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SW-M@ビギナーズ王国様からのご依頼品


 ビギナーズ王国に、SW-Mという女性が居る。
『戦闘機が好き』という理由でパイロットになった、戦争で国を傷つけるのを嫌う、頑張り屋で文族の、居眠り好きが玉にキズという、ポニーテールがトレードマークの、中肉中背の女性だ。
 彼女はお見合い真っ盛りの頃に、激怒と嫉妬で他の誰かのお見合いに来たマイトを奪取しようとするくらい、好き―――いや、恋し、愛している。

 そうして、小笠原でマイトと親睦を少しずつ深めつつ、恋を着々と実らせている頃、とある事件が起きた。
 設けられたお見合いの一席で、その思い人にすっぽかされてしまうという、前代未聞の事件が起き、更に、彼が世話になっているバロとバルクが詫びに来ると言う事態が起こったのである。
 そのお見合いの顛末はさておき、ここで語られるのは、その後のお話である。

 / * /

 SW-Mが小笠原行きの船で只一人降りた時、周囲に人の気配はなく、普段は人が居るはずの待合室にも、誰も居なかった。
 そこに立ち止まっている訳にもいかない―――そう思って辿り着いた公園は、彼女がデートをした当時のまま静かに朽ち、その周囲には、僅かに荒れ出した風景が広がっている事に不安を覚えた彼女は、マイトを探そうと声を何度も張り上げる。

「マイトーって、いないかな?」

 小笠原が放棄され、島民が別の地へ移住していたことを知らない彼女の声だけが、町中へ響いて行く。
 ゴーストタウン。 その言葉が一番相応しい街、それが今の小笠原だった。

「マイト……」

 項垂れて、もう一度彼の名を呟く。 一番大事な事を自分が忘れているような気がして、周囲を見渡せば、家が目に入る。
 そう、彼は、学校までは通学していた筈だ。 そして、彼の家と言えそうな所と、言えば―――黒オーマの砦。 ここにいないとなると、そちらに居る可能性が高いだろう。
 そう気付いて、場所を記憶の中から引っ張り出しながら、走り出す。 同じ父島にある砦と学校は、距離もさほどないだろう。
 目的地を見つけた彼女の足取りは、羽の様に軽かった。

 / * /

 黒オーマの砦前。
 退屈そうに立っていた門番との僅かなやり取りの後、頭を掻いて苦笑しながら、彼が門に向かってバルクの名を呼べば、姿が浮かび上がるように現れる。 どうやら魔術の類いらしく、SW-Mに気付いた彼は、軽く会釈をした。

「いつぞやはどうも。帰り損ねたのはあなたでしたか」
「あ、バルクさんこんにちは。 と帰り損ねたって、何のことですか?」
「もう島には誰もいない筈だったのですが」
「ああ、それでですか。 どうりで誰もいないと……って、そんな話をしにきたのではなくて、マイトに会いにきたんです。 通していただけませんか?」
「通すというか、つれてきましょう。 直接、詫びさせます」
「本当ですか? ありがとうございます!」

『詫びさせます』のところで、どこか危険な笑顔と共に頷き、消えたバルクに、少しだけ嫌な予感を感じながら、かの恋する乙女は、胸を高鳴らせ、彼が出て来るのを待つ事にした。

 / * /

 さて、その頃、黒オーマの砦の中で、お目当ての青年はぐっすりと寝ていた。 もちろん、彼女が来ている事も探している事も知らずに、だ。 そこに、怒りさめやらぬ男―――砦の主人であるバロが、副官であるバルクに声をかけられて振り向く。 バルクの手には、縄が握られていた。

「彼女が来ました」
「そうか。 では、やるとするか」

 バロが笑顔の表情―――だが、これっぽっちも笑っていない瞳でバルクから渡された縄を右手に持つと、マイトから掛け布団を剥がし、ベッドを蹴り起こす。
 その衝撃で目を覚ました彼が慌てて飛び起きようとして、そのまま直角になったベットから前につんのめった。

「起きろ。 死ぬ前に直接詫びを入れるがいい。 その程度の余裕はくれてやる」
「ちょ、なに?!」
「あの娘の前に連れて行く。 弁明も何もそこでしろ」
「え、ちょ、ちょっと待って!!」

 縄を持ってにじり寄るバロに、顔を引き攣らせて、慌てて何の事だか全然訳が分からないと言った風情で、起き上がった彼が慌てて壁まで下がる。 だが、結局、起き抜けで頭が働いておらず、さらに訳が分からないマイトには分が悪かったのだろう、数分後には縄でぐるぐる巻きにされたマイトが出来上がっていた。
 勿論、寝起きを叩き起こされて縛られた彼にとっては、青天の霹靂だったことは言うまでもない。

