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No.13 是空とおるさんからの依頼



紫紺のはざまで (小笠原ゲーム『是空のひみつ』より) ―是空とおるさまに捧ぐ―


紫色の空の下、小笠原の海岸で、二人が互いに抱きしめあう。
そう書くとなんだかロマンチックだが、実際は素子が是空を抱き上げている。
一般的なカップルとは逆だった。
しかし、二人がOKなら、全く何の問題もないのである。

「藩王の威厳なんて軽いもんだなぁ」
「そうね」

抱き上げた是空の胸に顔を埋めて、素子はそのぬくもりを確かめる。

「でも、藩王なんて、それでいいのかもな……」

ああ、彼は確かにここにいる。
それがわかって、素子は少しだけ笑った。
もちろん、彼にはわからないだろうけど。
そして、そのことにもう一度、笑った。


静寂を切り裂く派手な破裂音。


幸せな空気は、その破裂音を聞いた瞬間に吹き飛んでいた。
腕の中にいる自分の旦那様を確認して、一気に跳躍。
安全圏まで逃げなければならないと、それは長く戦場にいる間に培ってきた経験による、反射的な行動だった。

「はな……」

素子の腕の中で、是空は何かを言いかけて、そのまま意識を失っていた。
サイボーグの身には平気でも、生身の人間にとってはかなりの負荷がかかったらしい。
急激なGによるブラックアウトだと思われた。

1kmほど跳躍して、波止場の影に着地する。
呼吸と心臓、その他諸々の音をすべて止めて、周囲を警戒。
腕の中には、大切な夫の頭をしっかり抱えて、ちょっとだけ力を込めた。
なくしたくないものは離さない。これに限る。
離したくなくてもすり抜けていくものに関しては、もう諦めないことにしていた。

とりあえず、そうして素子が夫の頭を大切に大切に抱えていると、その抱えられている本人はどうやら、意識が回復してきたようだ。
少し、身じろぎをして、目を開く是空。
焦点の定まらない視線を素子に投げ、第一声。

「素子? 愛してるよ」

これには素子も虚をつかれた。
ろくに見えてない状態で、この人は。
そんなに、自分は不安そうな顔をしていただろうかと考える。

「貴方のその頭の悪いところ、好きよ」

この人はたぶん、そんなことも考えてなくて、私がいる気配がしたからそう言っただけに違いないわねと結論付けて、素子は呆れながらも嬉しそうに言った。

一方是空はというと、ようやく本格的に意識が回復したらしく、状況把握に努めているらしい。
遠くで花火の音がしているのを確認すると、それで全てがわかったらしかった。

「素子ー、これ、花火だよ! 砲撃音じゃなーい!!」

言われて、ちょっと耳を澄ます。
そういえば、もう忘れそうになるくらい昔に、聞いた覚えのある音のような気もした。
それから、思う。
だって、迫撃砲弾の音に似てるじゃない。そもそも、花火なんて最後に見たのはずっと昔のことよ。覚えてるわけないわ。
それでも自分が勘違いしていたのは確かなようで、微妙に嫌だ。
気恥ずかしいとも言う。

「そう見せかけた攻撃かもしれないじゃない」

憮然としか顔を作りながらそういうと、是空は全部わかってるとでもいうように笑いながら言った。

「まったく、お互い戦争恐怖症だな」

そして、さらに続ける。

「じゃあ、確認しに行こう。索敵は俺らの役目でもある」

こういうときに男はずるいと思う。
ちょっとかっこいいじゃない。
そんなことを思いながら、是空のしてくれた提案に乗ることに決めた。

「ちょっとまって。心臓の音とか、おなかの音とか、回復させるから」

そういうと、是空はお腹に耳を当ててきた。
さっきかっこいいと思ったのはどこへやら、今度はまるで子どものようだと思う。
だから、頭を抱えてむぎゅーと押し付けてやった。
じたばたする是空をみて、ちょっと笑う。
こういうのも、悪くはないわね。

「素子と子供つくれたらいいのになぁ」

冗談めかして言われた言葉は、おそらく是空なりの優しさだと知っていた。
だから、素子もこう返す。

「子供ね。ののちゃんみたいのがほしいけど」

是空はにっこりと笑ってくれた。
もし、サイボーグから生身の身体に戻れるなら、それもいいかもしれない。
やや本気で考えて、決めた。

けど、ここで夫を喜ばせるだけなのもシャクだから、もうちょっとだけその決意は自分の胸の中にしまっておくことにしよう。

素子は是空に気づかれないように、こっそり心の中で舌を出した。






引渡し日:2007/



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最終更新:2007年09月25日 18:47