アポロ・M・シバムラ@玄霧藩国様からのご依頼品


その時、芝村英吏の気分を表現するとなると非常に難しい。

まず、整理してみよう。今日は朝から調子が悪かったように思う。
もしかしたら全てが夢かもしれない。そんな錯覚を覚えるほど、英吏の今日はおかしかった。

まず最初は死んだはずの大家令が居た。
この時点で今日の出来事は全て夢か、或いは今までの出来事が夢か、やや判断に戸惑う所がある。

しかもその大家令。あろうことか道化の言動を取っていた。この時点で色々と訳が判らなくなる。
というか、あの不思議なダンスはなんだ? 一体奴は何がやりたかったのか?

大家令といえる存在である。その行動に無駄はなく、また意味のない行動など無いはずである。

だが、いかに芝村英吏であろうとあのダンスの意味を即座に特定できるほど、大家令のことは理解できなかった。

その時点で英吏の気分は大分落ち込んだ。明らかに意味のない行動に意味があると考えるのは穿ちすぎなのか?
それとも、そう思わせ何も考えさせない事こそが本当の策なのか?

疑心暗鬼もいいところである。この時点で気分は相当最悪だった。

次いで学校に着てみれば謎の戦闘が起こる。それに巻き込まれた。
テロかどうかはすぐに判った。何故ならば戦闘が起こったからだ。
それが正常なテロかどうかまでは判らないが、ただの愉快犯でそこまでする愚か者は居ないだろう。

英吏はその戦闘に参加したとは言い難いだろう。何しろ何が起こっていたのかも理解できてないのでは戦いに参加したとは言えない。

戦闘が起こった場所に向えば相手は年少の少年だった。そう、どう見ても、少年である。

芝村は確かに外見などでその全てを判断するわけでは無い。だが、突如として現れた10になったかならないか程度の大人しそうな少年が四本腕を使って暴れだすのは幾らなんでも常識外だ。

その上その少年と相打ちしたのはこれまた少女である。

その間、芝村が出来た効果的なことは何も無かった。そう、何も無い。

目の前で行われた少年と少女の戦いに影響すら与えられず、気がつけばて傷を負わされ、戦いは終わっていた。

これで欠片も自尊心が傷つかない人間など居るだろうか? しかも、彼は世界の征服者たる芝村の一族である。

全ての手段を行使してでも全てを守ると決めた傲慢たる一族の一員である。
その自分が何も出来ず、何が起こったかも理解できず、そして、いつの間にか手傷を負わされている。

「……ふ、ふふ」

英吏は笑いがこみ上げてくるのを止められない。それはどこかおかしな、壊れたとまでは言わずともやや崩壊した自嘲である。

目の前にことに理解は及ばずとも、目の前で起こったことを否定する気にはならない。

これが夢かどうかなど関係ない。ただ、事実のみを認めるしかない。

それは自身の肩についた傷が、痛みが、その存在を主張をすればそれだけで事足りる。

いいだろう、と芝村は笑う。いいだろう、と芝村は微笑を浮かべざるを得ない。

かの有名な電子の巫女王には及ばずとも自身とて芝村の一員である。目の前で起きた事を否定することはしない。
いつか、絶対。アレを使いこなしてみせる。

それは芝村としての意地だったのか、或いは英吏としての意地なのか。
それが判らずとも芝村英吏は微笑を浮かべる。

「英吏さん、大丈夫ですか!?」

その時、声が響いた。どうやらどれほどの時間か判らないが立っている間に相当な時間が流れたようだ。

声が響いた方を軽くみてみれば、先ほど別行動を取った玄霧藩の人間が数名、やってきている。
先頭で駆け寄ってくるのはアポロである。

「まぁ、死ぬほどではないな」

事実のみを端的に伝える。そう、死ぬような傷では無い。

駆け寄ってきたアポロが傷の具合を確かめている。止めるつもりもなく、そのままさせておく。

全員が色々と何かを言っている。全てを聞き取るのが面倒なのでアポロの言葉に耳を傾ける。

その中に出てきた月子という単語。月子、あぁ、月子……。

「彼女はウーンズライオンを得るだろう。うらやましい限りだ」

ウーンズライオン。傷ついた獅子勲章。
名誉の戦死を遂げた人間に送られる、最後の栄光。

本当に、羨ましいと思った。冷静に考えてみれば判る。自分が今回の戦いで死んだとしても決して貰うことのできない……否、出されれば侮辱としか思えないその勲章を彼女は貰うに値する行動を取っていたのだ。

皮肉でもなんでもない。いや、皮肉を交えたのは事実だがそれ以上にあの戦いに参加できた羨望が勝る。

それからも何度か何かを聞かれる。それに対して情報を分解せずに、何も考えずに喋る。

……というか、なんだというのだ。

様々な事が起こり、それらを自身でも整理出来ないうちに無遠慮に聞かれる。これは軍法会議か?

その質問の一つ一つを答えるごとに何も出来なかった事実を再確認されているでもある。

「事情聴取をするなら、法にのっとってくれんか」

朝から不可思議な事が立て続けに起こり、英吏のストレスも多少はあったのだろう。つい棘棘しい言葉が出る。

その言葉にその場に居た全員。特に手当てをしてくれていたアポロの顔が歪むのを見て大人気なかったか、と思いなおす。

他人に当り散らすなど、正常な芝村、正常な英吏ならば行わないだろうがそれでも、その事を素直に言わずただ質問に答えるという行動で英吏なりの誠意を表す。

肩の痛みと手当ての感触以外はそれほど意識せずに行う。ゆっくりと自分の中でも起きた事を整理しながら、答えていく。

そのうちに一人の男がやってきた。

「変な人おおいなあ」

この状況で気楽に歩いてくる貴様には敵うまいよ。

少しぼやけた頭で英吏はそんな事を、思った。



作品への一言コメント

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  • お世話になってます、いつも素敵なSSをありがとうございます!そしてこちらでの感想が遅れて申し訳ございません!藩国旅行だというのに英吏さん一杯の場面を依頼してしまってすみません、とても素敵です。見ほれてます。というか読み惚れてます…! -- アポロ (2008-07-21 05:07:54)
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最終更新:2008年07月21日 05:07