 / * /

 数分後、まず砦から出て来たのは、縛られたマイトの姿だった。 びっくりして、一瞬声を失った彼女の前に投げ出される。
 そのまま見ていればバロが歩きながら剣を鞘ごと取る姿が見えただろうが、SW-Mの目には、縛られたマイトしか見えていなかった。

「ば、バルクさん! 何も縛らなくてもーって、バロさんも!」
「ほれ。 煮たいなら鍋も用意させるが」
「え? 鍋って―――い、いえいえいえいえいえ! そんな、滅相もない! 話が出来れば大丈夫です!」

 笑顔で剣を渡して、腕組みをしてさらりとバロが言うが、彼の目は笑っていない。
 それに気付いた彼女が、慌てて首と手を振ると、渡された剣でマイトの縄を丁寧に切り払った。 まあ、恋する女性がその相手を殺すというのは、ニューワールドでもまあ、あまり無い事であろう。 勿論、逆も呵りだが。

「女なのだな。 理解できんが」
「ありがと。SW-Mさん。 ひどいよバロ!」
「いえ、男でも煮る人はいないと思います……我々の世界では」
「死ね。 約束を破る男はいらん。 煮るなり焼くなり嫁にとるなり好きにしろ。 帰りたいときはバルクを呼べ」
「あ、嫁って、私とるなら婿に盗りますよー! って、もういない……」

 二人の邪魔をしないようにという気遣いか何かだろうか、一気に言い捨てたバロとバルクが砦の奥へとすぐに取って返して、その場から立ち去る。
 門番も同じく奥へ引っ込んだのか、その場所には二人だけが取り残された。
 漂っているのは、ぎくしゃくとした、奇妙な緊張感。  それを打ち破るかのように、彼女はマイトを見て、口を開く。

「あー……マイト、大丈夫?」
「ひどいめにあった。寝ていたらこれだよ」
「ゴメン。 私が話したいって言ったからだと思う。 通してくれたらよかったのに」
「いや、もう、あの人たち、いつもああだから。 好きだけど」
「へぇ、そうなんだ。 楽しそうだね……大変そうだけど」
「うん。 で、どうしたの?」
「話したいことっていうか、聞きたいことと言いたいことがあって」
「どうぞ」

 そう言いながら縄を解いて、苦笑しながらマイトが立ち上がる。 その様子からは怒っていたり、困っているような感覚は受けない。 その事と、出会えた事に安堵を抱いて、SW-Mは笑うと、そうして彼に今、一番聞きたいことを問うべく、まっすぐに彼の瞳を見た。
 そう、彼女がここに来た理由は、その事を問い質すためでもあったのだから。

「じゃあ聞きたいことから。 お見合いに来なかった理由を、マイトの口でちゃんと聞かせて」
「あ。それ知ってたんだ。 うん。 別の世界に呼ばれてたけど、断っちゃった。 バロが凄く怒って困った。さっきの様子じゃ、まだ怒ってたけど」
「何で、断ったの?」
「なんとなく」

 温度の無い、人を突き放して寄せ付けぬように、青年はただ静かに笑う。 だが、彼女の目にじんわりと涙が滲んだことで、それが一瞬で崩れた。
 そのとき、彼女の心にあったのは、『自分の努力や、心配はなんだったのだろうか』という、どこか虚しく哀しい思いだっただろう。
 流れそうになる涙を拭っている間に、それを見たマイトの顔が焦りに変わる。

「……お見合い、私が相手だったんだよ? 色々準備して待ってたのに―――」
「えー! ご、ごめん。 でも、きいてない。 ほんと!」
「来ないから、心配したんだよ? せっかく、綺麗におめかししてさ、マイトのためにあれやこれや用意したのに……」
「ごめん。 でも、本当にきいてなかったんだ」
「……聞いてたら、来てくれた?」

 拗ねたような口調に、慌てたマイトが申し訳なさそうな顔をして、手をあわせる。  世界移動の先に、SW-Mが待っていた―――と言う事は、想定外も想定外の事だったのだろう、彼としては。 
 かぼそい声で問うその声に、腕を組んで、青年が小さく唸る。

「―――記憶って、どうなんだろう」
「あ、もしかして……もしかしなくても、記憶がなくならないようにしてくれたの?」
「別に。 じゃ、そういうことで。 今日は訓練するんだ」
「あ、まって!」

