歩露@芥辺境藩国様からのご依頼品



――――「頑張ろう。子供の心を守るんだ」――――



~護心の剣と剣士の願い~



少年は、震えていた。
こわい、こわい、……こわい。
死ぬ、という言葉の意味すら理解する前に、あまりに多くの死を見過ぎていた。
戦においては国を守る鉄の雄姿も、
少年の無垢な瞳には無機質な殺戮者としか映らなかったのだ……。

「戦争なんて、ひでえよなあ」
「ええ……本当に」
「全くです…」

今日この少年、チビをここまで連れてきた小鳥遊、歩露の両名は
戦争がチビの心をここまで傷つけてしまっていたのかと狼狽すると同時に、
ここに来た目的を何としても果たさねばならない、そう心に誓った。

そして今回、芥辺境藩国が誇る、皆を守る剣「蒼天」は
ただ一人の、しかし何物にも代え難い
「子供の心を守る剣」として鞘から抜き放たれた。

「蒼天……今回は、子供を楽しませるのが作戦目的だ。最高の作戦だろ?」 
蒼天に触れる小鳥遊。
そのボディーは、小鳥遊の言葉に応えているのだろうか。ほのかに温かいような気がした……。

操縦桿を握る小鳥遊。
キラキラとした目と明るい笑顔の特徴的な
どこかまだ子供らしさを残した印象のあるこの人物も、
今日はチビのためにと真剣な顔つきである。

隣に座る滝川も、真直ぐ前を見据えている。
準備はできている。そう言いたげな横顔であった。

轟音を上げて蒼天が加速を始める。
白いコントレイルを残し空へと舞い上がる蒼天の姿は、
高らかに凱歌を唱える騎士の、空へと掲げられた剣のよう。
眠りから覚めた蒼天の初仕事は、
曇り空を断ち切って空の青さを見せること。
誰にも真似のできない任務。
剣と騎士は、突撃を開始した。

地上では、本日の主役が発進した機体を不思議そうに眺めていた。
同じ鋼の兵器でも、彼がまだ目にしていない蒼天は
どうやら兵器とイコールで結びつかないようであった。

「チビ君も、こうやって手を振ってあげるといいよ」

地上で見守る歩露がチビに語りかける。
その様子を見て、チビも彼の真似をして手を振り始める。
優雅に舞う姿は、恐怖心をいくらか取り除いているようだ。
蒼天も、彼の手を振りかえして応える。

「あ、今ゆれた! きっとチビ君に手をふったんだよ!」

振手による開演の挨拶を皮切りに、
小鳥遊は演目を開始した。
体にGが重くのしかかる。
気を抜けば、抜けた気が昇天してしまいそうな重圧。
しかし、隣に座る男は全く動じていないようであった。

「人型戦車より楽さ」

演目はさらに複雑さを増していく。
バーティカルクライムロール。
キューバンロール。

チビの目が大きく見開かれる。
彼の瞳は、もはや空を駆ける蒼天しか映していないようだ。

蒼天が最後の仕上げに入る。
インバーテッド・コンティニアスロール。

見事なフィニッシュが決まると同時に、
チビの両手が大きく天へと掲げられた。
両頬を赤く染めて、目を輝かせて笑うチビ。
その様子を満足そうに見つめていた歩露は、
バイザーを目の前に下げ、空を割る一筋の白に大きく手を振った。

辺境の剣は少年を蝕む暗闇を切り裂き、光を差し込ませることに成功したのだ。
撃墜数は0。しかし、何よりも大切なものを取り戻した。
これ以上の戦果は歴史書を紐解いても、決して見つかることはない。



作品への一言コメント

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  • おおー。 リクエスト通りのかっこいい蒼天でした! ありがとうございます! (そして元ログ通り目立たない自分(笑)) -- 歩露@芥辺境藩国 (2008-02-10 21:22:35)
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最終更新:2008年02月10日 21:22