なな子 お試しシナリオ
場面①
4/7(水)
背景:図書室
コンコン
多くの生徒が行き交う図書室なのだから本来はノックなどしなくていいのかもしれないが、一応しておく。
【浩太】「失礼しま~す……」
一拍おいて図書室に足を踏み入れる。
【浩太】「ん……?」
室内に司書教諭の姿は見当たらず、そこにいたのは本を読む一人の少女だけだった。
【浩太】「あの~……」
とりあえず教諭の行方を知っているか訊くことにする。
……が、返事はない。
もう一度声をかける。
【浩太】「あのぉ!」
【少女】「ひゃっ、ひゃい?!」
存外驚いた様子でこちらを向く。
【浩太】「えっと、ごめん。驚かせちまったか」
【少女】「いえ、大丈夫です……」
【浩太】「ホントごめんな。それでさ、司書の先生どこにいるか知らない?」
【少女】「図書室の先生ですか? 先生なら今日はもう帰ったと思いますが……」
【浩太】「なに? もう帰った?! 放課後はこれからだろ!」
【少女】「どうしてもはずせない用事があるみたいで……」
【浩太】「ちゃんと仕事しろよな……」
【少女】「えっと、その……、ごめんなさいです……」
【浩太】「ああ、別におまえに言ってるわけじゃないんだ、おまえが謝る必要はない」
【少女】「でも申し訳ないです……」
【浩太】「だからおまえのせいじゃ……、えっと、君、名前は?」
いい加減お前と呼ぶのも失礼な気がしてきた。
【少女】「名前……ですか?」
【浩太】「おう、名前だ。ちなみにおれは
鳥居浩太」
【少女】「私の……名前は……」
【少女】「山田花子、です」
【浩太】「…………」
【浩太】「……、絶対嘘だ」
【少女】「なぅー! 本当ですよー!」
【浩太】「永久恋愛と書いて『えくれあ』と読ませるような奇抜な名前が流行ってるこのご時世に、そんな昔の定番みたいな名前のやついるわけないだろ!」
【少女】「なぅー! ここにいるんですよー!」
【浩太】「節子、それ花子やない! 別人や!」
【少女】「なぅー……」
【浩太】「正直に言ってみ? ほら」
【少女】「いやです」
【浩太】「どうして?」
【少女】「私、名前がないんですよ」
【浩太】「名前なかったら戸籍登録できないぞ」
【少女】「あったとしても、見ず知らずの人に本名を名乗るなんて、ねぇ?」
【浩太】「いや、『ねぇ?』って言われても……」
【少女】「とにかく、私は人に自分の名前を知られたくないし、人の名前らしい名前で呼ばれたくないんです」
【浩太】「そうか……」
【浩太】「じゃあ、お前のことは今から名無し子って呼ぶな」
【少女】「はい、それでいいです」
【浩太】「略して『
なな子』だ!」
【少女】「なぅー! それじゃ人の名前みたいじゃないですかー!」
【浩太】「やれやれ、めんどくさいやつだ。こいつをどうやって八つ裂きにしてやろうか。と、浩太は思った」
【少女】「八つ裂きになんて、しないでくださいよー!」
【浩太】「な、なんでおれの心が読まれたんだ?! こいつ、もしやテレパスか……」
【少女】「いや、普通に声に出してましたから……」
【浩太】「おまえのことは今から火田七瀬と呼ぼう……」
【少女】「そっちの方がもっと人っぽいじゃないですか! フルネームだし」
【浩太】「じゃあもうなな子でいいだろ? おれもそれ以外どうやって呼んでいいかわからんし」
【少女】「そうですけど……」
【浩太】「な? いいだろそれで」
【少女】「……わかりました」
【浩太】「はなこは ななこに しんかした! ▼」
【なな子】「なぅー! ポケ○ンみたいに言わないで下さいよー」
4/14(木)
背景:図書室
【浩太】「よっす、なな子」
今日も朝早くからこの図書室に来ていた。
【なな子】「…………」
【浩太】「やれやれ」
本に集中するなな子の横顔を見ながら、ため息をつく。
【浩太】(ま、たまにはゆっくり読ませてやるかな……)
俺は静かに、なな子の横で座ってることにした。
なな子の髪に孕んだ、シャンプーの残り香に鼻をくすぐられる。
とても、いい匂いだ……。
すこし、なな子の方に頭を寄せる。
【浩太】(もうすこし、もうすこし……)
もっと近くで嗅いでいたいと、このときばかりは欲求に素直だった。
そうして頭を近づけているうちに……
ごつんっ!