 ぼそりと呟いた言葉。 それは、彼の心からの、言葉だったのだろう。  それを聞いた彼女が、はっとしたように顔を上げる。 世界移動は、関わりのある者達から記憶を奪ってしまう―――そう、彼女からも。
 明後日の方向を向いて、照れ隠しの言葉にも聞こえる続きの言葉に、彼女が手を掴めばそれに気付いたように振り向いたのを見て、手を離さないように、強く、強く握る。

「記憶がなくならないようにしてくれて、ありがとう。 本当にありがとう! それは心から感謝してる。 だから、言いたいことというか、お見合いのときに本当は言おうと思ってたこと、言いたいんだ」
「いいよ。 別に。 ききたいとも思わないから。おなかすいてない? それより」
「おなかはすいてないよ。聞きたくなくてもいいから、言わせて」
「それを聞いたら、僕は……僕は貴方の前から消える。 それでよければ、どうぞ」
「……それでも、自分の気持ちに嘘はつきたくない。 だから、言うね」

 決意を込めた瞳と、悲しみを浮かべた瞳が、交差する。 ただ、じっと、まっすぐに。 そうして、一瞬のためらいの後、決意を込めたその言葉を言うために、彼女は息を吸う。
 そう、思いを伝え、叶えるために、彼女はここにいるのだから。

「私は……私はマイトのことが好き! 世界中の誰より、貴方のことが……好きです」

 最後の小さくなった言葉まで、大きく響く。 それだけの、万感の思いを込めた言葉を聞いたマイトは、悲しげに顔を伏せた。

「……たぶん、知ってたよ」
「え?」
「でも僕には、やらなきゃいけないことがある。 気持ちには答えられない」

 弱い声と共に、語られる本音は、自分を恋い慕う乙女と、やるべきこと―――その間で葛藤した男の、悲しい結論だった。 その結論に、彼女は彼の腕に縋りつく。 その頬には涙が伝っていた。

「それでも、マイトが好きなんだ……っ! 一緒にいることも許されないの?」
「……ごめんね。 だから、近寄れないようにしてたんだけど。 全部僕のミスだ」
「ううん、そんなことない。 好きになったのは、私の意志だよ。 マイトは悪くない」

 縋り付いた腕から離れて、涙を拭いながら笑うSW-Mに、優しく微笑むと、重い場の空気を壊すように、なるたけ明るく彼女をデ-トに誘えば、戸惑うようにおずおずと、その言葉を口にした。

「デート。 僕が、僕の好きな人と」
「うん、しようか。デート」

 突然の告白に見開かれたその目に、ただ微笑んで彼は彼女の手を握ると歩き出す。 行き先は、彼が大好きな公園。 その行き先に二人は、微笑みあう。

「ははっ!やっぱりマイトが公園好きだったんじゃない」
「うん。 もう嘘つく必要もないしね」
「ってことは、今まで嘘ついてたんだ。 んー、何か謝罪を要求してもいい気がしてきたなぁ」
「嘘つきなんだ。実はずっとこうしていたかった」
「マイト……うん、私も、こうしたかった。ずっと、ずっと」

 掴んでいた手を、マイトが引き寄せて笑う。 それに、全身の力を抜いて、そのまま背中へと手を回せば、抱き締め返される事に、じんわりとまた、涙が滲む。 そのことに気付いた彼が、瞳へと口づけた。

「ごめん」
「位置を変えたら許してあげる」
「子供っぽいよ」

 額の上へとキスして膨れる彼女に苦笑すると、額の上にまた、キスをする。 まだ不満そうな彼女に、彼は子供っぽい、と笑いながら、彼らは嬉しそうに歩き出した。

 / * /

 公園。
 時が止まりかけたそこからは、南の海らしい蒼をたたえた海と、その色を薄く映したような、綺麗な空の広がりが見えた。
 海側に向けたベンチに座って、マイトはその海の青さや風景を記憶へと染み込ませるように、SW-Mは、その彼をじっと、見つめていた。
 その視線に気付いたのだろうか、彼は彼女に振り向いて、表情を微笑みへ変えると、その袖を少しだけ、引っ張った。

「ん? なに?」
「別に、ただこうしていたいだけ」
「ただ寄り添うだけ? もっとしたいことはないの?」
「僕は子供ですから」
「子どもならずっと抱きしめてたいとか思わない? 私は思うけど」

 悪戯っぽく笑いながら寄り添った彼女に、どこか意味深い口調で笑うマイトは、お腹に手をまわして抱き締める。 どこかそうかな、というような彼の表情に気付いてはいたが、それをSW-Mは、僅かな苦笑で追い出した。

