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カヲリ@世界忍者国様からのご依頼品


題:廃都に流れる遁走曲


 鳥の声で目が覚めた。
 朝日が眩しい。何時もより、大分早い時間だ。
 なんだか今日はいい事が起こりそうな予感がする。
 眩しさから目を逸らすように部屋の薄暗い片隅へと視線をやると、それに目が止まった。
 父の言葉が、浮かぶ。
 彼女は、一日をそれを綺麗にすることから始めた。

 /*/

 カヲリは、朝に感じた予感を抱えたまま、学校からの帰り道を歩いていた。
 見晴らしのいい、高台の広場に出る。歩きながらそよぐ風を感じていると、その中に独特の匂いを見つけた。けっして、好きだと言うわけではないけれど、胸が焦がれる匂い。
 どきっとして、辺りを見回す。匂いの元、煙草の煙をくゆらせる男の背中が目に入った。独特の帽子と服装。そして、何処か父に重なる後姿。
 予感が、当たった。
 その背中をしばし見つめた後、深呼吸をして勇気を奮い起こし、いかにも今気付いたといった風を装って男に声をかけた。

「あ、こんにちは、日向さん」

 男、日向玄乃丈が振り返る。カヲリからは、日向のかけているサングラスの所為で彼の瞳の具合は見えなかった為にはっきりとは言えないものの、その様子には突然声をかけられた事に驚いた風も無い。気が付かれていたのかな、だったら…恥ずかしい…と思いつつカヲリは言葉を続ける。

「その後、どうですか?怪我とか、しませんでした?」

 は、その前にお礼を言わなきゃとカヲリは慌てて更に繋げた。頬っぺたが赤くなる。

「この間はありがとうございました」

 いかにも、ぺこり、といった風に頭を下げる。カヲリが頭を上げると、日向は大丈夫だ、というように頷く。そしてそのまま自然な仕草で帽子を押さえた。カヲリがその仕草を認めるや否や、瞬間、強い風が広間を吹きぬける。

「わっ…と」

 カヲリは小さく悲鳴をあげ、身をすくめて目をつぶった。服がはためき、風が通り過ぎる。
 風がやんだのを感じ、カヲリは目を開けた。帽子から手を離した日向が目に入る。口に銜えた煙草の火は依然として燈っている。彼は風の吹いてきた先を見つめていた。

「風が吹くのがわかるんですか?」

 直前の日向の仕草と、今の風を結びつけた推測を口にする。

「まあ、なんとなくな」

 日向はそう肯定して、風の吹いてきた先からカヲリに視線を戻す。カヲリはその返事に感嘆の声を漏らす。

「便利ですね、なんとなく」

 つられ、台詞になんとなくがついた。そしてサングラス越しの分かりづらい日向の視線を感じ、その向く先をたどろうとすると、先程よりは弱めの風が吹きぬけ、カヲリの服をはためかせた。日向の視線が、行き成りあらぬ方向へと向く。そしてどこかぎこちない動作で煙草の煙を吸い込んだ。日向の視線が元あった位置を察知し、頬が赤くなるカヲリ。ばっと、その位置、スカートを手で押さえた。

「め…めくれてなかったですよね?今…」
「見てないから分らない」

 日向は視線を戻さずに、即座にしれっと答える。カヲリがもそもそと服を直して顔を上げると、彼はそのまま背を向けて歩き出していた。

「あのっえ~と」

 なんとなく此の侭別れ難くて、そのまま付いていくカヲリ。何とかして日向と仲良くなりたい。どうしよう、どうしようとぐるぐるしながらついていくうちに、頭に父の言葉が頭の中に浮かんだ。そして、鞄の中に入っているものを思い出す。

「あ、怪我がないなら、どうせだったら、キャッチボールでもしませんか?何故か偶然グローブあるし」

 そういって、今朝磨いたばかりのグローブとボールを取り出す。今は亡き、父に貰った物。
 いつものように、手に取るたびに父の言葉を思い出す。

 『キャッチボールすると心が通じるようになる』

 そういって父は忙しい合間を縫って、よくキャッチボールに誘ってくれた。そこで紡がれた会話は様々。長い間離れた時でも、喧嘩して拗ねた時でも、キャッチボールをすれば直ぐに、カヲリはいつものお父さん大好きなカヲリに戻るのだった。その御蔭で、普段運動しないカヲリだったが、キャッチボールだけは大分嗜んでいて、今でも、学校の昼休みになると時折友達を誘ってキャッチボールに興じている。父の言葉を胸に抱きながら。
 だからカヲリは日向にキャッチボールをしようと言ったのだ。それは日向には伝わるべくも無いが、貴方の事を知りたい、もっと仲良くなりたいという彼女なりの意思表示。
 だが、日向は無言のままだった。

