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No.256 蒼のあおひと@海法よけ藩国様からのご依頼品



/*今日の夕食*/


「さて。今回はこのあたりで切り上げましょうか」
「そうですね。今度、また、少し整理してきます」
 湯飲み片手に言った蒼の忠孝に、後藤亜細亜はゆっくりと頷き返した。時刻はそろそろ夕方になる。窓から差し込む日差しはすっかり赤く、外の景色は鮮やかなオレンジ色に焼けていた。カーテンの向こうの景色を見て目を細める亜細亜。
 ちょうどそのタイミングで、奥の部屋から蒼のあおひとが現れた。歩調が左右にずれ、少々よれよれな感じである。彼女のあけたドアの向こうでは、大幅に体力を削る原因であったとおぼしき子供達がねこけている。忠孝は少し笑うと隣の席をずらした。あおひとは礼を言いながらその席に座る。
「お疲れ様です」
「はいー。疲れましたー」こてんと忠孝の肩に頭を乗せるあおひと。「でも、またねちゃったんで、もしかしたら夜に起きちゃうかもしれません……」
「まあ、そうなったら僕がどうにかしましょう」
「お願いします-。あ、亜細亜さん? どうでした? 相談の方は」
「あ、はい。とても参考になりました」ぺこりと頭を下げる亜細亜。
「ふふふ、良かったです。あ、ところでですね。もし良ければ、今夜一緒に食事を食べていきませんか?」
「え、ええ?」目を丸くする亜細亜。「それは……でも」
「実はですね、今日帰ってくるときにいろいろと買いすぎてしまったんですよ」忠孝がやんわりと言った。「遠慮無くどうぞ」
「がんばって作ります。今日はカレーです」ぐっと胸の前で拳をつくるあおひと。
「あ……では、その。お邪魔でなければ、ごちそうになりたいと思います」
 断るのも失礼かな、と思えたので、亜細亜は少し申し訳ない気になりつつも申し出を受け入れることにした。予定には無いことだったけれど、まあ、たまにはこういう事もある……かな?
「はいっ。今日はたくさん作りますよ」にこりと笑ってあおひとは言った。


 ただ、一方的にごちそうになるのもやはり悪い気がしたので、せっかくだからと、調理の手伝いを申し出た。カレーくらいなら作り方はわかるし、たくさん作るのなら何か手伝えると思ったのだ。あおひとは快く快諾して、亜細亜を台所に招いた。
 そしてその後ろから、当然のごとく忠孝もついてきた。
「私はのけ者ですか?」
「そ、そんなことないです! 手伝ってくれるんですか?」
 ぱあっと顔を明るくするあおひと。仲がいい夫婦だなぁと、亜細亜はクスクス笑いながら渡されたエプロンに袖を通した。ベージュで模様のない物だった。
 三人そろって台所に入ると、流石にちょっと手狭だった。が、何故かこういう事に離れているのか、あおひとが困っているところに忠孝はそれとなくアドバイスをして意外とスムーズに物が進んだ。亜細亜はジャガイモを洗い、その隣であおひとは皮をむき、後ろでは忠孝は別のジャガイモをゆでつつ、別の作業をしている。それらはサラダにするらしい。
「手狭なところで作業するのになれているんですか?」気になって亜細亜は聞いた。
「え? ああ、はい」忠孝はこくりと頷いた。「むしろこれくらいなら広いくらいですけどね……」
「そうなんですか?」あおひとが少し驚く。
「ええ。ほら、以前でしたら、もっとたくましい男達ばかりでやっていましたから、二人でも手狭になることが……」
「なるほど」
「わぁ……」
 どちらの言葉がどちらの返事で、その声色の様子などは、わざわざ描写するまでもないだろう。勿論、ときめくような口調で後者の言葉をつぶやいたのがあおひとである。何を想像しているのかは知らない。
「スパイスはどれを使ういますか?」
「あ、緑色の蓋のしてあるやつを使います」
「わかりました」
「皮むき終わりました。あ、サラダの材料切っておきましょうか?」
「うん、お願いね。ああ……」あおひとは少し笑った。「みんなでやると楽だなぁ。毎日これでもいいかも」
「大きくなったら、子供達にも料理を教えましょう」忠孝は楽しそうに言った。
「え? 危なくないんですか?」亜細亜が首をかしげた。最近は、危ないからという理由で包丁すら持たせない親もいたりする。
「危険なことは、危険だと知っていた方が良いと思いますけどね」忠孝はのんびりという。「――まあもしかしたら、将来には料理をしている人なんて職人だけ、なんていう時代も来るかもしれませんが」
「そうなったら、ちょっと寂しいですね」
「そうですか?」
「え?」
「僕は、そういうのもありだと思いますけどね。少なくとも奥さんは楽できる」
「そうなったら私は空いた時間でお絵かきを教えようかなぁ」ふわふわと笑うあおひと。「ううん、悩むなぁ。やりたいことがいっぱいありすぎて」
「ね?」忠孝は微笑んだ。「ようは、やりたいこと次第ですよ」
「……なるほど」
 こくこく頷きながらキュウリを切る亜細亜。ちょっと爪が長すぎて、包丁を扱うのが難しい。今度爪を切ろう、と心の中でつぶやいた。


 夕食のカレーはあまりに多すぎて、とてもとても食べきれなかった。けれど、それにしたって、亜細亜は自分でも驚くほどにたくさん食べていた。普段ならもうこのあたりにしようかな、と自制が働くのに、今日に限っては何か引っかかりがすぽんと抜けてしまっていたみたいだ。気付けばおなかがふくらんで動くのがくらい食べてしまっていた。
 テレビをつけて、バンバンジーをぼんやりと眺める。番組が行けなかったのだろう。あおひとと亜細亜はことあるごとに大笑いした。忠孝は、番組よりも二人の様子を見て和んでいるらしく、片手に湯飲みを持って、のんびりとしている。

 二人の子供は幸せだな、と亜細亜は思った。
 勿論、それは束の間のことかもしれない。しかし、自分が、今日、この時、この場所にいられたことは、きっと良いことだっただろう、と思う。
 願わくば、この穏やかな時間が長く続くことを。


「おや、寝てしまいましたね」
「うーん、どうしましょう?」
 この五分後。椅子に座ったまま眠りこけてしまっている亜細亜を見て、あおひとと忠孝はお互いに顔を見合わせた。口を半開きにしてくかーと眠っている姿は、何もかも満ち足りたような、そんな穏やかさを感じさせる。
「では、僕は布団をひいてきましょう」
「あ、お願いします。じゃあ私は亜細亜さんの事を……えーと、宰相府の方に伝えておけばいいのかしら?」
「ええ、たぶん」
「うん、まあ、とりあえず連絡しておきましょう」
 その後のことは秘書官に任せちゃおうっと、と内心で考えつつあおひとは電話口に向かう。忠孝はさっさと布団を用意しにいこうとする。
「しかし、これはこれで理想の家庭ですね」忠孝はのんびりと言った。
「はい。私、幸せです」
「僕もですよ」
 話しているうちに気が変わった。ちょうど電話を取ろうとしたあおひとを抱き寄せてキスをする。それから、カレーの味がしますね、と行った後で改めて布団を用意しに行く。後には眠りこけた亜細亜と、顔をちょっと赤くしたあおひとが残される。
 勿論、布団を用意しにいった彼の人物の顔も、同じくらいには赤くなっていたのだが。




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最終更新:2008年03月15日 21:22