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NO.101 玖珂あゆみさんからの依頼

 夜明けの船の臨時食堂は重苦しい空気が支配していた。
 小笠原の海岸で倒れたスイトピーを夜明けの船に運び、医務室に詰めていたサーラが診察した結果、体の機能的には問題ないが死亡していると診断されたからである。
 総一郎は殺人を疑いK2、川原や風野といった面々と推理を進めていた。
 そして・・・。

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 総一郎は悪童屋の肩を叩いた。
「自然死だ。残念だった」
 当初スイトピーが誰かに殺されたと推理した総一郎であったが、最終的な結論がこれだった。
「・・・・・・」
 肩を叩かれた悪童屋は無言。
「ん、でも確か宰相のところにスイトピーに関する嘆願は来ていた・・・はず、確か」
「スイトピーは、小笠原でみんなに呼び出されるのをあまり快くは思っていなかったみたいだから」
 風野と松井がそれぞれ持っている情報を提供する。
「では自殺か?。小笠原に呼び出されるのが嫌で」
「自殺?」
 思いついたように呟く総一郎に視線を向ける悪童屋。スイトピーが自殺することなど考えられないという顔だった。
「いや、自殺するような人間じゃないな。彼女は」
 自分の言葉を即座に否定する総一郎。スイトピーが自殺をするような人物ではないと分かるぐらいは彼女を知っていた。
「なら、悪童さんに国につれて帰って欲しかったとか・・・?。うえん、なんだろう、うまく考えられない」
「なるほど。それだな。スイトピーはおじさま好きだ」
「おじさま好き・・・。それで自殺か?」
 松井の言葉に総一郎と悪童屋が顔を向ける。
「つれて帰ってもらっても、死んでいたらどうしようもないのでは・・・」
 至極もっともな意見をK2が述べる。
「大体、スイトピーの自作自演で、そんなことできるのか?」
 この状況をスイトピーが一人で計画したものであるのなら計画に綻びが出てくる可能性が極めて高いだろう。綻びが見つかればここに集まっている面子ならば簡単に本人を見つけ出すことも可能である。
 問題は協力者がいた場合である。
「もし協力者がいれば・・・」
「協力者って・・・うーん、宰相とか?」
 自身が知っている人物の中で、スイトピーに協力する可能性が一番高そうな人物の名を川原があげた。
「んー、理由云々考えるより、とりあえずおとうさま怒鳴りつけて説明させたほうが早そう」
 秘書官である風野は宰相のことをおとうさまと呼ぶ。
「おとうさまって誰だ?。知恵者だったら、殺す」
「多分それですね。宰相とも言います」
 尋ねる総一郎に苦笑いを浮かべながら風野が答えた。宰相はいくつもの名前を使い分けている。知恵者もそのうちの一つのはずだ。
 総一郎は目をさまよわせていたが、いきなり怒り出した。
「何で知恵者だと言わない!。ひどい茶番だ。殺す。今度という今度は殺す。手くらい繋ごうと思う傍から邪魔をして!」
「落ち着いてください。怒ってはだめです、思う壺です」
 松井が落ち着かせようとしたが無理だった。
「とりあえず、目が覚めなくてもいいから遺体を引き取らせて下さい。もしかしたら帰ってくるかもしれないから」
 このままでは総一郎が何をするか分からないため、悪童屋は遺体だけでも確保しようと彼に話しかけたが既に遅かった。
(サーラ、遺体を処分してくれ。すぐにだ。急いで)
 既に総一郎は医務室にいるサーラに無線で指示を飛ばしていたのだ。
「ちょっと待って!。処分しないで下さい!!」
「総一郎、落ち着いて」
 松井はおずおずと手を伸ばし総一郎の手を握った。彼女の手のぬくもりを感じ少し微笑み、総一郎は落ち着きを取り戻す。
「大丈夫だ。海岸いる皆も呼ぼうか」