「…な、なんちゃって」

 反応が得られないのが怖くなり、カヲリは自分の発言を誤魔化す。言うんじゃなかった、と日向の後姿を見つめながら落ち込む。変な子と、思われてないといいけれど……うう、もうとっくに思われてそうだ、と自己嫌悪に陥っていると、見つめていた背中が急に止まり、彼が振り返る。サングラス越しの瞳が見えない。

「…?」
「どんな理由があるのか分らないが、別に俺はほっといていい」
「理由、ええと」

 貴方が気になるからでは駄目ですか。
 勿論、そんな事を言えるはずもなく、そう思っただけで頬が熱くなっているのを自覚しながら、視線をあちらこちらへとそらして理由を探す。そして、素直な疑問に思い至った。

「あれ、そういえば、日向さんは、何故ここにきたんですか?」
「外の人ですよね?その服装」

 突然現れて自分を助けてくれたけれど、あの時は直ぐに何処かへ行ってしまったから聞けなかった理由。貴方は誰なの、と、問うに等しい質問。

「………」

 日向は直ぐには問いには答えずに、煙草を口から外し、カヲリから顔を背けて煙を吐き出す。そして再び煙草を口へと持っていきながら、答えた。

「変わった格好が好きなのさ」
「なるほど…って嘘ですよね」

 一瞬、納得しかけて突っ込むカヲリ。

「なんにせよ、何か困ったことがあったら言ってください。」

 ただ、それ以上問いただす事はしない。出来ない。それなりの事情があるなら、出会ったばかりの私に教えられないのは当然の事だから。寂しいけれど。だから、せめて、貴方の力になりたいと。

「助けてもらった恩もあることですし」

 日向は無言のままだ。顎を少し上げ、口に銜えた煙草に指をやりながらカヲリの事をじっと見つめている。
 カヲリは、サングラスの奥底にある瞳を見つめるように、一生懸命に必死で、ボールを、言葉を繋げる。

「知らないとこでは、困ったことも、そのうち出てくると思います…たぶん」

 日向は、言葉を投げ返してはくれない。
 語尾が自信なさそうに響く。自分でたぶんと言ったら、より一層不安になってきた。
 眉がハの字になる。

「…出てこないかもしれませんが」

 何も、反応はなく、日向はただカヲリをじっと見ているだけ。

「…。ええと」

 もう、如何して言いかわからなくなって必死に続く言葉を探す。早く言葉をつなげないと、今にも目の前の男性は何処かへ行ってしまいそうでカヲリは泣き出したくなる。
 其処で唐突に日向が口を開いた。

「今日は鼻の頭を黒くしないのか?」

 言葉が出た状況と同じように、その内容は余りにも唐突な物で。
 しかしながら、其処はカヲリのカヲリたる由縁。

「その流行りは、終わったんですっ。時代は流れるんです」

 非常に高度な返しをしてみせる。そして、出会ったときの間近で見た日向の顔を思い出して赤面する。
 日向は可笑しそうに口の片端を吊り上げ、煙草を口から外すと、その火を消し潰す。そのはじめて見る日向の表情に、ドキッとするカヲリ。
 今度は日向からの問いが続く。

「どんな格好が普通なんだ?」
「どんなって、そうですね。いえ、日向さんみたいな格好もそれほど浮いてるというわけではないですけど」

 口元に手をやって、うーんと日向を眺めてどう説明したものかと考え込むカヲリ。そんな彼女を日向は眺めている。瞳の色は、依然として知れない。

「みんなもうちょっと柔らかめの生地の服というか、動きやすい服というか」

 ようやく上手い説明が思いついたとばかりに口を開いたが

「あれ、上手く説明できない…」

 思ったよりも概念を言語化できなくて

「こ、こんな感じの服です。」

 散々悩んだ挙句、ふと思い立って、くるっと回ってみる。服がふわり、とはためいた。百聞は一見にしかず。多分、これで柔らかめとかそういうのが伝わるといいなーと思うカヲリ。心なしか日向の眉がぴくりと動いた気がした。

「あ、女の子用の服じゃ、参考にならないですね」

 それを見たカヲリは少し、不安になり、自分の間違ったと思う点を言ってみる。

「中々かわいいじゃないか」

 口の端を吊り上げて日向がそんな言葉を口にした。思っても見なかった言葉に、顔を真っ赤にしてカヲリは手足をばたばたさせる。

「…ど…どうも、ありが…あ、ありっ、………ありがとうっ」

 しどろもどろになりながら漸く何回目かの挑戦でお礼が何とか言える。それを聞くと日向は嬉しそうに、そして意地悪くニヤリと笑って言葉を返す。

「服だぞ、ほめたのは」

 それを聞いて、カヲリは頬の赤みが引く間もなく慌てる。喜んでしまった自分が恥ずかしい。服の話をしてたんだから服のことを褒めたに決まっているじゃないか、カヲリのばかばかばかと脳内で叫ぶ。なんだか悔しくて、精一杯のお返しを口にした。