大きな音を立てて、なな子の頭と俺の頭がぶつかってしまった。
【なな子】「ひゃ、ひゃぁっ! いたたたた……」
【なな子】「……って、浩太さん?!」
なな子と目が合う。
お互いの息が顔にかかるほど、俺達には数センチの間もなかった。
【浩太】「よ、よう……」
【なな子】「は、はい……」
【浩太】「とりあえず、離れようか」
【なな子】「そうですね……」
充分に距離を取ったあと、ゆっくりと互いに向き合った。
【浩太】「おはよう」
【なな子】「おはようございます」
【浩太】「良い天気だな」
【なな子】「今日、くもりですけど……」
【浩太】「…………っ!」
【浩太】「くもりが好きなんだ、おれ……」
まだ心臓が激しく波打っているのがわかる。
【なな子】「へぇ、そうだったんですね」
【浩太】「お、おう」
【なな子】「どうしました?」
【浩太】「へ?! な、なにが?」
【なな子】「いえ、いつもの浩太さんらしくないなと思いまして」
【浩太】「そ、そうかなっ?! 普通だと思うけど?!」
普通でいられるわけがない。あんなに近くでなな子の顔を見たのは初めてだ。
【なな子】「そうですかー、うーん、なにか違うような……?」
それにしても、なな子はどう思っているのだろうか。
俺のことは、ただの友達としか見ていないんだろうか?
いや、俺達は確かにただの友達だけど……。
なんか、俺ばっかり緊張して、馬鹿みたいだ。なんだよ、ったく……。
【なな子】「それで、いつからいたんです? 話しかけてくれればよかったのに」
【浩太】「おれはちゃんと声掛けたぞ」
【なな子】「……また私、気付きませんでしたか?」
【浩太】「そうだ」
【なな子】「なぅー……」
【浩太】「いや、集中するのはいいことだぞ」
【なな子】「でも、私ももっと浩太さんとお話したいです……」
【浩太】「今してるじゃないか」
【なな子】「なぅー! もっとですよー!」
【なな子】「もっともっと、たくさんしたいんです!」
【なな子】「それなのに私、いつも気が付かなくて……」
【浩太】「…………」
そこまで、なな子は思っていてくれたのか……。
なのに俺は、自分のことしか考えてないなかった。
本当、俺は駄目なやつだ……。
【浩太】「じゃあこれからは、絶対なな子を気付かせてやるよ」
【浩太】「本を読んでるなな子を見つけたら、そのたびになな子に近づいていって……」
【浩太】「なな子が、うるさい、やめて、黙って、静かにして、近寄らないでって言っても」
【浩太】「それでもおれは、決してやめないからな」
【浩太】「覚悟しとけよ」
【なな子】「はいっ」
【浩太】「そして、話するぞ」
【浩太】「くだらない話や、真面目な話や、昨日食った飯のことや、ちょっとエッチな話も」
【浩太】「いっぱいいっぱい、するからな」
【浩太】「ちゃんと覚悟、しとけよな」
【なな子】「はい……。……はい……」
こくこくと、なな子は何度もうなずいていた。
キーンコーンカーンコーン...
【浩太】「それじゃ、おれはそろそろ行くぞ」
【浩太】「じゃ、また会う時にな」
【なな子】「はいっ! また会う時に!」
俺は図書室の出口に向かっていった。
【なな子】「――って、ちょっとエッチな話ってなんですか?!」
俺は聞こえないフリをする。
【なな子】「ねぇ、浩太さん?! ちょっと浩太さんってばっ!」
【なな子】「ちょっとエッチな話ってなんなんですかーっ!」
やれやれ、これからまた騒がしくなりそうだ。
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最終更新:2010年10月03日 01:13