/*/

 総一郎の呼び出しにより、海岸に残っていた一行は夜明けの船に移動することになった。
 あやのと健司は赤面していたが、しっかり手を繋いでいた。出迎えに出た風野らは、二人を見て口に出しては何も言わなかったが、ニヤニヤしながら二人を迎え入れた。スイトピーのことがなければ一騒動あったかもしれない。
「くそ、彼女ぐらいで勝ち組かよ!」
 それを見て面白くないのは光太郎である。思いっきり負けた気分である。
 ちなみに健司といえば、緊張しながら壊れ物を扱うようかのようにあやのの手を握っていただけである。とても光太郎の相手ができる状態ではなかった。あやのの方は周りを気にしていないためか、二人の周りには余人が入り込めない雰囲気であった。
「チッ!」
 やってられないとばかりに二人から離れる光太郎と入れ替わりに医務室にいたサーラがやって来た。
「はーい。遺体処分しましたー」
 その言葉に驚いたのは高渡とあおひとである。
「∑えええええ」
「え?え?え?処分しちゃっていいんですか!?」
 スイトピーの遺体を処分しないように懇願していた悪童屋のショックは大きく、一言呻くと黙り込んでしまった。
「天領=知恵者なら、嘘だけは言ってない。悪意はあるがな」
 一同にさらりと爆弾発言を投げかけたサーラの後をとり、気に入らないとばかりに顔を歪めながら総一郎が説明を始める。
「悪意というか・・・、面白がっているだけだと思いますけど。で、そろそろ状況説明して貰えませんか?」
 宰相の元で働いているため、他の者たちよりは宰相の行動原理に詳しい風野だが、知恵者と名乗った宰相と共に夜明けの船で戦っていた総一郎のほうが長い付き合いであり、より詳しいだろうと彼に視線を向けた。
「処分しろと、天領から言ってきていた」
「知恵者さんの目的は何だとお考えですか?」
 K2がお手上げとばかりに尋ねた。
「ふむ、目的か。認めたくないが、人助けだな」
「では、迷宮の遺体は・・・?」
「そっちはわからない。本当に死んでいる可能性はある」
 心配そうに顔を曇らす高渡だったが、その答えは直ぐにもたらされた。スイトピーの遺体が夜明けの船と迷宮の2個あるのは、幻術でも使わなければ有り得なく悪童屋の依頼により迷宮の遺体を調べに行っていた晋太郎が不意に現れたのだ。
「遺体を調べてきたよ」
「おかえりなさい。どうでした?」
「おかえりなさいませ」
 高渡やあおひとからねぎらいの言葉をかけられる晋太郎だったが、それを無視してまっすぐ悪童屋の元に向かう。
「偽装だ。死んでない。今、関節博士という人と話をしている」
「よかった・・・」
 大きく安堵のため息をつき、目元を手で覆う悪童屋。晋太郎には目元に光るものがあるのが見えたがそれについては何も言わなかった。代わりに皆に別れの言葉をかける。
「じゃあ、今度は僕が死にそうだから、そろそろもどるよ。じゃあね」
「え!?」
 光太郎は兄の言葉を聞き呆然とした。晋太郎がいつもと変わらぬ態度だったため兄の身にも危険が迫っていたのを失念していたのだ。最初にはっきりピンチだと言われていたのに。
「いろいろと有難う。今日は逢えて嬉しかったです」
 少し俯きながら晋太郎に別れを告げる高渡。晋太郎はそんな彼女を見つめながら現れた時と同じく不意に掻き消えた。
「よし!。3」
 総一郎が松井の手を握り、いきなりカウントダウンを始めた。
「信じるんだろう?」
「・・・・・・はい」
 驚きはしたものの総一郎の手を握り返し、松井は力強くうなずいた。
「2。こうですか」
「だと、思います」
 忠孝とあおひとも互いの手を握り合い笑いあった。
「1」
「はい」
 健司はあやのが差し出した手を大切に握る。
「俺でいいのか・・・?。0」
 最後に悪童屋が高らかに数字を読み上げる。
 そして、新しい物語を紡ぐための試練が始まる・・・。

END


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最終更新:2008年02月20日 22:31