「わ、わかってますっ。日向さんの服も、カッコいいですよー」
「そりゃどうも」

 日向はカヲリの仕返しには乗らずにしれっと返し、優しく笑っていた。その笑顔が余りにも魅力的で、カヲリはドキドキする。まるで、日向自身の事を格好良いと思う本心がばれたかのようで、更に照れ隠しを口にした。

「服ですよっ」
「ああ、服だ」

 顔を真っ赤にしたままのカヲリ。一方優しく微笑む日向。完全にカヲリの負けだった。
 日向はサングラスを押し上げると、表情を元に戻した。また、何を考えているのか良く分からなくなる。今のだって、それほど分かったわけではないけれど。

「だがまあ、俺に深くかかわるのはやめたがいいな」

 再び、突き放すような物言い。カヲリは、え、と言葉を詰らせ、日向を見つめる。折角、キャッチボールが出来ていたと、少しは心が通じたんだと思ったのに。無性に、寂しい。

「深くかかわるな…ってどうしてですか?」

 日向はカヲリの目を見つめ返す。カヲリには、日向の瞳は見えない。
 彼の考えている事が、分からない。

「バカか、お前は?」

 呆れた様に言う、バカは嫌いではない日向。

「あ、でも、私もなんか襲われたりするから…私もだれかと関らないほうがいいのかも…ってなんでですか!」

 先ほどの疑問に続けて、ぶつぶつ呟いていたカヲリはバカの一言に反論する。だが、ふと自分は本当にバカではないのかと不安になり、顎に手を当てうつむいて考え込む。

「バカかな…」

 さっき、自分の事をばかばかばかとは思ったけれど、でもあれは言葉のあやと言うもので……と真剣に考え出すカヲリ。日向は怪訝そうである。

「わからないってことは、バカかも…」

 答えが出ずにそう呟く。自分で出した結論に、少し落ち込んだ。やっぱり自分はバカだったのか…、お父さん、お馬鹿な娘で御免なさいと心の中で謝る。だが、論点がずれていることに此処で気がついて、はっとして顔を上げ、別に日向が論点をずらしたわけでもないのに、日向をむー、という表情で見る。

「一応説明を試みて下さい」

 何故関わらない方がいいのか、と。それに答えず日向は一歩距離を詰め、カヲリに近づく。
 カヲリは小首を傾げた。

「…何もおきないじゃないですか」

 日向は更に近づく。カヲリは意地になって上体をそらして腰に手を当て、張り合う。一歩自分も出ようとは思ったが、それは恥ずかしくなって躊躇われた。

「大丈夫じゃないですか」

 負けるもんかと心に誓う矢先に、自分を見つめる日向の顔が思ったよりも近くて少し怯む。正確には、どきっとして、うっ、とたじろぐ。この時点で、カヲリの負けが確定した。内心、それを自身で分かりつつも、カヲリは虚勢をはる。

「お…大人なんだから、意地はらないで下さい」

 上目遣いに、カヲリはちょっと日向を睨んだ。その様子を見て、勝ち誇ったように日向は笑う。大人気ないです、日向さんと胸の中で突っ込みながらも、うぐっとなるカヲリ。

「震えてるぞ、子猫ちゃん」
「ま、そういうわけで深くかかわるのはやめたほうがいいな。んじゃな」

 カヲリの様子をからかうかのように指摘し、背中を向けた。別れの言葉と共に背中越しに手をひらひら振って遠ざかっていく。

「ま、負けた…。」

 理不尽な悔しさに少しだけ打ちひしがれた後、階段を下りていく日向を慌てて追いかけながら叫ぶ。

「ていうか、なんか論点がおかしくなってますー!!」

 元々論点をずらしたのは、カヲリだが。少しだけ、涙目になりながらようやく日向に声が届く所にまで追いついた。日向は速いペースで歩を進め、追いつくのだけで必死だ

「あのですね!今のは説明になってないですっ」
「十分な説明だ」

 背中越しの返答はそっけない。

「もうちょっと丁寧な説明を試みて下さい」
「この下はどうなってるんだ。建物の谷間みたいだが」

 カヲリの問いは何処吹く風。日向は立ち止まって肩越しに顔を振り向かせると、関係ないことを口にした。辺りを見渡すカヲリ。気がつけば、何時の間にやら立ち入り禁止区域の側に来ていた。日向の前には、下に続く階段と、立ち入り禁止のロープ。日向の脇からひょいと顔を覗かせて、その先を見やる。

