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アポロ・M・シバムラ@玄霧藩国様からのご依頼品


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 MPが吸われてしまう。
 手すきの国民で小笠原へ遊びに来ていた玄霧藩国国民の過半数は、目の前で繰り広げられる奇々怪々な岩田裕の踊りに対し、心の中でセルフ突込みをいれた。

「あれ、人体で可能な踊りなんだ」

 黒霧が言う。それほどまでに常識という枠に捕らわれない、というか人間として真持ておいて欲しい常識すら軽く凌駕する、あらゆる意味で自由、フリーダムな動きだった。文章ではとても表せるものではないのが非常に残念である。各個人で脳内保管していただけると幸いである。

「藩王様、ちょっとやってみてくださいよ。あの人の隣で」
「お前がやれとなんども」
「僕は普通なんです。生憎と」

 黒霧が言う。言いながら、眼鏡のレンズが太陽光で輝いた。同時に、過半数がえーという表情で彼を見る。
 彼が何か? と周囲を問いただすよりも早く、彼を見ていた視線は明後日の方向へ向けられた。

「じゃあ、私が」

 ドドドドドドという効果音を背景に、さじ子が一歩岩田へ歩み寄り、見様見真似でくねくねと踊り始めた。いまさらだがこれは踊りなんだろうか。いやまあ踊りでいいか。
 岩田と2人、ピンク色?のオーラが立ち込めている……気がした。幻視技能が10レベルぐらいあれば見えるかもしれない。

「すまんな。いつか、会おう」

 そそくさと、輪の中から外れたところにいた英吏が複雑そうな表情をしながら逃げ出す。
 気づいたアポロが「まってー」と追いかけだすと、黒霧と玄霧の2人が、しみじみとした表情でその背中を送った。まるで娘を嫁に出すお父さんとかそんな感じである。玄霧のほうはどちらかというと、遊園地で半日子供に付き添った帰りのお父さんのような、燃え尽きた色が混ざっていたのは気のせいである。

「若さが、憎い……ッ!」

 ゴゴゴゴゴゴと、まるで衝立でもあるかのように不可解な角度でくねくねと踊り続けるさじ子が呟いた。
 そんなさじ子の瞳を、折り重なるような至近距離から岩田の瞳が見つめる。
 その時、にゃーん、と足元で何かが鳴いた。さじ子がすかさず、威嚇してから足元に視線を移す。

 豹が、真っ黒い、艶のいい体毛をした豹がいた。ごろごろと喉を鳴らしながら、狩人の瞳で岩田を見上げている。

「豹がいます」

 わかってる。黒霧の言葉に、全員が心の中で呟いた。呟いた後、「豹ってにゃーんだっけ」などと、全力で現実逃避を始める。……若干一名。藩国で一番真面目かつ苦労人の摂政雅戌だけは、何かに気づいたような歓声を上げていた。

「新しィ!」

 黒豹が岩田の尻に、がぶりと噛み付いた。ムツゴロウさんもびっくりである。
 電流が走ったように岩田の身体が震え、くるくる廻りながら倒れた。びくびくと痙攣しながら、何故か吐血(?)し始める。
 悲鳴が上がる……のが正しい人間の反応なのだが、噛まれたのが岩田裕だったというのがいけなかった。誰一人として心配するそぶりを見せない。

「君はどこからきたんだい?」

 あの硬いことでその筋では有名な摂政、雅戌が黒豹に問いかけるほどのぐだぐだな空気だ。
 猫と勘違いしているんじゃないかと思うほどフレンドリーな口調。黒豹はそれをあっさりと無視して岩田の尻を噛む。おいしいのだろうか。