「満足した?」
「んー、ずっとこのままいられたら満足するかも」
「もっとおしゃべりとか」
「そだね、名前呼んで欲しいかな。 SW-Mじゃなくて、さ。 本当の名前で呼んで欲しいんだ。ああ、本当の名前って言うと変だけど」

 その言葉に了承の意を口にしたマイトが離れると、彼女の言葉を待つ。 これまでのつれない態度や、行動が嘘のように。
 それは最後すら感じさせたが、その予感を振り払うように勤めて明るく振る舞うのは、最後にしたくない、彼女としての意地なのだろう。

「私の本当の名前はね、ミオって言うんだ。多分、名乗るのはこれが最初で最後」
「ミオ? 猫みたいだ。 ミオー」
「って、こらー!そういうふうに言うなー!」

 その名前を聞いて、猫の鳴き声のようにその名前を言の葉に乗せると、むっとしたのだろう、彼女は眉を寄せた。
 その事に声を出して笑うと、ひとしきり笑いきったマイトは、ただ、柔らかに笑う。

「好きだよ。ミオ」
「……ありがとう、マイト。私も好きだよ。 でも、猫みたいっていう感想は初めて、かな?」
「僕のほうが、ずっと好きだと思うけれど」
「比べたらキリがないよ。私もマイトのことすごく好きだもの」
「どうかなー。 ミオー」
「こらっ! もう、本当に怒るよ? そんなふざけて呼んで欲しくないのー!」

 その様子にもう一度笑った彼は、温かな瞳で彼女を見据えて、その名前を呼べば、SW-M―――ミオの顔が紅く染まる。
 そうして優しく、甘く、ねだるように、何度も何度も名を呼んだ彼に対して、彼女は真っ赤になって気恥ずかしそうに、少しだけ目を逸らした。

「な、なんだか、くすぐったいな。 うん。すごく嬉しいんだけど、こう、むずむずするというか、恥ずかしいと言うか」
「名前くらいは、どんな風によんでもいいと思ったけど……ごめんね」
「い、いや、いいんだよ! 私が慣れてないだけだから」
「もう、なれないだろうから。 でもいいんだ。 僕は満足した」

 透き通った曇りの無い、どこか悲しい顔で彼女に笑いかけながら、彼は、寂しさと悲しさを押し隠すように、静かに微笑みながら、彼女が自分を呼んだのを見る。

「満足したら、デートは終わり……かな?」
「えー。 時間一杯まで遊ぼうよー」
「ううん、そういうことじゃなくて。 これで、終わりなの?」
「なにが?」

 誤摩化そうとする青年に、目を伏せて、俯くミオ。 そう―――彼は、先程終わりにも近い言葉を、を言った事を、問い質そうとまっすぐに、彼を見つめる。
 夕日になりかけて、少しずつ光が弱まった太陽が、彼を照らしていた。

「こうやって、名前を呼んでもらうことも、名前を呼ぶことも、抱きしめることも、抱きしめられることも、今日だけなの?」
「僕は貴方の前から消える。 そう、いったよね? ごめん……大好きだよ。 ミオ」
「……うん。 大好き、マイト。 言われたけど……そうか、本当なんだ」
「あの場で嘘つけるほどじゃないなぁ」
「……これだけは、嘘の方がよかったなぁ」

 少しずつ、その瞳からじんわりと涙が滲み出すのを止められずに、彼女は目を拭って苦笑しようと顔を緩ませたが、どうしても、泣き顔になってしまう。
 それを見る間もなく、マイトは彼女を抱き締める。

「マイト……離れたくない、離れたくないよ!」
「僕だけ幸せじゃダメなんだ」
「私も幸せになれるよ? それでも、ダメなの?」
「マイト?」

 泣きながら、しがみつくように、すがるように抱き締めるミオに、彼は泣きそうな、悲壮に満ちた顔で、その手を輝かせる。
 見開いた目に映ったそれは、彼女の心に、薄い恐怖と絶望を浮かばせて、何度も首を振りながら、それを拒絶した。

「マイト? や、やめて! イヤだ! もう、マイトを忘れるのはイヤだ!」
「……ごめんね」

 その光で、彼女から記憶を奪った彼は、まるで泣いているような顔をして―――否、彼は泣いていたのだろう、心の中で―――その場から、消える。

「マイ、ト……」

 彼女は、声を上げて泣き崩れながら、何度も何度も、彼の名を呼び続ける。 ただ、ただ、彼を、求めて。
 暮れようとしていた夕日は、何も語らず彼女を朱色に、照らしていた。



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引渡し日:2008/02/24


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最終更新:2008年02月24日 00:46