「この下?今は使われていませんよ」
「昔は、地下にも観光用の植物園とかあって。でも、今はシステムが維持できないから」

 少し昔を思い出して遠い目をしながら語るカヲリ。
 話を聞いているのか聞いていないのか、カヲリが答える間も日向は立ち入り禁止のロープを乗り越え、どんどんと下へと降りていく。

「そういう所から使われなくなって行くんですっ…って立ち入り禁止ですよ~。下は寒いし危ないです。」

 此処で日向と分かれるわけにもいかず、おっかなびっくり辺りを見回しながらカヲリは付いていく。微かな駆動恩を耳にして、更に注意を付け足す。

「中途半端にまわってる機械もありますから!」

 ふと、辺りを見ている隙に、日向の姿が見えなくなった。

「あ…」

 辺りを見回す。明かりが燈っている方に人影はない。暗闇を一瞬見つめたあと、意を決して走って追いかけ出す。

「ランプの消えてる方には行かないで…ぎゃふっ」

 と、何か壁のようなにぶつかって、尻餅をつく。

「いたた…」

 顔を抑えながらぶつかったものを確認する。求めていた日向の顔が見えた。ならば今のは彼の胸板だったのか。気恥ずかしいのとなにやらでカヲリは立ち上がりながらうつむく。

「ご…ごめんなさい」

 日向はそんな様子を見てため息をついた。

「まさかこんな近くにいたとは。足が速かったように見えたので…えへへ」

 自分のどじにため息をつかれたのだと思い、誤魔化しながらカヲリは頬を掻いた。
 だが、それには反応を示さず、あのなぁ、と言わんばかりの表情で日向が脅す。

「襲われて食べられるぞ」
「動物はいませんよ、全部移したはずです。ここは、植物管理が主だったし、そりゃ動物も少しはいましたけど。」

 きょとん、とした後言葉を返すカヲリ。あれ、なんで日向さんが此処に動物が居るって知ってたんだろうと思いながら言葉を繋げる。相変わらず論点がずれているのにも気がつかず、段々と言葉に自信がなくなってくる。

「少しは…いました…けど。先日ロボットに襲われたばかりなので、そう続けては…」

 日向は帽子越しに頭をかくと、何も言わずに唐突にカヲリを抱き上げ、元来た道を戻りだす。いわゆる、お姫様抱っこ状態のカヲリ。

「け、怪我してませんよ、私っ」
「胸でもさわらんとわからんのかお前は」

 日向の顔が近くて、顔を真っ赤にしながらわたわたするカヲリを尻目に、日向はため息のように呟く。カヲリは重くないですかとか、何か口に出そうとするたびに、近くにある日向の顔にどぎまぎして何も言えず、そうこうしているうちに二人は地上へとたどり着いた。地面に、降ろされる。恥ずかしくて日向の顔を見れないカヲリ。

「ど…どうも」

 日向はそんなカヲリの様子をじっと見つめた後、まったくなんでこんな事を俺がいわなきゃならんのだと、頭を掻きながら言う。

「いいか、あまり知らない男にはついていかない。OK?」
「…OKです」

 しぶしぶ頷いた後、でも、と続ける。

「日向さんは知らない人ではないですけど」

 上目遣いで自分を見るカヲリに、日向は片眉を上げてため息をつく。怒る気力も失せたらしい。

「俺の本名も知らないのにか?」
「本名は何ですか?」

 一瞬怯んだ後、じゃあ、とカヲリは負けじと返す。むぅ、と顔をしかめて日向は唸る。

「秘密だ」

 そうと言い放った後、もうこれ以上言って聞かせても埒が明かないとばかりに早口に言葉を繋げながら背中を向け、足早に地下へ降り出す。

「んじゃな。今度は着いてくるなよ。ついてきたらピーだ」
「ぴーて!」

 去り行く背中に突っ込むが、今度はもう、追いかけることも出来ない。
 どんどんと、遠ざかっていく背中を見つめる。
 一瞬、日向の背中が父に重なる。足が竦んだ。

「…気をつけて」

 まだ、自分は見送るしか出来ないのか。
 声は地下に続く暗闇に空しく響いた。

 /*/

 帰ろうとしたカヲリは、ふと地面に目をやった。
 何時の間にかバッグからこぼれたのか、グラブが。
 しゃがみこんで、それを拾い、埃を払う。

 『お父さん………。』

 彼女は胸にそれを掻き抱く。

 『何時か……、心、通じるよね?』


作品への一言コメント

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  • 素敵なSSありがとうございます(*><*)なんか読んでてどきどきしました! -- カヲリ (2008-02-22 23:18:34)
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最終更新:2008年02月22日 23:18