて座るか」

「!」

岩に置かれたヤガミの手が無意識に黒崎の尻尾を握ってさすっている。

「し、しっぽー…」

「とはいえ……まあ、まだ慣れてないだけだ。俺が。気にするな」

「うん」

そう真顔で言っている間も尻尾をふにふにしたり引っ張ったり。

「し、しっぽはー…」

「これ取れないのか」

 へにゃ、となりそうになりながら黒崎は下の耳を赤くした。

 尻尾とか、ましてや耳なんて・・・。

「それは体についてるんだよ。耳もそうだよ?」

ヤガミは興味深そうに動いてる尻尾を自分の顔の前にやってる。

ゴージャスタンゴに生きるヤガミでも生の猫耳尻尾は珍しいのかも知れない。

そう言えばこの距離で尻尾をヤガミに触らせたことはなかった気がする。

「付け根はどうなってるんだ」

「にゃ?つ、付け根は…それは」

そんなん言わすなよ!とつっこみたい黒崎。

ヤガミは手にした尻尾の先をじっと見ている。

「生きてるみたいだな」

「いや、神経通ってるよ、触られるとくすぐったいー」

ふむ、という顔でヤガミは尻尾をくすぐり始めた。何だか手つきがいやらしい…。

「ちょ、ちょー…くすぐったい~。そんなにしっぽ触ったら…」

「毛が抜けるか」

「毛はぬけないけどー力が抜けるからー…」

 ダメだ、膝に力が入らなくなってきた。

 黒崎はヤガミの手元から自分の尻尾を奪還した。

 自然にヤガミに寄り添うような姿勢になる。

「悪かった」

「別に悪くないよ。ヤガミだからね、かまわないよー」

 少し落ち着きを取り戻した黒崎はヤガミのばつの悪そうな言葉ににこーっと返した。

 なんや、やっぱりかわいいとこあるやん。

 しかしそれも束の間。ヤガミは再び尻尾を奪還した。

「にゃ?」

「じゃあ、これで遊んでもいいわけだ」

 意地悪そうににやりと笑ったヤガミ。

 いや、尻尾で遊ぶて、どーいう……。

 流石に呆気に取られた黒崎を尻目にヤガミはすごく上機嫌。

 振り回したり振り回されたり。

二人の勝負はまだまたヤガミの方が上手であった。

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拙文:ナニワアームズ商藩国文族 久遠寺 那由他




作品への一言コメント

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  • うふふふhvvv素敵なSSにして頂いてありがとうございましたー!!頂きますー!!きゃっ(*ノノ) -- 黒崎克耶@海法よけ藩国 (2008-02-18 01:05:18)
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製作:久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=619;id=UP_ita

引渡し日:2008/2/13


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最終更新:2008年02月18日 01:05