「なにか動物による殺人というか捕食がおきてるが」
「あはは、多分大丈夫でしょう、お医者さんいっぱいいますから……」

 輪から外れた場所で、目を細めながら言う英吏と、全力で現実逃避するアポロ。岩田の痙攣が治まった。今度はピクリとも動かない。
 このあたりになってやっと玄霧藩国国民の間に拙いんじゃないのかという空気が芽生えた。……のだが、だいぶ遅い。
 岩田に飽きたのか、黒豹は手近な黒霧の喉元へと飛びかかる。抵抗するまもなく喉笛を噛み千切られ、黒霧は絶命した。

 第二次玄霧藩国国民旅行・完

「いや完じゃなくて!」

 摂政雅戌が叫ぶ。さっき黒豹に語りかけていたころとは大違いである。

「雅戌くん、あの黒いの知ってる? ちょーこえーんで止めてもらえるとうれしい」

 玄霧藩王の台詞に雅戌はえーと言った表情をする。止めるったって豹の評価値、結構高い気がするよ……?
 5秒ほど考えて見てから、まあ誰かが何とかしないと流石にあれだよなあと雅戌は口を開いた。

「君は……ひょっとしてクアール君かい? とりあえずちょっと待ってくれないかな」

 どんな対象でもまず対話から試みる。戦争嫌い疑惑な共和国を形にしたような行為だ。
 それを聞いてなのか、いやまあそう言うわけでは無いんだろうが、輪の外側で拍手が上がった。控えめそうでありながら、それでいて強く響く。上品なものだった。

「いいぞ。戻れ」

 続いて、凛とした鋭い声が空気を揺らす。その場にいた全員が一斉に声の主を振り返る。誰よりも早くそちらを向いた雅戌が、そこに立つ女性の姿を確認し、おお、と感嘆の声を漏らした。
 上下を軍服でビシッと決めた、文字通りの麗人だった。
 鋭い、射抜くような眼差しとは対照的な、優しささえ伺える、柔らかなウェーブのかかった髪を指で弄りながら、伯爵、鷲宮透子は威風堂々と集団の方へ歩いて来る。黒豹がその足元へと駆け出し、縋るように身を摺り寄せた。
 過半数がその姿を呆然と見る中、唐突に爆発が起きた。
 結構距離があるのだが、藩王玄霧と摂政雅戌がごろごろと受身を取り始める。

「よろしいですか、みなさん」

 ぐるぐるし始めた国民に善行が声をかける。

「ちょっと、騒ぎが起きているようです。あわてずに、避難場所に動いてください」
「はーい。こっちですよー。和錆くんもすぐくるからねー」

 どこから取り出したのか、小さなペナントを取り出して善行と是空が先導を始める。国民もそれに続いて歩き始めた。
 まるで観光案内である。

「はじめて呼ばれたが、なかなかここはたのしいところだな」

 そういう空気を読み取ったのか、それとも単に戦場の空気に感化されたのか、伯爵が口元を釣り上がらせながら呟いた。

「あらー。私もはじめてきたんですおほほほ。本当、いいところですよね」と
「そのようだ」

 近くで何か言っていた雅戌をスルーしながら、伯爵はクアールの頭を撫でる。めげない雅戌。

「はい。あなたの安全を守れるよう最善を尽くします。じゃあ、皆、いいね?」

 一歩前に出てまとめようとする雅戌。絶妙に意味を取り違えている雅戌に、伯爵は嘲笑を浮かべ、ナイフのような視線を英吏へ向けた。

「英吏。案内しろ」
「は」

 直立不動の姿勢で答える英吏。すばやく全員の先頭を歩き始める。
 向かうのは学校。爆発の起きた方向。最前線と予測される地点だった。

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こちらになります。遅れて申し訳ありません。


作品への一言コメント

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  • こちらでの感想が遅れてしまってすみません、流石影さん、シュールなあの旅行の冒頭を見事に書いてくださってありがとうございます!読んでいて、あの時は大変だった、としみじみ思い出してしまいました…。 -- アポロ (2008-07-21 05:13:43)
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最終更新:2008年07月21日 05:13