夏の稽古~さるきの一日~
「手を抜くなよー。」
ふあぁあわわぁぁ。
どこか気の抜けた顔が赤鮭のやる気のなさを象徴している。
砂浜に照りつける太陽が余計に赤鮭のやる気をなくさせているようにも感じる。
そんな中熱い漢が2名。
豊国ミルメークとさるき、である。
「先生が一番手を抜いてるじゃないですかー!」
「赤鮭先生が一番手を抜いておられると思います!!」
「ちゃんと!教えてくださいよ!先生が剣使うの上手いって知ってるんですから!」
どんな常夏の気温にも負けない熱い言葉を矢継ぎ早に飛ばすが、当の赤鮭は。
「剣の時代じゃないだろう。今更。」
と、まるで椰子の木の葉が真夏の暑い風を受け流すような態度である。
それでも臆さないというよりも、半ば意地になっている部分は多々あるだろう二人は。
「そんなことありません!赤鮭先生!」
「そうでもないですよ。僕のしゅーしょくさきは、バリバリ剣使ってますし。
でも体ちっさいから、僕一番うまく使えてないんです!」
と、北風と太陽の太陽のごとくドンドンと照らし続ける。
「体が小さい時は、短剣使え。・・まぁでも、子どもは戦争に出るな。以上。」
何処までが本気か分からない赤鮭の言葉である。
いたっていつも通りなのだがさるきは、それが少しもどかしかった。
やらなければならない事がある。その使命感が彼を焦らしていた。
「俺、藩国一の剣使いになるのが夢なんです!!まだまだ剣の時代は終わってませーん!!」
熊本君もミルメーク君も戦争に出さない為にも、俺に剣を教えてくださいッ。」
「それもそうだな。じゃあ、こい。さるき。」
「はいっ!!」
言葉が赤鮭に響いたと、さるきは思った。
やってやる!腰に下げた剣の柄に力がこもる。
だが、その思いは瞬間潰れる。
赤鮭は銃を抜いた。
銃口をさるきの眉間に合わせて。しかも、どうよこれ?と言う顔をしている。
「かっちょいい銃ですね。」
と言った直後、バン!と乾いた音が走る。
(・・う、、撃たれた。。。)
そのまま真後ろに倒れこんだ。
ミルメークが駆け寄ってくるのが分かる、が、何故か痛くない。
「ま、木の弾だ。撃った瞬間バラバラになる。」
自分の目の前にミルメークの顔がある。
少々ぼーっとした頭だったが、それに気が付き、慌てて起き上がろうとする。
だが、ミルメークがさるきを押さえつけ、瞳孔の確認をひっきりなしに行っている。
その距離わずか5センチ。
意識がハッキリするにつれ、恥ずかしくなってくる。
(赤鮭先生に近寄られたら、絶対ニタニタされる。。)
ミルメークに「ありがとう。大丈夫大丈夫!」と言いながら立ち上がる。
「び、っびっくりするじゃぁないですか??」
額をごしごしさすりながら、赤鮭を非難する。
「そういうもんだ。剣なんか、やめとけ、やめとけ。」
赤鮭は、割と本気だ。
一連のおちょくられている流れに、ミルメークが本気で悔しがって熊本に助言を求めているが、
さるきはもっと別な事を考えていた。
(この人、、この人のように強くなりたい。)
しかし、剣を使うからこそ赤鮭は強いんだと思っていたさるきは、今、赤鮭が銃を使っている事に納得できない。
剣しか使っている所を見た事がないからではあるのだが、それでも、さるきにとって赤鮭は剣の人だった。
少し皮肉気に、赤鮭に問いかける。
「赤鮭先生は、剣から銃に趣旨変えしてんですか?」
だが、赤鮭はその言葉を真正面から返した。
「いや、俺は俺だ。」
その言葉に、さるきは自分が恥ずかしくなった。
そして、真に漢たるとはどういう事なのかを少しだけ理解した。
その時、目の端で熊本が赤鮭に殴りかかっているのが見えた。
だが、赤鮭はそれを軽く避け、右手で剣を抜き、その手で熊本の喉に剣を当てた。
「!!」
ミルメークと同じように見てるしか出来なかったが、ミルメークの顔は赤くなっていた。
「子どもが出たくなるような事を大人がしてるからいけないんじゃない、です、かっ!」
怒りのまま体を低くして、赤鮭に突っ込んでいく。
そのままでは、赤鮭に軽くさばかれる。
そこまで読んで、二人の間に入った。
「ちょ、ま、まって!」
ミルメークと赤鮭の二人に向かって言葉を放つ。
それで止まると思ったが、それ以上を読みきられなかった。
赤鮭はミルメークを踏みつけたそのままの流れで、さるきの胴に膝蹴りを放った。
赤鮭は、割と本気だった。
さるきは本当の強さを見せ付けられたような気がして、悔しかった。
砂浜に向かって咳き込んだ。
少し涙が出たが、それは膝蹴りのせいだと決め付けた。
「剣だけじゃなくて体術も強いって漢だ。俺が目指す男がここにいる!!」
「だめだ、だめだ。俺はそもそも、先生にはならん。」
「先生がダメなら、部下にしてくださいっ!!」
「俺は誰にも剣術を教わった事はない。そういうもんだ。」
ことごとく教わる事を却下された。
(この人、俺の事嫌いなんだろうか。。)
少しだけションボリしたさるきの顔を見た赤鮭は、少し頭をかきながら言う。
「ま、体操から始める事だ。まずは体力だ。」
さるきは、それが認められたのだと思い思いっきり「はい!」と返事をした。
実際には、赤鮭にも似たような所があったからなのだが、この青年少々思い込みが激しい。
「体力づくりには何がいいですか?」
「走れ。」
「ウィッス!走ってきます!今すぐ走ってきます!さ、赤鮭先生も一緒に走るのです!」
どこまでも勘違いをしている熱血青年に赤鮭は少しだけ笑って、ゆっくり歩き出した。
その顔は何かを考えているようだったが、さるき達はきっとお腹が痛いのだと勘違いした。
赤鮭の顔のその先にある漢が居る事を、知る由もないのだが。
暑い夏の下、さるきの稽古はまだまだ続く。
いつか、目の前の赤鮭のような強い漢になる為に。
さるきの夏の稽古は、これから始まるのだった。
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最終更新:2007年09月25日 20:34